フィーリングッドな嫁姑が織りなす、最高のドラマ。金原ひとみ『マザーアウトロウ』

嫁姑の常識を覆す痛快ドラマ。金原ひとみの『マザーアウトロウ』は、型破りな義母・張子と嫁・波那の意外な関係性が魅力的。世間の嫁姑観念を根底から揺るがす、新しいドラマの形。

フィーリングッドな嫁姑が織りなす、最高のドラマ。金原ひとみ『マザーアウトロウ』

嫁と姑が織りなすドラマと聞いたとき、あなたはどんな作品を思い浮かべるだろうか? 価値観の違いによる火花を散らす争いが起こるドラマ、嫁が姑にいびられるドラマ、連れ合いが頼りにならず嫁が孤立してしまうドラマ……。

思い浮かべる作品は人それぞれだろうが、その多くはきっとアンハッピーな要素を含むドラマだろう。

そもそも血の繋がりがあったとしても、100%うまくいくとは限らないのが親子関係。生まれ育った時代はもちろん、生きてきた環境が異なる嫁と姑が、義理の親子になったからとすんなり仲良くなれるほうが奇跡だと言えるだろう。

しかし今回ご紹介する金原ひとみによる『マザーアウトロウ』(U-NEXT)は、主人公である水木波那(みずき・はな)と、波那の義母である松原張子(まつばら・ちょうこ)が「マブ」になるという、世の嫁姑ドラマのイメージからかけ離れた痛快な中編小説となっている。

「いくらフィクションとはいえ嫁姑関係がうまくいって、さらに面白い嫁姑ドラマなんてあり得る?」と訝しむ人は、まずはこのレビューを読んでほしい。

アッパーでエネルギッシュなスーパー義母・張子

先に触れたように物語の主人公は嫁の波那だが、彼女の義母である張子がなんともアッパーかつ最高に魅力的なキャラクターなのだ。

波那とパートナーの蹴人は張子への報告すらせず結婚をしていたものの、戸籍でふたりの結婚のことを知ったと思しき張子から「波那に会いたい」と連絡が来て、結婚3ヶ月目にして嫁姑が初めて対面する様子が物語冒頭では描かれるのだが、この時点で張子は世の姑像をひっくり返しまくる。

顔合わせでの服装といえばコンサバなスーツが定番だろうが、張子は上下金色のスーツに身を包んで(おまけに遅刻して)波那と蹴人の前に現れる。蹴人がその格好に絶句すれば「今日ものまね教室だって言ったじゃない」と言い、彼女の苗字が蹴人の旧姓である土井とは違うことについて波那が訊けば「夫が死んでから復氏っていうのをしたの。だって土井張子って、何だか建設会社みたいな名前じゃない?」と、あっけらかんと返す。

蹴人に事後報告で水木姓になったことを告げられても「やったじゃない土井なんて直線的な名前やめられて」と祝福し、名前なんて記号にすぎないものだと持論まで述べる。結婚にまつわる改姓のいざこざなぞ、張子にとってはどこ吹く風だ。

おまけに顔合わせの場であった小洒落たカフェから居酒屋へと移動し、近所に住んでいる友人に連絡をしまくるばかりか近くの席で一人飲みをしていた女性とも仲良くなり、最終的には6人でカラオケへとはしごし、深夜4時まで歌いまくるというアッパーぶりを張子はしょっぱなから見せつける。

その後も昼休憩に美容整形を一緒にしようと張子は波那を巻き込むのだが、施術後に入った韓国料理屋で波那が子どもをつくる気がないと告げても「長男とか血縁とか後継ぎとか苗字がとか、そんなの私にとっては超無意味。無オブ無」「子供より素敵なフィーリングッドな親子を一組作ったって思えばいいじゃない」と返し、長らく波那の中にあったわだかまりを解いていく。

さらに飲みや勢いで出発した韓国への弾丸旅行を通じ、「嫁姑」ではなく「マブ」として関係性を深めていく波那と張子。

「マブ」だからこそできる会話を重ねていく中、波那はいまの張子を形づくるきっかけとなった過去を知る。そしてまた波那も、張子に明かしていなかった過去と、蹴人にさえ打ち明けられずにいたあることを張子に伝え……。

フィーリングッドな嫁姑が、物語の終わりにどのような境地にいたるかは、ぜひ本編をお読みいただきたい。

家父長制をはじめとする負の連鎖を断ち切るために

もちろん全ての人にとって張子が理想の義母とは決して言えないと思う。相手を見極めて行動をしているとはいえ、トルネードばりの勢いで周りを自分のフィールドへと巻き込んでいく彼女の言動やアッパーなテンションを、生理的に受け入れられないという人もいるはずだ。
それでも張子が理想的な義母と思えてしまうのは、やはり彼女の価値観が現代社会の価値観とマッチしているからだろう。

多様性という価値観がない時代に、「今の百倍落ち着きがなくて、奇声あげたり、学校抜け出したり、とにかくじっとしてられない子だった」がために「両親にお前は狂ってるって言われて育った」という過去を持つ53歳の張子。

就職氷河期で希望していた不動産会社などには入れず家電メーカーの開発部に入社するも、社内ではパワハラやセクハラが横行しており「女っていうのは男にサービスする性なんだっていうことを刷り込まれるだけの日々」を送りながらも持ち前の精神で上司に反発するが、仕事を任せてもらえるようになる頃には社内に敵ばかりになってしまい、数年で総務部へと飛ばされてしまう。

その後、社内結婚をして妊娠と同時に会社も辞めるが夫の裏切りにあい、心に傷を負うことになる。

そんな自分が生きていた時代の中での負の経験を、他の人にはさせまいと言わんばかりに行動する張子は、負の連鎖を断ち切る頼もしい存在として私たちの目に映る。

と同時に、自分に義理の娘や息子ができたとき、果たして張子のように、その時代にとっての理想的な義母としてふるまえるだろうかと思ってしまう人も少なからずいるだろう。

価値観のアップデートは一朝一夕にできないものだからこそ、自分とは異なる世代や価値観を持つ人たちの声を常日頃から意識して取り入れたいものだ。だが、頭では理解できるようになっても、自分が取る行動に反映させられるようになるまで時間がかかってしまうのが現実だ。

しかし、相手の価値観を否定するところから入らずにまずは受け止め、お互いの立場を知る努力や想像をしながら共に考えつづけることなら、現実においてもきっとできるはずだ。

それこそ決して相性が良いとは言えない張子と蹴人が、お互いの価値観を理解できないものの否定はせず、ちょうど良い距離感を保てているように。

義両親との関係に悩んでいる人にはもちろん、そう遠くない未来に誰かの義母になる可能性がある人、あるいは読んで元気が出るような本を探している人にも問答無用で推したい『マザーアウトロウ』。

読むエナジードリンクのごとくアドレナリンを大放出させてくれる物語は、きっとあなたの心の中で停滞してしまっている何かを動かすパワーときっかけを与えてくれるだろう。

『マザーアウトロウ』
著者/金原ひとみ
価格/¥990
発行/U-NEXT

著者プロフィール

林みき

林みき

ライター、編集者。女性向けファッション&カルチャー誌の創刊と編集に7年間携わった後、フリーランスに。雑誌、ウェブメディアなどにて活動中。