電気圧力鍋が「簡単」を生む理由
総務省などの統計では、共働き世帯がすでに過半数を超え、35〜44歳女性の就業率はおおむね8割前後に達しています。 台所に立つ時間を短くしながらも、家族の満足感は下げたくない――そんな矛盾を抱える夜に、電気圧力鍋は静かに力を発揮します。圧力調理は加熱温度を高めることで煮込みを短時間で進められ、食品科学の研究でも、短時間加熱は一部の野菜で栄養素の残存率を高めることが示されています。編集部が注目したのは、時間そのものを縮めるだけでなく、鍋につきっきりにならないという事実です。火から目を離せる“放っておける時間”が生まれることは、仕事や育児、翌日の準備を同時進行する私たちにとって、単なる時短以上の意味を持ちます。ここでは、電気圧力鍋で作る簡単おかずを中心に、理由、レシピ、段取り、そして失敗しないコツまでを一気にまとめました。(共働き世帯の多数化[1], 35〜44歳女性就業率の高さ[2], 圧力調理の原理と時短効果[3], 短時間加熱による栄養素残存の報告[4])なお、栄養素や食材によっては圧力調理で残存率が下がる例もあり、使い分けが推奨されます[5]。
まず大きいのは、工程の自動化です。圧力の立ち上げ、加圧、減圧、保温までを一台で完結できるため、コンロ前で様子を見る時間が消えます。予約調理や保温機能がある機種なら、夕方のバタつく時間帯に調理の山場をずらすこともできます。次に、失敗が減るという安心感です。圧力が一定に保たれ、沸騰の加減に悩む必要がないので、肉が固くなる、味が染みない、といったぶれが起きにくくなります。さらに、加圧中はキッチンが静かです。火加減を見張らない時間は、洗濯をたたむ、子どもの宿題を見る、自分のお茶を一口飲むなど、暮らしの「余白」に変わります。“手を離せる”ことが、毎日の意思決定の疲れを確実に軽くするのです。
安全面が気になる方もいるかもしれません。最近の電気圧力鍋は、温度・圧力センサー、過圧時の自動排気、ふたのロックなど多層の安全機構を備えます[3]。もちろん取扱説明書に沿った水分量と容量を守るのが大前提ですが、それさえ押さえれば、火を使わない安心は小さくありません。最後に、味の面でもメリットがあります。短時間で芯まで柔らかくなるため、砂糖や脂に頼らずに満足感のあるおかずが作りやすく、塩分を控えたい日にも心強い相棒になります[4,5]。
平日20分内で決まる簡単おかずレシピ
ここからは、帰宅後の実作業をできるだけ短くしつつ、食卓の満足度が高い定番を三つ。どのレシピも、材料を切って調味料を合わせ、電気圧力鍋の高圧5〜10分程度で仕上がるように設計しています。機種により圧力・加熱のクセが異なるため、表記時間は目安とし、お使いのモードに合わせてください。
豚バラ大根(高圧5分+自然放置10分)
大根は2〜3cm厚の半月切りで約400g、豚バラ薄切りは200gを用意します。内鍋に大根、豚、しょうが薄切り2〜3枚を重ね、だしまたは水200ml、酒大さじ2、砂糖大さじ1、しょうゆ大さじ2と1/2、みりん大さじ1を注ぎます。高圧で5分、ピンが下がるまで自然放置してからふたを開け、必要なら煮汁を軽く煮詰めて照りを出します。大根に箸がすっと入る柔らかさになり、豚のうま味が芯まで届きます。翌日以降はさらに味がなじむので、作り置きにも向きます。
サバの味噌煮(高圧2分+蒸らし10分)
サバ切り身2切れの血合いをさっと洗い、キッチンペーパーで水気を拭きます。内鍋に酒100ml、水100ml、砂糖大さじ1、しょうゆ大さじ1/2、しょうが薄切り数枚を入れてからサバを並べます。味噌はこの段階では入れません。高圧で2分加熱し、10分ほど蒸らしたらふたを開け、煮汁を取り分けて味噌大さじ2を溶き戻します。再度加熱して味噌だれを絡めれば完成です。先に味噌を入れないことで風味が飛びにくく、身はふっくら、臭みは控えめに仕上がります。
やわらか鶏チャーシュー(低圧10分+保温)
鶏もも肉1枚(300〜350g)をくるくると巻いてタコ糸で軽く縛り、表面に塩をひとつまみ。内鍋に水150ml、しょうゆ大さじ3、みりん大さじ2、砂糖小さじ2、酢小さじ1、にんにく1片のつぶし、しょうが薄切りを入れ、鶏を沈めます。低圧または弱めの煮物モードで10分加熱し、保温で20分ほど置いて火を通します。粗熱が取れたら切りやすく、たれごと保存容器へ。翌朝のお弁当や、ラーメンの具、刻んでサラダにも広く展開できます。同じたれで卵を漬けて味玉にすると、もう一品が自然に増えます。
三品に共通するのは、調味料を入れてスイッチを押したら、次の家事に移れることです。見守る時間が「ゼロ」であることは、仕事終わりの集中力を救い、食卓に向かう気持ちの余裕を取り戻します。
同時調理と作り置きで、平日が軽くなる
一度の加圧で二品、三品と増やせるのが、電気圧力鍋の醍醐味です。内鍋に脚付きの蒸し台や耐熱小鉢を重ね、下段で煮物、上段で蒸し野菜やゆで卵、と段を分けると、同じ湯気で別の料理が進みます。たとえば豚バラ大根を仕込んだ鍋に小鉢を置き、にんじんスティックとブロッコリーを入れておけば、加圧が解けた頃には彩りの副菜が完成しています。サバの味噌煮の蒸らし時間に、水切りした木綿豆腐を小鉢で温めておけば即席の湯豆腐も同時に用意できます。
作り置きの考え方も、電気圧力鍋とは相性が良いものです。味がなじむ煮物は冷蔵で2〜3日おいしく、冷凍に強い鶏チャーシューは薄切りにして小分け冷凍にすれば、解凍後にフライパンで焼き目をつけるだけでメインが立ち上がります。余熱と保温の時間を「待つ」だけにしない工夫もできます。保温中は味がゆっくり入るので、火を止めてから香りのよい調味料を加えると、輪郭のある仕上がりになります。たとえばサバは最後に味噌を溶き、豚バラ大根は火を止めてからごま油をほんの少し垂らすだけで、香りの立ち方が変わります。
時間割の組み立ても、少しのコツで変わります。帰宅して5分で材料を切り、電気圧力鍋をスタート。スイッチを押したら、テーブルを拭き、洗濯物を片づけ、みそ汁やサラダの準備に移る。加圧が解ける頃にはメインができており、盛り付けるだけの副菜が2品並んでいる。**「手は動いていないのに、料理が進んでいる」**という感覚は、タスクを同時進行させたい平日の夜に、確かな余裕を連れてきます。
なお、匂い移りや後片づけが気になる方は、内鍋にクッキングシートを敷く、落としぶた代わりにアルミホイルを丸めてのせる、香りの強い魚料理のあとに重曹を溶かした湯で短時間の加圧洗浄をする、といったひと手間で快適度が上がります。保温中の放置は便利ですが、長時間は乾きやすいので、30〜60分を目安に様子を見てください。
まとめ:今日の台所に、余白を一皿
毎日を走り抜ける私たちに必要なのは、根性ではなく仕組みです。電気圧力鍋は「時短家電」というより、時間の質を変える道具。見守る時間がいらないことで、家族の会話や自分の呼吸にほんの少しの余白が生まれます。まずは今夜、三つのうちどれか一品を選んで、材料を切って入れ、強気にスイッチを押してみてください。放っておく勇気が、ちゃんとおいしいを連れてくるはずです。もし味が薄い、濃い、固い、柔らかいと感じたら、それはあなたの鍋のクセが見えたサイン。明日はその分だけ、あなたの台所が賢くなります。次に作ってみたいのはどれでしょう。豚バラ大根のしみしみ、サバのふっくら、鶏のしっとり。選ぶだけで、もう半分は終わっています。
参考文献
- 労働政策研究・研修機構(JILPT). 統計データ(共働き世帯の推移など). https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/qa/a07.html
- 内閣府 男女共同参画局. 男女共同参画白書 令和2年版(就業率の動向). https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r02/zentai/html/honpen/b1_s02_01.html
- 日本圧力鍋協議会(JPCC). 圧力鍋Q&A(安全機構・原理). https://www.aapc.jp/JPCC/QA.html
- NCBI PMC. Domestic cooking methods and nutrient retention in vegetables(例:ブロッコリーのビタミンC残存率). https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6049644/
- 栄養学雑誌 J-STAGE. 調理法とビタミンB1残存に関する報告(玄米の圧力炊飯など). https://www.jstage.jst.go.jp/article/eiyogakuzashi1941/38/5/38_5_267/_article/-char/ja