オメガ3脂肪酸とは——EPA・DHA・ALAの違い
日本の魚介類消費は2001年から2020年で約4割減少という水産庁の白書データがあります(最新の白書では2001→2022で約45%減)[1]。魚離れが進む一方で、40代にかけて中性脂肪や血圧がじわりと上がりやすいことも、国内の疫学データで示されています。研究データでは、魚やサプリに含まれるオメガ3脂肪酸(EPA・DHA)を日常的にとる人ほど、心血管の指標が良好になりやすい関連や、無作為化試験での効果が報告されてきました[2]。編集部でも打ち合わせ帰りのランチで「最近、赤身肉ばかりだったかも」とハッとする瞬間が増えています。だからこそ、オメガ3脂肪酸の効果を、数字と日常の実感を行き来しながら、言い過ぎずに整理しました。
「オメガ」は脂肪酸の分類の呼び名で、体内で作れない必須脂肪酸を含みます。オメガ3脂肪酸には、青魚に多いEPAとDHA、植物由来のALA(亜麻仁やえごま、くるみなど)があり、性質とはたらきに違いがあります。EPAとDHAは体内で直接使われやすい一方、ALAは体内でEPA・DHAに変換されにくいのが現実です。研究データでは、ALAからEPAへの変換は最大でも一桁台(〜8%)、DHAへの変換はさらに低い(おおむね0.02〜4%)とされています[3]。だから植物性のオイルだけで十分量をまかなうには工夫が必要になります。
もうひとつの背景として、現代の食生活ではオメガ6脂肪酸(大豆油やコーン油など)に偏りがちです。両者のバランスが崩れると、体内で起こる炎症のスイッチが入りやすくなることが知られています。難しい話に聞こえますが、要は、毎日の食卓で「魚とナッツ・種実類を少し増やす」「精製油の使いすぎを見直す」という、地味だけれど続けやすい調整が、体のめぐりを穏やかに保つ近道になるということです。
体で何が起きるのか——細胞膜・炎症・ホルモンの話
細胞の外側を形づくる膜には脂肪酸が組み込まれていて、ここにオメガ3脂肪酸が十分に入ると、膜の柔らかさや情報伝達のしなやかさが高まります。研究データでは、EPA・DHAが体内で炎症性の物質を穏やかにし、逆に炎症を鎮める“リゾルビン”などの生成を後押しすることが確かめられています[4]。これが、関節のこわばりや月経にともなう痛み、肌のゆらぎに間接的な落ち着きをもたらす理由のひとつです。
40代の変化とオメガ3脂肪酸の関係
ゆらぎ世代では、睡眠の質や気分の波、脂質プロフィールの変化が同時多発的に起きやすくなります。医学文献によると、EPA・DHAは中性脂肪を下げる方向に働き[5]、血圧をわずかに下げる効果も示唆されています[6]。また、PMSや月経困難の痛みについては、オメガ3脂肪酸をとる群で痛みの自覚が弱まった試験が報告されています[7,8]。編集部でも、昼の集中力が落ちる日こそ、サバ缶と玄米のおにぎりに変えるだけで、夕方のだるさが軽くなったという“実感”の声がありました。ただし、これはあくまで生活全体の積み重ねの中にある変化だと理解しておくのが現実的です。
どこまで期待できる?オメガ3脂肪酸の効果をエビデンスで読む
心血管リスクに関しては、観察研究で魚を週に1〜2回食べる人は、ほとんど食べない人に比べて冠動脈疾患による死亡リスクが低い関連が繰り返し報告されています[9]。一方、サプリ単独での一次予防効果は控えめで[2]、処方レベルの高用量EPAを必要とするような高リスク群で明確な効果が出る、といった条件付きの結論が増えています[5]。過度な期待よりも、日々の食事の中で着実にとる発想が現実的です。
中性脂肪に対しては、EPA・DHAを1日2〜4gほどに増やすと、15〜30%の低下がみられる臨床試験が複数あります[5]。これは医師の管理下で用いる量に近いので、セルフケアではまず食事から250〜500mg/日のEPA+DHAを確保し[10]、検査値が気になる人は医療者と相談しながら追加を検討する順番が安全です。血圧については、1日2〜3gのEPA+DHAで収縮期血圧が数mmHg下がるというメタ解析が報告されており[6]、積み上げれば意味のある差になります。
メンタルのゆらぎやPMSの痛みでは、EPAを比較的多く含む組成ほど、軽度の改善が報告されやすい傾向が示されています[7,8]。ただし、効果の大きさは小〜中程度で、睡眠、運動、鉄・ビタミンDの状態など、他の要因と合わせて整えるほうが体感が出やすい印象です。肌の乾燥やかゆみについても、バリア機能の指標がわずかに改善した報告はありますが、スキンケアや湿度管理と併せて考えるのが現実的です。
数値で考える“ちょうどいい”目安
一般的なウェルビーイング目的なら、EPA+DHAで1日250〜500mgが世界的な目安のひとつです[10]。食事で言えば、脂ののった魚を週に2回ほど。サプリを使うなら、製品の表示でEPAとDHAの合計量を確認し、1日の合計がこの範囲におさまるように調整します。8〜12週間ほど続けると、検査値や体感に小さな変化が出始める人が多いという報告があります[5]。
サプリと食事、編集部の現実解
忙しい日はサプリが心強い味方になりますが、まずは食事でベースを作るのがコスト面でも満足感でも優位です。焼き鮭100gでEPA+DHAはおよそ1〜1.5g、サバなら1.5〜2gほど[9]。これに、朝のヨーグルトにくるみ、サラダに亜麻仁油やえごま油をティースプーン1杯足すだけで、ALAも踏まえた総量が底上げされます。サプリを選ぶなら、酸化対策が施され第三者機関の検査を受けたもの、1日あたりのEPA+DHAが把握しやすい表示のものを選ぶと失敗が少なくなります。
今日からできる取り入れ方——台所とコンビニで完結させる
朝は、プレーンヨーグルトにくるみを一握り、仕上げに亜麻仁油を小さじ1/2たらします。ALAは熱に弱いので加熱せず、冷たい料理に使うのがポイントです。昼は、コンビニやスーパーで手に入りやすいサバ缶やサーモンのスモークを選び、玄米おにぎりやサラダと合わせます。夜は、塩鮭やサバの塩焼き、刺身の日を週に1〜2回作り、他の日は鶏むねや豆腐に置き換えて脂質の総量を調整します。えごま油や亜麻仁油は遮光瓶のまま冷蔵で保存し、開封後1〜2か月で使い切ると風味も栄養も損ねにくくなります。
家族の好みに合わせるなら、みそ汁にサバ缶を丸ごと入れて具だくさんにしたり、鮭ときのこのホイル蒸しにレモンを搾って香りを立たせるのも続けやすい工夫です。外食が続く週は、刺身定食や寿司でリカバリーする日を1回作ると、オメガ3脂肪酸の総量を上手に取り返せます。ベジタリアンの人は、亜麻仁・えごま・チアシード・くるみを日替わりで回しながら、必要に応じて海藻由来DHAのサプリを少量プラスするのが現実的です。
注意点と安全性——知っておくと安心な話
魚の摂り方では、水銀の観点から大型魚を毎日続ける必要はありません。サーモン、サバ、イワシ、サンマなどの中小型魚を選べば、オメガ3脂肪酸と安全性のバランスがとりやすくなります。サプリは、胃のむかつきや魚特有の後味が気になる場合があるため、食後に分けてとると負担が軽くなります[5]。血をサラサラにする薬を使っている人や手術前後の人は、サプリの開始・中止タイミングを必ず医療者に相談してください。欧州食品安全機関は、一般的な成人におけるEPA+DHAの合計で1日あたり最大5gまでの長期摂取は安全とみなせるとしています[11]が、セルフケアの範囲では前述の目安量で十分です。
よくある疑問に答えます
「いつとればいいの?」という質問には、食後にとると胃腸の負担が少なく、吸収も安定しやすいと答えています[5]。朝や夜のどちらがよいかは、続けやすさで選ぶのが最適解です。「どのくらいで効果が出る?」には、検査値の変化は8〜12週間、肌や気分の変化はもっとゆっくりというのが実感に近く、睡眠・運動・ストレスケアと掛け合わせるほど体感は出やすくなります[5]。“オイルは太る?“には、量が過ぎれば当然余剰エネルギーになりますが、精製度の高い揚げ油を少し減らし、ドレッシング用に少量の亜麻仁油へ置き換える発想なら、むしろ食後の満足感が上がって間食が減る人もいます。
さらに深掘りしたい方は、編集部の栄養連載「中性脂肪とコレステロールの基礎」や、「更年期の栄養戦略」、食べ方の工夫をまとめた「コンビニで叶えるスマートたんぱく質」、睡眠との関係を扱った「眠りを育てる食べ方」も参考になります。
まとめ——“無理なく、続けて、ちょうどよく”
劇的な魔法を求めるより、今日の献立と小さな習慣を積み重ねることが、ゆらぎ世代の私たちには現実的です。魚を週に1〜2回、ナッツや亜麻仁油を日常に1さじ、必要な人はサプリで250〜500mg/日のEPA+DHAを整える。そんな地味な選択の連続が、数か月後の検査値や体の軽さにつながります。もし中性脂肪や血圧、PMSの痛みが気になっているなら、まず1週間だけでも食卓を少しだけ変えてみませんか。続けるほど、からだは静かに応えてくれます。
参考文献
- 水産庁. 令和5年度 水産白書 第1節「我が国の食用魚介類の消費量は減少傾向」. https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/wpaper/r05_h/trend/1/t1_f_1_1.html
- Abdelhamid AS, Brown TJ, Brainard J, et al. Omega-3 fatty acids for the primary and secondary prevention of cardiovascular disease. Cochrane Database Syst Rev. 2020; (3):CD003177. doi:10.1002/14651858.CD003177.pub5
- Drobner T, Braun TS, Kiehntopf M, et al. Evaluation of Influencing Factors on Metabolism of Land-Based n-3 Polyunsaturated Fatty Acids—The KoALA Study. Nutrients. 2023;15(20):4461. doi:10.3390/nu15204461
- Tułowiecka N, Izdebska U, Sokołowska B, et al. The Role of Resolvins: EPA and DHA Derivatives Can Be Useful in the Prevention and Treatment of Ischemic Stroke. Int J Mol Sci. 2020;21(20):7628. doi:10.3390/ijms21207628
- Skulas-Ray AC, Wilson PWF, Harris WS, et al. Omega-3 Fatty Acids for the Management of Hypertriglyceridemia: A Science Advisory From the American Heart Association. Circulation. 2019;140(12):e673–e691. doi:10.1161/CIR.0000000000000709
- Zhang Y, Zhuang P, He W, et al. Association of Omega-3 Fatty Acid Intake With Blood Pressure: A Dose–Response Meta-Analysis of Randomized Controlled Trials. J Am Heart Assoc. 2022;11(13):e024342. doi:10.1161/JAHA.121.024342
- Ziaei S, Salari Z, Kazemi A. Effect of omega-3 fatty acids on premenstrual syndrome: A systematic review and meta-analysis. J Obstet Gynaecol Res. 2022;48(9):2364–2372. PMID:35266254
- Sajadi B, Shirbeigi L, Dehghan M, et al. Omega-3 long chain polyunsaturated fatty acids as a potential treatment for reducing dysmenorrhoea pain: a systematic literature review and meta-analysis. Food Funct. 2023;14(8):5329–5337. doi:10.1039/d3fo00342e
- Mozaffarian D, Wu JHY. Omega-3 Fatty Acids and Cardiovascular Disease: Effects on Risk Factors, Molecular Pathways, and Clinical Events. J Am Coll Cardiol. 2011;58(20):2047–2067. doi:10.1016/j.jacc.2011.06.063
- European Food Safety Authority (EFSA). EFSA advises on the safety of omega-3 fatty acids. Press release, 27 July 2012. https://www.efsa.europa.eu/en/press/news/120727
- EFSA Panel on Dietetic Products, Nutrition and Allergies (NDA). Scientific Opinion related to the tolerable upper intake level of eicosapentaenoic acid (EPA), docosahexaenoic acid (DHA) and docosapentaenoic acid (DPA). EFSA Journal. 2012;10(7):2815. doi:10.2903/j.efsa.2012.2815