運動前の栄養補給:いつ、何を、どれくらい摂るか(時短で実践できる補食例付き)

運動の効果はトレーニングだけでなく前後の栄養に大きく影響します。本記事では炭水化物・たんぱく質・水分・電解質の適切な取り方を最新研究に基づきわかりやすく解説し、忙しい40代女性でも続けやすい実践法と具体メニューを紹介します。

運動前の栄養補給:いつ、何を、どれくらい摂るか(時短で実践できる補食例付き)

運動前:何を、いつ、どれくらい摂るか

医学文献によると、運動の1〜4時間前に炭水化物を体重1〜4g/kgの範囲で摂ると、エネルギー切れを防ぎやすいとされます[6]。とはいえ、35〜45歳の私たちの現実はタイトです。朝は家族の支度、昼は会議、夜は保育園の迎え。そこで鍵になるのは、状況に合わせて「胃に優しいエネルギー」を入れておくこと。たとえば、朝ランなら小さめのバナナとヨーグルト、出社前の筋トレならおにぎり半分と味噌汁、夕方のスタジオクラス前ならカステラや羊羹をひとかけら。脂質と食物繊維が多い食事は消化が遅く、運動中の胃もたれの原因になりやすいため、直前は避けるとよいでしょう。コーヒーが好きなら、カフェインを運動60分前に3〜6mg/kgの範囲で摂ると効果が期待できるとする研究がありますが[4]、睡眠の質に響く時間帯は避けましょう。仕事後に動く日は、15〜30g程度の炭水化物(小さめのおにぎり、フルーツ、クラッカーなど)に、少量のたんぱく質を添えると安定しやすいです。砂糖主体の補食(羊羹、カステラなど)は、牛乳やヨーグルト、ナッツを少量添えると血糖の上下が緩やかになりやすいと報告されています[6]。

水分については、研究では運動の4時間前に5〜7mL/kgの水分摂取が推奨されています[5]。ただ、日常で厳密に量るのは難しいもの。実務的には、出発の30〜60分前にコップ1〜2杯の水や麦茶を飲み、会場に着いたら数口含むといった運用が現実的です。夏場や発汗が多い人は、ナトリウム入りのドリンクを少し足すと安心感が増します[8,9]。尿の色が濃い琥珀色に傾いているなら、もう一杯。淡いレモン色を目安に整えていくと、運動中の頭痛やだるさのリスク軽減に役立つことがあります[8].

朝・昼・夜、タイミング別の現実解

朝いちの運動は、起床直後の低血糖感を避けるために、消化の早い炭水化物を少量だけでも摂ると動き出しが軽くなりやすいです。バナナ半分やはちみつを落としたトーストひとかけら、甘酒の少量などが扱いやすい選択です。昼休みのワークアウトは、食後2〜3時間空けるのが理想。空けられない日は、脂質の少ないお弁当(ご飯、小さめの魚、漬物)を7割程度に抑え、運動前に一口サイズの補食を足すと胃の負担が減る場合があります。夜のレッスン前は、仕事の疲労で血糖が落ち込みがち。エネルギーは足す、消化の負担は増やさない、というバランスで、カステラやどら焼き、羊羹、またはおにぎりを半分だけ。スタジオまでの移動でゆっくり噛み、到着後に水を数口含む。これだけでも体感が変わることがあります[6].

運動中:必要な補給と、しなくていい補給

研究では、中強度で60分未満の運動なら、通常は水分摂取で対応可能という報告が一般的です[6]。ペース走やフローヨガ、サーキットのようなクラスなら、ボトルの水や麦茶を小まめに口に含むだけで十分なことが多いです。発汗が多い日や、スタジオが暑いと感じる日は、ナトリウムを含むスポーツドリンクを薄めて持ち込むのも一案。味があると自然に飲水量が増え、脱水予防に寄与するとされています[8].

セッションが60分を超える、あるいはインターバルなど高強度が続く場合は、炭水化物を30〜60g/時の範囲で補給すると持久力維持に役立つとする報告があります[6]。消化器への負担を減らすには、少量を数回に分けることが勧められます。ジェルやエナジーバーに限らず、スポーツ羊羹や小袋の干し芋、ゼリー飲料など、口当たりが良いものを選ぶと続けやすくなります。汗で塩が白く浮くタイプの人は、ナトリウムを300〜600mg/時の目安で摂ると痙攣のリスク軽減に寄与すると報告されています[9]。目安を数字で覚えるのが負担なら、塩分入りのタブレットやドリンクを「汗がしょっぱいと感じたら足す」という運用でも実践可能です。

水分量は、喉の渇きだけに頼ると遅れがちです。簡単に自分の発汗量を知りたい場合は、落ち着いた日に体重を測り、1時間動いた後にもう一度チェックしてみてください。差が500gなら、おおむね500mLの水分が失われています。こうした一度の計測が、以後の持ち物リストを無駄なくするのに役立ちます[8].

運動後:回復を支える食事設計

運動後に優先したいのは、たんぱく質20〜40g(または体重0.25〜0.4g/kg)の摂取とされています。筋たんぱく合成の促進に寄与し、回復をサポートするといわれています[6]。牛乳やヨーグルト、卵と大豆食品、魚や鶏むね肉など、吸収の良い食品を中心に、1〜2品で20gに届く設計を意識します。ホエイやソイなどのプロテインパウダーは、食事が取りづらい忙しい時間帯の補助として便利です。加えて、炭水化物を体重1.0〜1.2g/kgの範囲で摂ると、短時間での回復が必要な場合にグリコーゲン(筋と肝臓の貯蔵エネルギー)の再合成が促されるとする研究があります[6]。ただし、翌日まで間が空くなら、通常の主食・主菜・副菜の食事で十分回復できることが多いです。焦らず、でも抜かない。これが長続きのコツです。

具体的な食事像を挙げると、帰宅後すぐに牛乳200mLとバナナ、その後にごはんと鮭、豆腐とわかめの味噌汁、青菜のおひたしという流れは扱いやすい構成です。外食なら、刺身定食や鶏塩ラーメンに半ライスを添える、そばに卵と小さい稲荷寿司を足すなど、脂質を抑えながらたんぱく質と炭水化物が揃う選び方を意識すると外れにくくなります。甘いものが欲しい夜は、羊羹や大福を小ぶりにして、同時に牛乳や無調整豆乳を合わせれば、血糖の急上昇が緩やかになりやすいです。

水分補給は、失った体重1kgあたり1.25〜1.5Lを目安に、段階的に戻していくとよいでしょう[8]。これは一気に飲むよりも、数回に分けて吸収させるイメージです。汗で塩が浮くタイプの人は、塩分を含む味噌汁や梅干し、お漬物を食卓に加えると、食事の満足感と電解質補給を同時に満たしやすくなります。帰宅が遅い日は、消化に時間がかかる揚げ物やアルコールは控えめにして、睡眠の質を守ることが翌日のパフォーマンスにつながる可能性があります。

食欲がない時、時間がない時の切り札

運動直後は自律神経が高ぶり、食欲が湧かないことも珍しくありません。そんな時は、液体に頼るのが早道です。牛乳や飲むヨーグルト、ココア、甘酒、豆乳+インスタントコーヒーのプロテイン風ドリンクなどを、常温で一杯。帰宅して落ち着いたら、軽い主食と主菜を足すだけでも、翌日の筋肉痛の程度が和らぐ場合があります。どうしても時間がない日は、コンビニでおにぎりとギリシャヨーグルト、またはサンドイッチと無調整豆乳をセットで選ぶ。選択肢を「たんぱく質20gに届くか」で見る癖が、迷い時間を減らしてくれます[6].

ゆらぎ世代の女性が押さえたい栄養の視点

研究データでは、トレーニングの有無に関わらず、1日のたんぱく質を体重1.2〜1.6g/kgに設定すると、体組成や回復に良い影響が出やすいと示唆されています。ポイントは、1回の食事で0.25〜0.4g/kgを目安に、1日3〜4回に分けること[6]。朝食に卵と納豆、昼は魚、夜は鶏むね肉や豆腐、間食にヨーグルトや牛乳という配分で、自然と満たせます。鉄や亜鉛は、女性が不足しやすい栄養素。めまいや疲労感が気になる周期は、赤身肉、カツオ、あさり、大豆製品を意識して選び、ビタミンCを一緒に取ると吸収が高まるとされています。骨のケアにはカルシウムとビタミンDが欠かせないので、乳製品、小魚、きのこ、卵黄、日光との付き合い方も見直すとよいでしょう。ここで紹介する数値はスポーツ栄養研究に基づくもので、一般の食事摂取基準(日本人の食事摂取基準2020)とは目的が異なり推奨量が異なる場合があります[10]。カフェインはパフォーマンスを押し上げる一方で、夕刻以降は睡眠を阻害しやすいので、夜運動する日はデカフェや麦茶に切り替えるだけで翌朝のだるさが軽減することがあります。

体重管理を気にして食事を軽くしすぎると、回復が遅れて結果的に活動量が落ちることがあります。トレーニング日は「食べる→動ける→消費が増える→また食べられる」という好循環を意図的に作るのが近道です。食の全体設計についてはNOWHのたんぱく質特集も参考にしてください(40代からのたんぱく質の基本)。また、脱水対策の基礎は別記事で詳しく扱っています(水分補給ガイド)。ウォームアップやクールダウンのコツは、こちらのフィットネス記事も実践的です(正しいウォームアップ)。

空腹のまま運動しても大丈夫?

低〜中強度で短時間なら、空腹で動いても安全であることが多いですが、集中力の低下や後半の失速を感じたら、運動前に少しだけ炭水化物を足すと改善することがあります[6]。空腹トレーニングは脂質代謝を高める面もありますが、パフォーマンスや気分が下がるなら、無理をする理由はありません。自分の体感を最優先に、記録を取りながら最適解を探していきましょう。

プロテインシェイクは必須?

必須ではありません。食事で20〜40gのたんぱく質を確保できるなら、それで十分です。ただ、移動や家事の合間に手早くリカバリーしたい時、粉末は便利なツールになります。乳糖不耐がある人は、ラクトース低減タイプやソイに切り替える、あるいは固形のたんぱく質食品を選ぶなど、消化に合う形を見つけてください。

翌日に疲れを残さないための小さな工夫

汗が多い季節は、帰宅後に味噌汁や梅干しを一つ添えるだけで、体の「渇き感」が落ち着きやすくなります。入浴はぬるめに短時間、就寝の2〜3時間前に夕食を終えると、消化も睡眠も整いやすくなります。寝る前にスマホを手放せた日は、翌日の動きのキレが違ってくることが多いでしょう。こうした生活の細部が、トレーニングの質を徐々に底上げしてくれます。

まとめ:完璧より、続けられる最適化

栄養補給の正解は、一冊の教科書ではなく、その日のあなたのスケジュールと体調の中にあります。運動前は消化の良い炭水化物と適量の水分、運動中は必要に応じて少しの炭水化物と電解質、運動後はたんぱく質20〜40g+主食で回復を前に進めるといった骨格を押さえておけば、細部は各自で調整可能です[6]。忙しい一日でも、コンビニでの選び方、保温マグの中身、帰宅後の一杯で、身体は応えてくれることがあります。明日の自分に何を残したいかを思い浮かべながら、今日の一口を選んでみてください。続けるほど変化を感じる人が増えるでしょう。

参考資料として、国際的なスポーツ栄養の共同声明や学術レビューが、ここで紹介した数値の根拠になっています。たとえば、American College of Sports Medicineの運動時の水分補給に関するポジションスタンド(2010)[5,8,9]、International Society of Sports Nutritionの栄養タイミング(2017)[6]とカフェイン摂取(2021)[4]のポジションスタンド、脱水とパフォーマンスの関係を扱ったレビュー[3,7]、ならびに厚生労働省による国民健康・栄養調査[1,2]などです。原典は英語(一部)ですが、気になる方は原著に当たってみてください。

参考文献

  1. 厚生労働省. 令和4年 国民健康・栄養調査(調査の概要・結果のポイント). https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_45540.html
  2. 生活習慣病予防のための情報サイト(厚労省資料まとめ). 国民健康・栄養調査 令和4年(2022)運動習慣者の割合. https://seikatsusyukanbyo.com/statistics/2024/010768.php
  3. King MA, Baker LB. Dehydration and Exercise-Induced Muscle Damage: Implications for Recovery. Sports Science Exchange 207, 2020. https://www.gssiweb.org/sports-science-exchange/article/dehydration-and-exercise-induced-muscle-damage-implications-for-recovery
  4. Spriet LL, et al. International Society of Sports Nutrition position stand: Caffeine and exercise performance. J Int Soc Sports Nutr. 2021;18:1. https://jissn.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12970-020-00383-4
  5. Sawka MN, et al. ACSM Position Stand: Exercise and Fluid Replacement(解説記事). Medscape. https://www.medscape.com/viewarticle/717055_6
  6. International Society of Sports Nutrition. Position stand: Nutrient timing. Int J Sport Nutr Exerc Metab. 2017;27:S1. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5596471/
  7. INSEP/OpenEdition Books. Dehydration decreases athletes’ performance(レビュー). https://books.openedition.org/insep/1928?lang=en
  8. Medscape(ACSM水分補給ガイド 解説・運動中の飲水目標). https://www.medscape.com/viewarticle/717055_6
  9. Medscape(ACSM水分補給ガイド 解説・脱水とナトリウム欠乏/低ナトリウム血症). https://www.medscape.com/viewarticle/717055_6
  10. 厚生労働省・文部科学省. 日本人の食事摂取基準(2020年版). (公的基準文書)

著者プロフィール

編集部

NOWH編集部。ゆらぎ世代の女性たちに向けて、日々の生活に役立つ情報やトレンドを発信しています。