
更年期太りの正体を知る——数字で見る現実
研究データでは、閉経移行期に平均で体脂肪が1〜2kg増え、内臓脂肪は 20%以上 増えやすいと報告されています[1,2]。さらに、医学文献によるとエストロゲン低下や筋肉量の微減に伴い、安静時の消費エネルギーが1日あたり約50〜100kcal下がる可能性が示唆されています[2]。体重計の数字よりも静かに進む体組成の変化——それが「更年期太り」の正体です。期待と不安が同居するこの時期に、完璧主義では続きません。だからこそ、毎日の食べ方を少しずつ積み上げていく方法に現実解があります。編集部は国内外の研究を横断的に確認し、無理なく続けられる食事の工夫に絞って整理しました。
更年期太りは気合いの問題ではありません。研究データでは、エストロゲンの低下が脂肪の分布を変え、皮下脂肪よりも内臓脂肪が増えやすくなる傾向が示されています[1]。同時に、年齢とともに筋肉量がわずかに減り、基礎代謝が落ちやすくなります[2]。つまり、昨日までと同じ量を食べていても、体は少し余らせやすくなるということ。ここで大切なのは、カロリーを極端に減らすのではなく、筋肉を守り、満足感を保ちながら余剰を生まない「配分」と「質」と「タイミング」を整えることです。
エストロゲン低下と内臓脂肪——つき方が変わる
医学文献によると、閉経前後では同じ体重でもウエスト周りが増えやすく、体脂肪率が同程度でも健康リスクが高まりやすいと示されます[1]。内臓脂肪の増加はインスリン感受性を下げ、いわゆる「食後に脂肪として貯めこみやすい」状態を招きやすくなります[1]。ここに睡眠不足や慢性的なストレスが重なると、食欲調節ホルモンが揺らぎ、甘いものや精製された炭水化物を選びやすくなる悪循環が起きます[3]。だからこそ、食事のバランスを整えつつ、夜の食べ方と睡眠の質をリンクさせる視点が欠かせません。
小さな差が積み上がる——日100kcalの扱い方
例えば、代謝の低下が1日50〜100kcalであっても、積み上がれば数カ月で脂肪に変わり得ます[2]。反対に、その差を埋める工夫は大きな我慢でなくて十分です。ご飯を小盛りにして代わりに汁物と野菜を足す、夕食の油を小さじ1だけ減らす、間食をヨーグルトや豆腐に置き換える。こうした選択を積み重ねれば、体はちゃんと反応します。重要なのは、空腹を我慢しないこと。満足感を支える栄養を確保して、自然に摂取量が整う状態を作っていきます。

食事戦略1:たんぱく質を「毎食」確保する
更年期太りを防ぐ食事の土台は、筋肉を守ること。研究データでは、筋タンパク合成を高めるには1食あたりおよそ20〜30gのたんぱく質が目安とされます[4]。1日の総量としては体重1kgあたり1.0〜1.2gが現実的で、体重55kgなら55〜66gがレンジになります[5]。ここで大事なのは、夜だけで稼がず、朝・昼・夜に分けること。朝にしっかり摂るほど、その日1日の食欲が安定しやすく、間食の暴走を防ぎやすくなります[6]。
朝食でエンジンをかける——最初の25g
高たんぱくの朝食は、満腹ホルモンの分泌を助け、次の食事までの間食を自然に減らす傾向があると報告されています[6]。卵とヨーグルトだけでは不足しがちな日は、納豆や豆腐を足す、前夜の鶏むね肉や鮭を少量取り置く、あるいはオートミールに牛乳ときなこを合わせるなど、和洋をまたいだ組み合わせで25gに近づけます。パンが好きな場合は、チーズやゆで卵、スモークサーモンを添え、食物繊維の多いサラダや果物を一緒に。食後の満足感が続けば、結果的に総摂取量は整います。
大豆と魚を軸に——続く選択を増やす
大豆食品は手軽で脂質が穏やか、さらに発酵させた納豆や味噌は腸内環境にも寄与します。研究データでは大豆イソフラボンが更年期症状の一部に穏やかに働く可能性が示されており、体重そのものへの直接効果は限定的でも、食べ続けやすい主菜として価値があります[7]。魚は高たんぱくでn-3系脂肪酸が豊富。揚げ物よりも焼く、蒸す、煮るを選び、調理油は最小限に。平日は大豆、週末は魚や鶏むね肉というように、無理なく回せる「自分ルール」を作ると続きます。

食事戦略2:炭水化物と脂質は「質」と「タイミング」で整える
更年期の体は、血糖の山を低く、緩やかに保つほど脂肪をため込みにくくなります。精製度の低い炭水化物に置き換え、食物繊維と一緒に食べることで、食後の血糖が急上昇しにくくなります[8]。昼までに活動量が確保できる日は、主食をしっかり摂り、夜は控えめに[9]。夜遅くの高脂肪・高糖質の食事は体重管理や代謝の面で不利になりやすいので、楽しむ日は翌朝のバランスで帳尻を合わせれば十分です[10]。
食物繊維は18〜20g/日を目安に
食物繊維は満腹感を底上げし、腸内細菌を育てて食後血糖の安定に寄与します。日本人女性では少なくとも18g/日以上を目安にし、可能なら25g/日以上を視野に入れるとよいとされています[11]。白い主食をすべて置き換える必要はなく、昼のご飯を半分だけ雑穀にする、夜は汁物に野菜ときのこ、海藻を重ねる、といった積み上げで十分に届きます。果物は朝か昼に。みかんやりんごの「まるごと食べる」スタイルは、余分なカロリーを増やさずに満足感を生みます。サラダには豆類を混ぜて、たんぱく質と繊維を同時に確保しましょう。
脂質は置き換えで賢く——量は小さじ単位で意識
脂質は質の選択で差が出ます。バターや加工肉の飽和脂肪を減らし、オリーブオイルやナッツ、青魚の不飽和脂肪に寄せるのが基本です[12]。とはいえ、油は大さじ1で約110kcalとエネルギー密度が高いので[13]、調理では小さじ2を上限に意識するだけでも十分です。サラダにナッツを散らす日はドレッシングを控えめに、炒め物の油を減らした日は鶏皮を外すこだわりを緩める、といった全体最適で無理なく整えていきます。

食事戦略3:タイミングと環境を味方に——夜を軽く、続けやすく
身体の時計は食事のタイミングに反応します。研究データでは、朝〜昼にエネルギーを寄せ、夜を軽めにする配分が体重管理に有利と示されます[14,9]。加えて、極端でない時間制限食(タイム・リストリクテッド・イーティング)は、更年期の生活にも馴染みやすい方法です[15,16]。重要なのは、厳格さではなく、翌日に持ち越さないリカバリーの習慣を持つこと。楽しむ日があっていい。その翌日を整える仕組みを決めておくと、ブレは小さくなります。
「早めの夕食」と12〜14時間の非摂食時間
就寝直前の食事は睡眠の質を下げ、翌日の空腹感にも響きます[17]。可能な範囲で就寝3時間前までに夕食を終え、夜から翌朝まで12〜14時間の非摂食時間を確保すると、朝の空腹が自然に戻り、食欲の波が整います[15,16]。例えば、20時に食べ終えたら翌朝は8〜10時まで固形物を控え、水分や無糖の飲み物で過ごします。朝食が遅くなる日は、昼と夜のたんぱく質をしっかり確保して、トータルの栄養を崩さないようにします。
行動を支える工夫——「選びやすさ」を設計する
続けるコツは、意志ではなく環境を変えること。冷蔵庫の見える場所に豆腐やヨーグルト、卵を置く。ご飯は小さめのお茶碗を定位置に。帰宅が遅い日は、野菜とたんぱく質を一皿で完結できる具だくさんの味噌汁やスープを先に用意しておく。編集部でも、夕食を軽めの一皿+スープに切り替え、寝る3時間前に食事を終えるルールを2週間試したところ、空腹感の暴走が減り、ウエスト周りの張り感が和らぐ実感がありました(※個人の感想であり、効果には個人差があります)。
また、食事の満足感は「見た目のボリューム」にも左右されます。大きめの器を避け、直径が小さい皿を使う。最初に野菜とスープで口を満たす。ゆっくり噛む時間を取り戻す。こうした小さな工夫は、摂取量の自然なコントロールに直結します。完璧ではなく「まあ、今日は6割できた」くらいで合格にして、翌日に続けることが何よりの近道です。

まとめ——「いま」の体に合う食べ方へ
更年期太りは、努力不足のバロメーターではありません。エストロゲンの低下、筋肉量の微減、睡眠やストレスの影響——複数の要因が重なるからこそ、食事はシンプルに。毎食のたんぱく質を確保し、炭水化物と脂質は質で選ぶ。食物繊維を積み上げ、夜は軽く、就寝の3時間前に食事を終える。そして、翌日に整える仕組みを用意しておく。これだけで、体は静かに応えてくれます。
**大きく削らず、賢く置き換え、そして続ける。**その姿勢が、数字よりも「自分の感覚」を取り戻してくれます。まずは次の買い物で、豆腐・卵・ヨーグルトのどれかを1つ多めにカゴへ。今夜は油を小さじ1だけ減らしてみる。明日の朝は、たんぱく質を意識して一品足す。小さな一歩が、数週間後のあなたの輪郭を変えます。
参考文献
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- Weight gain in women at midlife: a consequence of aging, menopause, or both? https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2748330/
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