確定申告とは何か――年末調整との違いから
国税庁の公表データでは、個人の確定申告の提出件数は直近公表で約2,295万人と“2,000万件超”です[1]。e-Taxの利用も年々拡大しています[2,3]。それでも「何から始めればいいのか分からない」という声は、NOWH編集部に毎年届きます。医学ではなく税の話ですが、制度は毎年少しずつ変わり、生活の転機が重なる35〜45歳では、手続きの難しさが心理的な負担になりがちです。編集部が各種公開データを確認すると、申告が必要な人でも「年末調整があるから大丈夫」と思い込み、還付のチャンスや適切な控除を逃すケースが少なくありません。そこで本稿では、確定申告の基礎知識を、最短距離で実務に使える順序で整理します。専門用語はできるだけ日常語に置き換え、いつ・誰が・何を・どうやっての4点に焦点を当てます。
確定申告は、1年間(1月1日〜12月31日)の所得をまとめ、税額を“確定”させる年に一度の手続きです。会社員の多くは勤務先で年末調整が行われ、給与に関する税の精算は済みます。ただし年末調整は、給与以外の収入や特定の控除まで自動では拾い切れません。副業の所得が一定額を超えた人、初めて住宅ローン控除を受ける人、大きな医療費があった人、ふるさと納税のワンストップ特例を使っていない人などは、確定申告が必要または有利になります[2]。
研究データというより制度のルールですが、ここで強調したいのは“申告の要不要は売上ではなく所得を基準に判断する”という点です。たとえばフリマアプリやデザインの受託で30万円の売上があっても、材料費や外注費、プラットフォーム手数料などの必要経費を差し引いた所得が小さければ、要件は変わります。逆に「副業は20万円以下だから申告不要」と思い込むと、住民税の申告漏れにつながることもあります。住民税は別に申告が必要な場合があるため、“20万円ルール”は所得税に関する限定的な取り扱いだと覚えておくと混乱しません[4].
編集部の現場感:40代で増える“境界ケース”
編集部に届く相談で多いのは、管理職や専門職に就きつつ、週末にスキルを活かした副業を始めた方や、育児・介護で働き方を見直した方です。年末調整に安心していたら、年の途中で給与支給元が2社になった、ストックオプションの行使があった、退職金の扱いが気になる、医療費が想定より膨らんだ、ふるさと納税を6自治体以上に寄付していた…など、“年末調整だけでは片付かない”出来事が並ぶのが40代のリアル。確定申告の基礎知識は、そんな変化の年を静かに支えるインフラです。
誰が、いつ、何をする?――期限と必要書類
申告が必要かどうかは、所得の種類と状況で決まります。給与のみで年末調整が正しく済んでいる人は、通常は申告不要です。しかし、給与以外の所得が一定額を超える、2カ所以上から給与を受けて年末調整されていない分がある、初年度の住宅ローン控除を受ける、医療費控除や寄附金控除を活用したいといった場合は、確定申告が視野に入ります。ここで迷ったら、国税庁のフローチャートやタックスアンサーを確認すると、条件分岐が見える化され、判断が早まります[2].
期限は例年、2月16日頃から3月15日頃が申告・納付の基本期間です[6]。ただし、還付申告(払いすぎた税金の返還を求める申告)は翌年1月から可能[6]で、原則として5年間さかのぼれます[12]。e-Taxを使えば、混み合う時期を避けて自宅から手続きでき、医療費控除では領収書の提出は不要(明細書の作成と領収書の5年間保存が必要)です[5]。納付もインターネットバンキングやダイレクト納付、クレジットカード納付などを選べます[3]。反対に、紙での提出や窓口相談は混雑しがちです。どの方法を選ぶかは、手持ちの書類とスケジュール感で決めるのが現実的です。
必要書類は、状況によって顔ぶれが変わります。給与があるなら源泉徴収票、副業やフリーランスなら収入と経費の記録、医療費控除なら医療費通知や領収書から作成した明細書[5]、生命保険・地震保険・小規模企業共済などの控除証明書、ふるさと納税なら寄附金受領証明書が代表的です。本人確認ではマイナンバーの番号と身元確認書類が必要になります。e-Taxを使うなら、マイナンバーカード方式(スマホ対応可)やID・パスワード方式など、公式案内に沿って選べます[3]。どれも難しそうに見えますが、一度ログインできれば、次回からは画面の案内に沿って進めるだけで、迷いは大きく減ります。
確定申告の基礎知識として知っておくと得な“時間”の話
多忙な時期に帳票作業をするのは気が重いものです。だからこそ、還付申告は1月からできると覚えておくのがコツです[6]。医療費控除や寄附金控除の還付が目的なら、人が動き始める2月中旬になる前に静かに済ませられます。また、納付が発生する場合でも、振替納税の手続きをしておけば、指定期日に口座から自動引落しされるため、窓口に出向く必要がありません(期日等は毎年公表)[3]。いずれも国税庁の公式案内に沿って進められるので、早めの準備が時間のストレスを軽減します。
はじめてでも迷わない“やる順番”――e-Tax中心の実務ステップ
ここからは、実際に手を動かす順序を、画面のイメージに沿ってたどっていきます。まず、1年間の収入と経費をざっと総ざらいします。給与は源泉徴収票の数値を確認し、フリーランスや副業は入金履歴と請求書、手数料明細を突き合わせ、売上ではなく所得(収入−必要経費)を把握します[4]。経費は、レシートの合計だけでなく、口座振替やプラットフォームの手数料、通信・サブスクなどの按分も忘れずに。数字がまとまったら、マイナンバーカードの準備をしてe-Taxにログインします[3].
次に、申告書の作成画面で、所得の種類を選びます。給与のみ、事業(または雑)所得あり、配当や譲渡がある、など、自分のケースに合うルートに進めば、質問に答える形式で項目が展開されていきます。控除は“ある・なし”の判断からが取り組みやすく、生命保険料、地震保険料、iDeCoや小規模企業共済、社会保険料、寄附金(ふるさと納税)など、手元の証明書の通りに入力します。医療費控除は、医療費通知や領収書から明細書を作る必要がありますが、e-Taxの自動計算に助けられるので、合計額と補填(保険金など)の差し引きだけを丁寧に確認すれば大丈夫です[5].
そのあと、住所や振込口座(還付がある場合)を入力し、最終画面で計算結果(納付か還付か)を確かめます。数字に違和感があるときは、入力の桁や控除の重複(たとえば、ふるさと納税のワンストップ特例と確定申告の重複適用)を見直します[10]. 送信前にデータを保存しておくと、来年の下地にもなります。送信後の受付結果は必ず控え、レシートや証明書は対象に応じて5年間の保存が必要なものがあります[5]. 紙で提出する場合は、ひとまとめにして郵送または税務署へ提出しますが、混雑を避けたいなら、やはりe-Taxが心強い味方です[3].
青色申告・白色申告の基礎知識
副業やフリーランスで継続的に収入があるなら、青色申告という選択肢があります。青色申告特別控除(最大65万円・条件あり)は、帳簿付けや期限内申告などの要件を満たすと使えます[8]。はじめての年から適用したい場合は、青色申告承認申請書をあらかじめ提出する必要があり、提出期限は原則としてその年の3月15日頃(新規開業は開業日から2か月以内)です[7]。基礎知識としてここだけ押さえ、今年は白色で、来年から青色へと段階的に整えるのも現実的な選択です。
迷いやすい“あるある”の整理――副業・医療費・ふるさと納税・住宅・配偶者
副業の“20万円ルール”はどこまで通用する?
会社員で年末調整済みの場合、給与以外の所得(たとえば雑所得や事業所得)が20万円以下なら所得税の確定申告は不要という取り扱いがあります[4]。ただし、ここで言う20万円は売上ではなく所得で、必要経費を差し引いた後の金額です。また、住民税は別途申告が必要になる場合があるため、“完全に何もしなくていい”わけではありません。副業の有無を会社に知られたくない時は、住民税の徴収方法を「普通徴収」にする選択が関係することもありますが、自治体の運用差や要件があるため、入力画面の注意書きをよく読み、最終的には自治体の案内に従いましょう。
医療費控除とセルフメディケーション税制
医療費控除は、1年間に支払った医療費が一定額を超えたときに使える制度です。自己負担した医療費から保険金などで補填された金額を引き、10万円(または所得の5%)のいずれか少ない方を超える部分が控除対象になります[5]。ドラッグストアで購入した対象OTC医薬品の合計額が一定額を超えた場合に使えるセルフメディケーション税制もありますが、医療費控除と同時に選べないため、どちらが有利かを試算してから選びます[9]。e-Taxなら、両方入力してシミュレーションし、より有利な方を最終的に採用する、という進め方がしやすいです[3].
ふるさと納税のワンストップ特例と申告
ふるさと納税でワンストップ特例を使っていても、確定申告をするなら寄附金控除として必ず申告へ取り込む必要があります[10]。ワンストップ特例の申請をしていた分は自動では反映されないため、寄附金受領証明書に記載の金額をまとめて入力します。また、寄附先が5自治体以内であることなど、ワンストップ特例には条件があるので、翌年に確定申告をする可能性があるなら、最初から寄附金控除としてまとめて処理する方が整合的です[10].
住宅ローン控除の“初年度だけは申告”
住宅ローン控除は、入居初年度は確定申告が必須です。年末残高証明書や登記事項証明書など、必要書類はやや多いものの、2年目以降は年末調整で処理できるのが一般的です[11]。中古・新築、認定住宅かどうか、増改築かなどで制度の適用要件や控除率・控除期間は変わるため、金額面は最新の国税庁資料で確認しましょう[11]。初年度に申告を逃すと控除期間全体に影響するため、ここは優先順位高めで対応したいところです。
配偶者控除・配偶者特別控除の勘所
配偶者控除は、配偶者の合計所得金額や本人の所得水準に連動して適用が決まります。給与収入で語られることが多いですが、判定は最終的に“合計所得金額”で行われるため、パート収入と副業の所得が重なるとボーダーをまたぐことがあります。年末調整で申告した後でも、条件が変わったら確定申告で調整できます。制度の数字は改正で動くことがあるため、最新版のタックスアンサーを見て判断するのが確実です[2].
困ったら“公式”に頼る――最新情報とチェックポイント
税制は毎年のように微調整され、説明サイトも古い情報のままになっていることがあります。迷った時の拠り所は、やはり公式情報です。申告時期の総合案内は国税庁の「確定申告特集」で集約され、手続きの入口からQ&A、手引きまで揃っています[2]。オンライン申告の使い方はe-Tax(国税電子申告・納税システム)に詳しく[3]、医療費控除や寄附金控除、住宅関連の控除はタックスアンサーで最新の数字を確認できます[2]。
まとめ――“完璧”より“毎年少しずつ”がいちばん早い
確定申告は、難しい数式を解く試験ではありません。去年の暮らしの記録を、今年の税に正しく翻訳する作業です。基礎知識として、年末調整でカバーできない領域があること、期限とやる順番、売上ではなく所得で見ること、控除の選択肢を把握しておくこと。この4点が分かれば、手続きは一気に軽くなります。完璧を目指して身構えるより、今年はe-Taxにログインして還付申告だけでも済ませる、レシートの撮影と保存の習慣を始める、来年は青色申告に挑戦する、と段階を踏んでいけば十分です。いまのあなたにとって最小で意味のある一歩は何でしょう。思い当たる控除の証明書をひとつ机に出す。まずはそこから始めてみませんか。
参考文献
- 国税庁 統計・法人番号関係 令和3年分 所得税等申告状況等について(所得税の申告者数は2,295万人 等)https://www.nta.go.jp/about/introduction/torikumi/report/2023/02_2.htm
- 国税庁 確定申告特集 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/tokushu/index.htm
- e-Tax(国税電子申告・納税システム)公式サイト https://www.e-tax.nta.go.jp/
- 国税庁タックスアンサー No.1900 確定申告が必要な人 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1900.htm
- 国税庁タックスアンサー No.1119 医療費控除の明細書と領収書の保存 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1119.htm
- 国税庁 広報資料「暮らしの税情報」確定申告(申告期限・還付申告の受付) https://www.nta.go.jp/publication/pamph/koho/kurashi/html/06_1.htm
- 国税庁 青色申告承認申請書の提出期限のご案内 https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/shinkoku/annai/09.htm
- 国税庁タックスアンサー No.2072 青色申告特別控除 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2072.htm
- 厚生労働省 セルフメディケーション税制(特定一般用医薬品等購入費控除)https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000177182.html
- 総務省 ふるさと納税ワンストップ特例制度(制度の概要・適用要件)https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_zeisei/czaisei/czaisei_seido/furusato/
- 国税庁タックスアンサー 住宅借入金等特別控除の手続(初年度は確定申告)https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1213.htm
- 国税庁タックスアンサー 還付申告ができる期間(原則5年間)https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2030.htm