72時間の科学——炎症はこう動く
医学文献によると、紫外線を浴びると皮膚ではプロスタグランジンやサイトカインが増え、血管が広がって赤くなり、痛みや熱感が出ます[2]。赤みのピークは12〜24時間、その後48〜72時間で炎症は鎮まりはじめ、表面の水分保持力(角層バリア)が一時的に弱ります[1]。研究データでは経表皮水分喪失(TEWL)がUV曝露後に上昇することが示され、乾燥しやすく、刺激に敏感な状態が続くのが特徴です[3,4]。さらに、炎症のシグナルはメラニン生成にも影響し、数日〜数週間の“色残り”に結びつくことがあります[5]。
こうした時間的な変化を踏まえると、最初の24時間は熱と炎症のコントロール、次の48時間はバリアの立て直しに比重を移すのが合理的です。タイミングに合わせてケアを切り替えることが、少ない手間で最大の効果を引き出す近道になります。
最初の24時間で起きていること
皮膚表面はほてり、内部では炎症物質が活発に動いています。血流が増え、熱がこもりやすい時期のため、長時間の入浴やサウナ、激しい運動は赤みを悪化させやすい[8]。触れれば触れるほどバリアが乱れやすいフェーズでもあるので、摩擦や強い成分を避けながら、穏やかに熱を逃がすことが鍵になります。
24〜72時間の肌で起きる変化
赤みは落ち着いても、角層はまだ乾燥ぎみで、小さな皮むけが出たり、ピリつきやすかったりします。ここで過度に攻める美容を再開すると逆戻りしやすい一方、適切な保湿と日中の紫外線回避を徹底すれば、炎症後色素沈着のリスクを下げやすくなります[6,5]。
0〜24時間のケア——冷やす、保つ、触れすぎない
第一の目的は熱を穏やかに逃がすこと。濡らして軽く絞った清潔なタオルを冷蔵庫の冷たさで冷やし、10〜15分置いて数分休むサイクルを何度か行うと負担なく冷却できます[7]。保冷剤を使う場合は必ず布でくるみ、氷を直接肌に当てないことが凍傷回避の基本です[7]。シャワーはぬるめにして短時間で切り上げ、こすらずに水気を押さえるだけに留めましょう[8]。
次に必要なのは、水分と油分のバランスをとる保湿です。グリセリンやヒアルロン酸などの水分保持成分、セラミドなどのバリアサポート成分は、刺激が少なく肌になじみやすい選択肢です。熱が強く残るうちは、ベタつきの強い密閉系を厚塗りするより、みずみずしいテクスチャーを少量ずつ重ねるようにして“肌の呼吸”を妨げない発想が役に立ちます。アロエベラジェルについては、研究では効果にばらつきがありつつも、清涼感と一時的な鎮静を感じる人はいます[6]。刺激の強い成分(局所麻酔薬など)はかぶれの原因になり得るため避け、パッチテストを挟んで違和感がなければ限定的に使うのが無難です[6,8]。
生活面では、こまめな水分補給を優先し、アルコールは控えめに。日焼け後は脱水を招きやすいため、水分摂取を増やしましょう[7]。衣服は綿などのやわらかくてゆったりしたものを選び、バッグのストラップが摩擦を起こす部位は避けて持つとストレスを軽減できます。外出が避けられない場合は、日傘や帽子、UVカットの羽織りで物理的に遮り、赤みが強い部位には直射を当てない工夫を優先してください[6]。日焼け止めは刺激になることがあるため、ひりつきが強い部位はまず覆う・避ける。塗る場合は敏感肌向けの紫外線散乱剤中心の低刺激タイプを薄く、違和感があれば無理に重ねない判断が大切です[6]。
冷却のやり方と注意
冷却は“やり過ぎない”がコツです。冷たすぎる温度で長時間当て続けると、血流が極端に下がって回復が遅れる可能性があります。皮膚温を少し下げて心地よいと感じる程度で区切り、赤みが増したり、じんじんした痛みが強まるなら時間や頻度を調整しましょう。化粧水を冷蔵庫で冷やしてコットンパック、という昔ながらの方法は、長時間の貼りっぱなしが逆に乾燥を招くので、数分で切り上げてすぐに保湿でふたをするのが安心です[4]。
保湿と成分選び
低刺激のジェルやローションをベースに、足りなければ乳液やクリームを薄く重ねます。香料やアルコール(エタノール)濃度が高いもの、ピーリング酸(AHA・BHA)やレチノールなどの“攻めの成分”は、この段階では避けた方が無難です[8]。塗ってしみない、翌朝つっぱらない、赤みが増えないという3つの実感を目安に、手持ちのアイテムの中から“今の肌”に合う使い方へ微調整していきましょう。
24〜72時間のケア——バリア修復と色残り対策
炎症が落ち着くと、次はバリアを立て直して、炎症後色素沈着をため込まないことに意識を移します。朝はやさしい洗顔で摩擦を避け、保湿を重ねてから、外出時は広範囲を衣類と日傘で覆う[6]。日焼け止めは敏感肌向けの製品を必要な部位に薄く塗り、汗をかいたらタオルで押さえた後に塗り直します。“覆う+最小限を塗る”の合わせ技が、しみやピリつきを抑えながら直射日光を避ける現実的な解です。
保湿は引き続き中心に置き、乾燥しやすい部位にはセラミドやコレステロール、脂肪酸を含むクリームを薄く。皮むけが始まっても、無理に剥がさずに自然に任せるのが鉄則です。入浴はぬるめの短時間で、体を拭くときはタオルで押さえるように。運動は軽めのストレッチや散歩程度にとどめ、高温多湿の環境や長時間の有酸素運動は赤みが再燃しやすいので様子を見ながら戻します[8]。
色残り(炎症後色素沈着)をため込まない
炎症によるシグナルはメラニン生成を後押しするため、数日遅れて“くすみ”として現れることがあります。まずは紫外線を物理的に避けることが最大の予防です[6]。そのうえで、ひりつきが収まってから(目安として48〜72時間以降)、ビタミンC誘導体やナイアシンアミドなどの穏やかなブライトニング成分を低濃度から試すと、肌の負担を抑えつつ透明感の回復を後押しできます。しみる、赤みが増すなど違和感があればすぐに中止し、数日空けて再開のタイミングを見直しましょう。スクラブや強いピーリング、レチノールの再開は、赤みが落ち着いてからさらに数日待つと安全域が広がります[8]。
食事面では、炎症期に無理して“美白サプリ”を増やすより、いつもの食事でバランスを整えることが現実的です。果物や野菜、たんぱく質、良質な脂質を意識すると、肌の回復を支える栄養が自然とそろいます。睡眠は最強のスキンケア。光の暴露で乱れやすい体内時計を整えるため、夜は照明を落とし、寝る前のスマホ光を遠ざける工夫が回復力を押し上げます。
入浴・運動・睡眠の整え方
長風呂やサウナは汗と熱で炎症をぶり返しやすいので、一時休止して短時間のぬるめ入浴に切り替えます。運動は、脈が大きく上がるほど顔や肩の赤みが戻るサインになりやすいので、“少し物足りない”負荷から段階的に[8]。睡眠は時間だけでなく質が大事です。就寝90分前の入浴を短めにし、室温・湿度を整え、枕カバーを清潔に保つ。これらの小さな習慣が、肌の夜間修復を支えます。
やってはいけないケアと受診の目安
民間療法として広まる酢や歯磨き粉、卵白などを塗る行為は、pHの急変やタンパクの付着により刺激や感染のリスクを高めます。氷の直当て、熱いシャワー、強いマッサージ、スクラブやピーリング、レチノールの早すぎる再開は、炎症を長引かせやすい代表例です[7,8]。ひりつきが強いうちは香りの強いボディケアやアルコール濃度の高い制汗剤の使用も控えめにしましょう。
受診の目安としては、広範囲の水ぶくれや強い痛み、発熱・悪寒・吐き気など全身症状がある場合です。体表面積の目安は、**自分の手のひら(指を含む)が約1%**とされます[9]。手のひら数枚分を超える広さに水疱が多発する、顔や手の機能に関わる部位の深いダメージが疑われる、小さなお子さんや基礎疾患のある方が強い症状を示す、といったケースは医療機関に相談してください[7]。市販の鎮痛薬や外用薬は、用法用量を守り、違和感があれば使用を中止することが原則です[7]。
最後に、次の外出に向けた備えも“ケア”の一部です。塗布量の見直しや持ち歩きの塗り直し習慣、帽子や日傘、羽織りの常備など、ライフスタイルに合う方法をひとつ決めておくと、同じ失敗を繰り返しにくくなります。なお、CDCの成人のサンバーン有病割合に関する統計は、生活行動の見直しの参考になります[9]。
参考文献
- Milner SM. Sunburn. Eplasty. 2024. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11374383/
- 日本皮膚科学会. 皮膚科Q&A「日焼け(サンバーン)」。https://www.dermatol.or.jp/qa/qa2/q04.html
- Leite-Silva VR, et al. Effects of ultraviolet radiation on epidermal barrier function and transepidermal water loss. J Invest Dermatol. 2011.
- Elias PM, Feingold KR. Skin barrier function and its modulation by ultraviolet radiation. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2968765/
- Grimes PE, et al. Postinflammatory Hyperpigmentation. StatPearls [Internet]. 2023. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK559150/
- American Academy of Dermatology. Sunburn: First aid. https://www.aad.org/public/everyday-care/sun-protection/sunburn/first-aid
- Mayo Clinic. Sunburn: Diagnosis & treatment. https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/sunburn/diagnosis-treatment/drc-20355928
- DermNet NZ. Sunburn. https://dermnetnz.org/topics/sunburn
- Blahd W, et al. Sunburn. StatPearls [Internet]. 2024. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK534837/