なぜ起きる?仕組みと「ゆらぎ世代」の背景
研究データでは、ドライアイの有病率は地域や診断基準により 5〜50%、日本のVDT(PC・スマホ)作業者では3割前後が目の乾きを自覚し、ドライマウスの自覚は一般成人で**10〜30%**とされています。[1,2,3] 医学文献によると、空調や長時間の画面作業、マスクの着用、服薬、そして加齢やホルモン変化が重なると乾きの訴えが増えやすくなります。[4,7,5,6] 編集部が各種資料を読み解くと、35〜45歳の「ゆらぎ世代」では、仕事と家庭の負荷、睡眠の質の乱れ、ストレス反応の高まりが重層的に関与し、単なる“水分不足”では説明できない複合的な乾きが起きていました。日常語に置き換えれば、目や口のうるおいは体温・環境・自律神経・ホルモン・生活習慣という歯車がかみ合って保たれている、ということ。ひとつの正解より、生活全体を微調整する発想が鍵です。
医学文献では、涙は油層・水層・ムチン層の三層からなり、まばたきで均一に広がることで角膜を守ると説明されます。[5] まばたきが浅く回数が減ると涙が蒸発しやすくなり、加えてまぶたの縁にあるマイボーム腺の詰まりで油層が薄くなると、涙が安定しにくくなります。[8,9] 口腔では、唾液腺で作られる唾液が粘膜を守り、咀嚼や会話、就寝中にも少量分泌されます。交感神経が高い状態が続くと分泌は低下し、薬剤や脱水、口呼吸の癖があると乾きやすくなります。[6]
研究データでは、女性にドライアイの訴えが多い傾向が報告されています。35〜45歳ではエストロゲンやアンドロゲンの変動が生じ、涙腺・マイボーム腺・粘膜の働きに揺らぎが生まれることが示唆されています。[4,5] さらに、PC・スマホの長時間使用で瞬目回数が落ち、空調の風や低湿度、マスクの上方漏れによる眼表面への気流(いわゆる“マスク関連ドライアイ”)も蒸発を助長します。[8,4,7] 口の乾きに関しては、抗ヒスタミン薬、抗うつ薬、降圧薬などの副作用、自律神経の緊張、カフェインやアルコールの取り方、口呼吸やいびき、鼻炎・副鼻腔炎などの背景が重なることが多いとされています。[6]
「乾き」は不調のサインでもある
乾きは体のバランスが崩れたサインでもあります。短期的な仕事の山場や季節の変わり目、睡眠不足の翌朝などに悪化し、体調が整うと緩むといった波を描きます。編集部が集めたデータでは、睡眠時間の不足とストレスの自己評価が高い人ほど乾きスコアが上がる傾向が示されました。逆に、休息と環境調整、こまめなケアの積み重ねで自覚症状が軽くなる人も一定数います。
目のケア:ドライアイを和らげる実践
まず、環境の微調整が効きます。湿度は一般に40〜60%が目や粘膜に優しい範囲とされ、送風は顔に直接当てないよう角度を変えます。[4] 画面は目線より少し低く、反射やまぶしさを抑える設定にすると、まばたきが自然に深くなります。20分に一度、20秒ほど遠くを見て、二回ゆっくりと“完全に”まばたきをする休憩は、蒸発を抑える行動療法として広く推奨されています。[8] テレワーク中は、会議の切れ目に温かい飲み物を持って席を立つだけでも、瞬目のリズムと自律神経の切り替えに役立ちます。
マスクは鼻のフィットを高めると上方への気流が減ります。ノーズワイヤーを鼻梁に沿わせ、上端を軽く押さえるだけの小さな工夫で、目に抜ける乾いた風が弱まります。[7] 外出時は乾燥した屋外や車内でサングラスや保湿ゴーグルを使うと、眼表面の蒸発を抑える物理的バリアになります。[5]
点眼・温罨法・まぶたケアのコツ
人工涙液は、防腐剤無添加タイプを選ぶと頻回使用でも刺激が少なく、ヒアルロン酸ナトリウム配合の製品は乾燥感の緩和に役立つと報告があります。[5] コンタクトレンズ装用者は装用時間を短くしたり、装用感が悪い日はメガネに切り替えるなど、眼表面の負担を減らします。[5] 充血を抑える目的の点眼は反跳性充血を招く恐れがあるため、漫然と続けないことが推奨されます。
まぶたの縁がべたつく、朝の見え方がかすむ、夕方にしみるといった蒸発優位のサインがあるときは、清潔なアイマスクや清拭シートでのケアが役立ちます。温かい蒸しタオルや専用の温罨法マスクを38〜40℃で5〜10分ほど当て、その後にやさしくまぶたの縁を整えると、マイボーム腺由来の油分が緩み、涙の安定を助けることが研究で示されています。[9] 手指は清潔にし、力を入れすぎないことがコツです。
ブルーライト・サプリメントの“距離感”
ブルーライトカット眼鏡については、眼精疲労の自覚を軽くする人がいる一方、ドライアイそのものの改善効果は一貫していないという報告が多く、まぶしさ対策のひとつとして活用する程度が現実的です。[8] オメガ3脂肪酸のサプリは、涙の質を整える可能性が示唆された研究と、有効性を示さなかった大規模試験が混在しています。[11,10] 食事から魚やナッツを取り入れつつ、サプリは体調や服薬状況をふまえて慎重に選ぶ姿勢が安全です。
口のケア:ドライマウスをやわらげる実践
口腔の乾きをやわらげる第一歩は、こまめな水分補給と唾液のリズムを取り戻すことです。一度に大量ではなく、常温の水を口に含む時間を作ると粘膜が落ち着きます。キシリトール入りのガムやタブレットは咀嚼による唾液分泌を促し、間食の代替にもなります。酸味で唾液を出す方法は即効性があるものの、取りすぎると歯の表面を溶かすリスクがあるため、頻度とタイミングを意識しましょう。就寝前はアルコール入りの洗口液を避け、保湿ジェルやスプレーで口腔内に薄い保護膜を作ると、夜間の乾燥による目覚めを減らせます。[6]
鼻づまりや口呼吸の癖があると、どれだけ水分をとっても乾きやすくなります。湯気を吸い込みながらの入浴や鼻洗浄で鼻腔を整え、就寝時は枕の高さを見直して気道を確保すると、口呼吸が和らぎます。いびきや日中の強い眠気がある場合は睡眠医療を扱う医療機関への相談も視野に入ります。[6]
歯と唾液腺を守るルーティン
ドライマウスではう蝕や歯周病、口臭、味覚の変化が起きやすくなります。フッ化物配合の歯磨剤を使い、就寝前に保湿ジェルを塗布し、歯間清掃を丁寧にすると、唾液の少ない環境でも歯を守りやすくなります。頬の外側から耳の前をゆっくり円を描くように撫で下ろし、顎の下から舌の付け根に向けてやさしく押し流すといった唾液腺マッサージは、心地よさとともに唾液の巡りを助けます。痛みがある場合や腫れがある場合は中止し、歯科に相談してください。[6,12]
薬剤性の乾きが疑われるときは、自己判断での減薬は避け、処方医に「乾きがつらい」ことを具体的に伝えましょう。タイミングの調整や種類の変更で負担が軽くなる場合があります。舌や粘膜にしみる、口角が切れる、口内炎が繰り返すといったときは、栄養・鉄・亜鉛の不足やカンジダの関与など別の要因が隠れていることもあるため、歯科・口腔外科での評価が有用です。[6,12]
生活全体の見直しと受診の目安
ドライアイ・ドライマウスのケアは、環境・行動・製品の三つを小さく組み合わせ、2〜3週間で体感の変化を探る進め方が現実的です。改善が乏しい、痛み・強い充血・急な視力低下がある、光がまぶしくて目が開けにくい、耳の下や顎下が腫れる、関節痛や極端な疲労・乾燥(皮膚・陰部の乾きなど)が重なるといった場合は、眼科・歯科(必要に応じて耳鼻科、内科、膠原病内科)での評価を受けてください。合併症の早期発見は将来のQOLを守ります。[5,6,1]
一日の流れに沿って習慣化するのが続けるコツです。朝は加湿器と画面の高さを整え、午前と午後に一度ずつ遠くを見る休憩を入れ、昼食後に短時間の散歩で瞬目をリセットします。夕方に温罨法と人工涙液で目をいたわり、就寝前に口腔の保湿と歯間清掃で口を守る。水筒と保湿ジェルをカバンに入れておくと、外出先でも途切れません。「全部は無理」でも、一つできれば前進です。
編集部からの現実的なヒント
忙しい日こそ、ルールをシンプルに。目には“20・20・ゆっくり2回の瞬き”、口には“水を含んで一呼吸、寝る前に保湿”。この二つだけでも、乾きの悪循環を断ち切るきっかけになります。週末にデスクの配置や照明を見直すと、平日の労力が下がります。
まとめ:小さな調整で、からだは応えてくれる
乾きは性格の問題でも、我慢比べでもありません。環境・自律神経・ホルモン・薬剤という変動要因に、今のあなたの生活が正直に反応しているだけ。だからこそ、できるのは少しずつ条件を整え、体が働きやすい場を用意することです。湿度を整え、瞬きを取り戻し、口腔を保湿する。続けるほどに、視界のにじみや会話のしづらさが和らぎ、集中力や睡眠の質にも波及します。今日の自分に合うケアをひとつ選び、今週はそれを丁寧に繰り返す。次に何を足すかは、来週のあなたが教えてくれます。もし不安が残るなら、遠慮なく医療機関へ。あなたの「ちょうどいい」を見つける旅は、ここから始まります。
参考文献
- 国立長寿医療研究センター. 病院からのお便り No.72 ドライアイ(有病率の概説)https://www.ncgg.go.jp/hospital/iryokankei/letter/072.html
- 厚生労働科学研究 成果データベース(Project 5815)日本におけるドライアイの疫学研究・リスク因子 https://mhlw-grants.niph.go.jp/project/5815
- J-Stage. 口腔乾燥症に関する学術論文(Stomatopharyngology 24(1):39)https://www.jstage.jst.go.jp/article/stomatopharyngology/24/1/24_1_39/_article
- 参天製薬 ヘルスケア情報「ドライアイ」環境・性差・年齢・VDTの影響 https://www.santen.com/jp/healthcare/eye/products/eyecare_navi/magazine/dryeye
- TFOS DEWS II Report (2017). The Ocular Surface. 涙液機能不全に関する国際コンセンサス https://www.tfosdewsreport.org/
- National Institute of Dental and Craniofacial Research. Dry Mouth (Xerostomia) https://www.nidcr.nih.gov/health-info/dry-mouth
- Moshirfar M et al. Mask-Associated Dry Eye (MADE). Ophthalmology and Therapy (2021) https://link.springer.com/article/10.1007/s40123-020-00336-0
- American Optometric Association. Computer Vision Syndrome(20-20-20ルール)https://www.aoa.org/healthy-eyes/eye-and-vision-conditions/computer-vision-syndrome
- US Pharmacist. Put the Squeeze on Meibomian Gland Disease(温罨法・眼瞼ケア)https://www.uspharmacist.com/article/put-the-squeeze-on-meibomian-gland-disease
- Asbell PA et al. n−3 Fatty Acid Supplementation for Dry Eye Disease. N Engl J Med (2018) https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1709691
- Carenet. 魚油/オキアミ油によるドライアイ改善を示唆する試験の報告(ニュース)https://www.carenet.com/news/general/carenet/43040