“無難”でも“若作り”でもない。60代エレガントスタイルの定義
女性の平均寿命は87.1歳(厚生労働省・2022年の生命表)[1]。しかも総務省「労働力調査」では、60〜64歳女性の就業率は約5割[2]に達しています。 学び直しや地域活動、旅や趣味を楽しむ機会も増え、60代は“人に会う日”が続く世代になりました。場面が増えるほど、装いは名刺以上に雄弁になります。だからこそ、60代のエレガントスタイルは、若い頃の「綺麗に見える服」から、「いまの自分が心地よく信頼される服」へと更新が必要です。編集部では街のスナップと読者アンケートを重ねてきました。行きついた結論はシンプルです。エレガントは、派手ではなく、丁寧さと品の良さが積み重なった結果としてにじむ、ということでした。
シルエット:直線×曲線で「姿勢がよく見える」設計
エレガントスタイルの第一条件は、佇まいの美しさです。肩線がきちんと合うジャケットや、腰骨の上で止まるハイウエストのテーパード、ひざ下がすっきり見えるミディ丈スカートなど、体の縦ラインを拾う直線を芯に置きます。そのうえで衿もとや袖口、裾の揺れにわずかな曲線を足すと、固さが抜けて柔らかさが増します。たとえばノーカラージャケットとボウタイブラウス、あるいは細身の黒パンツに裾が緩やかに広がるニットを合わせるだけでも、凛とした中に余裕が生まれます。
素材と仕立て:微光沢と落ち感が“艶”をつくる
次に効くのが質感です。シルク混やテンセル混のニット、艶が控えめなサテン、ふくらみのあるウールツイル、さらりとした高密度コットン。こうした微光沢や落ち感のある素材は、肌の質感変化をふわりと受け止めてくれます。縫製は肩・脇・裾がきれいに落ちることが最重要。値札よりも試着室の鏡で後ろ姿を確認し、背中に横ジワが寄らないサイズを選ぶと、それだけで“良いものを着ている人”に見えます。
色:ニュートラルを主役に、澄んだ差し色を一滴
色は顔映りに直結します。グレー、ネイビー、エクリュのニュートラルを軸に、ラベンダー、セージ、ボルドーなど澄んだ色を小面積で重ねると、穏やかさのなかに華が生まれます。ワントーンの日も、靴やバッグの素材で温度差をつければのっぺりしません。黒は密度の高い素材で光をコントロールし、白は黄みが強すぎない“ミルキーな白”を。わずかな調整が、肌なじみの差となって効いてきます。
からだの変化に寄り添う、エレガントの実用戦略
研究データでは、加齢に伴って筋量や皮膚の弾力がゆるやかに変化することが示されています[3,4]。これはネガティブな話ではありません。服の設計を少し変えるだけで、驚くほど軽やかに見え方が整うからです。編集部がスナップで“素敵”と声をかけた60代の多くは、細部に小さなコツを積み重ねていました。
「三首」を味方にして軽さを出す
首・手首・足首を少しだけ見せると、全身に抜けが生まれます。クルーネックより5mm深いボートネック、リブ袖を一折りして肌を1〜2cmのぞかせる、アンクルが隠れるか隠れないかの丈に合わせる。どれも露出ではなく、光が当たる面をつくるための設計です。アクセサリーは肌と服の間を“つなぐ”存在として、小粒の淡水パールや艶消しメタルを一点。光の量が整うと、顔の立体感まできれいに見えます。
重心を一つにまとめて、視線を操る
トップスの裾を前だけ軽くタックインして腰位置を明確にしたり、V字の開きやロングネックレスで縦ラインをつくったり、あるいはショートブーツで足首をキュッと締める。重心が分散しないよう“ポイントは一つだけ”に絞ると、全身の情報量が整理されて落ち着きが出ます。ベルトやバッグの質感を靴とリンクさせるのも有効です。離れて見たときに、点と点が線になって見えるかを意識してみてください。
今日から実践。60代エレガントスタイルのコーデと買い方
ワードローブを一気に変える必要はありません。まずは一日のどこかで“品よく整う瞬間”をつくることから始めてみましょう。たとえばネイビーのニットに同色のテーパードを合わせ、足元だけをキャメルのローファーにする。そこにグレージュのトレンチを肩掛けすれば、通勤にも買い物にも馴染むエレガントスタイルが完成します。週末なら、エクリュのワイドパンツにミルキーな白シャツ、くすみピンクのカーディガンを薄く重ねて、レザースニーカーで抜けをつくる。色のコントラストを強くしすぎないのがコツです。
ワントーン×異素材で“奥行きのある無地”にする
年齢を重ねるほど、柄よりも質感がものを言います。同系色のトップスとボトムを選んだら、バッグや靴でレザーのマットとスムース、スエードの起毛、艶のあるパテントなど、表情の違いを少しだけ重ねる。視線は自然と素材のレイヤーに吸い寄せられ、無地でも退屈しません。さらに、ブローチやスカーフを一点だけ添えると、“話したくなる”余白が生まれます。
買い方の基準は「後ろ姿」と「声のトーン」
試着のときは、必ず後ろを振り返ってください。エレガントスタイルは背中で語ります。背中やヒップに横ジワが出るならサイズを上げる、裾が跳ねるなら丈を1cmだけ伸ばす。小さな調整で印象が変わります。もう一つの基準は、鏡の前の自分に出る声です。思わず深呼吸して姿勢が伸びる服、静かな気持ちで「いいかも」と言える服は、たいてい日常で働いてくれます。値段やブランド名ではなく、身体と気持ちの反応を指針にすることが、長く着られるワードローブへの近道です。
シーン別に考える、60代のエレガントスタイル
平日の朝、打ち合わせや地域活動に向かう日には、ネイビー×グレーの信頼配色が力を発揮します。ノーカラージャケットに細めのテーパード、足元は低めのブロックヒール。バッグはA4が入る端正な形にして、スカーフで色を一滴。会食や観劇の日なら、黒のワンピースにカーディガンを肩にかけ、艶を抑えたパールを添える。旅の日は動けることが最優先ですが、シワになりにくいツイルのセットアップや楽なワイドパンツに、軽いダウンや上質なカーディガンを重ねれば、写真にも残る“きちんと感”が手に入ります。どの場面でも、香りやメイクは控えめに、靴とバッグの清潔感は最大限に。最小の演出で最大の好感度を取りにいくのが、60代のエレガントスタイルです。
編集部が見た「素敵な60代」に共通すること
街角スナップやイベント会場で印象的だったのは、微笑みと歩幅です。自分のペースで歩ける靴を選び、背筋が自然に伸びる服を着ている人は、出会って数秒で信頼を集めます。服そのものよりも、選ぶ基準と所作がエレガントを完成させているのです。たとえば、混み合うエスカレーターでバッグを前に回す、室内でコートを脱ぐタイミングがさりげない、椅子に腰掛けたとき膝頭を揃える。こうした所作が、上質な素材や整ったシルエットと共鳴して、静かな存在感をつくっていました。エレガントスタイルは服だけでは完結しません。暮らしと態度が、最後の仕上げをしてくれるのです。
まとめ:10年先にも通用する“丁寧さ”を、今日の一着から
平均寿命が延び[1]、働くことや学ぶことを続ける60代にとって、エレガントスタイルは特別な日の衣装ではなく、毎日の信頼資本です。シルエットで姿勢を整え、素材で艶を与え、色で印象を仕上げる。どれも難解なテクニックではなく、小さな選択の積み重ねです。クローゼットの中から、一つだけ“背筋が伸びる服”を明日のためにハンガーにかけてみませんか。あなたの次の一歩を、装いがそっと後押ししてくれるはずです。そこで感じた心地よさを基準に、もう一着、もう一歩。今日の小さな更新が、10年先のあなたのエレガントを作っていきます。
参考文献
- 厚生労働省 我が国の平均寿命(2022年). https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/hale/h-01-002.html (参照 2025-08-28)
- 内閣府 令和4年版 高齢社会白書 第1章 第2節 高齢者の就業. https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2022/html/zenbun/s1_2_1.html (参照 2025-08-28)
- 公益財団法人 長寿科学振興財団 高齢期のフレイル予防・対策:筋量の加齢変化に関する知見. https://www.tyojyu.or.jp/kankoubutsu/gyoseki/frailty-yobo-taisaku/R2-4-1.html (参照 2025-08-28)
- J-STAGE 加齢に伴う皮膚粘弾性と各検査項目の関連(人間ドック, 20巻3号, 2005). https://www.jstage.jst.go.jp/article/ningendock2005/20/3/20_483/_article/-char/ja/ (参照 2025-08-28)