いま、洗濯を見直す理由
合成繊維由来のマイクロプラスチックの約35%は家庭の洗濯が由来とする国際機関の報告が知られるようになりました[1]。一方で、一般的な縦型洗濯機は1回あたり約50〜80L(目安は約60L)の水を使い、電気乾燥機は1回でおよそ1.5〜3.5kWhの電力を消費します[3]。数字だけ並べると肩が重くなりますが、編集部で各種データと生活実感を突き合わせて見えてきたのは、壮大な我慢ではなく、日々の小さな選択の積み重ねで十分に効果が出るという事実でした。
洗濯はきれいごとだけでは続きません。臭いが気になれば洗い直し、梅雨は乾かない、子どもや家族がいれば泥や皮脂汚れとも向き合うことになります。だからこそ、「環境」と「現実」のちょうどよい落としどころが大切です。この記事では、研究データで裏づけされた方法と、働く私たちが無理なく続けられるコツを組み合わせて、環境に優しい洗濯法を整理します。
研究データでは、合成繊維(ポリエステルやナイロンなど)を洗うと、目に見えない繊維片が水中に流出することが確認されています[4]。海洋へ流れ込むマイクロプラスチックのうち繊維起源が大きな割合を占めるという報告は広く引用され、洗濯の工夫がそのまま環境インパクトの低減につながることが明らかになっています[1,4]。さらにエネルギーの観点でも、加熱や乾燥に多くの電力がかかるため、温度設定と乾燥の方法を見直すだけで家庭のCO2排出を抑えられます[2]
同時に、洗濯は衣類の寿命にも直結します。英国の調査では、1着の寿命を9カ月延ばすと、カーボン・水・廃棄のフットプリントが20〜30%程度減ると示されています[5]。つまり「洗い方をやさしく」「頻度を必要最小限に」「ケアで長持ち」は、環境と家計とクローゼットの充足感に同時に効く一石三鳥のアプローチなのです。
数字でみるインパクトの実感
仮に週5回の洗濯を週4回に見直せば、年間で約50回分を削減できます。水量を1回60Lとすると約3,000Lの節水です。さらに乾燥機の使用回数を半分にできれば、1回2kWhと仮定して年間100kWh前後の電力も節約できます[3]。生活スタイルによって前後しますが、小さな最適化の積み重ねが確かな変化を生みます。
「理想」と「現実」をつなぐ発想
一気に完璧を目指すより、最初の1手を決めて習慣化することが長続きのコツです。編集部の結論はシンプルで、まずは回数をほんの少し減らし、温度と乾燥を見直し、素材ごとのケアを覚える。この三拍子が、最小のストレスで最大のリターンをもたらします。
水・電気・時間を減らす洗い方の基本
洗濯は「水・電気・時間」の家事三要素が絡みます。どれかを極端に削ると別の負担が増えることもあるので、家の仕様や天候、家族の予定に合わせてバランスさせる視点が大切です。ここでは実行しやすく、効果が数字で実感しやすい基本を整理します。
フル活用と適正量で“まず一歩”
まずはまとめ洗いを意識します。多くの洗濯機は、半分の容量でも水は7〜8割使います[2]。極端な小分け洗いを減らすだけで、使用水量あたりの洗浄効率が上がります。とはいえ詰め込みすぎは汚れ落ちとすすぎを悪化させるので、手のひら一枚ぶんの余裕が残る程度を目安に。次に洗剤は規定量を守ること。入れすぎると再汚染やニオイの原因となり、すすぎ回数や再洗いが増えて本末転倒です。日本は軟水地域が多く、少量でも洗浄力が発揮されやすいので、濃縮タイプを適量で使うと無駄が減ります。
温度・コースの最適化で電力を抑える
日本の家庭では水道水温で洗うことが多く、これはエネルギー効率の面で理にかなっています[2]。温水洗いが必要な場面以外は、常温の短時間コースを選ぶだけで、電力消費と生地の摩耗を同時に抑えられます。エコモードは時間が長い場合がありますが、総電力は下がるよう設計されています[2]。皮脂が気になる衣類は事前につけ置きしてから短時間で回すと、全体の時間と水を増やさずに済みます。
乾燥は“自然+工夫”が最小エネルギー
乾燥機1回で1.5〜3.5kWhの電力が動くことを考えると、エネルギーの要は乾燥です[3]。可能な日は自然乾燥を基本に据えます。風の通り道を作るように、厚手と薄手を交互に配置し、ハンガーの間隔を広げるだけで乾燥時間は短縮します。乾燥機を使う日は、脱水を高回転でしっかり行い、投入量を7割程度に抑えると乾燥時間と電力が下がります。逆に自然乾燥の日は、しわや生地ダメージを避けて脱水をやや控えめにするなど、仕上げ方を切り替えると満足度が上がります。
マイクロファイバーを減らす具体策
研究では、洗濯用の捕集バッグやフィルターで流出繊維量が3〜5割程度減ると報告されています[6,7]。合成繊維のインナーやフリースは、洗濯ネットや専用バッグに入れて回す。弱水流や短時間コースを選ぶと、機械的な摩耗が減って繊維の脱落も抑えられます[6]。乾燥フィルターや糸くずフィルターは清潔に保ち、目詰まりによる効率低下を避ければ、電力の無駄も同時にカットできます[4].
衣類を長持ちさせるケアは最高のエコ
一番の節約と環境配慮は、買い替え頻度を下げること。洗濯で劣化させない、そして「洗わずに済む日」をつくる工夫が鍵です。
“洗う前”の選択肢を増やす
汚れの少ない日常着は、帰宅後すぐにハンガーで肩を整え、風通しの良い場所で湿気を飛ばします。首回りや袖口のポイント汚れは、中性洗剤を少量含ませた布でやさしくたたいて落とし、翌朝まで干して様子を見る。これで丸洗いが1回スキップできれば、水と時間の節約は積み重なります。デニムや厚手ニットは、着回し計画を立てて、連続使用を避けるだけでリフレッシュされ、洗濯頻度を抑えられます。
素材ごとの“機嫌”を知る
コットンは強いようで、過度な脱水と高温乾燥でねじれや縮みが起こりやすく、ポリエステルは摩擦で毛羽立ちやすい。ウールやシルクは中性洗剤を短時間でやさしく扱うのが基本です。裏返してネットに入れるだけで、表面の摩耗と色落ちは目に見えて減ります。プリントTやスポーツウェアは、柔軟剤の量を控えめにし、吸汗性や通気性を損なわないようにします。乾燥の仕上げで形を整え、肩に合うハンガーを選べば、アイロン時間も短縮されて長持ちにつながります。
ラベルを読むことが最短ルート
洗濯表示は、実は時短のカンニングペーパーです。推奨温度、適したコース、絞りや乾燥の可否が一目でわかり、迷って高コストな洗い直しを防げます。頻度が高いアイテムほど、購入時に「家で洗えるか」「短時間コースでいけるか」をチェックしておくと、その後の家事全体が軽くなります。
家族と暮らしにフィットする実践プラン
忙しい平日と、まとめて整える週末。現実のリズムに寄り添った計画に落とすと、無理なく続きます。編集部ではいくつかの家庭でヒアリングを行い、リビングの干し場の確保や、洗う前の仕分け、夜間の部屋干しの工夫などを検証しました。共通して効果的だったのは、動線とルールを小さく整えることです。
平日は“ためて整える”、週末は“軽やかに回す”
平日は、インナーやタオルなど衛生優先のアイテムに絞って短時間で回し、アウターやデニムは風通しとスポットケアで乗り切る。洗濯かごを2つ用意して「即洗い」と「保留」を分けておくと、判断が早くなります。週末は家族の予定を見てフル稼働。朝いちばんの回を外干しに、午後は部屋干し用に切り替えれば、急な天候不順にも対応できます。乾燥機は、シーツや厚手のタオルなど乾きにくいものの仕上げに限定すると、電力の無駄が減り、仕上がりの清潔感も両立します[2,3].
小さな投資で“大きなラク”を買う
洗濯ネットや捕集バッグ、肩幅の合うハンガー、物干しのサーキュレーター、速乾のランドリーラックなど、数千円の投資で家事のストレスは確実に下がります。洗濯機の買い替え時には、節水・省エネ性能(フロントローダーは水使用量が抑えやすいとされます)や、糸くずフィルターの手入れのしやすさもチェックポイントに。毎日のメンテナンスが簡単であるほど、エコな習慣は続きます[2].
梅雨・花粉・猛暑…季節イベントの乗り切り方
梅雨は、除湿機やエアコンのドライと扇風機を併用して気流を作ると、部屋干し臭のリスクを抑えつつ乾燥時間を短縮できます。花粉の季節は室内干しを基本にし、外干しする日は取り込み前にはたく。猛暑日は外干しの乾燥が速い一方で紫外線ダメージが強く、色物は裏返しや日陰干しに切り替えると生地の劣化を避けられます。これらはどれも、余計な洗い直しや買い替えを防ぐ、実は環境フレンドリーな工夫です。
まとめ:できるところから“1手”動かす
完璧である必要はありません。週5を週4に、乾燥機毎回を隔回に、ネットなしをネットありに。そんな小さな1手を積み重ねるほど、数字は確かに動きます。水は年間数千リットル、電力は数十から百kWh単位で減らせるかもしれません。しかも衣類は長持ちし、家事の段取りは軽やかになるはずです。
今日の洗濯で、どの1手から始めますか。まとめ洗いの準備をする、捕集バッグを1つ導入する、干し場の風の通り道を作る。思いついたことをひとつだけ実行してみてください。生活の手触りを変えるのは、壮大な宣言ではなく、静かな実践です。
参考文献
- IUCN. Primary Microplastics in the Oceans: A Global Evaluation of Sources. 2017. https://portals.iucn.org/library/node/51536
- 資源エネルギー庁(経済産業省). 省エネ・節電のポイント「洗濯」. https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/general/howto/cleaning/index.html
- 東京電力エナジーパートナー くらしTEPCO「クラヒロ」. 洗濯・乾燥時の電力使用量の目安(機種・コースにより異なります). https://kurahiro.tepco.co.jp/media/living/29074/index.html
- 環境省 Plastic Smart. マイクロプラスチックとは? https://plastics-smart.env.go.jp/microplastics
- WRAP. Design for Extending Clothing Life. https://www.wrap.ngo/resources/report/design-extending-clothing-life
- McIlwraith HK, Lin J, Erdle LM, et al. Capturing microfibers – marketed technologies reduce microfiber emissions from washing machines. Marine Pollution Bulletin. 2019;139:12–19. https://doi.org/10.1016/j.marpolbul.2018.12.012
- Napper IE, Barrett AC, Thompson RC. The efficiency of devices intended to reduce microfibre release during clothes washing. Science of the Total Environment. 2020;738:140412. https://doi.org/10.1016/j.scitotenv.2020.140412