崩れの原因を知る:湿度・皮脂・摩擦のトライアングル
「マスクでメイクが崩れる」と答えた人は約7割という市場調査が複数報告されています[1]。さらに、研究データではマスク内の湿度は80〜90%に達することがあり[2]、温度も上昇し[3]、皮脂分泌が増えやすい傾向が示されています[4]。編集部が各種データと実地検証を重ねると、崩れの正体は汗や湿度だけではなく、マスクの擦れ(フリクション)[5]、スキンケアとベースメイクの相性、そして塗る順番と待ち時間の3つが絡み合って起こることが分かりました。とくに35〜45歳は乾燥とテカりが同居しやすいゆらぎ期。だからこそ、保湿は薄く・定着は丁寧に・摩擦は減らすというシンプルな原則を、今日から実践的なメイクで落とし込みます。
医学文献によると、肌表面の水分量と温度が上がると角層のバリアがゆるみ、油分のにじみ出しが増えます[8]。マスク内の高湿度環境はまさにそれを再現しており[6]、そこに不織布の物理的な擦れが加わることで[5]、ファンデーションやチークの薄膜が少しずつ剥がれ、マスク側へと移っていきます。崩れは「溶ける」よりも「擦れて取れる」現象が主体と考えると、対策の優先順位がクリアになります。
編集部のテストでは、スキンケア直後にリキッドファンデを重ねた場合と、60〜90秒待ってから重ねた場合で、マスク移りの差が目視で分かれました。前者は小鼻や口周りのヨレが早く、後者は密着が高まって移りが軽減。加えて、日焼け止めの油分が多いと、時間とともにベースが「浮く」印象が強まりました。つまり、塗る“量”と“待つ時間”の設計が、崩れにくいメイクの起点になります。
スキンケアの“油分過多”が午後のテカりを招く
朝の保湿は「与える」より「整える」に寄せます。水分はしっかり、油分は必要最小限。肌がもともと乾燥しやすい人ほどクリームを厚く塗りたくなりますが、マスク環境では逆効果になることも。しっとりはキープしつつ表面はさらり、と感じるまで手のひらで押さえ、余分なツヤはティッシュで軽くオフしてからベースに進むと、崩れの起点がひとつ減ります。マスク下は皮脂分泌やテカりが増えやすいという報告もあります[9].
摩擦との付き合い方を設計する
崩れは動く部分から起こります。頬の高い位置、鼻筋、口周り、そしてマスクのワイヤーが触れる鼻根部は、擦れと蒸れのダブルパンチ[5]。「よく動く・よく当たるところほど薄く、密着を高く」が基本です。厚みでカバーするより、薄く重ねて定着させるほうが結果として持ちがよくなります。
ベースメイクの最適解:薄膜・定着・耐擦れ
研究データでは、メイクの持続は「薄く均一な皮膜」と「粉体の適切な配置」で向上します。つまり、下地・ファンデ・パウダーの役割を重ねていく“膜設計”がカギ。編集部の検証で移りにくさが高かったフローは、スキンケア後に耐擦れ処方のUVをムラなくのばし、擦れやすい部分にだけ皮脂防止系のプライマーを薄くのせ、リキッドやクッションを点置きしてからスポンジでスタンプ塗り、仕上げに微粒子のルースパウダーを“のせて離す”イメージで定着させるやり方でした。
なお、日焼け止めの使用量は規定値に近づけるほど効果が安定します。顔全体なら、人差し指と中指にそれぞれ線を引いた量を目安にし、塗った直後にベースへ行かず“60秒待つ”ことで、ヨレにくさが変わります。紫外線対策の基礎は別記事「40代のための日焼け止め完全ガイド」でも詳しく解説しています。
ファンデーションは“点置き→スタンプ”で膜を崩さない
広げる動きより、置いて押さえる動きが摩擦を最小化します。まず頬の内側に米粒大を2〜3点置き、濃いところを中心にスポンジで叩き込み、外側は“何も足さずに”ぼかすと、薄く均一なグラデーションができます。小鼻や口角はスポンジに残った量で十分。厚みを感じるところは、清潔なスポンジの何も付いていない辺で数回押さえ、余分を回収します。
パウダーは“のせる→待つ→余分を払う”
粉は毛穴や皮溝に入り込む時間が必要です。パフに含ませてから軽く揉み、頬やTゾーンへやさしくのせます。10〜15秒待って粉が落ち着いたら、やわらかいブラシで余分を払う。このひと呼吸で仕上がりの持続が変わります。マスクに当たる鼻根や頬骨の上は、少しだけ重ねると摩擦に強くなります。
セッティングミストは“距離と量”が9割
アルコールが強いものは刺激になることもあるので、肌質に合わせて選びます。ボトルは顔から30センチほど離し、霧が均一にかかる距離で2〜3プッシュ。かけた後は触らず20〜30秒置くと、粉体が湿気を含んで密着し、膜の一体感が高まります。
ポイントメイク:目もとは強く、頬・口もとは賢く
マスク生活で主役になるのは目もとです。にじみにくい処方と、擦れに負けない配置を意識すると、全体の完成度が上がります。まゆは皮脂に強いペンシルやパウダーで、毛流れの隙間を埋める“点描”から始め、必要なら眉マスカラで色と形を固定。崩れやすい人ほど、最後に透明のコートを薄く通すと夜まで安心です。眉の基本設計は「大人眉の黄金比と描き方」も参考になります。
アイラインはまつ毛の“間”を埋めるだけで効果的。皮脂に強いジェルタイプを細く引き、目尻だけ2ミリ延長すると、マスク越しでも目力が上がります。マスカラは汗・涙・皮脂に強いフィルム系を根元でジグザグ、毛先はスッと抜くとダマになりにくく、上まぶたの影も作れます。アイシャドウはクリームやリキッドで薄いベース→パウダーで定着の順番にするとヨレづらくなります。
チークはマスクの当たらない位置に。目尻の延長線よりやや上、頬骨の高い位置から斜め上へシアーに広げると移りにくく、上気したようなハリを演出できます。クリーム×パウダーのレイヤー設計は特に強力で、クリームを薄く仕込んだら、上から近い色のパウダーチークをふわっと重ね、最後にごく少量のフェイスパウダーで縁をなじませます。
リップは色持ちにすぐれたティントやマットの薄膜が便利です。塗ってからティッシュの片面で一度オフし、必要なら上から無色のバームをごく少量。バームは唇の中央だけに置き、広げすぎないとマスク移りが激減します。マスク外すタイミングがある日は、色移りしにくい下地を使い、食後は唇を乾かしてから塗り直すとムラになりません。
一日中くずれにくくする習慣と、外出先の“静かなお直し”
まず家を出る前、マスクを着ける直前に手指の油分をオフしておきます。意外と見落とされがちですが、ベースを丁寧に仕上げても、最後に触れた指の油分でヨレのきっかけが生まれます。マスクは自分の顔幅と合うサイズを選び、ワイヤーを鼻根に沿わせてフィットさせると、動きの中での擦れが減り、頬の高い位置の色移りが軽くなります。肌あたりが気になる人は、肌側がなめらかな不織布や、内側に薄いシルクタッチのインナーを重ねると、摩擦のベクトルを和らげられます[5].
外出先でのお直しは、落とす・整える・足すを静かに連続させるイメージです。まずマスクで蒸れた部分にミストを一吹きして、ティッシュでそっと押さえます。これで粉っぽさと皮脂が均されます。次に、毛穴が気になる小鼻や口角へ、クッションファンデをごく少量だけスタンプ。広げず置く、を徹底します。最後に、崩れやすい鼻根と頬骨の上をルースパウダーで軽く面で押さえ、境目は大きめブラシで空気を含ませるように払うと、塗り直した感が出ません。ランチ後は口元も整えるタイミング。唇の油分や食べカスはティッシュでオフしてから、リップを中央→輪郭の順に薄く重ねると、きれいに復活します。
シーン別に考えると、在宅と出社で最適解は少し変わります。オンライン中心の日は、カメラ映えを意識して、Tゾーンはしっかり、フェイスラインは軽く。出社日は摩擦に強い仕込みを優先し、チークは高め、ハイライトは目頭と眉下だけに点で効かせるとマスク越しでも立体感が残ります。湿度が高い雨の日は、スキンケアの油分をさらに控えて、皮脂防止プライマーを小鼻と鼻筋だけに。乾燥しやすい冬のオフィスは、パウダー量をほんの少し減らし、セッティングミストで一体感を作る方が時間経過に強くなります。肌あれが気になる時は、まずスキンケアの見直しが近道です。長時間のマスク着用で角層バリアが揺らぎやすいこと、適切な保湿で回復が促されることも報告されています[7].
編集部の検証では、ベースを「下地なしのパウダー単品」「下地+リキッドのみ」「下地+リキッド+パウダー」の3パターンで比較したところ、軽い外出ではパウダー単品が最もマスク移りが少なく、会議や移動の多い日は下地+リキッド+パウダーのフル構成が総合点で上回りました。もちろん肌質や使用アイテムで差がありますが、共通して効いたのは、塗りすぎない・待つ・置く(擦らない)という振る舞いそのものでした。ベース選びで迷ったら、色選びとテクスチャの見極め方を解説した「大人肌のファンデの選び方」も参考になります。
よくある“惜しい”ポイントを1つずつ整える
時間がない朝ほど、工程を短縮して失敗しがちです。乳液やクリームを塗った直後の“ぬれツヤ”のままベースに突入すると、マスク内で蒸れて浮きやすくなります。ここでの1分の待機やティッシュオフは、日中の10回のため息を救う小さな投資です。また、パウダーの“磨き上げ”が強すぎると摩擦で土台がよれてしまうので、のせる→待つ→払うの順に、手数を減らして静かに仕上げることを意識してみてください。ベースが整えば、アイメイクや眉の印象も安定し、1日を通して清潔感が続きます。季節の変わり目は、肌の水分量も変動します。そんなときは、スキンケアの乳液量を1日おきに微調整するなど、“昨日と同じ”を少しだけ変える感覚が、崩れない日の連続につながります。さらに深く知りたい人は、保湿の基礎をまとめた「肌のバリア機能の整え方」もどうぞ。
まとめ:崩れにくさは技術。だから再現できる
マスクでも崩れないメイクは、特別な根性論ではなく、薄膜・定着・摩擦対策という再現性の高い技術の集合です。スキンケアは軽やかに整え、日焼け止めとベースは薄く置いて待つ。粉はのせて、ひと呼吸おいてから払う。外出先では、落とす・整える・足すを静かに連ねる。このリズムが手に馴染めば、会議の前も、夕方の駅のホームでも、鏡を見るたびに深呼吸できるはずです。明日の朝、どの工程をひとつだけ見直してみますか。最初の“1分待つ”からでも十分。小さな修正が、あなたの毎日の余白を取り戻してくれます。
参考文献
- 花王株式会社(2021)「マスク着用による肌状態の変化について意識を調査『敏感関連』『皮脂関連』…夏のスキンケア対策」PR TIMES. https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000035.000070897.html
- Kim J, et al. Mask microclimates under various seasonal conditions. PMC9349579. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9349579/
- Park SR, et al. Effects of prolonged face mask wearing on skin: temperature, redness, TEWL changes. PMC8359323. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8359323/
- Wang JV, et al. Skin Research and Technology. DOI:10.1111/srt.13214.(マスク着用下での皮脂・生理指標の変化に関する報告)https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/srt.13214
- Xue K, et al. Mechanical friction and occlusion-related skin changes with face masks. PMC9350148. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9350148/
- Rober M, et al. Seasonal differences in mask microclimate parameters. Skin Research and Technology. DOI:10.1111/srt.13193. https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/srt.13193
- Ghosh S, et al. Compromised skin barrier induced by prolonged face mask usage during the COVID‑19 pandemic and its remedy with proper moisturization. ResearchGate preprint. https://www.researchgate.net/publication/365762641_Compromised_skin_barrier_induced_by_prolonged_face_mask_usage_during_the_COVID-19_pandemic_and_its_remedy_with_proper_moisturization
- Rudd E, et al. Review: Skin hydration/temperature changes and barrier function. Skin Research and Technology. DOI:10.1111/srt.12992. https://doi.org/10.1111/srt.12992
- Li Y, et al. Mask-induced changes in sebum levels and skin physiology. Skin Research and Technology. DOI:10.1111/srt.13196. https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/srt.13196