緊張型頭痛の正体と見分け方
世界では成人の約46%が一生に一度は緊張型頭痛を経験し、ある時点での有病率はおよそ26%に達するという研究データがあります(Global Burden of Disease研究など)。[1,5] 最も一般的な一次性頭痛で、拍動する片頭痛とは違い、後頭部からこめかみにかけて締め付けられるように重く続くのが特徴です。[3,4] 夕方、肩が石のように固まり、画面にピントが合わない。鎮痛薬に手が伸びる前に、身体が発しているサインをほどく視点を一度持ってみましょう。
医学文献によると、緊張型頭痛は頭頸部の筋の過敏化とストレス応答が関与し、長時間の同一姿勢、睡眠不足、眼精負担、脱水、カフェインの取り方、歯の食いしばりなどが誘因になります。[4,1,3,6] 編集部が各種データを読み解くと、生活の微調整だけでも頻度や強さが有意に下がることが示唆されています。[4] ここでは今日すぐできる解消法と、くり返さないための習慣づくりを、科学的根拠に沿って現実的にまとめます。
緊張型頭痛(Tension-Type Headache: TTH)は、両側性で鈍い圧迫感が続き、動くことで悪化しにくく、吐き気は目立たないという特徴があります。[3] 研究データでは、頭部・頸部の筋硬直やトリガーポイントの過敏化、ストレスによる交感神経の緊張、睡眠の質低下が痛みの土台を作るとされています。[4,1] デスクワークが中心の人、在宅勤務でノートPCを覗き込む姿勢が続く人、会議で昼休みも座りっぱなしの人は、首の付け根と肩甲骨まわりに負担が蓄積しやすく、夕方の痛みにつながります。[3]
片頭痛との違いをさらっと確認
片頭痛は片側に脈打つ強い痛みで、体を動かすと悪化し、光や音がつらくなり、吐き気を伴うことが多いのが典型です。[1] 一方で緊張型頭痛は、帽子で締め付けられるような鈍痛で、日常動作は大きく妨げられにくいのが一般的です。[3] ただし両者が重なる場合もあります。[4] 自分の痛みのパターンを観察し、必要に応じて医療機関で確認することは、最短でラクになる近道です。
今日からできる「いま楽にする」解消法
いま感じている痛みを和らげるには、筋の緊張をほどき、痛みの回路への入力を減らすことがポイントです。長くても10分ほどの小さな介入で体は反応してくれます。
姿勢リセットと温めるケア
まず画面から目を離し、椅子に深く座って骨盤を立て、みぞおちから背筋を軽く伸ばします。あごを少し引き、頭のてっぺんを糸で引かれるイメージで首を長くします。次に肩を耳に引き上げてからストンと落とす動きを数回、肩甲骨を後ろで寄せる動きをゆっくり繰り返して、首の付け根の血流を促します。1時間に1〜2分のこのミニリセットを意識するだけで、夕方の痛み方が変わってきます。温熱は緊張型頭痛と相性がよいことが知られており、首・肩・後頭部の付け根を20分前後じんわり温めると筋のこわばりが和らぎます。蒸気温熱シートや温かいタオルで十分です。冷却が心地よいタイプもいるので、自分の感覚に合わせて選びましょう。[3,4]
呼吸とマインドのブレーキをつくる
交感神経のブレーキとして、ゆっくりした腹式呼吸が役立ちます。鼻から4秒で吸い、お腹が風船のようにふくらむのを感じ、6〜8秒かけて細く長く吐きます。5サイクル繰り返すと、肩の力が抜ける感覚が出てくるはずです。研究データでは、リラクゼーションやマインドフルネスが緊張型頭痛の強さと頻度を穏やかに下げると報告されています。[4,1] 短時間でよいので、昼休みや入浴後のタイミングに呼吸の数分を差し込むと、1日の痛み曲線がフラットになります。呼吸の方法はNOWHの特集「呼吸でととのえるマインドフル時間」でも紹介しています。
水分・カフェイン・鎮痛薬の上手な使い方
軽い脱水は頭痛を助長します。体格や発汗量で差はありますが、1日を通じて1.5〜2Lを目安にこまめに水分をとると、午後の重さが変わります。[6] コーヒーは少量なら痛みを鈍らせることもありますが、取り過ぎや離脱は逆効果です。午後遅い時間は控えめにして、睡眠の質も守りましょう。[1] 市販の鎮痛薬(アセトアミノフェン、イブプロフェンなど)は、表示の用量・用法を守って、症状が強いときに適切に使うのは合理的です。[1] ただし鎮痛薬の使用日数が月に15日を超えるようなら、薬物乱用頭痛(Medication Overuse Headache)を避けるためにも、医療機関で相談するのがおすすめです。[4] 薬に偏りすぎず、前述の非薬物ケアと組み合わせるのが、長い目で見て負担が少ない選択になります。[1]
くり返さないための「1週間リセット」
習慣は一気に変えようとすると続きません。緊張型頭痛の解消法は、今日の痛みをしのぎながら、1週間かけて土台を整えるのが現実的です。初日はトリガー探しから始めます。仕事の山場、会議が連続する日、睡眠時間が短い日、カフェインが多い日、画面が近い日。スマホのメモにその日の痛みの強さ(0〜10)と合わせて記録すると、3日もすれば傾向が見えてきます。中盤は環境と体の両輪を整えます。ノートPCは台で目線を上げ、外付けキーボードとマウスを使い、肘が90度前後で肩がすくまない高さに。椅子は骨盤が立ちやすい座面にし、足裏全体が床に接地するよう調整します。デスク環境の具体は「デスク人間工学ガイド」で詳しく解説しています。体づくりは、首・肩甲帯のゆるやかな強化と胸郭の可動性が鍵です。背中を丸めすぎず、肩甲骨を外に開く猫背姿勢が長い人は、肩甲骨を寄せる動きと、あごを軽く引いて首の深層筋を目覚めさせる動きが効きます。難しいことは不要で、朝と夕方に2〜3分、痛みがない範囲で繰り返すだけでも筋の張りが変わります。歩行などの軽い有酸素運動を週に合計90分ほど取り入れると、ストレスの逃げ道ができ、睡眠も深くなります。[4] 運動の導入は「今日から始めるウォーキング」が参考になります。終盤は睡眠と回復の質を底上げします。就寝・起床時刻を一定にし、寝る1時間前は画面を遠ざけ、浴室で首・肩を温め、ベッドでは呼吸に意識を向ける。この一連が翌日の痛みを軽くします。[1] 仕上げに、食いしばりの自覚がある人は、日中に上下の歯を離し、舌先を上あごの付け根に置くポジションを時々思い出すと、顎から後頭部への負荷が減ります。朝起きたときの顎のだるさが強い、歯が欠けやすいなどがあれば歯科で相談を。[1]
「効いているか」をやさしく測る
効果を確かめるには、頭痛の回数、強さ、鎮痛薬を飲んだ日数の3つを簡単に振り返ります。1週間でどれか一つでも小さくなっていれば、方向は合っています。変化が乏しければ、デスク環境と睡眠にもう一度手を入れてみるのが近道です。水分摂取やカフェインの見直しは即日で手応えが出やすいので、迷ったらここから手をつけるのも良策です。水分の取り方は「賢いハイドレーション術」が役立ちます。
受診の目安とセルフケアの限界
緊張型頭痛は多くが自宅の工夫で軽快しますが、医療のフォローが力になる場面もあります。次のような変化があれば、早めに受診しましょう。突然の激烈な痛みで「経験したことのない痛み」と感じる場合、発熱や項部硬直、しびれ・脱力・ろれつが回らないなどの神経症状を伴う場合、頭部外傷のあとに悪化する場合、50歳以降に新しく出現した場合、妊娠・産後で急に性質が変わった場合、そして生活に支障する頻度でくり返す場合です。[1] また、月の半分以上で鎮痛薬が必要、または薬が効きにくくなってきたと感じるときも、薬物乱用頭痛を避けるための相談をおすすめします。[4] 片頭痛の要素が濃い人は、専門的な予防薬やライフスタイル介入の組み合わせで負担を大きく減らせる可能性があります。[1,4] 遠回りに見えても、早めの相談が結局いちばんの近道です。
まとめ:痛みは敵ではなく、調整のサイン
緊張型頭痛の解消法は、特別なテクニックよりも、小さな調整の積み重ねにこそ力があります。姿勢を1分リセットし、首を温めて、呼吸をゆっくりにする。水分を一口足し、カフェインの時間をずらす。これだけで、夕方の締め付けは少しずつ解けていきます。完全無欠な1日を目指す必要はありません。できることをできるタイミングで行う、その「やさしさ」が筋の緊張をほどき、明日の頭を軽くします。
いまのあなたに合う一歩はどれでしょうか。 デスクの高さを直すことかもしれないし、寝る前の5分呼吸かもしれない。気になるところから試して、1週間後の自分の調子を観察してみてください。さらに深く整えたいときは、関連記事「デスク人間工学ガイド」「呼吸でととのえるマインドフル時間」「睡眠衛生の基本」もあわせてどうぞ。あなたの毎日に、軽さが戻りますように。
参考文献
- Loder EL, Rizzoli P. Tension-type headache. BMJ. 2008;336(7635):88–92. doi:10.1136/bmj.39412.705868.AD. https://www.bmj.com/content/336/7635/88
- Stovner LJ, Hagen K, Linde M, Steiner TJ. The global prevalence of headache: an update, with analysis of methodological issues. The Journal of Headache and Pain. 2022;23:34. doi:10.1186/s10194-022-01402-2. https://thejournalofheadacheandpain.biomedcentral.com/articles/10.1186/s10194-022-01402-2
- 日本頭痛学会. 緊張型頭痛(一般向け解説). https://www.jhsnet.net/ippan_zutu_kaisetu_03.html
- Xu Y, et al. Tension-type headache: current understanding of pathophysiology and management. Journal of Pain Research. 2024. PMID/PMCID: PMC12260232. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC12260232/
- GBD 2016 Headache Collaborators. Global, regional, and national burden of migraine and tension-type headache, 1990–2016: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2016. The Lancet Neurology. 2018;17(11):954–976. PMCID: PMC6191530. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6191530/
- Cleveland Clinic. Dehydration Headache. Updated 2024. https://my.clevelandclinic.org/health/diseases/21517-dehydration-headache