めちゃくちゃな生活。でも、最高に楽しかった編集部時代

松浦:お仕事自体は楽しかったですか? やりがいなどはありましたか?
浅見氏:入社してからいくつかの雑誌を担当しましたが、その中でも『S Cawaii!』というギャル誌が一番長くて、12年ほど携わりました。
結局、30代のほとんどと40代の初めまでやっていたことになりますね。
読者が元気でパワフルな子たちだったので、こちらも元気をもらいながら、常に新しい発見や価値観に触れることができました。
松浦:学びがありつつ、やりがいも感じられて、かなり充実した日々だったんじゃないですか?
浅見氏:そうですね。ただ、生活スタイルはめちゃくちゃでした。
朝の4時、5時まで職場にいたこともありましたし、泊まり込みのメンバーもいました。朝会社に行くと、みんなすっぴんで「おはようございます」と挨拶しているような日常でしたね。
でも、そんな仲間たちと過ごす日々が本当に楽しかった。
会議というよりも、机を囲んで雑談しながらアイデアを出し合うような雰囲気で、まるでサークルみたいなチームでした。
松浦:仕事とプライベートの比率で言うと、どのくらいでしたか?
浅見氏:9対1とか8対2くらいの勢いだったと思います。
もう8割〜9割が仕事みたいな感じでしたね。でも、それが苦ではなく「やりたくてやっている」感覚でした。
ワークライフバランスって、人によって“何が良い”かは違うと思うんです。
やらされて辛いならワークを減らした方がいいと思うけど、楽しいなら9割仕事でも全然いいと思うんです。
後ろ髪を引かれながらも、勇気を出して新しい一歩

松浦:40代になられてから、仕事の転機はありましたか?
浅見氏:42歳のときに社内でWebメディア立ち上げの話が出て、1年間だけ準備室に急に異動になりました。
それまで『S Cawaii!』に長く携わっていたので、正直かなり葛藤がありましたね。
ちょうど周年号のタイミングでもあり、続けたかった気持ちもありました。
後ろ髪を引かれる思いはありましたが、新しいことにチャレンジするのも好きだったので、やってみようと思って異動を決意しました。
プロジェクトが始まったばかりの段階では、部署に配属されたのは私ひとりだけ。社内に相談できる相手もいなくて、大変でしたね。
松浦:その状況、今の私に少し近いです(笑)。
浅見氏:そういうときは、一人で抱え込まないこと。どこかで発散した方がいいし、意外と仕事以外の人がヒントをくれることもあります。
自分の言葉を飲み込んでしまう人って、意外と多いと思うんです。
「周りとぶつかりたくない」「丸く収まった方がいい」と思って、できるだけトラブルを避けるために自分の意見を言わない。
私も振り返るとそうだったなと思います。仕事だけじゃなくて、プライベートでも。
でも、それで決まった方向性って、やっぱり良い結果にはならない。
ある意味、「言い合うことを恐れない」ことが大事だなと、最近すごく感じています。
松浦:私も意見を飲み込んでしまうタイプなんですけど……。おっしゃる通り、意見があるなら言わないと良いものは作れないと思いつつ、まだ十分に実行できていないと感じます。
浅見氏:私も、いまだにそうですよ。もちろん、言い方とかタイミングとかはありますけどね。 だから、それは一生、学んでいくものかなと思います。正解はないですから。
あと、誰か一人でも、話せる相手がいるといいと思います。たとえ解決しなかったとしても、プライベートの友達に仕事の悩みを話すだけでもアウトプットになります。ずっと飲み込んで抑えておくと、苦しくなっちゃいますからね。
どうしても言える相手がいないのであれば、書いてみるのもおすすめです。
できれば手書きで、自分の思っていることを書き出して吐き出す -それだけでも、だいぶ違うと思います。
ゼロからの挑戦。Webメディア立ち上げで見えた新しい景色

松浦:30代は仕事に没頭されていたと思うのですが、体調の変化などは見られましたか?
浅見氏:始まりは白髪ですね。ずっと同じ美容院に通っていて、担当の美容師さんに「白髪染めしたほうがいいタイミングが来たら教えて」と伝えていたんです。
そしてある日、「そろそろ白髪染めしようか」と言われました。42歳くらいのときだったと思います。
松浦:誰もが通る道とはいえ、衝撃じゃなかったですか?
浅見氏:同世代の友人たちも意外と30代半ばから染めていて、そこまでショックではなかったですね。むしろ「白髪染めも含めて自分を受け入れよう」と思いました。
あとはやっぱり、疲れやすくなりましたね。30代の頃は徹夜や深夜残業をしても、寝れば回復していたんですけど、40代になると寝ても疲れが取れない。そういう違いを感じました。
松浦:お仕事に関しては、30代から40代になって気づいたことや変化はありましたか?
浅見氏:新しいWebメディアをゼロから立ち上げさせてもらって。それまで担当していたのは、創刊して5年、10年と経っている雑誌だったので、ある程度「型」ができていたんですよね。
ゼロベースで作るのは初めてだったので、生みの苦しみもありました。でも、不思議と“愛おしさ”もありましたね。
大変だったのは、やっぱり「新しいメディア」ということで、何も知られていないところから始めたことです。
今までは名刺を渡すと「ああ、S Cawaii!さんね」と言ってもらえたのが、今度は1件の取材をするにも「どんな媒体で、どんな読者層なのか」から説明しなければならない。
だから知ってもらうために、いろんな工夫をしました。
当初は「独身女性向けのメディア」として、美容・健康・お金・ファッションなどを中心に考えていました。恋愛要素は不要だと思っていたんです。
でも周囲から「読者が一番関心を持つのは恋愛記事なんじゃないか」とアドバイスをもらって。
「じゃあ、40代独身女性の恋愛をテーマにした記事を作ってみよう」と提案されたんです。
40代の恋愛記事って何だろうって考えていた時、たまたま知人から婚活コンサルタントの人を紹介されたんですよね。
どういう記事にしたら面白いかなと話していたら知人が「浅見さんが婚活してみるのが一番面白いじゃん」と言われて。
最初は全くその気がなかったんですが、たまたま知り合いに婚活コンサルタントをしている人がいて、「カウンセリングを受けてみたら?」という流れになり、そこから始まったのが『40代編集長の婚活記』でした。
最初は“ビジネス婚活”というか、全然続ける気もなく、本気でもなかったんです。
でも意外と人気が出て、自分で書いているうちに楽しくてやめられなくなりました。
そんな感じで、婚活と仕事を両立して続けていきました。
松浦:それが、あの大ヒットシリーズ誕生の裏側だったんですね。
浅見氏:「面白い」と言っていただけるのが一番うれしいですね。
自分では“面白い・面白くない”の線引きはあまりわからないんですが、同じような年代で、彼氏もいなくて「この先どうなるんだろう」と不安に思っている人に、「あなたは一人じゃないよ」「こんなふうに頑張ってる人もいるよ」と伝えたい気持ちが大きいです。
少しでも笑ってもらえたり、勇気や元気を感じてもらえたら嬉しいですね。
連載を始めてから、美容業界のプレス時代に関わっていた方や、『S Cawaii!』時代の関係者から「プライベートで会いたい」と言われることが増えました。
記事を読んだ友人の友人が「ファンになったから会いたい」と言ってくださることもあり、女性の友達が増えましたね。同じような環境や価値観を持つ人たちとつながれたことが、すごくうれしかったです。
今までも本や雑誌を作るとき、「読んでくれた人の悩みが少しでも軽くなる」「面白かった」と思ってもらえたらそれでいい、という気持ちでやってきました。
入社当初から、そういう“心が動く本”を作りたいと思っていました。
婚活を通じて気づいたことのひとつに、「周りの評価に流されないでほしい」というのがあります。 “みんながやっているから”“流行っているから”という理由で選ばなくていい。
みんなはやってるけど、私はやらない、でも全然いいと思う。
自分が主体的に選ぶことのほうが大事です。受動的に選んだものは「やらされた」に変わってしまう。それなら、やらないほうがいい。
周りに流されず、自分が心から楽しめるか、やりがいを感じられるか。それが見出せないなら、「なぜそれをやるのか」を一度立ち止まって考えてほしい。
松浦:そう捉えると、必然的に“本当にやりたいこと”だけが残っていく気がしますね。
浅見氏:そうですね。やりたくないと思いながらも続けることで見えてくるものもあります。でも、プライベートなことは「世間が流行ってようが、友達がやってようが、私はやらない」でいいと思うんです。
できるだけ後悔しないように、自分で選ぶことが大事。選択肢があること自体が、実はすごく幸せなことです。世界を見れば、選択肢のない状況もたくさんありますから。
せっかく選べるなら、自分で選んで、自分の人生を楽しんでほしい。「決める」って大変なことだけど、自分で選べる自由がある -その幸せを、ぜひ謳歌してほしいですね。
NOWH読者へ伝えたい3つのこと

松浦:NOWH読者へ伝えたいことはありますか?
浅見氏:Webで書いて本にして思ったのは、やっぱり「続けることの大切さ」ですね。
「継続は力なり」とよくいいますが、私も連載を8年くらい続けて、1回も落とさなかったんです。
書くことで反響をいただきながら、自分自身が気づいたり、発見したりすることがあって、
続けてきて本当によかったなと思います。結果がよかったかどうかよりも、「続けられている」ということ自体が力になるんですよね。
どんなことでもいいから続ける。仕事でも恋愛でも婚活でも。継続することで、必ず何かしら身についていくものがあります。だから、何歳から始めても遅くはないと思うし、「継続は力なり」という言葉を本当に実感しました。
2つ目は「我慢をしないこと」。相手や周りを気遣って、言葉を飲み込まないようにすることです。
特に恋愛関係では、そういう状況になりやすいと思うんです。「別れたくない」「穏やかでいたい」と思うからこそ、つい本音を言わずに飲み込んでしまう。
でも、それって表面的な穏やかさにすぎなくて、根本的な解決にはならないんですよね。
だから「嫌だな」と思うことがあれば、どんな形でも伝えることが大事だと感じました。
以前、「あなたは本音が見えない。いつもニコニコしてて気持ち悪い」と言われたことがあるんです。最初は「え、どういうこと?」と思いました。だって、不機嫌で怒られるならまだしも、 機嫌がいいことで怒られるなんて意味がわからなくて。
でも今思えば、それがすごくいい勉強になったんです。自分がどれだけ言葉を飲み込んでいたのかに気づけたから。それ以来、少しずつ言えるようになって、相手が100%言うなら、私は30%くらいだけど。
ぶつかることを恐れちゃいけないんだなって思いました。多分、結婚生活でも同じですよね。結婚してないですけど(苦笑)
ぶつかって、言い合って、話し合って、どちらか一方の意見に従うのではなく、その先の「新しい選択肢」を一緒に見つけていく。
それが夫婦関係や家族関係、パートナーシップを長続きさせる秘訣なんじゃないかなと。
仕事でも同じです。ビジネスパートナーと意見が合わないことはあります。もちろん言い方やタイミングは大事ですが、「はいはい、いいですね」と流していたら、本当にいいものは生まれません。
私は、一度相手の意見を受け止めて「一旦持ち帰ります」と整理します。すぐに返さなくてもいい。ネット時代だからこそ、考える時間を持つことが大事なんだと思います。
考えたうえで、「やっぱりこうしたい」と自分の考えを伝える。それが通らなくても、ちゃんと伝えることには意味がある。結果どうあれ、それが信頼につながると感じています。
3つ目は「流されないこと」。みんながやってるから、流行っているから、普通はこうだからなど。
そういう「他人軸」ではなく、「自分がどうしたいか」で選ぶ力を持ってほしいんです。
松浦:浅見さんの著書にも、そうしたメッセージが書かれているんですね。
浅見氏:そうですね。婚活をはじめ、いろんな経験をする中で、私はどうしても自分の言葉を抑えてしまったり、「私が悪かったのかな」と自分を責めてしまうことが多かったんです。
でも、そうじゃない場合もある。相手が悪いこともあれば、社会の構造そのものが不公平な場合だってあると思うんです。
だから「自分を責めないでほしい」と伝えたい。我慢して丸く収める生き方じゃなくていい。ちゃんと自分の気持ちを言葉にして、自分の人生を選んでいっていいんです。
松浦:貴重なお話をありがとうございました。

浅見さんの著書はこちらから
恋ができない40代が運命の人をみつける17の方法 LOVE RULES
浅見さん編集のおすすめ書籍はこちらから
脱・自責思考 マンガでわかる我慢しない生き方