お腹周りの脂肪が落ちにくい理由:代謝の誤解と睡眠・筋肉量の影響

「がんばっているのにお腹周りが変わらない」理由は意志の問題だけではありません。研究では20〜60歳で大きな代謝差がないことも示唆されています。35〜45歳の女性に多いホルモン変化や睡眠、食事タイミングが脂肪のつき方に影響。編集部が科学的根拠に基づき、今日から試せる現実的なコツをやさしく解説します。

お腹周りの脂肪が落ちにくい理由:代謝の誤解と睡眠・筋肉量の影響

代謝は本当に落ちているのか——誤解と本質

20〜60歳で人の総消費エネルギーはほぼ横ばいという研究データがあります[1]。つまり、いわゆる“年齢で代謝が一気に落ちる”という通説は、少なくとも35〜45歳の範囲では大きくは当てはまりません。一方で、短期間の睡眠不足が続くと内臓脂肪が増えることがランダム化研究で報告されており、2週間の睡眠制限で相対的に約10〜15%増加したとのデータもあります[2]。編集部が複数の研究を読み解くと、腹周の脂肪が落ちにくい最大の理由は「燃えにくい体」そのものではなく、脂肪が“つきやすい配分”に傾く条件が重なっているから。仕事や家事、ケア役割の増える「ゆらぎ世代」では、その条件が日常の当たり前に紛れています。意志の問題にしない。科学の視点で、現実的に解いていきます。

研究データでは、成人の総消費エネルギーは20〜60歳で大きく変わらず、むしろ人生全体で見ると安定したカーブを描きます[1]。では、なぜ鏡の中のウエストだけが頑固になるのか。答えは「代謝の総量」ではなく、「どう使うか」の内訳にあります。

まず、筋肉量は30代以降ゆるやかに減少しやすく、脚や体幹の筋量が少しずつ落ちると、同じ距離を歩いても消費エネルギーは微妙に下がります。わずかな差でも、数カ月、数年と積み重なると腹周の“落ちにくさ”として姿を現します。さらに、日常の無意識の動き(いわゆるNEAT:家事や移動、立つ・座るの切り替えなど)が在宅ワークや長時間のオンライン会議で減り、消費の内訳が活動よりも座位に傾きます。「今日も忙しかったのに、歩数は伸びていない」という日が増えると、見かけの忙しさと実際の消費のギャップが広がります。

もうひとつの盲点は、食の“密度”。たとえば、夕方のエネルギー切れを補う甘い飲料、帰宅後の一杯とつまみ、子どもの食べ残しを食べる“もったいない”習慣。どれも1回あたりは小さく、記録に残しにくいのに、可処分エネルギーは着実に上振れします。総量は変わらないのに、使い道の配分が「ためやすい方向」に寄る。ここに、代謝“神話”のズレがあります。

小さな筋量の変化が大きな見た目を生む

腹周の見た目は脂肪だけで決まりません。腹圧を支える腹直筋・腹横筋、姿勢を保つ臀部や背面の筋肉が弱ると、同じ脂肪量でもウエストは“前に出て”見えます。重いトレーニングでなくても、週2〜3回、20分程度の自重トレーニングで体幹と下半身を刺激すると、姿勢と歩幅が変わり、日常の消費もじわっと底上げされます。筋肉は数週間で目に見える劇的変化を起こしませんが、実感しやすいのは姿勢と疲れにくさ。そこが腹周に効く第一歩です。

“忙しいのに動けていない”をほどく

会議の合間に立ち上がる、電話は歩きながら受ける、夕食後に10〜20分の軽い散歩を入れる。これらは運動というよりも、活動のスイッチを増やす設計です。面倒に見えて、実は時間をほとんど取りません。習慣化のコツは、既存の行動にひっつけること。歯磨きの前にスクワットを10回、コーヒーのドリップ中につま先立ちをゆっくり20回。こうした“ついで動作”が積み上がると、座位の多い一日でも体はこまめに燃え続けます。

ホルモンと血糖が“つき場所”を変える

40代に入ると、月経周期の揺らぎやエストロゲンの緩やかな低下が始まり、脂肪のつき方が皮下中心から内臓寄りにシフトしやすくなることが示されています[3]。これは体重の増減だけでは説明できず、同じ体重でもお腹に集まりやすい“配分の変化”が起きるということ。加えて、睡眠不足や慢性的なストレスでコルチゾールが高止まりすると、血糖が乱れやすく、空腹感や“しょっぱいもの・甘いもの欲”が強く出ます。ここで夜遅い時間の食事が重なると、インスリンが働くタイミングと食事のタイミングがずれて、エネルギーが脂肪として保存されやすい条件が揃います。

研究データでは、就寝が遅れて食事時間帯が後ろ倒しになると、同じ食事内容でも食後の代謝(食事誘発性熱産生)が朝に比べて小さくなりやすく、空腹感も強まりやすいことが報告されています[5]。また、2週間の睡眠制限で内臓脂肪が相対的に増加したとするランダム化試験もあり[2]、睡眠の質とタイミングが腹周のコントロールに直結することは無視できません。意志が弱いから食べてしまうのではなく、体内時計とホルモンの合図が「食べたい」を強くする。自分を責める代わりに、合図そのものを整えるほうが合理的です。

“糖の波”をなだらかにする現実策

朝食を抜いて空腹のまま昼にドカン、とりあえず菓子パンで凌いで夕方にまた渇く。よくある1日の血糖の波は、急上昇と急降下をくり返します。ここで効くのは、最初の一口を変えること。野菜や汁物、ゆで卵、ナッツ、プレーンヨーグルトなど、食物繊維やたんぱく質・脂質を先に入れると、同じ総量でも血糖の上がり方は穏やかになります。たんぱく質は体重1kgあたり1.0〜1.2gを目安に、特に朝と昼に分けて確保すると、夕方の強い空腹を防ぎやすくなります[4]。さらに、朝にエネルギーとたんぱく質をしっかり入れることは、食事誘発性熱産生が相対的に高くなりやすい時間帯を活かす意味でも理にかないます[5]。完全に甘いものを断たなくて大丈夫。波をなだらかに保つ設計が、長く続く鍵です。

アルコールと“つまみの魔法”を理解する

お酒そのものよりも、合わせる“つまみ”が盲点です。アルコールで食欲のブレーキが緩み、脂質と塩分の高いおつまみが進む。さらに睡眠が浅くなると翌日の甘味欲が強まり、結果として一日全体の摂取が積み上がります。もし飲むなら、平日と週末で強弱をつけ、飲む日はタンパク質と野菜を先に、締めの炭水化物は控えめに。翌日はいつもより長めの散歩と、たんぱく質多めの朝食で“リセット”を意識する。ゼロか100かではなく、振れ幅のコントロールが現実的です。

“時間”と“質”を味方にする——今日からの小さな設計

ここからは、忙しい日常に無理なく溶け込むやり方を、編集部の視点で整理します。まずは測るものを絞る。体重計に乗るより、朝一番(排尿後・空腹時・姿勢を揃えて)ウエストをメジャーで測る。週に2回、同じ条件で記録するだけでも、むやみに不安にならずに済みます。写真を正面と横から月1回残すと、姿勢の変化も見えて励みになります。

次に、睡眠の固定化。就寝と起床の時刻を“土日も含めて”おおむね一定にするだけで、体内時計は整ってきます。7時間前後を目安に、自分のリズムに合う枠を一度決めてしまう。寝つきが悪い人は、夕食を就寝の3時間前までに終える、湯船は就寝の90分前に出る、スマホは寝室から離す——どれか1つで構いません。まず1週間、カレンダーに“睡眠を守る”予定として入れてみてください。

食事は、朝と昼を主役に。朝はヨーグルト+卵+果物、あるいは納豆ごはん+味噌汁のように、たんぱく質を20g前後含む組み合わせを最初に置く。昼は主食・主菜・副菜の三点を揃え、午後の会議が続く日はナッツやチーズをポケットに。夜は“足し算”ではなく“引き算”の意識で、汁物と主菜を先に食べ、必要なら少量の主食で締める。外食や会食の日は、昼か翌朝で調整する。完全な糖質制限よりも、時間と順番の最適化のほうが続きます[5].

運動は、頻度×換気で考えます。週2〜3回の筋トレ(自重で十分)を20分、スクワット・ヒップヒンジ・プランクなど体幹と下半身を中心に組む。息が弾むテンポでの早歩きを、夕食後に10〜20分。移動が少ない日ほど、エレベーターをやめて階段、駅ではひと駅分歩く。これらは“燃やす”だけでなく、睡眠を深くし、翌日の食欲シグナルを整える効果が期待できます。

最後に、やめるより“置き換える”。夜のスナックは炭酸水とハーブティーを定位置に。チョコはカカオ70%以上を1〜2かけと決める。揚げ物が食べたい日は量を半分にしてサラダとスープを足す。ゼロか全部かを手放し、選択肢の“中間”を日常に用意することで、反動の食べ過ぎを防げます。

まとめ——意志ではなく設計で、腹周は変わる

腹周の脂肪が落ちない理由は、年齢そのものではありません。代謝の総量は大きくは変わらないのに[1]、配分が“ためやすい”ほうへ傾く条件が揃っている。だからこそ、変えるべきは意志ではなく、条件のほうです。睡眠の固定化で体内時計を整え、朝と昼を主役にして血糖の波をなだらかにし、夕食後に10分歩く。週2〜3回、20分の自重トレで体幹と下半身を刺激する。完璧でなくて大丈夫。まずは1つ、今週できることを選び、カレンダーに書いてみませんか。“続けられる設計”は、あなたの生活の中にすでにある。その一歩が、鏡に映るウエストの輪郭を少しずつ優しく変えていきます。

参考文献

  1. Pontzer H, et al. Daily energy expenditure through the human life course. Science. 2021. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8370708/
  2. Randomized evidence on short-term sleep restriction increasing visceral adipose tissue in adults. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9187217/
  3. 日本産科婦人科学会(JAOG): 加齢・閉経に伴う体脂肪分布の変化に関する記述(DEXAによる検討を含む)。https://www.jaog.or.jp/sep2012/JAPANESE/MEMBERS/TANPA/H11/991101.htm
  4. 厚生労働省: 日本糖尿病学会 糖尿病治療ガイドにおけるたんぱく質摂取目安(標準体重1kg当たり1g など)に関する資料。https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/0000041831.html
  5. Manoogian ENC, et al. Meal timing, circadian rhythms and metabolic health(レビュー): 朝食時の食事誘発性熱産生や夜間の遅い食事による空腹感・代謝への影響に関する記述。https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7997809/

著者プロフィール

編集部

NOWH編集部。ゆらぎ世代の女性たちに向けて、日々の生活に役立つ情報やトレンドを発信しています。