更年期の動悸・息切れが気になったら:危険サインの見分け方と今すぐできる5つの対処法

更年期に増える動悸や息切れに悩む35〜45歳の女性へ。なぜ起こるのか、注意すべき危険サインと受診の目安を解説し、呼吸法・軽い運動・睡眠改善・栄養・メンタルケアまで、今日から続けやすい具体的な対処アクションを分かりやすくまとめました。まずはできることから始めましょう。

更年期の動悸・息切れが気になったら:危険サインの見分け方と今すぐできる5つの対処法

なぜ起こる?更年期の動悸・息切れの仕組み

研究データでは、更年期に起こるホルモンの変動が自律神経のバランスを乱し、交感神経が優位になりやすいことが示されています[3]。体にとっては「今は戦闘モード」と誤認しやすい状態で、心拍数は上がり、胸のトクンとした跳ね返りを強く感じやすくなります。ホットフラッシュが起きると血管が一度に拡張し、その後の体温調節で心拍が速くなることもあります[5]。動悸そのものは無害なことが多いのですが、貧血や甲状腺機能の異常、心疾患など別の要因が隠れている場合もあるため、背景を見極める視点が大切です[6]。

ホルモンと自律神経、心拍の関係

エストロゲンは血管の柔らかさや神経伝達に関わり、減ってくると心拍変動(HRV)が低下しやすいことが報告されています[4]。HRVが下がると、心臓は一定の速いリズムになりやすく、少しの刺激でドキッと跳ねる感覚が増えます[7]。さらに、睡眠が浅くなる夜は交感神経が優位になりやすく、明け方に動悸が強まる人もいます[4]。ここで大切なのは、体の防衛反応が大きく出やすい時期だと知ること。その理解だけでも、恐怖のスパイラルは弱まります。

息切れの正体は、一つではない

息切れは運動不足による体力低下、姿勢や呼吸の浅さ、過換気気味の呼吸癖、貧血やアレルギー・喘息など複数の要素が重なることで起こります。中年期には有酸素能力が10年で約10%低下するとの報告もあり、階段での息切れは加齢とともに自然に増えます[8]。ただし、息切れの増加が急である、胸痛を伴う、めまい・失神を伴うなどの場合は原因検索が必要です[9]。

受診の目安と、見逃してはいけないサイン

胸の圧迫感や張るような痛みが10分以上持続する、冷や汗や吐き気、顎・肩・左腕への放散痛を伴う、安静時でも脈が1分間に120以上で落ち着かない、息が吸えないほどの呼吸困難、片側のまひやろれつが回らないなどの神経症状がある。これらは救急受診を考えるサインです[9,10,11]。そうでない場合でも、動悸や息切れが数週間以上反復する、日常生活に支障が出ている、月経の変化や体重変化、強い疲労、手の震え・暑がりなど甲状腺を疑う症状があるときは、婦人科や内科、循環器内科で相談してみましょう[6]。

見極める力をつける:セルフモニタリング

更年期の動悸・息切れは、その場限りの対処だけでなく、パターンを掴むことが予防につながります。まずは小さなメモから始めてみてください。症状が出た時刻、前後の出来事、カフェインやアルコールの摂取の有無、睡眠時間、月経状況、そしてそのときの脈拍数を記します。手首や首で15秒数えて4倍というシンプルな方法で十分です。1〜2週間続けると、会議前や夕方のコーヒーの後、寝不足の翌朝など、トリガーが見えてきます。見える化はコントロール感を取り戻す最初の一歩です。

家でできる“簡易検査”の考え方

朝起きてすぐの安静時心拍が普段より**+10拍/分以上**高い日が続くなら、交感神経の過活動や疲労がたまっているサインかもしれません。階段を上ったとき、会話がギリギリ続けられるかを目安に体力の現状をつかみ、苦しさの主観(0〜10)を日記に残します。夜の寝つきが悪い日は、日中のコーヒーやエナジードリンク、夕方以降の濃いお茶のタイミングを振り返ると、関連が見つかることが多いはずです[12]。月経が重い、氷や氷水が無性に欲しくなる、爪が割れやすいなどがあれば、貧血の検査も視野に入れてください[13]。なお、編集部の関連記事「鉄欠乏の基礎知識」や「更年期の睡眠の整え方」も併せて参考にどうぞ。

今日からできる対策(身体編)

緊張で高ぶった心拍を下げるには、体からのアプローチが即効性を発揮します。キーワードは、呼吸・リズム・睡眠・刺激のコントロールです。どれも特別な道具はいりません。

その場で効く、呼吸のリセット

いきなり心拍を下げようとするのではなく、息の吐き方を長くするのがコツです。椅子に浅く腰掛け、肩と顎の力を抜き、鼻から4秒吸って4秒止め、6秒吐く。これを1〜3分、静かに繰り返します。医学文献では、吐く時間を長めにする呼吸法が心拍変動を高め、交感神経の高ぶりを鎮めることが示されています[7]。ホットフラッシュが来たときも同様に、胸ではなくお腹がふくらむ程度の浅めの吸気から始めると続けやすく、1分でも体感が変わる人が少なくありません。習慣化したい人は、編集部の「マインドフルネス呼吸ガイド」も試してみてください。

“会話ができる速さ”で歩く時間を刻む

体力を戻すには強い負荷は不要です。研究データでは、中等度の有酸素運動(会話ができる程度の速歩)を1日合計30分ほど確保すると、数週間で息切れが軽くなりやすいと示されています[17]。まとまった30分が難しければ、10分×3回でも効果は期待できます。エスカレーターを一駅分だけ階段に置き換える、通勤で一駅手前から歩く、昼休みに社内を一周するなど、生活のリズムに組み込むと続きます。週末は少し長めの散歩を入れて、季節の空気を吸い込む時間を増やしてみましょう。運動の始めの数分は心拍が上がりやすいので、焦らずウォームアップを長めに取ると動悸の出現が減ります。関連して、やさしい運動の組み立ては「自律神経を整える運動」でも解説しています。

カフェインとアルコールを“時間で”管理する

カフェインは適量なら集中を助けますが、午後遅い時間の摂取は夜の頻脈や寝つきの悪さに直結しやすくなります[12]。しばらくの間は午後2時以降をノンカフェインにする実験をしてみて、体感の差を確かめてください。アルコールは寝落ちのように眠れても、夜間の覚醒と心拍の上昇を招きがちです[14]。週の半分は休肝日にし、飲む日は量を控えめに。水分はこまめに補い、汗をかく日やホットフラッシュが強い日は電解質も意識すると、心拍の乱れが落ち着く人がいます。マグネシウムやカリウムを含む食品(ナッツ、海藻、豆類、果物)を普段の食事に無理なく足すのも一案です。

睡眠を“起きる時間”から整える

睡眠の質は動悸・息切れの体感に直結します。研究では、就寝時間より起床時刻を一定に保つ方が体内時計を整えやすいと示されています[15]。就寝の90分前の入浴で深部体温を一度上げてから下げる流れを作り、寝室はやや涼しめに整えます[16]。画面は寝る30分前に閉じ、ベッドでは呼吸のリセットを1〜2分だけ[15]。夜間のほてりには、吸湿速乾の寝具や重ね着で微調整し、枕元に常温の水を置いて安心感を確保すると、夜中の不安が和らぎます。睡眠の整え方は「更年期の睡眠特集」も参考にしてください。

栄養の底上げ:タンパク質と鉄、そしてD

朝と昼に手のひら1枚分のタンパク質を入れると、午後のだるさや過食が減り、動悸のトリガーになりやすい血糖の上下が緩やかになります。月経が不規則でも経血が多い人は、鉄不足が動悸や息切れの一因になることがあります。自己判断のサプリに頼る前に、フェリチンなど血液検査で確認すると安全です[13]。日光時間が短い季節はビタミンDが不足しがちなので、魚、きのこ、卵などを食卓に。食事は完璧でなくて大丈夫。“足し算”で考えると続きます。

心と不安への付き合い方(メンタル編)

動悸は「体の火災報知器」のようなもの。危険がないのに鳴ってしまうことが、更年期には増えます。鳴ったら壊すのではなく、まずは音量を下げる。その役目を果たすのが、意味づけとスキルです。

不安のループを切る言葉と習慣

ドキッとした瞬間に「危険ではない、体のアラームが鳴っているだけ」とラベル付けし、さきほどの呼吸に移る。これだけで、恐怖→過呼吸→さらに動悸…のループは弱まります。次に、心配ごとは**“10分タイマー”**で紙に書き出し、時間が来たらいったん閉じる練習をします。研究では、認知行動療法的な「記録」「再評価」「行動実験」が、身体症状への恐怖を下げるのに有効です[18]。完璧にやろうとせず、今日は呼吸だけ、明日は10分タイマーだけ、と分散させてください。小さな成功体験が、次の一歩を軽くします。

仕事と家事の“現実解”を持つ

朝の会議前に5分だけ散歩を入れる、移動は一本早い電車にする、階段は途中で休むことを前提にする、今日はエレベーターに乗ると決める。こうした「先回りの配慮」が、体への負債を減らします。周囲には「今は更年期の症状で体調が揺れやすい時期」とシンプルに共有し、重要なプレゼン当日はカフェインの量やタイミングを意識して整える。大事なのは、引き算ではなく配分の発想です。できないことではなく、できる量を賢く使う。これだけで焦りは確実に薄くなります。

医療とつながる:科の選び方と検査のイメージ

相談先は婦人科、内科、循環器内科が入り口になります。問診では、いつから、どんな場面で、どのくらいの頻度で、脈はどの程度速いか、胸痛の有無、月経や体重の変化、カフェインや飲酒、服薬状況などを伝えます。検査は、心電図や24時間のホルター心電図、血液検査(貧血、甲状腺、電解質)などが一般的です[6]。治療は症状や背景に応じて、生活調整の継続に加え、必要に応じて薬物療法やホルモン補充療法、漢方などの選択肢が検討されます。医学文献では、個別化されたアプローチが最も満足度を高めるとされます[5]。迷うときは、今の悩みを一枚の紙に要約して受診に持参すると、限られた時間でも的確な相談につながります。

参考文献

  1. Zaidan H, Gopal M, Farkouh ME, et al. What do we know about palpitations in menopause? An integrative review. 2022. PMCID: PMC9797427. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9797427/
  2. 日本産科婦人科学会(JSOG)更年期障害Q&A. https://www.jaog.or.jp/qa/menopause/%E6%9B%B4%E5%B9%B4%E6%9C%9F%E9%9A%9C%E5%AE%B3%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6%E6%95%99%E3%81%88%E3%81%A6%E4%B8%8B%E3%81%95%E3%81%84/
  3. Park H, Brinton RD, Montoya A, et al. Menopause, palpitations and cardiac autonomic function: a review. 2021. PMCID: PMC8167994. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8167994/
  4. de Zambotti M, Colrain IM, Baker FC. Menstrual cycle, menopause, and cardiac autonomic control during sleep. 2016. PMCID: PMC4844776. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4844776/
  5. The North American Menopause Society (NAMS). 2023/2024 Position Statement: The 2023 nonhormone therapy position statement of The North American Menopause Society. https://www.menopause.org/
  6. 日本助産師会「よくある不調:動悸」診療のすすめ(受診先・検査の目安). https://www.jmwh.jp/n-yokuaru13-douki.html
  7. Lehrer PM, Vaschillo E, Vaschillo B, et al. Heart rate variability biofeedback increases baroreflex gain and peak expiratory flow. PLoS One. 2008;3(2):e. PMCID: PMC2387062. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2387062/
  8. Jackson AS, Sui X, Hebert JR, et al. Role of lifestyle and aging on aerobic capacity in adults: a longitudinal study/meta-analysis. 2012. PMCID: PMC3383141. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3383141/
  9. American Heart Association. Heart Attack Symptoms in Women. https://www.heart.org/
  10. NHS. Heart palpitations — When to see a GP/urgent advice. https://www.nhs.uk/conditions/heart-palpitations/
  11. American Stroke Association (AHA/ASA). Stroke warning signs and symptoms (FAST). https://www.stroke.org/
  12. 国立精神・神経医療研究センター(NCNP)睡眠コラム:カフェインと睡眠. https://www.ncnp.go.jp/hospital/guide/sleep-column14.html
  13. 厚生労働省 e-ヘルスネット「鉄欠乏性貧血」. https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/
  14. 日本大学医学部 板橋病院 睡眠センター コラム:アルコールと睡眠. https://www.itabashi.med.nihon-u.ac.jp/sleep_center/column.html
  15. American Academy of Sleep Medicine. Healthy sleep habits/sleep hygiene. https://sleepeducation.org/healthy-sleep/
  16. Haghayegh S, Khoshnevis S, Smolensky MH, et al. Before-bedtime passive body heating by warm bath/shower to improve sleep: Systematic review and meta-analysis. Sleep Medicine Reviews. 2019. https://doi.org/10.1016/j.smrv.2019.07.009
  17. American Heart Association. Recommendations for Physical Activity in Adults and Kids. https://www.heart.org/en/healthy-living/fitness/fitness-basics/aha-recs-for-physical-activity-in-adults
  18. NICE Clinical Guideline CG113. Generalised anxiety disorder and panic disorder in adults: management. https://www.nice.org.uk/guidance/cg113/

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編集部

NOWH編集部。ゆらぎ世代の女性たちに向けて、日々の生活に役立つ情報やトレンドを発信しています。