在宅勤務の疲れを防ぐ:今すぐできる5つの科学的習慣

会議増で座りっぱなし・睡眠乱れ・水分不足…在宅勤務の疲れを招く悪循環を、30分ごとの立ち上がりやWHO基準の運動など科学的習慣で断つ具体策を紹介。心身の疲労、目・肩こり、孤立感も短時間で対処できる実践プラン付き。

在宅勤務の疲れを防ぐ:今すぐできる5つの科学的習慣

リモートで崩れやすい健康のバランス

医学文献によると、長時間の座位は血糖や血流の面で望ましくなく、30分ごとに短時間立つだけで代謝指標が改善するという報告があります[3]。加えて、WHOは成人に対して週150〜300分の中強度の運動を推奨しており、在宅勤務でもこの基準を満たす工夫が重要です[4]。座りっぱなしで肩や腰に負担が集中し、目や頭も疲れやすくなります。会議が詰まるほど水分を後回しにし、気づけば午後遅くにコーヒーを重ねて夜の眠りを浅くする、そんな悪循環も起こりがちです[10]。

研究データでは、就寝前のスクリーン使用は入眠までの時間を延ばし、睡眠の満足度を下げる傾向が示されています[6]。起床と就寝の時刻が日々大きく揺れると体内時計が乱れ、翌日のパフォーマンスに響きやすくなります[5]。さらに、同僚との偶発的な雑談が減ることで孤立感が増し、疲れているのに「もう1件だけ返す」と夜に仕事が延びる。気づけば心のエネルギーが枯渇し、ワークライフバランスが遠のいていくのです[11]。

こうした負のスパイラルに対し、解決のカギは「大革命」ではなくミリ単位の調整を日常に仕込むこと。次章からは、研究で支持される実践を、在宅の現実に合わせて具体化していきます。

科学的エビデンスに基づく小さな設計

時間の設計:90分サイクルで「区切り」をつくる

人はおよそ90分前後で集中と回復のリズムを刻むとされます。ここに25分集中・5分休憩のリズムを重ね、1時間ごとに2〜3分立ち上がるだけでも、だるさは和らぎやすくなります[3]。会議は45分枠にして最後の5分を「記録と次の約束」に充てると、次の準備をしながら体勢を変える余白が生まれます。午前中に重い思考タスクを、午後は協働やルーティンを置くと、体内時計の特性に沿った配分になりやすく、無理なく成果が上がります。

からだの設計:NEATを味方にする

研究では、日常の軽い活動(NEAT)がエネルギー消費と気分の双方に寄与することが示されています[8]。階段を選ぶ、オンライン会議を音声のときは立って参加する、1日のどこかに10分の屋外ウォーキングを差し込み朝の光を浴びる[7]。屋外の明るさは室内の数十倍と言われ、体内時計のリセットに有効です[7]。肩や首には45秒ほどのストレッチを数回。運動習慣がない人ほど、短く頻回に行う方が続きます。WHOの基準である週150〜300分は、1日あたりに直すと20〜40分程度。通勤が減った分を、この小分け運動で補うイメージです[4]。

環境の設計:光・温度・視線の三点セット

生体リズムに関わるのは光です[5]。朝はカーテンを開け、午前中は明るめ、夕方以降は照度を落として脳に「夜が来た」と伝えます。室温は22〜24℃、湿度は目安で40〜60%に保つと快適です[9]。ディスプレイ上端が目の高さ、肘はおおむね90度、手首は反らせすぎない。椅子の座面は膝が曲げやすい高さに調整し、足裏が床にフラットに触れるように。難しく聞こえても、ひとつずつ整えるほど肩や腰の負担が減り、集中が持続します。

食と休息のリズムを取り戻す

食事の窓を整える:10〜12時間の摂食時間

研究データでは、食事をとる時間帯をおよそ10〜12時間に収める「時間栄養学」のアプローチが体内時計の安定に役立つと示されています[12]。朝から昼にかけてエネルギーをしっかり摂り、午後遅くは軽めにする。昼食にたんぱく質20〜30gと野菜を添えると午後のだるさが軽く、間食が減りやすくなります[13]。カフェインは個人差がありますが、睡眠に響きやすい人は14時までを目安に[10]。会議の開始を合図にコップ1杯の水を飲む、といった紐づけ行動は実行率を高めます。

睡眠の衛生:夜のスクリーンは「1時間」手前で止める

医学文献によると、就寝前の強い光と情報量は入眠を妨げます[6]。就寝1時間前から通知を切り、照明も少し落とす。ベッドに入ったら読書か軽いストレッチに切り替え、起床と就寝の時刻をできるだけ一定にする。眠れない日は無理に長く寝床にいないことも、睡眠の質を守るコツです。朝は屋外で10分の光を浴び、可能なら短い歩行を。これだけで、昼の眠気が減り、夜の寝つきも整いやすくなります[5]。睡眠の整え方は、関連記事「睡眠を味方にする夜の整え方」でも詳しく解説しています。

食と睡眠のリズムが整うほど、日中の意思決定の質が安定します。午後の反動的なスイーツや夜のダラダラ残業が減り、結果としてワークライフバランスが自然と良い方向に傾きます。食べ方の工夫は「40代のためのマインドフルな食べ方」も参考にしてみてください。

チームで守るワークライフバランスの約束

境界の共有:応答のルールを決める

研究では、上司からの心理的サポートや明確な役割期待がバーンアウトを減らすと示されています[11]。チームで「即レスは業務時間内のみ」「夜間は翌営業日に返信でOK」など境界を共有すると、個人のセルフコントロールだけに頼らずに済みます。会議は目的と決定事項を冒頭に確認し、合意できる参加者だけに絞る。45分枠で終了10分前にアクションを確定し、次の準備時間を担保します。会議疲れの軽減は生産性だけでなく、心の余裕を生みます。会議設計は「会議疲れを減らすファシリテーション」も役立ちます。

見える化:カレンダーに「自分の時間」を置く

在宅勤務では、社内の誰にも見えない小さな用事が仕事を押し出しやすくなります。だからこそ、昼休み、集中ブロック、通院や家族の予定をカレンダーに公開範囲で記入しておく。周囲の予定も見えるほど、無理のない調整がしやすくなります。週に一度、全員が負荷を3段階で自己申告するだけでも、偏りが減りやすいという報告があります[11]。チームでの取り組みは、個人の努力を支える土台です。境界づくりのヒントは「在宅で境界をつくる小さな工夫」もご覧ください。

まとめ:小さく始めて、続けていく

リモートワークの健康管理は、瞬発力ではなく継続力の勝負です。大切なのは、今日からできる1つの行動を生活に組み込むこと。たとえば、会議のたびに立ち上がって伸びをする、午後2時以降のカフェインを控える、就寝1時間前に画面を閉じる。どれも些細に見えますが、1週間、1か月と積み重なるほど体も心も軽くなり、ワークライフバランスが自分の味方になっていきます。試してみたいものはどれでしょう。明日の朝、カーテンを開けて光を浴びるところから始めてみませんか。関連の短時間ストレッチは「在宅でもできる5分ストレッチ」が助けになります。あなたのペースで、できることから少しずつ。続けるほど、仕事も暮らしも、呼吸がしやすくなるはずです。

参考文献

  1. Microsoft Work Trend Index (2021). The Next Great Disruption Is Hybrid Work—Are We Ready? Microsoft WorkLab. https://www.microsoft.com/en-us/worklab/work-trend-index/hybrid-work
  2. 厚生労働省 e-ヘルスネット「座位行動と健康リスク」https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/exercise/s-00-002.html
  3. American Diabetes Association. Standards of Medical Care in Diabetes—2020. Diabetes Care. doi:10.2337/dc20-1410
  4. World Health Organization. WHO guidelines on physical activity and sedentary behaviour. 2020. https://www.who.int/publications/i/item/9789240015128
  5. J-STAGE: 日本時間生物学会誌(レビュー)「社会的時差(ソーシャル・ジェットラグ)と体内時計」https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsrcr/31/1/31_30/_html/-char/en
  6. J-STAGE: 日本体育学会大会予稿集 第72回大会「就寝前1時間の電子機器使用制限が睡眠感および自律神経系活動に及ぼす影響」https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspehssconf/72/0/72_255/_article/-char/ja/
  7. 京都府立医科大学(2020年12月9日)「光と体内時計に関する解説」https://www.kpu-m.ac.jp/doc/news/2020/20201209.html
  8. 一般財団法人 長寿科学振興財団「NEAT(Non-Exercise Activity Thermogenesis)とは」https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/kenkou-zoushin/NEAT.html
  9. ASHRAE Standard 55-2020. Thermal Environmental Conditions for Human Occupancy. American Society of Heating, Refrigerating and Air-Conditioning Engineers.
  10. Drake C, Roehrs T, Shambroom J, Roth T. Caffeine effects on sleep taken 0, 3, or 6 hours before bedtime. Journal of Clinical Sleep Medicine. 2013;9(11):1195-1200. doi:10.5664/jcsm.3170
  11. World Health Organization. WHO guidelines on mental health at work. 2022. https://www.who.int/publications/i/item/9789240053052
  12. Wilkinson MJ, Manoogian ENC, Zadourian A, et al. Ten-Hour Time-Restricted Eating Reduces Weight, Blood Pressure, and Atherogenic Lipids in Patients With Metabolic Syndrome. Cell Metabolism. 2020;31(1):92-104.e5. doi:10.1016/j.cmet.2019.11.004
  13. Moore DR, Robinson MJ, Fry JL, et al. Ingested protein dose response of muscle and albumin protein synthesis after resistance exercise in young men. The American Journal of Clinical Nutrition. 2009;89(1):161–168. doi:10.3945/ajcn.2008.26845

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