なぜ今、35〜45歳で「骨」の話をするのか
日本では骨粗しょう症の推計患者数が約1,280万人(女性が大半)と報告されています[1]。医学文献によると、女性は閉経の前後数年で骨代謝が大きく変化し、閉経後5〜7年で骨密度が約10〜20%低下する可能性が示されています[2]。骨は日々作られ、壊されるサイクルを繰り返しますが、そのバランスが崩れると静かに弱くなるのが骨粗しょう症。痛みも自覚症状もないまま進むため、はじめてのサインが“転んだら折れた”という現実は珍しくありません[8]。編集部が各種データを確認すると、女性の生涯における脆弱性骨折のリスクはおよそ半数に達するという研究もあります[3]。きれいごとだけでは守れない“骨の未来”に、いまからできる現実的な一手。それが骨粗しょう症検査の重要性を理解し、動き出すことです。
研究データでは、骨量は20代でピークを迎え、その後は緩やかに低下し、閉経を境に減少スピードが速まることが知られています[2,7]。つまり、35〜45歳は“骨の現在地”を知るのにふさわしいタイミングです。仕事も家庭も加速するこの年代は、デスクワークや移動で屋内時間が長くなり、日光に当たる機会が減ることも珍しくありません。ビタミンD不足はカルシウムの吸収を妨げ、気づかないうちに骨に響きます[7]。
沈黙の進行を見える化する意味
骨粗しょう症は痛みのない期間が長く、違和感で見つけることは困難です。だからこそ、数値で見える化する検査が有効です。医学文献によると、骨密度の“出発点”を早めに記録しておくことは、その後の変化を追跡しやすくし、生活の見直しや治療の必要性をタイムリーに判断する助けになります[4]。体重が軽い、月経不順が長く続いた、家族に骨折歴がある、喫煙や多量の飲酒が続いている、ステロイド薬を長期内服している、甲状腺・副甲状腺の病気や関節リウマチがある——こうした背景がある場合、同年代でも骨のリスクは高まります[9,8]。自分はどの位置にいるのか、現実を測って確かめることは、怖がる行為ではなく、未来を守るための主導権を取り戻す行為です。
40代は“分岐点”。対策の効きやすさも違う
研究データでは、骨は負荷に応じて強くなる性質(機械的刺激への適応)を持ちます。筋力トレーニングやジャンプのような衝撃を含む運動は、適切な範囲で骨形成を促すことが示されています[2]。生活を変えれば、骨は応えてくれる可能性があるのです。変えるべき方向を、検査というコンパスで定める——その意味で、骨粗しょう症検査の重要性は、この年代にこそ現実味を帯びます。
骨粗しょう症検査の種類と正確さ
医学文献によると、診断と経過観察の標準はDXA(デキサ:二重エネルギーX線吸収測定)です[6,4]。腰椎や大腿骨近位部を数分で測定し、骨密度の国際指標であるTスコアを算出します。Tスコアが−2.5以下で骨粗しょう症、−1.0〜−2.5で骨量減少という定義が広く用いられています(最終的な診断は医師の総合判断)[4,6]。被ばくは非常に少なく、DXAの実効線量はおおむね20〜50 µSv程度で、日常生活で受ける自然放射線と比べてもごく小さなレベルです[5]。検査は痛みを伴わず、台に横になって数分静止するだけ。忙しい平日昼休みにも収まる程度の所要時間で終わることが一般的です。
超音波(かかと測定)は“ふるい分け”
健診やイベントで見かけるかかとの超音波測定は、放射線を使わず短時間で実施できる簡便な方法です。ただし医学的にはスクリーニングとしての位置づけで、診断や治療方針の決定にはDXAによる精密検査が推奨されます[6,4]。超音波で低値が出たら、落ち込む前に医療機関でDXAの予約をする。この二段構えが賢い使い方です。
FRAXという“将来リスク”の尺度
研究データでは、年齢や体重、家族歴、喫煙、ステロイド内服などの情報から10年以内の骨折確率を推定するFRAXというツールが有用とされています。骨密度データがなくても計算できますが、BMD(骨密度)を入れると精度が上がります。FRAXで一定以上の確率が示された場合、年齢にかかわらずDXA測定や治療介入の検討が合理的です[3,9]。自分の“将来の可能性”を数値で知ることは、先延ばしをやめる強い動機になります。
受けるタイミング・場所・費用の目安
いつ受ける?
多くのガイドラインで65歳以上の女性のスクリーニングが広く知られていますが、40代でもリスク要因があれば早期評価が推奨されています[3,4]。初回のDXAで現在地を把握し、結果が良好なら2〜3年ごとの見直し、骨量減少があれば1〜2年で再測定という運用が一般的です[4]。出産や授乳を経た直後、無月経が続く時期、体重が大きく変動した時期など、ホルモンや栄養状態が変わるタイミングもチェックの好機です[2]。
どこで受ける?
整形外科や内分泌・代謝を扱う医療機関、総合病院の画像センターでDXAが導入されています。健診センターでもDXAを選べる施設が増えています。健康診断で超音波の結果が気になったら、同じ施設や近隣の医療機関でDXAの精密検査を依頼してみてください。施設選びでは、腰椎と大腿骨の両方を測れるか、過去データとの比較(同一機種)に配慮してくれるか、といった点が安心材料になります[4].
費用と安全性
日本の医療保険では、医師が必要と判断した場合に保険適用となることが一般的で、自己負担は受診内容や負担割合によって変わります。自費での骨密度検査は数千円台から実施する施設もあります。DXAの被ばくは極めて低く、日常生活で受ける自然放射線のごく一部に相当するレベルです[5]。妊娠中や妊娠の可能性がある場合は事前に必ず相談し、時期や代替手段を医療者と検討しましょう。
より広い健康行動に結びつけるために、関連する基本知識はまとめて確認しておくと便利です。例えば更年期の体調変化についてはこちらの記事、たんぱく質のとり方はこちら、自宅でできるレジスタンストレーニングはこちら、睡眠の質の整え方はこちらが参考になります。
検査で終わらせない——今日から変えられること
食事と日光で“材料”を満たす
骨はカルシウムだけでできているわけではありません。骨基質の材料となるたんぱく質、カルシウムの吸収を助けるビタミンD、骨形成を支えるビタミンKなど、複数の栄養が足並みをそろえる必要があります[8]。日光はビタミンD合成の大切なスイッチ。季節や皮膚の状態に配慮しながら、短時間の屋外活動を生活に織り込む工夫が役立ちます[7].
骨を刺激する運動と、守る筋力
研究データでは、適度な衝撃をともなう運動(ジャンプ、早歩き、階段昇降)や、筋力トレーニングが骨密度の維持に有効であることが示されています[2]。スクワットやヒップヒンジ、カーフレイズのような全身運動は、骨だけでなく姿勢や代謝にも好影響をもたらします。フォームに不安があれば、最初は自重で少回数から。継続に自信がついたら、回数や負荷を少しずつ増やすという“漸進”の考え方が安全です。バランス感覚を鍛える片脚立ちやヨガは、転倒予防という観点からも価値があります。
睡眠・アルコール・喫煙という“見落としがち”な因子
睡眠不足は骨の健康に不利に働く可能性があります。アルコールの多飲や喫煙は骨密度低下や骨折リスク上昇と関連することが示されています[8]。完璧を目指すより、まずは平日の飲酒を減らす、寝室の光と温度を整える、喫煙本数を段階的に減らすなど、実行可能な一歩から始めてみてください。
よくある疑問に先回りして答える
痛くない?時間はかかる?
DXAは基本的に痛みがなく、着替えや説明を含めても短時間で終わります。メイクや食事の制限は通常ありませんが、金属の装飾品や厚手の衣類は外すよう求められる場合があります。
結果の見方は難しい?
出てくるのはTスコアなどの数値と、年齢平均との比較です。Tスコアが−2.5以下で骨粗しょう症という基準は目安として覚えておくと役立ちますが、骨折歴や身長の変化、服薬、慢性疾患の有無と合わせて解釈するのが“現実的な見方”[4,6]。数値が良くても繰り返し転ぶ状況であれば対策が必要ですし、数値が低くても筋力がつき転倒が減れば骨折リスクは下げられます。
40代で正常なら、もう受けなくていい?
答えはノーです。骨は動的な臓器で、ホルモン、体重、運動、薬剤などで状況が変わります。初回を基準に、変化の起こりやすい時期は1〜2年ごと、落ち着いていれば2〜3年ごとに再確認する考え方が現実的です[4]。ものさしは一つに絞らず、食事・運動・転倒の状況と“セットで”評価しましょう。
まとめ:未来の自分に贈る30分
骨粗しょう症は“静かな病気”ですが、放っておけば生活の質を大きく左右します。検査は数十分、効果は10年単位。この投資は、誰かの評価のためではなく、自分の体で働き続けたい、好きな靴で歩きたいというささやかな願いのためにあります。来月のカレンダーに、骨粗しょう症検査の予定をひとつ入れてみませんか。もし迷いがあるなら、まずはFRAXで自分の指標を出してみる、健診の超音波をDXAで確かめる、仕事帰りに予約だけ済ませる——そんな小さな一歩からで十分です。いま測ることは、未来を変えること。あなたの骨の現在地を、今日知りにいきましょう。
参考文献
- 生活習慣病オンライン(骨粗鬆症の統計・疫学)https://seikatsusyukanbyo.com/statistics/2024/010806.php
- Ramchand SK, David NL. Bone health in women across the lifespan. Endocrinol Metab Clin North Am. 2018;47(4): (PMC5799602). https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5799602/
- Compston J, et al. Osteoporosis: current state of knowledge and future research priorities. 2024. (PMC11874200). https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11874200/
- 日本骨粗鬆症財団(JPOS)「骨粗鬆症の検査と治療」https://www.jpof.or.jp/osteoporosis/inspection_treatment/tabid252.html
- IAEA Radiation Protection of Patients: DXA Bone Mineral Densitometry(患者向け)https://www.iaea.org/resources/rpop/health-professionals/other-specialities-and-imaging-modalities/dxa-bone-mineral-densitometry/patients
- 厚生労働省「骨量測定法と骨粗鬆症診断に関する記載」https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc2806&dataType=1&pageNo=1
- 群馬県立がんセンター「女性の骨の健康(更年期と骨量低下)」https://www.gh.opho.jp/hospital/15/2.html
- 群馬県立がんセンター「骨粗鬆症のリスク因子と生活習慣」https://www.gh.opho.jp/hospital/15/2.html
- 国立長寿医療研究センター「骨粗鬆症の薬物治療update(FRAX等)」https://www.ncgg.go.jp/hospital/iryokankei/letter/036.html