30代・40代ママが知らない授乳ホルモンの正体:プロラクチン・オキシトシンが体調に与える5つの変化

授乳はホルモンの大きな変化と直結します。本記事ではプロラクチンとオキシトシンの作用、月経再開の目安や授乳による避妊の限界、体調・気分・睡眠の変化、35〜45歳の産後ママ向けの今日からできるセルフケアを根拠に基づきやさしく解説。今すぐチェックして不安の整理に役立ててください。

30代・40代ママが知らない授乳ホルモンの正体:プロラクチン・オキシトシンが体調に与える5つの変化

授乳で動く主なホルモンと役割

**生後6カ月までの完全母乳の割合は世界で約44%**と報告されています(WHO/UNICEF)[1,2]。一方で、授乳はからだの気合いではなくホルモンの仕事でもあります。研究データでは、乳首への刺激から数分でオキシトシンが高まり射乳反射が起こり[3,4]、並行してプロラクチンが分泌されて次の母乳づくりが促されます[5]。編集部で各種データを照合すると、授乳中の気分の波や月経の再開タイミング、体重や睡眠の変化は、個人差はあるもののホルモンの動きで多くが説明できることが見えてきました[5,7]。

言い換えれば、授乳期に起こる「いつもの自分と違う感じ」は、意思の弱さではなく生理的なメカニズムの表れです。ここからは、難しい言葉をできるだけ日常語に置き換えながら、授乳とホルモンの関係を丁寧にひもときます。

授乳の主役はプロラクチンとオキシトシンです。医学文献によると、赤ちゃんが吸う刺激で視床下部—下垂体系が反応し、プロラクチンが乳腺での乳汁合成を促進します[5]。オキシトシンは乳腺の筋上皮細胞を収縮させ、作られた母乳を乳管へ押し出す「射乳反射」を起こします[3,4]。出生直後の肌と肌のふれあいはオキシトシン分泌をさらに高めることが示され[3,6]、落ち着きや結びつきの感覚にも関わるとされています[3,6]。

同時に、産後は妊娠中に高かったエストロゲンとプロゲステロンが急低下します[7]。この低下が、腟や皮膚の乾燥感、性欲の低下、気分の不安定さに関与します[7]。研究データでは、授乳頻度が高いほどプロラクチンが高く保たれ、排卵を抑える方向に働くことが示唆されていますが[5]、反応の強さは人によって異なります。

プロラクチンとオキシトシンの連携

授乳の最中、オキシトシンは数分で素早く上昇し、母乳が流れ出るきっかけをつくります[4]。その後、プロラクチンが数十分スパンで上がり次の授乳に備えて乳汁を作る[5]。つまり「今流す」役と「次に備える」役で分担しているイメージです。なお、ストレスや痛み、極度の緊張はオキシトシンの分泌を鈍らせやすいとされ[3,4]、リラックスできる姿勢や環境づくりが実用的な対策になります。

エストロゲンとプロゲステロンの低下がもたらす変化

産後の急降下により、粘膜の乾燥や性交痛を感じやすくなります[7]。授乳が軌道に乗っている期間はこの低下が続きやすく、気分や睡眠の質にも波をつくります[7]。保湿ジェルの活用や痛みがある日は無理をしない合図にするなど、セルフケアとパートナーとの対話が役立ちます。医学文献では甲状腺の一過性の炎症(産後甲状腺炎)が数%で起こるとされ[8]、強い動悸や手の震え、だるさが続くときは受診の検討も選択肢です。

体調・感情・からだに起こること

授乳はからだの広い範囲に影響します。まず、子宮の回復。オキシトシンは子宮収縮も促すため、授乳中に下腹部の鈍い痛みを感じることがあり[3,4]、これは回復が進んでいるサインでもあります。一方で睡眠は断片化しがちです。夜間授乳は避けられないことが多いので、日中に短い休息を積み重ねる「分割睡眠」の発想が実用的です。

体重・食欲・代謝のリアル

授乳には1日あたり約330〜500kcalのエネルギーが必要と報告されています[9]。消費が増える分、空腹感が強まるのは自然な反応です。栄養学の研究では、タンパク質や鉄、カルシウム、DHAなどの必要量が高まる一方[9,10]、極端な食事制限は母体の疲労や気分の落ち込みにつながりやすいことが示されています[9]。体重の減り方は個人差が大きく、授乳だけでスルスル落ちる人もいれば、むしろ食欲が増して横ばいになる人もいます。数週間単位での変化に目を向け、体組成や体調を合わせて観察すると、短期の増減に振り回されにくくなります。

水分は喉の渇きを感じる前に少しずつ。授乳前後にコップ一杯を目安にする、ベッドサイドに水を置いておく、温かい飲み物でリラックスを誘うなど、小さな仕掛けが続けやすさを支えます。食事は「完璧」を目指すより、主食・主菜・副菜をゆるく揃える。作り置きや冷凍を頼るのも賢い選択です。

気分の波とD-MER(ディスフォリック反射)

授乳の直前〜最中に、急に胸がざわつく、理由のない寂しさや不安が数分だけ押し寄せる。これに心当たりがあるなら、D-MERと呼ばれる現象かもしれません。研究段階の概念ではありますが、射乳反射のタイミングでドーパミンなどの神経伝達物質が一時的に変動し、短時間の不快感として現れると考えられています[5]。ポイントは、あなたの性格の問題ではないということ。強い症状が続く、育児や生活に支障が出る場合は、産婦人科や助産師、メンタルヘルスの相談窓口に早めに声を届けてください。産後の気分の落ち込みや不安が2週間以上続く、眠れない、食べられないといったサインは、医療者に相談する合図です。

月経再開と避妊、授乳と妊娠のリアル

「授乳中は妊娠しない」という言い回しは半分事実で半分誤解です。研究データでは、完全母乳・月経が未再開・授乳間隔が昼夜問わず長く空かないという条件が揃う場合、**生後6カ月以内は授乳性無月経法(LAM)の避妊効果がおよそ98%**と報告されています[11,12]。ただし条件が崩れれば効果は下がり、いつ排卵が戻るかは個人差が大きいのが現実です。

生理再開の目安と個人差

月経の再開時期は幅広く、早い人は産後数カ月で、長い人は断乳まで来ないこともあります。授乳頻度、赤ちゃんの睡眠、個人のホルモン感受性、体脂肪やストレスなどが影響します。初回は無排卵月経のこともあるため、「生理が戻った=すぐに排卵が規則化した」とは限りません。基礎体温をつける、体調の変化をメモするなど、自分のリズムを見つける観察が役に立ちます。

授乳中の避妊とパートナーとの対話

避妊をどうするかは、授乳の方針や体調、価値観とセットで考えるテーマです。一般に、ホルモンを含まないコンドームや銅IUDは授乳への影響が少ない選択肢として知られ[13]、プロゲステン単剤のピル(ミニピル)やホルモンIUSは母乳量への影響が比較的少ないとされます[13]。一方、エストロゲンを含む経口避妊薬は初期の母乳量に影響する可能性が指摘されることがあります[13]。どの方法が自分に合うかは医療者と相談して選ぶのが安全で、痛みや違和感があればためらわず見直してかまいません。パートナーとは、「眠れていない日が続くときはどう休むか」「性行為のタイミングと痛みへの配慮」「避妊の費用や手間を誰が担うか」など、生活に落とし込んだ対話を重ねることが、二人のチームワークを守ります。

日常でできるセルフケアと助けの借り方

セルフケアの核は、ホルモンの波を前提にした「少しずつ整える」発想です。まず、授乳の姿勢を楽にする。背中や首の緊張はオキシトシンの分泌を妨げやすいので[3,4]、クッションを足す、椅子の高さを変える、横抱きやフットボール抱きなど複数の抱き方を試すなど、体に合うフォームを見つけます。授乳前の深呼吸や短いストレッチ、好きな香りをひと吹きするだけでも、体は「安心」を思い出します。肌と肌を合わせる時間はオキシトシンの分泌を高め[3,6]、赤ちゃんの安定にもつながります。

次に、現実的な期待値をセットすること。夜間の連続睡眠が難しい時期は、昼間の20分仮眠を「予定」に入れてしまう。家事は優先順位をつけ、食材宅配や電子レンジ、食洗機に遠慮なく頼る。完璧主義より、今日を乗り切る設計が効きます。家族へのヘルプの頼み方も具体的に。「洗濯物を畳む」「お風呂掃除をする」とタスクを名指しにすると、相手も動きやすくなります。栄養補給は、プロテイン入りヨーグルトやナッツ、果物、具だくさんスープなど、手間が少なく満足感のあるものを冷蔵庫に常備しておくと、空腹の波をやさしく受け止められます。

そして、困ったら早めに外部の知恵を借りること。乳頭の痛みや浅飲み、しこりや熱感などの授乳トラブルは、助産師や母乳外来、地域の子育て支援で整えられることが多く、初期に介入するほど解決がスムーズです。高熱や全身の悪寒、皮膚の赤みが広がるなどは乳腺炎のサインになり得るため、受診を検討してください[14]。動悸や強い不安、気分の低下が続く場合も同様です。

今日から試せる小さな工夫

授乳前にコップ一杯の水を飲む、深呼吸を三回してから赤ちゃんを抱く、背中にクッションを一つ足す。音楽やポッドキャストを流す、暗い部屋では小さなライトを点けてまぶしさを避ける。どれも数十秒ででき、積み重ねるほど「体が勝手に整う」助走になります。アプリの通知を切り、授乳の15分だけは画面を見ない時間にしてみるのも一案です。自分の心拍が落ち着くのを感じやすくなり、オキシトシンの波に乗りやすくなります。

つらいサインに気づいたら

痛みが強い、発熱がある、気分の落ち込みや不安が2週間以上続く、眠れない・食べられない、動悸や手の震えがある。そんなときは、がまん大会をやめて医療者へ。授乳を続けるか休むかは、あなたの体と生活が決めてよいことです。中断や補足授乳が必要な場面も、母子の健康のための柔軟な選択です。ホルモンは味方にもなれば負荷にもなる。しかしメカニズムを知れば、対処のカードは確実に増えます。

まとめ:ホルモンとつき合う「いま」の選び方

授乳は、プロラクチンとオキシトシン、そしてエストロゲンの低下など、ホルモンの連携プレーで成り立っています。月経の再開や体重、睡眠、気分の波――そのほとんどは、あなたのせいではなく生理の設計図に沿った動きです。だからこそ、姿勢や環境を少し整え、休息と水分と栄養を確保し、必要なら遠慮なく助けを借りる。そうやって今日をやり過ごすたび、からだは学習し、明日は少し楽になります。

「うまくいかない日があって当たり前」。その合言葉をポケットに。今の自分に合うペースで続けることは、赤ちゃんにとっても、あなたにとっても最善の選択になり得ます。今日できる一歩は、いつも小さくて大丈夫です。

参考文献

  1. UNICEF(日本ユニセフ協会). 世界の母乳育児の現状(2022年). https://www.unicef.or.jp/news/2022/0146.html
  2. World Health Organization. Infant and young child feeding: Fact sheet. https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/infant-and-young-child-feeding
  3. Uvnäs-Moberg K, et al. Oxytocin and its role in lactation and maternal behaviours: review. PMC7406087. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7406087/
  4. Neville MC, Morton J. Physiology of milk ejection (let-down) reflex: review. PMC1546473. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC1546473/
  5. Slattery DA, et al. Neuroendocrinology of lactation: roles of prolactin and oxytocin; lactational amenorrhea and D-MER概説. PMC8594038. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8594038/
  6. Moore ER, et al. Early skin-to-skin contact for mothers and their healthy newborn infants. Cochrane Database Syst Rev. 2016. https://doi.org/10.1002/14651858.CD003519.pub4
  7. StatPearls. Physiology, Postpartum. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; updated 2023. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK555904/
  8. American Thyroid Association. Postpartum Thyroiditis. https://www.thyroid.org/postpartum-thyroiditis/
  9. U.S. Department of Agriculture and U.S. Department of Health and Human Services. Dietary Guidelines for Americans, 2020–2025. https://www.dietaryguidelines.gov
  10. 厚生労働省. 授乳・離乳の支援ガイド(2019年改定版). https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000177189.html
  11. World Health Organization. Family planning/contraception methods: Lactational amenorrhea method (LAM). https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/family-planning-contraception
  12. 一般社団法人 日本家族計画協会(JALC). 授乳期間の避妊(LAM等)Q&A. https://www.jalc-net.jp/FAQ/ans6.html
  13. World Health Organization. Medical eligibility criteria for contraceptive use, 5th ed. 2015. https://apps.who.int/iris/handle/10665/181468
  14. Centers for Disease Control and Prevention. Mastitis and Breastfeeding. https://www.cdc.gov/breastfeeding/breastfeeding-special-circumstances/mastitis.html

著者プロフィール

編集部

NOWH編集部。ゆらぎ世代の女性たちに向けて、日々の生活に役立つ情報やトレンドを発信しています。