投資は怖い?その不安をほどく、資産形成の土台
家計の金融資産のうち現金・預金は約半分を占めるという日銀の資金循環統計の事実は、日本の安心志向を物語ります[1]。同時に、ここ数年は消費者物価上昇率が2%前後で推移し、物価が静かに積み上がっています[2]。最新の公表値では日本女性の平均寿命は87歳台[3]。働き方や家族のかたちが揺らぐ35-45歳にとって、貯めるだけではなく増やす手段を持つことは、きれいごとではない生活の現実対応です。編集部が各種データと制度を整理すると、預金と投資の役割を分け、長期で資産形成に取り組むことが、将来の選択肢を増やすもっとも堅実なルートであることが見えてきます。
投資には値動きがあり不安はつきまといますが、難解な専門用語に圧倒される必要はありません。ここでは新NISAが始まった今の環境を踏まえ、長期・分散・積立という土台の上で、日々の忙しさの中でも続けやすい資産形成の考え方と手順を、生活者目線で解きほぐします。
投資が怖い理由の多くは、値下がりと専門性への不安に集約されます。医学の世界にエビデンスがあるように、投資の世界にも長期分散の有効性を支持する研究が積み重なっています[4]。編集部が国内外の研究動向を俯瞰すると、短期の上下動は避けられない一方で、時間を味方につけた分散投資は複利が効き、資産形成に寄与しやすいことは確かな傾向です。例えばシミュレーションとして、毎月3万円を年率3%で20年間積み立てると、単純な貯金の720万円に対しておよそ980万円前後に増える計算になります。年率5%なら約1,230万円に届く試算です。もちろん実際の利回りは上下にブレ、将来の成果を保証するものではありません。しかし、インフレが続く局面で現金の購買力が目減りするリスクに目を向けると、投資を組み合わせる意義は現実的です[2]。
まず押さえたいのは、貯蓄と投資の役割分担です。突然の出費に備える生活防衛資金は、値動きのない預金でキープするのが基本です。そのうえで、数年から数十年の時間軸で使うお金は、目的とリスク許容度に応じて投資を検討します。こうして「守るお金」と「増やすお金」を分けるだけで、資産形成は一気に整理されます。
長期・分散・積立という三本柱
長期とは、生活に支障のない余裕資金で時間を味方につけることです。分散は、資産の種類や地域、通貨を広く組み合わせ、一つの値動きに左右されすぎないようにする考え方です[4]。積立は、相場の山と谷に惑わされず、機械的に買い続ける仕組みをつくることです。これらは派手さはありませんが、忙しい毎日の中でも実行可能で、結果的にブレを平準化しやすいアプローチです。
インフレとリスクを生活の言葉に置き換える
インフレは、同じ1万円で買える量がじわじわ減ることです。短期金利が低いままでも物価が上がると、実質的な資産価値は目減りします[2]。投資のリスクは、損をする可能性そのものではなく、価格が短期的に上下するボラティリティと向き合うことだと捉えると、対処の仕方が見えてきます。わたしたちができるのは相場を当てることではなく、時間の配分と資産の配分を自分で決めること。ここに資産形成の主導権が戻ってきます。
今日から動ける具体策:新NISAを軸にした設計図
2024年から始まった新NISAは、資産形成の追い風です。年間投資枠は最大360万円、その内訳はつみたて投資枠が120万円、成長投資枠が240万円。非課税で保有できる生涯投資枠は1,800万円(うち成長投資枠は上限1,200万円)と拡充され、売却すれば枠が復活する柔軟性もあります[5]。制度は万能ではありませんが、税負担がゼロになることは、長期の複利効果を後押しします。
実装の順番はシンプルです。まずは生活防衛資金を口座に残す基準を決めます。次に証券口座を開設し、つみたて投資枠で毎月の積立を自動設定します。投資対象は、世界全体に広く分散された株式インデックスファンドなど、わかりやすく低コストな選択肢が主役になりやすいでしょう。信託報酬のようなコストは長期では効いてきますから、商品比較の際は目線を合わせてください。最後に成長投資枠を、目的に応じて段階的に使うかを検討します。無理に枠を埋める必要はありません。自分のペースで積み上げることが、実は最短距離です。
編集部のモデルケースで考えてみます。毎月3万円を新NISAのつみたて投資枠で20年間積み立てると、先述の通り年率3%ならおよそ980万円、年率5%なら約1,230万円の水準が目安になります。相場は波打つため、月々の評価額に一喜一憂しない仕組み化が大切です。ボーナス月に少し上乗せする、昇給分の一定割合を自動で積立に回す、といった生活動線に沿った工夫が、長期の差になります。
ポートフォリオは「眠れる配分」を優先する
資産配分の王道は、株式と債券、必要なら不動産投資信託などを組み合わせる方法です。たとえば値動きに慣れていないなら株式をやや抑えて、債券やキャッシュの比率を厚くする選択も有効です。一般的な目安として、リスクを取りやすいほど株式比率を高め、慎重にいきたいときは債券比率を高めます。海外資産を組み入れることで通貨と地域の分散も効きます[4]。配分は一度決めたら終わりではなく、年に一度ほど見直して、崩れた比率を元に戻すリバランスを行うと、リスクは整いやすくなります。眠れるかどうかを基準にすることが、長く続く最大のコツです。
iDeCoや会社制度も「足場」として活用する
老後資金にフォーカスするならiDeCoも選択肢になります。掛金が所得控除の対象になり、運用益も非課税になる強力な仕組みです。ただし原則60歳まで引き出せない制約があります[6]。企業型確定拠出年金や持株会など、職場の制度がある場合は、マッチング拠出や手数料水準、ラインアップを確認し、全体の資産配分に重ねて考えるとムダが減ります。税制優遇と流動性のバランスを取りながら、新NISAと組み合わせると、資産形成の土台が安定します。
揺らぎの年代に効く、「続けるための仕組み」と思考法
35-45歳は、キャリアの役割が増え、家庭では子育てや介護の気配も忍び寄る多忙期です。気力では続かない日もあるからこそ、仕組みで補う視点が役に立ちます。積立は完全自動化し、投資用の引き落とし日と家計の給料日をずらして、残高を確実に確保しておきます。相場のニュースに触れる頻度を意図的に減らし、評価額の確認は月一回や四半期に一度など、自分に合うリズムに固定します。確認のたびに、家計簿アプリやスプレッドシートで残高と積立額だけを見るようにすると、雑音は減ります。
もう一つのコツは、入金力を上げる生活設計です。固定費の見直しやサブスク整理、ふるさと納税の活用、資格や学びへの投資で収入の選択肢を増やすなど、増やす余地は意外と身近にあります。ここで出た余剰を自動で積立に紐づけると、迷いの余白が消えます。家族がいる場合は、家計の目的や投資方針を共有し、年に一度の「マネーミーティング」を短時間でも設けると、孤独感が薄まり、判断がぶれにくくなります。
下落相場との付き合い方:痛みを前提にする
相場の下落は痛いものです。避けられないからこそ、起こるものとして準備します。事前に「ここまで下がっても積立は止めない」と決めておく、生活防衛資金には手を付けない、どうしても気持ちが揺れるときは新規の入金だけを続ける、といったルールを文章にしておくと、当日の感情に左右されにくくなります。歴史を振り返ると、世界の株式市場には何度も調整局面がありましたが、数年単位で見れば回復する局面も繰り返し観測されています。これを前提に、年に一度のリバランスを粛々と行い、手数料の高い商品の乗り換えを検討するなど、手の届くコントロールに集中します。
目的から逆算する:わたし仕様の資産形成
資産形成は、数字の競争ではありません。欲しいのは「安心して選べる自由」です。数年後に取りたいキャリアの選択、住まいの更新、子どもの教育、親のサポート、そして自分の健康。こうした具体的な目的から逆算すると、必要額と時間軸が見えてきます。たとえば五年後に100万円必要なら、値動きの小さい選択肢や預金との併用が現実的です。二十年後の老後資金なら、世界に広がる分散投資を中心に据え、積立で粛々と時間を重ねるほうが目的に近づきやすい。途中で状況が変わったら、計画を変えればいい。完璧である必要はありません。揺らぎの中で計画を更新していくこと自体が、資産形成のプロセスです。
「学び続ける」も資産
金融知識は一度で完成しません。月に一度、一つの用語を調べる、決算書の読み方を学ぶ、FPの本を一冊読む。それだけでも翌月の選択は変わります。学びに投じた時間は、相場に左右されない無形資産です。投資と資産形成は、生活そのものの設計と一体で考えると、無理なく続きます。
まとめ:小さく始めて、続けて、育てる
預金だけでは守り切れない現実のなかで、投資は資産形成の堅実な選択肢です。新NISAの非課税という追い風を活かし、長期・分散・積立の三本柱で、わたしたちは自分の時間を味方にできます。毎月5千円でも1万円でも、まずは生活防衛資金を確保し、口座をつくり、自動積立に手を伸ばす。相場は揺れますが、計画はあなたの手元にあります。
完璧さより継続を合言葉に、今週末はどの一歩を選びますか。口座開設の申し込みを済ませる、つみたて設定を1件だけ始める、家族と将来の使い道を話す。小さな行動が、来年の、そして十年後の安心を育てます。焦らず、でも止まらず。一緒に進めていきましょう。
参考文献
- 内閣府 経済財政白書(令和6年版)第3章 第1節:家計の金融資産構成の特徴 https://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je24/h03-01.html
- 総務省統計局 消費者物価指数(CPI)年報(最新データ) https://www.stat.go.jp/data/cpi/sokuhou/nen/index-z.html
- NHK NEWS WEB「2023年の日本人の平均寿命」2024-07-26 https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240726/k10014525171000.html
- Journal of Asset Management (2025) “Diversification benefits for global equity investors …” https://link.springer.com/article/10.1057/s41260-025-00398-z
- ダイヤモンド・ザイ「新NISAの年間投資枠・生涯投資枠の拡充まとめ」 https://diamond.jp/zai/articles/-/1010609
- 厚生労働省 iDeCo(個人型確定拠出年金)制度の概要 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/nenkin/kyoshutsu/ideco.html