更年期の身体に何が起きているかを知る
日本女性の閉経平均年齢は約50歳前後とされ、研究データでは**40代後半〜50代前半の女性の約60%が性にまつわる何らかの変化を感じると報告されています[1,2]。特に膣の乾燥や性交痛は約20〜30%**に見られ、眠りの質の低下や気分の揺らぎが性欲の低下と重なることも珍しくありません[3,4]。医学文献によると、これらは単なる気のせいではなく、ホルモン変動、血流、皮膚・粘膜の状態、睡眠・ストレスの複合要因が関わることが示されています[3]。編集部が国内外のデータを読み解くと、対処は「努力か我慢か」の二択ではありません。身体と心の変化を知り、摩擦を減らし、無理なく続けられる工夫を積み重ねることが、ゆらぎ世代の現実的な道筋になりそうです。
更年期は排卵の不規則化とエストロゲンの低下が進む時期です[1]。医学文献によると、エストロゲンの変動は膣粘膜のうるおいと厚み、pHと微生物叢、外陰部の皮膚の弾力、骨盤底の支持性、さらには血管の反応性や体温調節まで広く影響します[3]。結果として乾燥しやすく、少しの刺激が痛みに変わり、いつもの体位が不快に感じられることがあります。研究データでは、いわゆる更年期泌尿生殖症状(GSM)に該当する自覚症状が閉経前後の女性の半数前後でみられ、性交痛は20%台、膣の乾燥感は30〜40%程度という報告が多く見られます[3]。
痛みが続くと脳は「避けたいこと」と学習し、性欲はさらに引き下げられます。睡眠やホットフラッシュ、関節痛、慢性的な疲労が重なると、性への関心が一時的に薄れるのも理にかなっています。ここで覚えておきたいのは、**性欲は“スイッチ”ではなく“ダイヤル”**だということ。身体的な不快の低減、安心感、温かい接触、心身が休まる時間が積み重なるほど、ダイヤルは少しずつ上がっていきます。
乾燥と痛みは「準備」と「潤滑」で変わる
医学的にみて、摩擦が痛みを生み、痛みが緊張を生むという負のループが起きやすい時期です。摩擦を減らすために有効なのが十分な準備と潤滑です。体が温まり、血流が増えると、外陰・膣の感受性は和らぎます。市販の水性やシリコーン系の潤滑剤は、粘度や持続時間が異なるため、使用場面や好みで使い分けるのが現実的です。日常のケアとして膣保湿剤を取り入れると、粘膜の乾燥感が和らいだとする報告もあります[3]。いずれも医薬品ではない製品の範囲で選び、刺激感が出た場合は使用を中止し、成分表示を確認するのが安心です。詳しい選び方はNOWHのガイド「潤滑剤・保湿剤の選び方」も参考になります。
睡眠・ストレス・ホットフラッシュの影響
研究では、睡眠の質が性欲に強く関連することが繰り返し示されています[4]。寝不足が続くと興味や動機づけが低下しやすくなります。またホットフラッシュや夜間の発汗は中途覚醒を増やし、翌日の疲労を悪化させます[1]。もし夜がつらいなら、時間帯を変えるのも選択肢です。体温が安定し、気持ちの余白がある時間帯に親密なふれあいの時間を設けるだけで、痛みの知覚や前向きさが変わる人もいます。睡眠と更年期の基本は、NOWHの特集「更年期と睡眠」にまとめています。
気持ちと関係性の変化を置き去りにしない
更年期は身体だけではなく、役割や自己像が揺らぎやすい時期です[5]。子育てのフェーズ変更、親の介護の始まり、キャリアの節目、パートナーの働き方の変化。期待と不安が同居し、頭の中が常に満員電車のように混み合うと、性への気持ちが後回しになるのは自然な反応です。編集部に寄せられる声でも「嫌いになったわけではないのに、気持ちがついていかない」「痛みが怖くて、誘われると身構えてしまう」という文面は珍しくありません。これは“冷めた”のではなく、「痛み」と「疲労」と「気がかり」への賢い防御であることが多いのです。
コミュニケーションの質が、痛みや不快の記憶をやわらげる鍵になります。「今日は触れ合うだけでどうかな」「挿入はやめて、温かいスキンシップにしよう」と、具体的に提案する言い換えは役立ちます。相手の努力を否定せず、「ここが心地よかった」「このジェルが合うみたい」とポジティブなフィードバックを添えると、二人の試行錯誤が前進に変わります。さらに、家事や育児・介護の分担調整も“背景ノイズ”を減らす有効な対処です。物理的な余白ができるだけで、心の余白も戻ってきます。性を“成果”ではなく“関係の対話”として取り戻せたとき、満足の形は以前と変わっても、つながりの質はむしろ深まります。
自分のペースを再設計する
更年期の性は「頻度」「時間」「手順」の再設計で楽になります。例えば、週末の朝にコーヒーを飲みながら肩や背中だけをゆっくり触れ合う時間をつくる。別の日には入浴後に保湿と軽いストレッチをしてから、短いキスやハグを重ねる。挿入を前提にせず、外陰の外側や太もも、背中など“痛くならない場所”から温める。骨盤底筋のやさしい収縮と呼吸を合わせる。こうした小さな積み重ねが「また大丈夫かもしれない」という身体記憶を作り、避けグセをほどいていきます。骨盤底のセルフケアはNOWHの「骨盤底筋ケア入門」も参考にしてみてください。
今日からできる現実的な対処法
はじめに、摩擦の元を一つずつ減らします。入浴やシャワーで体を温め、短いストレッチで股関節と背中をゆるめ、乾燥がつらい日は保湿剤や潤滑剤を早めに準備する。照明を落として音楽や香りを加えるなど、感覚の過負荷を減らす環境づくりも効果的です。挿入は「痛みがない」「心地よい」が続いてからにし、違和感が出たらいつでも立ち止まれる合図を決めておくと安心です。これは“わがまま”ではなく、安全と信頼を守るためのルール設計です。
次に、身体のメンテナンスを日常に溶け込ませます。歩行や軽い筋トレで血流を上げ、寝る前のスマホ時間を短くして睡眠の質を底上げする。深い呼吸に合わせて骨盤底筋を短く優しく収縮・弛緩する練習を数セット行う。これだけでも体内の緊張と痛みの受け取り方は変わります。性に直結しないセルフタッチや保湿、オイルでの手足のマッサージは、神経系に「触れられることは安全だ」という再学習を促します。
そして、会話のタイミングを工夫します。ベッドの中で白黒つけるより、日中の散歩やカフェなど中立な場所で「最近こう感じている」「こうすると楽だった」を短く共有するほうが建設的です。誘い方の工夫として、「今度の金曜の夜、のんびり触れ合う時間つくれそう?」のように、具体的でプレッシャーの少ない提案は受け入れやすくなります。編集部の読み解きでは、事前に合意した“入口”と“出口”を決めておく(今日はハグまで、または潤滑が足りないと感じたら中止など)カップルほど、満足度が安定する傾向が見られます。
痛みが続くときの「やめ時」を持つ
「少し我慢すれば大丈夫かも」という発想は、長期的には逆効果です。痛みが出たら引き返す、出血や強い焼けるような痛みがあればその日は終了する、翌日は過ごし方を優しくする。この一貫性が、身体の警報を静めます。違和感が3カ月以上続く、出血や悪臭、排尿時痛がある、外陰部のかゆみや裂けやすさが強い、コンドームや潤滑剤でしみるなどのサインがあれば、いったん医療につないで評価してもらうのが安全です。更年期の基礎知識はNOWHの「はじめての更年期」も役立ちます。
医療や専門家に相談するタイミングと選び方
更年期の性の悩みは、婦人科、泌尿婦人科、皮膚科、心療内科、カウンセリングなど、複数の選択肢で支えられます。医学文献では、膣の乾燥や痛みに対しては保湿・潤滑の継続使用が第一選択として推奨され、必要に応じて医療機関での評価と治療が検討されます[3]。ホルモン補充療法(HRT)や局所エストロゲンなどの選択肢が適するかは、既往症やリスクをふまえて医師と相談して決めるのが原則です[3]。一方で、骨盤底の過緊張や瘢痕、皮膚炎などが痛みの背景になる場合もあり、その場合は骨盤底理学療法や皮膚の治療が奏功することがあります。
受診の準備として、症状が出るタイミング、痛む場所、使用した製品名、月単位の変化、睡眠やストレスの状況、安心できた試みを書きとめておくと、短い診療時間でも要点が伝わります。医師に伝えたいのは「痛みが出る場面」「困っていること」「避けたいこと」「試してみたいこと」の4点です。必要に応じて、セックスセラピーやカップルカウンセリングの紹介を受けるのも有用です。身体のケアとコミュニケーション支援が並走すると、改善のスピードは安定します。
情報との距離感を保つ
ネット上には体験談から医療情報まで幅広い情報が混在しています。心強い一方で、強い言葉や単一の成功例に引きずられると、かえって焦りや比較の苦しさが増えることも。編集部としては、根拠のある情報を小さく試し、身体の反応を指標に調整する姿勢をおすすめします。うまくいかない日があっても、それは失敗ではありません。変化が大きい時期ほど、ゆっくり確かめるプロセス自体が、あなたの性のリズムを取り戻す土台になります。
まとめ:性は“成果”ではなく“対話”に戻せる
更年期の性生活の変化は、身体のサインであり、関係の質を見直すチャンスでもあります。乾燥や痛み、性欲の揺らぎは珍しいことではなく、準備と潤滑、休息、環境調整、そして小さな成功体験の積み重ねで和らぎます。必要なら医療の力も借りながら、無理のないルールを二人で作っていく。もし今、少ししんどいと感じているなら、「今日は触れ合うだけにする」「入浴後に10分だけ肩をほぐし合う」といった小さな一歩からで構いません。あなたの体は日々変わり続けています。その変化に合わせて性の形も更新してよいのだと、どうか忘れないでください。次に試してみたいことは何でしょう。潤滑の見直し、寝る前のスマホ時間を10分短くする、週末の朝にハグの時間を決める。あなたのペースで、今日から始めてみませんか。
参考文献
- 一般財団法人 長寿科学振興財団. 男女の更年期障害. https://www.tyojyu.or.jp/net/topics/tokushu/Aging-and-Gender/danjyo-kounenkisyougai.html
- PubMed. PMID:11770186. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11770186/
- PMC. Vaginal estrogen, vaginal DHEA, oral therapies, and safety of GSM treatments(Genitourinary Syndrome of Menopause の治療に関する総説). https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12333043/
- PMC. Associations between sleep and sexual function in midlife women. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5443696/
- J-STAGE. 更年期時期の女性の自覚症状と自己認識に関する研究. https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjam1987/14/1/14_1_45/_article/-char/ja