目的から逆算する「週7時間モデル」
複数の公的・民間調査では、副業・兼業の実施率は概ね1〜2割前後、一方で統計上の「複数就業者」は約4〜5%にとどまると報告されています[1,2,3]。数値の差は定義やカウント方法の違いによるものですが、傾向ははっきりしています。副業に挑戦する人は増え、同時に「時間が足りない」という声も増えていること[2]。編集部が各種データや事例を整理すると、課題はスケジュールの詰め込みではなく、限られた時間とエネルギーの「設計」にありました。
本業、家事、ケア、そして自分の回復時間。どこにも余白がない日もあります。だからこそ、耳障りの良い「やる気」論ではなく、現実にフィットする技術が必要です。この記事では、35〜45歳の「ゆらぎ世代」が無理なく続けるための副業の時間管理術を、実践の順序と具体例で解説します。結論から言えば、時間は捻り出すより「固定費化」し、集中は「90分の塊」で作り、予定には「30%の余白」を最初から入れる。この3つで、回り始めます。
まず固定費を入れてから、副業を置く
カレンダーに睡眠、食事、移動、家事・ケアなどの必須時間を先にボックス化し、余白に副業を配置します。多くの人は逆をやりがちですが、後から固定費が押し寄せて崩れます。逆順で組むだけで、予定の破綻が減ります。編集部の推奨は、1日のはじめに「本業開始前の60〜90分」を1枠、もう1枠は夜の回復度合いに応じて20:30〜22:00のいずれかに設定する形です。週末は午前中に120分まとめて確保すると、雑務の巻き込みを避けやすくなります。
ここで重要なのが**「バッファ30%」**です。週7時間に対して、予定上は4.5〜5時間しかタスクを入れない。残りは遅延・不測の用事・回復に充てる余白です。詰め込みこそが失敗の最短路。余白は甘えではなく、仕組みです。
深い仕事は朝、90分の塊で取る
メール返信や事務ではなく、価値を生む思考・制作は、中断に弱い「深い仕事」です。集中は個人差があるものの、長時間の連続作業はパフォーマンスを下げやすいことが示されています[4]。そこで、通勤前や始業前の90分を「通知オフ・単一タスク・同じ場所」で固定。例えばライティングなら、月・水・金は構成と下書き、火・木は推敲と入稿というふうに、曜日ごとに役割を持たせると迷いが減ります。夜は意思力が落ちるため、ブラッシュアップや見積りといった軽作業を置くと現実的です。
実行力を底上げする日々の技術
タスクは「名詞」ではなく「動詞」にする
「記事を納品」ではなく、「構成を書く」「1,000字下書き」「見出しを直す」「入稿する」のように、開始・終了が明確な最小行動に分けます。これを90分枠に気持ちよく収まるサイズに整えると、着手が軽く、進捗が見えるようになります。また、締切は先方の期日とは別に自分の内部締切を前倒しで置くと、突発の用事にも耐えやすくなります。例えば金曜が納期なら、水曜22時を内部締切。木曜は検品と予備日に回し、金曜は提出と予備の予備に充てる。二重の締切が、安心を生みます。
エネルギー管理は回復が主役
時間だけ管理しても、エネルギーが尽きれば空回りします。深い作業90分の後に、立って飲み物を用意する、5分だけベランダに出る、洗濯物を畳むといった短い回復行動を挟むと、次の集中が戻りやすくなります。睡眠については、医学文献でも睡眠不足が注意力・判断力を低下させ、事故リスクも高めうることが繰り返し示されています[4,5]。寝不足の割り勘はできない。副業を増やすために睡眠を削るのは、翌日の本業と家庭にツケを回すだけです。どうしても夜に作業する日は、翌朝の家事を10分だけ省略する、夕食を簡略化する、通勤で1駅分座って目を閉じるなど、回復の予算も一緒に組み込みます。家庭での不眠対処で効果が出ないときは専門医に相談しましょう[6]。
ツールは「最小限」で回す
アプリを増やすほど、情報の行方に時間を取られます。カレンダーは1つ、タスク管理も1つ、メモは1冊分にまとめると決めて、場所を固定します。通知は深い仕事の時間は全オフにし、連絡は朝と夜の2回の「バッチ処理」に寄せると、細切れの注意散漫を防げます。使うツールそのものより、同じ道具を同じ場所で使い続けることが、摩擦を減らします。
摩擦を減らす期待値のすり合わせ
家族・上司・取引先、「伝えておく」が時間を守る
副業の最大の敵は突発ではなく、関係の行き違いです。返信可能な時間帯、打合せに出られる曜日、繁忙期に休む週を先に伝えておくと、交渉のたびに消耗する時間が減ります。例えば「平日の打合せは火・木の20:30〜21:30のみ、メール返信は21時まで」「保育園の行事週は作業量を半分にする」といった運用ルールを共有しておく。これは自分を守るだけでなく、相手の安心にもつながります。本業の就業規則や情報管理のラインも事前に確認し、業務と副業の境界を曖昧にしないことが信頼の基盤になります[1].
法・税・健康のガードレールを最初に置く
就業規則で副業が許可されているか、競業避止の範囲に触れないか、個人情報や機密情報を扱わないか。ここを曖昧にしないほど、時間の使い方に迷いが出ません。税の手続きや記帳は、年末にまとめず毎週15分のルーティンに。健康診断や婦人科の受診も、年に一度の「時間の固定費」として先に日程を取っておきます。守るものを先に守ると、攻める時間が安定します。
よくある失敗と、立て直しの順序
よくあるのは、楽観で予定を詰めて、初月で燃え尽きるパターンです。立て直しは、まず総量を減らし、次に粒度を小さくし、最後に締切を前倒すという順番が現実的です。例えば週7時間を4.5時間に一度落として、90分タスクではなく45分タスクに分解し、内部締切をさらに半日早める。これだけで達成率が戻り、自己効力感も回復します。案件を複数抱えているなら、ひと月だけ1本に絞る決断も有効です。続けること自体が価値になるのが副業。短期の背伸びより、中長期の習慣を優先します。
習慣化が成果を呼ぶ「小さな勝ち」の設計
週次レビュー30分で、やめることを決める
毎週末、30分だけ先週の実績を見直し、次週の7時間を配分し直します。ここで重要なのは「やめること」を必ず1つ決めること。見直しのたびに増やすのではなく、重複するツールをやめる、SNSの閲覧時間を15分短くする、夜の作業を1日減らすなど、削る判断を繰り返すと、時間の密度が上がります。レビューは完璧主義ではなく、事実を見るだけで十分です。
学習も「仕事の一部」として枠を取る
副業の成果はスキルの更新速度に比例します。7時間のうち1〜2時間は学習に充て、残りで成果物を作ると、数ヶ月後の時間単価が上がります。資格や講座だけでなく、リサーチや作例の分解、ショートフォームでの発信練習も学習です。成果が遅い週こそ、学習枠を削らない。投資時間を守ると、焦りが薄れます。
まとめ:やる気ではなく、仕組みで守る
副業の時間は、降ってきません。だからこそ、固定費を先に置き、90分の塊で集中を作り、予定に30%の余白を入れる。この3つを守るだけで、驚くほど崩れにくくなります。最初の一歩は、来週のカレンダーに「週7時間」を予約すること。朝の90分を2回、夜の60分を2回、週末に120分。今日のやる気ではなく、来週の自分を助ける設計に、そっと置き換えてみませんか。
**時間は増えない。でも、整えることはできる。**あなたの生活のリズムに合う配置を、一緒に探していきましょう。まずはカレンダーを開き、1つめの90分を確保するところから。そこに置いた小さな約束が、半年後の大きな自信に変わります。
参考文献
[1] 労働政策研究・研修機構(JILPT). 研究シリーズ No.231 副業・兼業に関する調査(2023年). https://www.jil.go.jp/institute/research/2023/231.html [2] 労働政策研究・研修機構(JILPT). 研究シリーズ No.245 副業・兼業の実態と課題(2024年). https://www.jil.go.jp/institute/research/2024/245.html [3] 経済産業省 中小企業庁. 中小企業白書 平成29年版 第2部 第4章 第3節 副業・兼業. https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H29/h29/html/b2_4_3_3.html [4] 厚生労働省. 広報誌(2025年3月号)徹夜による脳と身体のパフォーマンス低下. https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou_kouhou/kouhou_shuppan/magazine/202503_003.html [5] 日本職業・災害医学会雑誌. 睡眠不足と産業事故リスクに関する報告(JJPM 47巻9号). https://www.jstage.jst.go.jp/browse/jjpm/47/9/_contents/-char/ja/ [6] 厚生労働省 KENNET. 不眠症とは(睡眠問題の概要と対処). https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/heart-summaries/k-02.html