花粉症シーズン、肌に何が起きている?
日本人の約4割が花粉症と言われ、春先の皮膚科外来では「頬の赤み」「目まわりのかゆみ」「首の粉ふき」といった相談が増える時期です(公的な大規模調査では全国平均約15.6%という報告があり、別の成人集団では約39%という報告もあります[1])。研究データでは、花粉の飛散期に角層の水分保持能が低下し、経表皮水分喪失(TEWL)が上がりやすいことが示されています[4,5]。編集部が各種データを読み解くと、ダメージの主因はひとつではなく、乾燥・紫外線・摩擦・花粉の付着という**“複合刺激”の重なり**にあると見えてきます(バリア機能が低下した肌は弱い紫外線でも炎症が生じやすいという報告[3]、空気中微粒子の付着が肌トラブルを誘発しやすいという報告[4])。
つまり、肌を守るカギは「ひとつの必殺技」ではありません。小さな工夫を積み重ね、バリア機能を乱さないこと。専門用語で言うバリアとは、角層のうるおいと皮脂膜、そして角層細胞間脂質(セラミドなど)が作る防御網のことです[5]。ここがゆるむと、同じ外部刺激でもヒリつき・赤み・かゆみが起きやすくなります[3,5]。では、花粉症シーズンに肌に何が起き、どう守ればいいのか。日常語で、今日から実践できる形に落とし込んでいきます。
春の肌は気温上昇で皮脂は出やすくなる一方、空気はまだ乾燥気味。そこに強まるUVA、マスクや衣類との接触、そして空中を漂う花粉が重なります。研究では、飛散期の肌に花粉や大気中の微粒子が付着し、角層に微細なすき間を作りやすいことが報告されています[4]。さらに花粉自体が水に触れると成分(酵素・アレルゲンなど)を放出し、敏感な人では刺激として感じられることも示唆されています[6]。こうして**「乾く→こする→しみる」**のスパイラルに入りやすくなるのです[5]。
もうひとつ知っておきたいのが**「花粉皮膚炎」という概念です。目のまわり、頬骨ライン、首、あご下など露出部に赤みやかゆみ、細かな皮むけが出やすいのが特徴。鼻をかむ回数の増加や、花粉がついた手で無意識に触れることも悪化因子になります[2]。症状の強さは人それぞれですが、共通しているのはバリアを守るほど落ち着きやすい**という点[5]。だからこそ、日々のルーティンを「攻め」から「守り」に切り替えることが効いてきます。
今日からできる肌の守り方(朝・日中・夜)
朝の準備:洗うより「残す」を意識
朝は皮脂と汗のバランスを見ながら、肌が乾燥気味ならぬるま湯のみ、テカリが気になるなら低刺激の洗浄料を短時間で。洗った直後の角層は水分が逃げやすい状態なので[5]、タオルで軽く押さえる程度にし、30秒以内に保湿へ。化粧水はたっぷりよりもしみない量を重ねないことが肝心で、むしろセラミドやグリセリン、ヒアルロン酸などで角層に薄い“水分の膜”を作るイメージで乳液・クリームを少量ずつなじませます[5]。仕上げに日焼け止めをムラなく。紫外線吸収剤に刺激を感じやすい人は、紫外線散乱剤(ノンケミカル)中心のタイプを選ぶと穏やかに使いやすいはずです。メイクは粉体が花粉の付着ベースになることもあるため、ベースは薄く均一に。ツヤを残しつつ、最後に軽くミストで密着させると摩擦に強くなります(空気中微粒子の付着がトラブルを助長しうるという知見[4])。
日中のケア:付着させない・こすらない
外出時は肌に触れる回数を減らすのがコツです。かゆみやムズムズは、指でこするほど悪循環に。ティッシュや清潔なコットンでそっと押さえるクセを体に覚え込ませましょう。こまめな日焼け止めの塗り直しは、スティックまたはクッションタイプだとメイクを崩さずに更新できます。風の強い日は、メガネやつば広の帽子、顔に密着しすぎない不織布マスクで物理的に花粉を減らすことも現実的な対策です[2]。オフィスに戻ったら、ミニサイズのミスト化粧水で軽く湿らせてから、乳液を米粒ほど重ねるとバリアが復活[5]。ここでもこすらず押さえるを徹底します。
夜のリセット:付着物を残さない
帰宅後はまず手を洗い、顔に触る前に清潔を確保。メイクオフはマイルドなクレンジングを短時間で。落ちにくいポイントメイクは先に専用リムーバーを使い、肌全体の**“こすり時間”を減らすのがコツです。洗顔後は朝と同じく、しみない量でシンプルに保湿。ここで美容液の“攻め”を一時休止するのも手です。レチノールや強いピーリングはシーズンオフに回し、今はセラミド、スクワラン、ワセリンなど守りの保湿**で落ち着かせることを優先します[5]。髪に付着した花粉が枕に移ると顔に再付着するため、可能なら就寝前に髪も洗って乾かし、寝具はできるだけ清潔に保ちましょう(衣類素材で付着量が変わるという報告[7])。
素材と成分の賢い選び方
スキンケア成分は“低刺激×密着”で選ぶ
花粉症シーズンに頼りになるのは、角層のすき間を埋めるように働くセラミド類、水分を抱え込むグリセリン・ヒアルロン酸、うるおいのフタに向くスクワラン・ワセリン[5]。肌が不安定な間は、香料やアルコールの配合が高いもの、強いピーリング酸や高濃度レチノール、粒子の粗いスクラブは様子見を。ビタミンCやナイアシンアミドも便利な成分ですが、低濃度から・少量で・頻度を控えめにが鉄則です。しみたり、赤みが続くときは一旦中止し、まず保湿の土台を整えましょう[5]。
衣類・マスク・生活環境も“肌守”の一部
衣類は表面がつるりとした化繊素材だと花粉が落ちやすく、ニットや起毛は絡みやすい傾向があります[7]。帰宅時に玄関で軽く払う、部屋着に着替えるだけでも肌に触れる花粉量は減らせます。マスクは肌当たりがやわらかいものを選び、頬骨ラインに当たる部分は薄く保護バームを仕込むと摩擦が和らぎます。洗濯は外干しより部屋干し、寝具やカーテン、ラグの手入れは週末のルーティンに。加湿器で40〜60%の湿度をめざすと、乾燥刺激が抑えられ、肌の違和感が落ち着きやすくなります。
うまくいかない時の見直しポイント
まず、洗いすぎていないかを振り返ります。スッキリ感は一瞬の快感ですが、必要な皮脂まで取りすぎると、その後のスキンケアがしみやすくなります[5]。次に、重ねすぎていないか。アイテムを増やすほど摩擦が増え、付着物も増えがち。シンプルな二〜三品の組み合わせに戻し、肌が落ち着いたら少しずつ戻すのが得策です。
それでも赤みやヒリヒリが数日続く、目元や口まわりが腫れる、滲出液が出るなど炎症のサインがあるときは、自己判断をやめて医療機関に相談を。花粉症の内服など体のコントロールが整うだけで、肌の違和感が軽くなることも多いからです。逆に、軽い違和感レベルなら、触らない・こすらない・保湿して寝るという原点回帰が効きます。編集部でも、朝の洗顔を見直すだけで頬の赤みが引いたケース、帰宅後すぐのクレンジングに変えてかゆみが軽くなったケースなど、小さな一歩の積み上げで変化を感じた声が集まっています。
まとめ:小さな“守り”の積み重ねが、いちばん効く
花粉症シーズンは、外的刺激の足し算で肌が揺らぐ時期です。派手な新技より、毎日の選択を**「こすらない・残しすぎない・付着させない」**へ。朝は短時間で整えてUVまで、日中は触らず更新、夜は速やかにリセットする。この地味な三拍子が、いちばんの近道です。
明日の自分に渡せる小さなバトンを、今夜ひとつだけ増やしてみませんか。洗顔の温度を見直す、帰宅後すぐにオフする、枕カバーを替える。どれも数分でできて、でも確かな違いになって返ってきます。シーズンの終わりに「今年は荒れなかった」と言えるように、今日からあなたの肌守り方を始めましょう。
参考文献
[1] 厚生労働省. 「はじめに~花粉症の疫学と治療そしてセルフケア~」(大久保公裕, 2016). https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/kenkou/ryumachi/ookubo.html [2] J-STAGE. 「花粉皮膚炎(airborne contact dermatitis)に関するレビュー」Skin Research, 14(Suppl.23). doi:10.11340/skinresearch.14.Suppl.23_S25 [3] 花王ニュースリリース. 「角層バリア機能が低下した肌では、比較的弱い紫外線でも炎症が起こりやすいことを確認」(2019年7月26日). https://www.kao.com/jp/newsroom/news/release/2019/20190726-001/ [4] 花王ニュースリリース. 「空気中の微粒子の肌への影響を検証」(2023年3月17日). https://www.kao.com/jp/newsroom/news/release/2023/20230317-001/ [5] マルホ 医療関係者向け情報. 「皮膚の潤いとバリア機能(ヒルドイド スキンケア情報)」。https://www.maruho.co.jp/medical/hirudoid/skin/index.html [6] 順天堂大学 アトピー疾患研究センター. 「花粉・黄色ブドウ球菌・ダニ由来物質と皮膚バリアを介した炎症の機序に関する研究紹介」。https://research-center.juntendo.ac.jp/atopy_center/research/g2/ [7] Lidea. 「素材によって付着量が変わる(花粉対策と衣類の選び方)」。https://lidea.today/articles/173