テニスかバドミントンか。暮らし基準で選ぶ
世界保健機関(WHO)は週150〜300分の中強度運動を推奨しています[1]。研究データでは、ラケットスポーツのように心拍が上下するインターバル型の運動は、持久力や代謝の改善に有効と報告されています[2]。さらに、英国の大規模コホート研究では**「ラケットスポーツに参加している人は全死亡リスクが約47%低い」**という結果が示されました[3]。編集部が各種データを読み解くと、テニスとバドミントンはどちらもエビデンスのある健康投資でありながら、生活の制約が増えがちな35〜45歳の「いま」に合わせやすい柔軟さを持っています。
言い換えれば、テニスは約8〜10METs、バドミントンは約5〜7METs(活動強度の指標)とされ、どちらも効率的にエネルギーを使います[4]。医学文献によると、骨への刺激[5]や俊敏性・実行機能(注意・抑制・作業記憶)の向上[6]、そして社会的つながりによる参加・継続の後押し[7]は、ミドルエイジ女性のQOL(生活の質)を底上げする要因になり得ます。問題は「どちらを選ぶか」ではなく、あなたの暮らしにどう組み込めるか。その視点で案内します。
テニスは屋外コートが多く、天候や日照の影響を受けますが、開放感と長めのラリーが大きな魅力です。バドミントンは体育館を使うことが多く天候の影響を受けにくく、夜の時間帯でも照明下でプレーしやすい特長があります。仕事や家事の後の20時スタートなど、遅い時間のサークルや一般開放に参加しやすいのはバドミントンです。一方、週末の朝に太陽の下で汗をかきたい人にはテニスが合います。
費用面を現実的に見てみると、どちらも体験から始めやすいスポーツです。ラケットはレンタルが可能で、地域コートや公共体育館では1回数百円〜1,000円台のレンタルが一般的。初心者用ラケットを購入するならテニスで5,000〜15,000円前後、バドミントンで3,000〜10,000円前後が目安です。コート利用料はテニスが屋外・時間制で割高になりやすい一方、バドミントンは体育館の一般開放で割安になることが多い傾向です。レッスンはテニスのグループで1回2,000〜4,000円、バドミントンの地域クラブは年会費+参加費形式が多く、月合計で同程度に収まることが少なくありません。
運動強度とカロリー、体感の違い
研究データでは、テニス(シングルス)は約8〜10METsで高強度、ダブルスは約5〜6METsと中強度。バドミントンはラリーの密度が高く約5〜7METsとされ、俊敏なフットワークを繰り返します[4]。体感としては、テニスは大きなスイングと走る距離の長さで全身に負荷がかかり、バドミントンは細かなステップと反射的な動きで下半身と体幹に効きます。体重60kgの人が60分プレーした場合、テニス(ダブルス)でおよそ約315〜380kcal、テニス(シングルス)や競技的バドミントンでは約480〜630kcal程度の消費が目安になります(METs換算による推定)[4]。
「汗をしっかりかいて達成感を得たい」「夜に屋内で安心して動きたい」「子どもと一緒に遊び感覚で始めたい」。この3つのどれに重心があるかで、テニスかバドミントンかの最初の一歩が見えてきます。いずれも、短時間の反復でも健康効果が積み上がると国際的なガイドラインで示されています[1]。
はじめ方のリアル:場所・仲間・時間
テニスは自治体のレンタルコートやスクールの体験レッスンから始めるのがスムーズです。予約アプリで空き枠を探し、ボール付きの体験クラスに申し込めば、ラケットとシューズは貸し出しで間に合うこともあります。バドミントンは市区町村の体育館の一般開放や地域クラブが入口になりやすく、ラケットの貸し出しやビジター参加を受け付けているところも少なくありません。家族連れ歓迎の時間帯を選べば、「自分の運動」と「子どもとの時間」を同時に叶えることができます。
35〜45歳の体と心に効く、ラケットスポーツの利点
ラケットスポーツは、心肺機能、骨の健康、認知機能、メンタルヘルスの複数領域に働きかけます。医学文献によると、反復的なダッシュとストップを伴う運動は、心肺持久力(VO2max)の改善に寄与しやすく[2]、骨への衝撃刺激は骨量の維持にプラスです[5]。さらに、ラリー中の判断やコース取りは、注意・抑制・作業記憶といった実行機能のトレーニングにもなり得ます[6]。研究データでは、定期的な運動が不安や抑うつ症状の軽減に関連することが示され[1]、特に社会的なつながりがある運動では参加や継続が促されることが報告されています[7]。
テニスは大きい動きで全身を使えるため、背中や臀部など日常で使いにくい筋群にも刺激が入ります。バドミントンは俊敏性と反応速度が磨かれ、デスクワークで固まりがちな股関節や足首がほぐれます。どちらも「達成感のある汗」を得やすく、短時間でも気分転換の効果が高いのが魅力です。
時間がない日の15分メニュー
平日の夜、家事がひと段落してからの15分を、テニスやバドミントンのために切り出してみます。最初の3分は関節をゆっくり動かすダイナミックストレッチに充て、次の7分で素振りとフットワークの反復を行います。テニスならフォアとバックを10回ずつ丁寧に、バドミントンならシャドーステップで前後左右に小刻みに動いてフォームを確認します。最後の5分で壁打ち(許可のある場所)やミニラリー、またはサーブ練習に集中すると、短時間でも技術と心拍の両方に刺激が入ります。体を動かす入口のハードルを下げるには、シューズとラケットを玄関に置き、ウェアはバスルーム近くに畳んでおくなど、準備動作を極限まで減らす工夫が効きます。
ケガを避ける基本:肩・肘・膝の守り方
テニス肘と呼ばれる前腕のオーバーユースや、バドミントンでの膝周りの違和感は、始めたての人ほど起こりやすいもの。対策はシンプルで、十分なウォームアップ、グリップとフォームの確認、負荷の漸増の三つを外さないことです。グリップは握り込み過ぎず指先でコントロールする意識を持ち、振り切った後に体の回旋で減速させます。ストリングのテンションは柔らかめから試し、ショックを吸収するシューズを選ぶと関節負担が軽くなります。ジャンプ着地や素早い切り返しは、最初は回数を抑えてフォームを優先させるのが合理的です。
費用と準備:無理なく始める現実的ステップ
初期費用を抑えるコツは、レンタルから入ることに尽きます。ラケットはショップやスクールで試打ができ、公共施設では貸し出しが用意されていることも多いもの。テニスボールは耐久性の高いプレッシャーボールを数球、バドミントンならシャトルは練習用の耐久タイプを1筒用意しておけば、最初の数週間は十分に回せます。ウェアは吸汗速乾性のTシャツと動きやすいパンツでOK。シューズだけは競技用を選ぶと安定感が段違いです。テニスはコートの種類に合ったアウトソールを、バドミントンはノンマーキングのインドア用でグリップと軽さのバランスを重視します。
続けるほどコストパフォーマンスは改善します。週1回を3カ月続けると、ラケットやシューズの投資は1回あたりに均すと大きく下がります。迷う場合は、1カ月はレンタル+体験レッスン、2カ月目に初めての1本を購入という流れが負担少なめです。中古やアウトレット、試打落ちのラケットは掘り出し物が多く、最初の相棒として頼もしい存在になります。
場所選びと予約のコツ
テニスは人気の時間帯が埋まりやすいので、朝イチか昼休み前後のオフピークを狙うと見つけやすくなります。風が強い日はボールコントロールが難しいため、フォーム練習や球出しドリルに切り替えるのも賢い判断です。バドミントンは体育館の一般開放枠をチェックし、予定の前後に30分の移動と片付けバッファを確保すると、生活全体のストレスが減ります。どちらも、移動時間を片道15分以内に収められる場所を選ぶと、継続率が上がります。
続ける設計:4週間の小さな成功体験を積む
最初の4週間は、結果よりも「出席すること」を勝ちと定義します。1週目は体験レッスンか一般開放に1回参加して、雰囲気と自分の体力感をつかみます。2週目は自宅の素振り+フットワークを2回(各10分)。3週目はもう一度現地でプレーし、ラリーの中で1つだけテーマ(テニスはスプリットステップ、バドミントンは前後ステップ)に集中します。4週目は練習と日常のセット化に挑戦し、例えば「金曜の退勤後は体育館へ直行」「日曜朝はコートへ行く前に洗濯を回す」といった定型を作ります。うまくいったら自分に小さなご褒美を。これだけで、習慣化のカギである「きっかけ・行動・ご褒美」の回路が回り始めます。
ソロでも上達する練習と、心の整え方
相手がいない日でも前進できます。テニスは壁打ちで同じテンポを30秒キープすることから始め、徐々にステップを足します。バドミントンはラケットなしのシャドーで姿勢と重心に集中し、10往復を目安に呼吸を乱さず動き続けます。どちらも、練習の最初と最後に3回の深い呼吸を入れると、気持ちの切り替えがうまくいきます。仕事や家庭のタスクで頭がいっぱいのときこそ、呼吸の整え方を先にセットするのが近道です。
体調の波が気になる人は、月経周期や睡眠との相性も考慮に入れます。むくみやすい時期は強度を落としてフォーム練習に振り分け、睡眠が足りない日は15分メニューに切り替える。こうした調整力が、結局は長く続く力になります。休む選択を後ろめたく感じる日には、更年期・ゆらぎ期のセルフケアの視点が助けになります。
コミュニティを味方にする
ラケットスポーツは、人がいるほど上達が早く、楽しさも増します。スクールの同時間帯に通う人と自然に顔見知りになり、球出しの順番で会話が生まれる。地域のバドミントンサークルでは、初心者に優しい「基礎打ち」を用意してくれるところが多く、安心して参加できます。**「上手くなる前に、人に会う」**と決めるだけで、運動は予定表の中の「やること」から「行きたい場所」に変わっていきます。
テニスとバドミントン、結局どちらを選ぶ?
編集部の結論はシンプルです。天候や時間の融通が利くならバドミントン、外の空気を味方にしたいならテニス。そして、どちらにも心が動くなら、迷わず「両方の体験」を1回ずつ入れてみること。たった2回でも、体の反応や楽しさの質がはっきり違って見えてきます。運動強度で選ぶなら、しっかり汗をかきたい人はシングルスのテニスかラリー密度の高いバドミントンを、会話も楽しみたい人はテニスのダブルスやゆるめのノック練習から入ると、息切れし過ぎずに続けやすくなります[4].
道具の選び方で迷ったら、最初の一本は「軽め・扱いやすい」を基準に。テニスのラケットは重さ280g前後、バランスはややヘッドライトが操作しやすく、バドミントンは4U(約80g台)でグリップ小さめが女性の手に馴染みやすい傾向です。ストリングはテンション低めから始め、反発と肘の負担のバランスを見ながら調整していくと、ケガの予防にもつながります。
小さく始めて、長く続ける
週に1回、45分でも十分です。大事なのは、**「次の予定までに何を1つだけ練習するか」**を決めること。テニスならサーブ前のルーティン、バドミントンなら前後のフットワーク。やることが明確になると、コートに立つたびに小さな進歩が手に入ります。これは自己効力感をゆっくりと育て、仕事や家庭の場面にも良い波及効果をもたらします。
まとめ:選ぶのではなく、生活に溶かす
テニスとバドミントンはどちらも、35〜45歳の忙しさとゆらぎに寄り添う強い味方です。インターバル的に心拍を上げつつ、仲間と笑い合える。15分の素振りでも、週末の1時間でも、積み重ねれば体は確実に応える。まずは1回だけ、体験クラスや一般開放に申し込み、帰り道の高揚感を自分の肌で確かめてみてください。次の週には、玄関のシューズとラケットが合図になってくれるはずです。
もし今日、予定が詰まっていたとしても、寝る前の3分だけ深呼吸とシャドーステップを。あなたの「いま」に合うやり方が、必ず見つかります。どちらから始めますか?テニス、それともバドミントン。小さな一歩が、これからの自分を連れていきます。
参考文献
- WHO (World Health Organization). WHO Guidelines on Physical Activity and Sedentary Behaviour: Key Messages. 2020. https://www.who.int/europe/publications/i/item/9789240014886
- Schmitt et al. High-intensity interval training in racket sports: effects on aerobic and anaerobic endurance. PMC10769056. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10769056/
- Racket Sports (overview and epidemiology). ResearchGate. https://www.researchgate.net/publication/340676897_Racket_Sports
- Wellba METs表(運動強度の目安). https://www.wellba.com/hbnews/contents/mets_table.html
- Kannus et al. Bone mineral density in athletes vs. inactive controls(ラケットスポーツと骨密度の関連). PubMed 8864908. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8864908/
- Tsai et al. Effects of badminton on executive functions and exercise intensity. PMC6726133. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6726133/
- Sport participation and health outcomes(スポーツ種目と継続・死亡リスクの関連を示すコホート研究). PMC4592232. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4592232/