40代から始める薬膳生活:台所にある食材で体調を整える3つの判断軸

難解な薬膳を台所で使える3つの簡単ルールに整理。五性・五味・気・血・水を判断軸に、15分レシピや季節の養生で忙しい女性でも続けられる実践ガイド。今日から取り入れやすい食材選びのコツ付き。

40代から始める薬膳生活:台所にある食材で体調を整える3つの判断軸

薬膳とは何か:台所で使える最少ルール

**薬膳は約2,000年の歴史をもつ「食でととのえる知恵」**として知られています[1]。医食同源という言葉の通り[1]、体の状態と季節に合わせて食材を選び、日々の食卓で整えていくアプローチです。医学文献で語られる理論は専門的に見えますが、台所に落とし込めば「体を冷やすか温めるか」「潤すか巡らせるか」といった直感的な選択の連続に変わります。編集部が各種資料を紐解くと、薬膳の核は五味(酸・苦・甘・辛・鹹)と五性(寒・涼・平・温・熱)、そして体の巡りを説明する気・血・水のバランスに要約できます[2,3]。忙しい35〜45歳の私たちにとって、難解な理論は要りません。台所で迷わないための判断軸を2〜3個持てば十分に実践できる——それが結論でした。

薬膳は中医学の考えが土台にありますが、日々の献立に使う時は「五性」「五味」「気・血・水」の三つを地図として持つと迷いません。五性は食材の体感的な性質で、冷えが気になるなら温の性質、のぼせやほてりが気になるなら涼の性質へ寄せる、と理解すれば十分機能します。五味は味が担う働きの方向性で、酸味は引きしめる、苦味は余分な熱を冷ます、甘味は緩めて補う、辛味は巡らせる、鹹味は柔らげて下ろすと覚えると、調味で微調整がしやすくなります[2]。さらに、気・血・水はエネルギー、栄養、うるおいの三要素と捉えると台所で扱いやすく、疲れやすい日は「気」を補い、顔色がさえない日は「血」を養い、乾燥や便通が気になる日は「水(津液)」を潤すといった翻訳が可能です[3]。

具体例で考えてみます。冷房で体が冷え、むくみがちな梅雨どきに夕方のだるさが強いなら、生姜やねぎで温め[6,7]、香味野菜で巡らせ、利水に役立つはと麦やとうもろこしのひげ茶を取り入れる、といった組み合わせが有効です。逆に真夏にほてりや口の渇きが強いなら、きゅうりや冬瓜の涼性に、トマトの酸味やレモンの酸味を少量重ねて熱をさまし[3]、黒酢や梅の酸味で引きしめる方向へ寄せてみる[8]。理論は難解でも、台所の判断はシンプルです。「いま自分は冷えているのか、熱がこもっているのか」——この二択から始めて十分。そこに味で微調整をかけるだけで、薬膳の根幹を押さえられます。

ゆらぎ世代の不調にどう合わせるか

35〜45歳はホルモンや生活リズムの変化が重なる時期。肩こりや冷え、睡眠の浅さ、イライラの波など、日内変動も大きくなります。研究データでは女性の自覚症状として肩こりや疲れが上位に挙がることが知られています[4,5]が、薬膳のスタンスは「症状に名前をつけて追いかけすぎない」ことです。まず体感をスケッチするように言語化し、冷えなのか、渇きなのか、巡りの滞りなのかを一言で決めてみる。冷え寄りなら温の性質の食材と、紫蘇や生姜、ねぎのような巡りを助ける香りをひとかけ。渇き寄りなら豆腐、山芋、白きくらげ、梨のような潤い要素を。滞り寄りなら柑橘の皮や黒酢、玉ねぎなどの辛味と酸味を弱火で甘くする調理が役に立ちます。

五性・五味を“味見”で覚える小さな練習

理論書を読み込むより、台所での小さな味見が近道です。刻んだ生姜をそのまま齧れば温と辛が同時に立ち上がり、きゅうりをそのまま食べれば涼と甘が静かに広がる。レモンを一滴、味噌汁に垂らすと酸の引きしめが際立ち、黒酢を少量加えると下へ落ち着く感覚が出ます。味覚と体感を5分で確認する習慣が、難しい表を覚えるより継続に効きます[2]。

体質と季節の養生:今日の自分に寄せる設計図

薬膳の体質分類は多岐にわたりますが、暮らしに落とすなら「冷え・ほてり」「乾き・湿り」「不足・滞り」の三つのスライダーで考えると設計が簡単になります。例えば、雨の日のだるさは湿り寄りのサイン。むくみや食後の眠気が重なるなら、利水が得意なとうもろこし、はと麦、小豆、セロリを活用し、味付けは塩気を控えめにして出汁の旨味を軸にします。乾燥する秋は不足と乾きが同時に進みやすく、山芋や長ねぎ、れんこん、梨、白ごま、豆乳、鶏ささみなどのやさしい補いがしっくりきます。真冬に足先が冷える日は、羊肉や生姜、にら、シナモンで温め[6]、油は控えずに質のよいものを少量使って火の通りを助けると、体の芯まで届いていきます。

季節の切り替わりは不調が出やすい時期です。春先に気持ちがそわそわして寝つきが浅いなら、香りで巡りを助ける菜の花、春菊、パクチー、柑橘の皮の活用が向いています。夏の終わりに胃が重いなら、冷たい飲み物を一段弱め、常温の麦茶や薄い塩と梅の酸味を足して、胃を起こす工夫を。秋冬の乾きには白い食材の潤い(れんこん、百合根、白きくらげ)を、春の巡りには緑の香りを、夏の熱には赤や緑の水分豊富な野菜をと、色とりどりの買い物かごをイメージすると迷いが減ります。

編集部キッチンの実例:ある一週間

月曜は在宅ワークで冷えが気になった日。朝、白湯に薄切りの生姜を一枚浮かべ、昼はねぎ多めの納豆と温かい味噌汁、夜は鶏と生姜のスープに黒胡椒をひと挽きして体の芯を起こしました。水曜は湿気で体が重い日。朝にとうもろこしご飯の小さなおにぎりを常温で、昼はセロリと鶏胸の塩炒め、夜ははと麦入りのミネストローネで巡りと利水に寄せました。金曜は気温差でのぼせがちでした。昼にトマトと豆腐のサラダに黒酢とごま油を少し、夜は冬瓜と海老の煮物に生姜を控えめにして涼と潤いを優先。この程度の微調整で、翌朝の寝起きが変わる体感が編集部内で共有されています。もちろん個人差はありますが、「今日は温める日か、冷ます日か」を決めるだけで動きやすくなるはずです。

今日からできる薬膳レシピ基礎:15分で整う台所術

レシピは難しくなくて大丈夫です。薬膳の考え方を入れた下ごしらえと、平日に迷わない定番の組み合わせを決めておくと、家事の段取りが一気に軽くなります。準備として、生姜とねぎは常に冷蔵庫に。生姜は薄切りを小分けにして冷凍、ねぎは青い部分も刻んで保存容器へ。干し椎茸は水に浸して冷蔵で出汁ごとストック、乾物のはと麦は茹でて小分け冷凍しておくと一週間中使い回せます。これで温め・巡らせ・利水の三役を、忙しい夜にもすぐ呼び出せるようになります。

たとえば生姜と鶏のやさしいスープ。鍋に水と出汁、薄切り生姜数枚を入れて火にかけ、ひと煮立ちしたら塩少々と酒、薄切りの鶏ももか胸を加えて弱火で数分。仕上げに細ねぎと黒胡椒。温の性質を持つ生姜と、気を補う鶏の組み合わせで、冷えを感じる夜の定番になります[6]。時間がない日は、豆腐を加えれば潤いも足せます。もう一つはトマトと冬瓜の冷やし鉢。出汁に薄口醤油をわずかに落とし、冬瓜を透き通るまで火入れしたら、粗熱をとってトマトを和えるだけ。ほてりを感じる日に、涼と潤いをまっすぐ届けます[3]。酸味が欲しい日は黒酢をほんの少し。酸の引きしめでだらりとした倦怠感が整うことがあります[8]。

ご飯ものならとうもろこしご飯は頼れる常備菜です。生のとうもろこしを削いで米と一緒に炊けば、利水と甘味のやさしさが弁当にも向きます。仕事で遅くなった夜は、とうもろこしご飯に、卵とねぎのスープ、生姜の香りをまとった鶏のさっと焼きを合わせるだけで、温め・巡らせ・補いの三つを満たせます。麺ならねぎ生姜うどん。湯気立つ出汁に、生姜を少し強め、仕上げに香味油。汗ばむほど温まる必要はなく、舌の上で心地よい温度を感じる程度で止めるのがポイントです。薬膳のコツは“やりすぎない”こと。強く効かせるより、心地よく寄せるほうが翌日に残りません。

味つけの微調整:五味を調味料で動かす

味つけは、塩・味噌・醤油の定番に、酸味と辛味の小瓶を足すだけで表現の幅が広がります。酸は黒酢や米酢、レモン、梅。辛は生姜、山椒、胡椒、唐辛子。疲れている日は甘味を少し前に出し、熱がこもる日は苦味や酸味をひとしずく。塩味は立てすぎず、出汁や香味で輪郭を作ると、体にやさしい余韻が残ります。味覚を五味で言い直しながら鍋をかき回すと、自然と「今日は酸を足す」「辛は控えめ」といった調整ができるようになります[2]。

15分の段取り:同時進行の設計図

平日夜の15分は、鍋でスープ、フライパンで主菜、炊飯器または電子レンジで穀物という三本立てにすると時計を見なくても回ります。最初に湯を沸かし、生姜を落としておく。次にフライパンに油を薄くひき、玉ねぎを弱火で甘くしながら蛋白源を準備。並行してご飯や温野菜を仕込み、仕上げの直前で味の方向性を決めます。冷える日は黒胡椒を主役に、のぼせる日は黒酢を一滴、湿気にはとうもろこしやセロリを追加。**「最後の30秒で味を決める」**と覚えれば、途中で迷ってもリカバリーできます。

続けるコツ:買い物・外食・家族と食べる日

継続の最大の壁は、考える体力が落ちた日のハードルの高さです。買い物の段階で勝敗は決まると心得て、温める軸(生姜・ねぎ・にら)、潤す軸(豆腐・山芋・れんこん)、巡らせる軸(柑橘・黒酢・香味野菜)のどれか一つを必ずかごに入れると、家に帰ってからの迷いが減ります。週末に15分だけ仕込み時間をつくり、生姜の薄切り、刻みねぎ、戻し椎茸、茹ではと麦の四種を用意すれば、平日が非常に楽になります。家族と食べる日は、辛味や酸味を後がけにして可変式に。スープはシンプルに仕上げ、各自の茶碗に生姜や黒酢を足すと、同じ鍋で各人の体感に寄り添えます。

外食の日も「今日は温める日か冷ます日か」を合言葉にメニューを見渡します。冷えを感じるなら、温の性質を持つ生姜やねぎが主役の麺や鍋を選ぶ、のぼせなら涼やかな豆腐や白身魚に酸味のある副菜を合わせる。脂が多い料理の日は、翌朝に白湯と生姜、ねぎの味噌汁でやさしくバランスをとります。薬膳は完璧主義ではなく、平均点を少し上げるための技。三食全部で頑張らなくてよく、次の一食で寄せるという考え方に切り替えると、気持ちがうんと軽くなります。

もっと深く学びたい方は、味と季節の関係を紹介した記事を併読すると理解が加速します。季節の食べ方の基本は「季節の食べ方・はじめの一歩」、平日の段取りは「15分ミールプレップのコツ」、冷え対策の温め術は「台所発・冷えとりアイデア」、味の整え方は「家でできる味のバランス学」を参考にしてみてください。

よくある疑問へのヒント

「食材表は覚えるべき?」という質問には、覚えるより味見と記録を勧めます。今日の気分、体感、食べたもの、翌朝のコンディションを一行でメモするだけで、数週間後に自分の教科書ができ上がります。「家族の好みと合わない」は、後がけ調味で解決可能です。「コストが心配」は、旬の食材の活用で自然に下がります。旬は流通量が多く価格が安定し、栄養価も味も上向くことが多いからです。最後に「即効性はあるの?」という問いには、食事は体にやさしい介入であり、静かな変化がじわじわ積み重なるとお伝えしたい。1週間の平均で体感を評価するくらいが、薬膳と長く付き合うコツです。

まとめ:迷ったら“今日の一杯”から

薬膳料理の基礎は、五性・五味と気血水という地図を台所の言葉に訳すことでした。難しい表を覚えるより、**「今日は温めるか冷ますか」「酸・辛・甘のどれを足すか」**の二段階で考えると、家事の流れに自然に組み込めます。生姜とねぎ、戻し椎茸、茹ではと麦の四つを小さく仕込めば、平日の15分で温め・潤い・巡りを自在に動かせるようになります。外食や家族の好みの日も、後がけ調味で個別最適が可能です。完璧を目指すより、一食ごとに少しだけ寄せる。そんな小さな舵取りの積み重ねが、揺らぎの波を穏やかにしてくれます。

次の食事で、何を一つ変えてみますか。生姜を薄く一枚浮かべるだけでも、体の声は変わります。今日の一杯から、あなたの薬膳を始めてみてください。

参考文献

  1. J-STAGE. https://www.jstage.jst.go.jp/article/jisdh1994/12/2/12_2_109/_article/-char/ja/
  2. 五味論(気味論)に関する解説ページ. https://square.umin.ac.jp/mayanagi/paper01/Gomiron.htm
  3. 東邦大学東洋医学科コラム(食物と東洋医学). https://www.lab.toho-u.ac.jp/med/omori/oriental_med/guide/column_food/column20150903.html
  4. ニッセイ基礎研究所レポート:女性の自覚症状に関する報告. https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id%3D75925?site=nli
  5. PR TIMES:女性の悩みTOP3に関する調査リリース. https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000021.000085299.html
  6. JST Science Portal:生姜の温め作用に関する解説. https://spc.jst.go.jp/news/190601/topic_2_02.html
  7. クラシエ漢方:ねぎの薬膳的性質(五味・性状). https://www.kracie.co.jp/kampo/kampofullife/yakuzen/ingredients/green_onion.html
  8. type:梅と黒酢の活用に関する記事. https://type.jp/et/feature/2828/

著者プロフィール

編集部

NOWH編集部。ゆらぎ世代の女性たちに向けて、日々の生活に役立つ情報やトレンドを発信しています。