天然と合成、その言葉が指す本当の意味
米国の国民健康・栄養調査では、成人のサプリメント利用率が57.6%に達したと報告されています(NHANES 2017–2018)[1]。一方で、日常の会話では「やっぱり天然が安心?」といった素朴な疑問が繰り返されます。医学文献によると、成分によっては天然と合成で化学構造が同一のものもあれば、生体内での働きや活性が異なるものもあります。たとえばビタミンCは天然・合成で同一分子であり利用能に大差はない一方[2]、ビタミンEでは天然型と合成型で体内での扱われ方が異なります[3]。編集部が各種資料を読み解いた結論は、単純な優劣ではなく、成分特性・用量・品質管理・目的で選び分けるのが現実的だということ。きれいごと抜きで、その違いを整理します。
成分で変わる「違い」のポイント:C、E、葉酸、オメガ3、ミネラル
「天然が良い」「合成はダメ」といった単純化は、成分特性を見落とします。ここでは違いが出やすい代表例と、差が出にくい代表例を、研究で語られている範囲で丁寧に見ていきます。
ビタミンC:化学的には同一、吸収差は限定的
医学文献によると、アスコルビン酸は天然・合成で化学構造が同じで、血中濃度の上昇や尿中排泄といった指標で有意差はほぼ示されていません[2]。一部の製品はローズヒップやシトラス由来のフラボノイドを加え「天然複合体」をうたいますが、サプリメントの用量域ではフラボノイドの追加がCそのものの吸収を大きく変える決定的エビデンスは限られます[2]。選ぶ基準は、由来よりも用量、胃腸への刺激の少なさ、添加物設計(酸味料や甘味)の方が実用的です。
ビタミンE:天然と合成で活性が異なる代表例
ビタミンEは例外的に、天然と合成で体内での活性が異なります。天然型はRRR-α-トコフェロール(旧表記d-α)、合成型はall-rac-α-トコフェロール(旧表記dl-α)の混合体です。研究データでは、同じIU表示でも天然型の方が生体内活性が高いとされ、NIHの資料では1 IUの天然型が約0.67 mgのα-トコフェロール、1 IUの合成型は約0.45 mgに相当します[3]。つまり、同じIUなら天然型の方が実際のα-トコフェロール量が多く、体内で優先的に保持されやすいのが特徴です。ラベルで「d-α」か「dl-α」か、「RRR」か「all-rac」かを確認するのが実践的な見分け方になります。
葉酸:合成型の方が吸収されやすいという逆転現象
「天然=優れている」とは限らない好例が葉酸です。食品中の葉酸は多様な形で存在し消化・吸収に酵素の助けを要しますが、合成の葉酸(フォリックアシッド)は安定で吸収効率が高いことが知られています。栄養学では食事性葉酸当量(DFE)の考え方が用いられ、サプリや強化食品の葉酸1 µgは、食品中の葉酸約1.7 µgに相当すると換算されます(食事と一緒に摂取した場合)[5]。これは特定のライフステージ(妊娠を計画・可能性のある年齢など)で推奨量を満たす際に実用的な情報です。近年は活性型の5-MTHF(メチル葉酸)を使った製品もありますが、一般集団における優位性は状況依存で、価格や安定性、既往歴を含む個別事情で検討するのが現実的です[5]。
オメガ3脂肪酸:トリグリセリド型とエチルエステル型
フィッシュオイルは、魚由来のトリグリセリド(TG)型、濃縮時に用いられるエチルエステル(EE)型、そして再エステル化したrTG型などの形で提供されます。研究では、空腹時ではTG/rTGがEEより吸収が良好、脂質を含む食事と一緒では差が縮小するという報告が見られます[6]。つまり、品質の良いオメガ3を選び、脂質を含む食事と一緒に摂るという基本を守れば、実用上の差は小さくできるという読み解きが現実的です[6]。酸化や不純物の管理、例えばロットごとの試験成績や第三者認証の有無を確認することも、実用面・安全面で重要です。
ミネラル:由来よりも化学形と不純物管理
カルシウムの例では、貝由来と記された炭酸カルシウムも、鉱物由来の炭酸カルシウムも、体内では同じCa2+として扱われます。吸収率に影響するのは「炭酸」「クエン酸」「ビスグリシネート」などの化学形や、胃酸の状態、摂取量です[7]。鉄でも、硫酸鉄やフマル酸鉄、ビスグリネートで胃腸への刺激が変わる報告があり、由来表示よりも形態と用量設計が重要です[8]。天然由来の原材料にはメリットもありますが、同時に重金属などの不純物リスク管理が不可欠です。第三者機関による試験成績を公開しているかは、見逃したくないポイントになります。
品質表示の読み解き方:ラベルと裏面にヒントがある
日々の忙しさの中で、パッケージの表面だけで判断しがちですが、判断材料の多くは裏面にあります。まず、原材料の欄で「原料の形」と「由来」が併記されているかを見ます。ビタミンEであれば「d-α-トコフェロール」「dl-α-トコフェロール」の違い、葉酸であれば「葉酸」「5-メチルテトラヒドロ葉酸」の別、オメガ3であれば「濃縮魚油(エチルエステル)」や「トリグリセリド型」といった記載の有無が手がかりになります。次に、製造所固有記号に加え、GMP準拠や第三者認証のロゴがあるかを確認します。これは由来表示よりも一貫した品質を担保しやすい情報です[4].
用量表示にも注目します。ビタミンEではIUとmgの両方が使われるため、換算の違いが誤解のもとになります。先述のように、天然型の1 IUは0.67 mg、合成型の1 IUは0.45 mgに相当します[3]。葉酸ではDFEの概念が採用されることがあるため、推奨量の読み替えが必要です[5]。さらに、添加物の設計も現実的な使い勝手に影響します。胃に負担がかかりやすい人は、クエン酸などの緩衝剤や腸溶性コーティングの有無で差を感じることもあります。
最後に、安全性の視点です。ハーブや天然濃縮物を含むブレンドは魅力的ですが、医薬品との相互作用の可能性があります。健康診断の数値や服用中の薬がある人は、自己判断での高用量摂取を避け、医療者に相談するのが賢明です[9]。
「私に合う」を見つける実践:目的別の考え方
同じ年代でも、生活やからだの声は違います。天然か合成かのラベルに引っ張られすぎず、目的と状況から逆算してみましょう。たとえば、季節の変わり目に疲労感が強く、鉄不足が気になる場合、まず食事を見直し、必要なら医療機関でフェリチンを含む血液検査を受けるのが近道です。サプリメントで補うなら、由来よりも形態(ヘムではない鉄の種類やビスグリシネートなど)と用量、胃腸へのやさしさを基準に選ぶのが理にかなっています。
肌の乾燥やくすみが気になるときにビタミンCを検討するなら、天然か合成かよりも、1日あたりの摂取量、分割摂取のしやすさ、胃の負担の少なさで選ぶ方が現実的です。食品からの摂取を土台に、サプリは不足分を補うという視点がぶれないと、迷いが減ります。マルチを選ぶなら、脂溶性ビタミンの過剰に注意しつつ、ビタミンEの型や葉酸の表記を含め、全体設計を見直しましょう。
リモートワークが増えて活動量が落ち、体重や体組成が気になるなら、まずたんぱく質と食物繊維、n-3脂肪酸のバランスを食事で調整し、オメガ3は酸化管理と用量を重視して選びます。TG型・EE型の違いは、必ずしも体感に直結しません。脂質のある食事と一緒に摂るという使い方を守れば、差は小さくできます[6].
編集部内の小さな実例を挙げると、40代前半のスタッフBは、冬季の乾燥と倦怠感に合わせてビタミンDとCを食事+サプリで補いました。Cは合成のアスコルビン酸を少量ずつ分割、Dは第三者試験公表のブランドを選択。由来にこだわるより、必要量と品質、続けやすさに軸足を置いたことで、迷いが減り、生活の微調整が効くようになったと言います。これは一例に過ぎませんが、「自分の目的に合う基準を持つ」ことが、天然か合成かというラベル論争を超える近道だと感じています。
まとめ:天然か合成かより、賢い基準を手に入れる
天然と合成の違いは、思っている以上に「成分ごと」に揺れます。ビタミンCのように化学的に同一で差が出にくいものもあれば、ビタミンEのように活性が変わるもの、葉酸のように合成型が実用的な優位を持つものもあります。大切なのは、由来よりも、成分特性・用量・品質管理・目的との適合で選ぶという軸を持つこと。まず食事を整え、必要なら少量から試し、体調の変化を観察する。そのうえでラベルの詳細と第三者試験の有無をチェックすれば、選択はぐっと実用的になります。
参考文献
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Gahche JJ, Potischman N, Juan W, et al. Dietary Supplement Use Among U.S. Adults, 2017–2018. NCHS Data Brief No. 399. Hyattsville, MD: National Center for Health Statistics; 2021. https://www.cdc.gov/nchs/products/databriefs/db399.htm
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NIH Office of Dietary Supplements. Vitamin C — Fact Sheet for Health Professionals. https://ods.od.nih.gov/factsheets/VitaminC-HealthProfessional/
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NIH Office of Dietary Supplements. Vitamin E — Fact Sheet for Health Professionals. https://ods.od.nih.gov/factsheets/VitaminE-HealthProfessional/
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消費者庁. 「健康食品」の表示に関するQ&A. https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/information/health_food/qa/
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NIH Office of Dietary Supplements. Folate — Fact Sheet for Health Professionals. https://ods.od.nih.gov/factsheets/Folate-HealthProfessional/
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Dyerberg J, Madsen P, Møller JM, Aardestrup I, Schmidt EB. Bioavailability of marine n-3 fatty acid formulations. Prostaglandins, Leukotrienes and Essential Fatty Acids. 2010;83(3):137–141. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20638827/
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NIH Office of Dietary Supplements. Calcium — Fact Sheet for Health Professionals. https://ods.od.nih.gov/factsheets/Calcium-HealthProfessional/
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NIH Office of Dietary Supplements. Iron — Fact Sheet for Health Professionals. https://ods.od.nih.gov/factsheets/Iron-HealthProfessional/
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eJIM(国立長寿医療研究センター). サプリメント・ビタミン・ミネラル(医療者向け)総合ページ. https://www.ejim.ncgg.go.jp/pro/overseas/c03/