血液検査で「更年期度」はどこまで分かる?
日本人女性の平均閉経年齢は約50歳[1]。統計では、45〜55歳を中心にホルモンの揺らぎが大きくなり、のぼせや発汗、気分の波、睡眠の質低下などの症状を感じる人が増えることが報告されています[2,5]。また、更年期移行に伴う不調は多くの女性が経験することが示されています[5]。一方で、仕事や家庭を回しながら受診のタイミングを逃しがち、という現実も見えてきました。では、血液検査を受ければ「今の更年期度」が一目で分かるのでしょうか。
結論から言えば、血液検査は強力なヒントになるが、単独で判定は完結しないというのが医学文献や研究データの共通した見立てです[3]。卵巣機能の低下に伴い、脳から分泌されるFSH(卵胞刺激ホルモン)やLHは上がり、エストラジオール(E2)は下がる傾向があります[2,3]。ただし数値は一日の中でも、月の中でも揺れ、「1回の数値で決めつけない」ことが要[2,3]。編集部が各種データを読み解くと、症状の自己評価と組み合わせ、時間軸で追うことで、はじめて自分の現在地が見えてきます。
ここでは、専門用語を日常語に置き換えつつ、FSH・E2・AMHの意味、受け方と費用のリアル、結果の生かし方、家庭用キットやウェアラブルの限界までを、35〜45歳の「ゆらぎ世代」に寄り添う視点で整理します。
研究データでは、卵巣の働きが落ち始めると、脳は卵巣を「もっと働かせよう」とFSHを増やし、反対に女性ホルモンであるエストラジオール(E2)は下がる傾向が示されています[2,3]。このため、FSH高値とE2低値の組み合わせは、閉経移行期を示す有力な手がかりです。目安として、FSHがおおむね25〜30 mIU/mL以上で推移し、E2が低めに出る状態が続くと、閉経が視野に入る段階である可能性が高まります[6]。ただし、ここで重要なのは「続く」という時間軸で、単発の採血では結論を急がないことです[2,3]。
FSH・E2・LHの読み方は「組み合わせ」と「経時性」
FSHは上がりやすく、E2は下がりやすい。これが大枠の変化です[2,3]。LHもFSHと似て上がる方向に動きますが、診断上はFSHとE2の組み合わせがより実用的とされます[3]。加えて、月経周期による揺れが大きい年代では、同じ人でも別日には違う数値が出ることが珍しくありません[2]。ピルやHRT(ホルモン補充療法)を使っていると数値が抑えられるため、服用中はホルモン値での判定が難しくなります[3]。したがって、内服の有無、採血のタイミング、直近の月経状況をセットで見直すことが、誤解を減らす近道です。
AMHは「卵巣の残り時間」の目安。更年期度の体感とは別物
不妊領域で知られるAMH(抗ミュラー管ホルモン)は、卵巣に残る卵胞の「数の目安」です。加齢とともにゆるやかに下がり、閉経が近づくと低値になります[4]。ただ、AMHは症状の強さ(のぼせや睡眠不調)を直接は示しません。いわば「卵巣の残り時間の時計」は教えてくれるが、今日の体調までは言わない。FSH・E2とAMHを混同しないことが、焦りを減らします。
「更年期っぽいけど実は別の病気」をふるい分ける
ほてりやだるさ、気分の落ち込みは、甲状腺機能の異常や貧血でも起こります。だからこそ、TSHや遊離T4、血算(ヘモグロビン)などの基本的な鑑別検査を同時に行うと安心感が違います[4,3]。血液検査の価値は、「更年期度」を探ることと同時に、見逃したくない他の原因を除外できる点にもあります。
受け方・タイミング・費用のリアル
受診先は婦人科が第一候補ですが、不調の中心が動悸やだるさの場合は内科からスタートしても構いません。診察では、月経周期や症状の経過、服薬歴を確認し、必要に応じてFSH・E2・LH、場合によってはAMH、甲状腺、貧血などを採血します[3]。月経が規則的なら周期初期(生理開始から数日)に測ると基準と比較しやすい一方、周期が乱れている場合は、可能な時点で採血し、数週間〜数か月の間隔で繰り返し確認していく方法が現実的です[2,3]。
タイミングのコツは「完璧を狙わない」
閉経移行期のホルモンは波打つため、理想的な日を待ち続けるほど受診が遠のきます。まず1回測って現状を知り、必要なら2〜3か月後にもう一度。時間で点を線にする発想が、迷いを減らします[2,3]。なお、ピルやHRTを中断して測るべきかは、自己判断ではなく医療者に相談を。安全や避妊の観点が絡むため、個別の判断が必要です[3]。
費用は施設や項目数で幅がありますが、症状があり医師が必要と判断した検査は保険適用されることがあります。その場合、自己負担は診察料を含めておおむね数千円台に収まることが多い印象です。自費でFSH・E2・AMHなどをまとめて測ると、1〜2万円前後になるケースもあります。結果は院内測定で当日〜数日、外部検査委託でおおむね1週間前後が目安です。詳細は受診先で確認してください。
数値と症状を結ぶ「読み解き力」
ホルモン値は地図、あなたの体感は現在の天気。両方を見ることで、進む方向が見えてきます。国内でも広く用いられる**簡略更年期指数(SMI)**は、のぼせ、肩こり、動悸、不眠、イライラなどを点数化するチェック方法で、自己評価のブレを減らすのに役立ちます。検査当日の体調だけでなく、1〜2週間の平均的な体感をSMIで記録し、検査結果と並べて振り返る。これだけで診察の密度がぐっと上がります。
編集部のケーススタディ:数字が背中を押した日
編集部で印象的だったのは、40代前半、月経の間隔が時々伸びるようになったメンバーの話です。仕事の締め切りが重なると眠りが浅く、夕方にのぼせが増える。受診を後回しにしていたところ、ある日思い立って採血。FSHはやや高め、E2は低め。SMIは合計で中等度。医師と相談し、睡眠のテコ入れと運動リズムの再設計から始めたところ、2か月後のSMIは改善。同時に再検したFSHは依然波打っていたものの、本人の「把握できている」という安心が、行動の継続につながっていきました。数値は行動のきっかけをくれる——それを実感したエピソードです。
ライフスタイルと一緒に読むと、「できること」が見える
ホットフラッシュはアルコールで悪化しやすいことが報告されており、運動介入は睡眠や更年期症状の改善に有望というエビデンスがあります[8,7]。検査結果を受け取ったら、睡眠時間、飲酒量、運動頻度、ストレスのトリガーを書き出し、1つずつ微調整してみましょう。例えば、就寝前90分の入浴や、夕食後の短い散歩、平日の飲酒日を減らす工夫は、翌日の体感を変えます。医療的な介入が必要なレベルかどうかの判断に迷うときも、PMSと更年期の違いや、睡眠の整え方ガイドを併読すると、自分の傾向が見えやすくなります。
キットやデバイスの活用と限界
近年は自宅で指先採血を行い、FSHやE2、AMHを測定するサービスも登場しています。通院の手間を減らし、忙しい人でも現状を把握しやすいのが利点です。一方で、採血条件の違い(時間帯、直前の食事や運動、体調)が結果に影響すること、検査できる項目や精度が医療機関と異なること、異常が出た時に診断や治療へ直結するわけではないことは理解しておきましょう。自宅キットで傾向を把握し、気になる数値や症状があれば医療機関で確認・相談する、という使い分けが現実的です。
ウェアラブルのデータは「背景」を教えてくれる
皮膚温や心拍、睡眠のステージを記録するスマートウォッチは、ホットフラッシュの波や睡眠の断片化を「見える化」してくれます。皮膚温の上昇と自覚症状のタイミングが重なるケースは少なくなく、日中の会議前に冷却タオルを用意する、寝室の温湿度を調整する、といった具体策につなげやすくなります。ただし、数値はあくまで兆候。最終的な診断や治療の判断は医療機関で行われます。デバイスのデータは、診察で症状を説明する「共通言語」として活かしましょう。関連して、HRT(ホルモン補充療法)の基礎や、働く更年期のセルフケアも参考になります。
まとめ:血液検査は道標。歩みを進めるのはあなた
血液検査は、更年期の現在地をつかむための客観的な光です。FSHやE2、AMHといった数値は、単独では白黒をつけませんが、症状の自己評価や生活の記録と重ねるほど意味が濃くなります。完璧なタイミングを待つより、まず1回測り、必要なら季節が変わる頃にもう一度。数値の揺れに右往左往しそうになったら、「線で見る」ことを思い出してください。
いま不調があるなら、今日できる小さな一歩は何でしょう。睡眠時間を15分延ばすことか、夕食後に10分歩くことか、それとも受診の予約を入れることか。あなたの体は、あなたの味方です。血液検査という道標を手に、明日の自分に合図を送りましょう。さらに学びたい人は、PMSとの見極め方、睡眠の整え方、HRTの基礎記事もぜひチェックして、あなたの「今」に合う選択肢を増やしていってください。
参考文献
- 厚生労働省 母性健康管理サイト「更年期について」https://www.bosei-navi.mhlw.go.jp/health/menopause.html
- Medscape: Menopause (Table: Menstrual and hormonal changes across the transition) https://emedicine.medscape.com/article/276107-table
- 日本産科婦人科学会「(1)更年期障害の検査・診断」https://www.jaog.or.jp/note/%EF%BC%881%EF%BC%89%E6%9B%B4%E5%B9%B4%E6%9C%9F%E9%9A%9C%E5%AE%B3%E3%81%AE%E6%A4%9C%E6%9F%BB%E3%83%BB%E8%A8%BA%E6%96%AD/
- 鶴川台ウィメンズクリニック コラム「女性ホルモン検査でわかること④・更年期と閉経」https://tsurukawadai.jp/column/%E5%A5%B3%E6%80%A7%E3%83%9B%E3%83%AB%E3%83%A2%E3%83%B3%E6%A4%9C%E6%9F%BB%E3%81%A7%E3%82%8F%E3%81%8B%E3%82%8B%E3%81%93%E3%81%A84%E3%83%BB%E6%9B%B4%E5%B9%B4%E6%9C%9F%E3%81%A8%E9%96%89%E7%B5%8C/
- Review: Vasomotor symptoms across the menopausal transition(PMCID: PMC5918428)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5918428/
- 神楽坂レディースクリニック「更年期障害」https://www.kagurazaka-lady-clinic.com/gynecological/menopause.html
- Review: Exercise interventions and menopausal symptoms/sleep(PMCID: PMC10167708)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10167708/
- Systematic review/meta-analysis: Alcohol consumption and vasomotor symptoms(PMCID: PMC11144084)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11144084/