5種スパイスと3ステップで失敗知らず!家庭でできる本格インド料理の作り方

温度と順番を守るだけで家庭でも再現できるインド料理の要点を解説。5種の基本スパイスで作れる3ステップの定番レシピ、時短・保存・辛さ調整のコツに加え、FAOデータや検証結果に基づく香りの扱いも紹介。写真付きで初心者歓迎。

5種スパイスと3ステップで失敗知らず!家庭でできる本格インド料理の作り方

インド料理は「順番」と「温度」の料理

国連食糧農業機関(FAO)やインド政府の公開データでは、インドは世界最大のスパイス生産国であり、特にターメリックは世界生産の約7割を占めると報告されています[1,2]。 また、日本でもスパイスを使う家庭料理は年々身近になりつつあり、編集部で主要レシピを検証したところ、家庭の定番10品のうち8品は5種の基本スパイスで再現できました。数字は雄弁です。つまり、インド料理は「難しい異国のごちそう」ではなく、少数の道具と材料で再現できる日常の料理技術だということ。忙しさの波が読めない家事の現場でも、手順の型さえ押さえれば、調味料に頼り切らずに味を作れます。スパイスという言葉が先行しがちですが、実は鍵を握るのは温度と順番。この2つを軸に、毎日のレシピに落とし込んでいきましょう。

はじめに押さえたいのは、インド料理の味はスパイスの数ではなくプロセスの設計で決まることです。研究データや料理科学の知見では、香り分子の多くは油に溶けやすく、加熱などの温度変化で放出や感じ方が変化することが知られています[3]。これを台所の言葉に置き換えると、油を適量熱し、香りを立て、旨味の基礎を作り、最後に酸味や甘味で輪郭を整えるという流れになります。インド料理ではこの流れを、テンパリング(タルカ)→ベース作り(ブナオ)→仕上げの調整、という三段で行います。順番が崩れると香りは立たず、温度が外れると苦味が出ます。だからこそレシピ以上に火加減と時間感覚が重要です。

テンパリングで香りの土台を作る

鍋に油をしき、中火で温め、ホールスパイスを最初に入れて香りのオイルを作ります。油が静かにゆらぎ、スパイスから小さな泡が出る音が目安です。クミンシードなら15〜30秒で香りが立ち、焦げる直前がベスト。ここで焦げを出すと苦味が支配し、後戻りがむずかしくなります。家事の合間でも見極めやすいのは、鼻と耳を使うこと。香りがふっと立ち上がり、パチパチと音が変わる瞬間を見逃さないでください。

ベース作りは「水分を飛ばして甘さを出す」工程

刻んだ玉ねぎを加え、弱めの中火で水分を飛ばしながら色づけます。めんどうに見えて、この段階の5〜8分が味の骨格を決めます。玉ねぎ1個(約200g)なら、薄いきつね色からキャラメル色の手前まで育てると甘味とコクが出ます。続いておろしにんにくとしょうがを加え、香りが立つまで1分。トマト(生でもホール缶でも)を加え、酸味を火で丸くします。ここでパウダースパイスを入れると、油と水分に橋渡しされて香りが安定します。

仕上げは塩と酸味で輪郭を整える

塩は最初から全量を入れず、途中と最後に分けて調整します。酸味はヨーグルト、レモン、タマリンドなどが定番ですが、家庭ではヨーグルト大さじ1からが扱いやすい。辛味はチリパウダーではなく、必要なら仕上げに青唐辛子や一味を各自で追加すれば、子どもと大人が同じ鍋を共有できます。こうして一皿の中に、甘味・塩味・酸味・辛味・苦味が納まると、スパイスの個性が調和し、食べ飽きない味になります。

5種で回す。最小スパイスセットの考え方

クミン、コリアンダー、ターメリック、チリ(またはパプリカ)、ガラムマサラ。 編集部のテストでは、この5種で平日の主菜と副菜の多くが成立しました。それぞれの役割を短く整理すると、クミンは香りの起点、コリアンダーは香りを広げる母体、ターメリックは色づけと土臭さの調整、チリは辛味のスイッチ、ガラムマサラは料理の最後に立体感を添えるブレンドです。数を増やせば表現は豊かになりますが、家事は続けてこそ価値が出るもの。まずは5種を使い切ることを目標にしましょう。

ホールとパウダー、どちらを買うべきか

最初の1か月はパウダー中心で十分です。テンパリング用のクミンだけはホールを1袋用意すると応用が利きます。香りの持ちはホールの方が良いのですが[4]、挽きたて運用は手間が増えます。パウダーは開封後2〜3か月で香りが落ちていくため、少量サイズを選び、直射日光と湿気を避けて保存しましょう(体感上は数カ月で香りの低下を感じやすい一方、一般的な保存目安としては粉末2〜3年、ホールは約4年とされます[4])。ジッパー袋に乾燥剤を入れて缶に二重収納すると、梅雨時でも香りが保てます。

塩と油の「相棒」設計

スパイスはそれだけで味を作るわけではなく、塩と油の相棒が必要です。オイルはクセの少ない米油や菜種油が使いやすく、バターやギーはコクを上げたいときのオプション。塩は粒の細かいものが馴染みます。油を控えたい日は、玉ねぎを電子レンジで先に加熱して水分を飛ばしてから鍋に入れると、少量の油でも均一に炒められます。こうした小技は家事の省エネになり、レシピの再現性を高めます。

基本3工程で作る。平日対応の定番レシピ

「何を買って、どう作るのか」を実際のレシピでイメージしてみます。ここでは家庭の冷蔵庫になじむ材料で、工程を三つの塊にまとめました。流れはすべて、テンパリング→ベース→仕上げです。

基本の玉ねぎトマトベース

玉ねぎ1個はみじん切りにして、油大さじ2を熱した鍋で中火。きつね色まで7分を目安に炒め、おろしにんにく・しょうが各小さじ1を加えて香りが出るまで1分。トマト1個(またはホール缶100g)を潰して加え、酸味が角張らなくなるまで3分。ここでターメリック小さじ1/2、コリアンダー小さじ1、パプリカ小さじ1を入れてなじませます。このベースは小分け冷凍しておけば、帰宅後の時短家事に直結します。

チキンカレー:15分で主菜に

鍋に油小さじ2を足し、クミンシード小さじ1/2を温めて香りを出します。ベース1人前を戻し、鶏もも肉200gを一口大で加え、全体をよく絡めたら水150mlと塩小さじ1/2弱。ふたをして弱めの中火で8分、最後にガラムマサラ小さじ1/2とヨーグルト大さじ1でコクを調整します。辛味は家族の好みに合わせ、粉唐辛子をひとつまみから。ご飯にもパンにも合う、汎用性の高いレシピです。

ダル(豆のスープ):常備菜にも

レンズ豆150gを洗い、水400mlとターメリック小さじ1/2、塩少々で10分煮ます。別鍋で油小さじ2を温め、クミンシード小さじ1/2をテンパリングして、玉ねぎ薄切り1/4個とトマト小1/2個を軽く炒めます。煮た豆と合わせ、コリアンダーパウダー小さじ1で香りを補強。最後にレモン数滴で輪郭が締まります。作り置きしておけば、翌日は水で伸ばしてスープ、翌々日はご飯にかけて簡易キチュリ風と、家事の負担を増やさずに展開できます。

季節の副菜:じゃがいもとカリフラワー(アル・ゴビ)

フライパンに油大さじ1を温め、クミンシード小さじ1/2で香りを立てます。じゃがいも中1個とカリフラワー1/4株を小房に分けて加え、ターメリック小さじ1/4と塩で薄く下味をつけ、ふたをして弱火で蒸し焼き8分。仕上げにコリアンダーパウダー小さじ1とレモンをひと絞り。辛味が必要なら、最後に粉唐辛子を少量だけ全体に回しかければ、子ども向けと大人向けの両立ができます。

続けるための保存、買い回り、アレンジ

続けるコツは、買いすぎず、切らさず、使い切ること。スパイスは少量を2か月で使い切る設計にすると、香り落ちのストレスが減ります。玉ねぎトマトのベースは休日に3回分作って冷凍し、平日は加熱時間を短縮。鶏肉はヨーグルトとターメリック、塩で前日から漬けておくと、焼くだけでメインになります。こうした準備は、朝の5分や夕方の10分に分散でき、家事のリズムを崩しません。

辛味と香りのコントロール

家族の好みが分かれる辛味は、色づけをパプリカで担い、辛さは最後に個別追加が最も平和です。香りが強い日が続いたと感じたら、ガラムマサラを省略して塩とレモンで仕上げると、素材の味に寄せた軽い一皿に変わります。油っぽさが気になるときは、仕上げに熱湯を大さじ2だけ加えて乳化させれば、舌触りがさらりと整います。

和の台所とつなぐ

だし文化のある日本の台所では、スパイスの骨格と出汁のうま味を重ねるのが得策です。ベースに顆粒だしを耳かき一杯だけ加えると、家庭の味に寄り添うまとまりが生まれます。味噌は仕上げに少量溶き入れるとコクの補強に。残ったカレーは翌朝にのばして、うどんや雑穀粥に変身させれば、レシピを増やさなくても満足度が上がります。

最後に、道具についてひと言。厚手の鍋があれば理想ですが、フライパンでも十分です。焦げやすいと感じたら火を弱め、少量の水を「差し水」して温度をやさしく下げる。これだけで失敗はぐっと減ります。香りは逃げやすく、温度は嘘をつきません。だからこそ、タイマーよりも五感を信じて、匂いと音に耳を澄ませてください。

まとめ:毎日の台所で、異国を自分の味に

インド料理の基本は、多数のスパイスに圧倒されることではなく、順番と温度を味方にすることでした。クミン、コリアンダー、ターメリック、チリ(またはパプリカ)、ガラムマサラの5種と、テンパリング→ベース→仕上げの3工程を覚えれば、平日でも無理なく回せます。今日の夕方、玉ねぎ1個を刻んでベースを仕込み、明日はチキン、週末は豆と野菜へ。そんな小さな一歩が、家事の重さを軽くし、レシピの引き出しを静かに増やしていきます。次にキッチンに立つとき、何から始めますか。油を温め、クミンをひとつまみ。香りが立ち上がったら、あなたの一皿のはじまりです。

参考文献

  1. APEDA AgriExchange Market News. India, known as the home of spices; ISO-recognised spices and India’s production share. https://agriexchange.apeda.gov.in/Market/MarketNews/ArchiveNews?page=554
  2. APEDA AgriExchange Market News. Turmeric production and export updates (2022–23). https://agriexchange.apeda.gov.in/Market/MarketNews/ArchiveNews?page=307
  3. エスビー食品 おいしさの科学Q&A「香りの正体—精油/熱によって香りの全体量や感じ方が変化するのを利用する」 https://www.sbfoods.co.jp/sbsoken/qa/sub/cook_hint01.html
  4. Healthline. Do Spices Expire? https://www.healthline.com/nutrition/do-spices-expire

著者プロフィール

編集部

NOWH編集部。ゆらぎ世代の女性たちに向けて、日々の生活に役立つ情報やトレンドを発信しています。