運動強度の設定方法(RPE・トークテスト・心拍数の3つの基準でわかる、短時間でも続けられる目安)

世界で約28%の成人が運動不足で、女性はさらに多め。RPE・トークテスト・心拍数の3つを使い、忙しい35〜45歳でも無理なく続けられる運動強度の目安と具体的な計算例、日常への落とし込みを丁寧に紹介します。

運動強度の設定方法(RPE・トークテスト・心拍数の3つの基準でわかる、短時間でも続けられる目安)

運動強度を決める意味――疲れすぎず、効果を逃さない

運動は強すぎればオーバーワークになり、弱すぎれば期待する効果に届きません。研究データでは、中強度以上の有酸素運動を積み重ねると心肺持久力の向上や生活習慣病リスクの低下に関連することが示されています[1,4]。けれど、仕事・家事・ケアに追われる35〜45歳の私たちに必要なのは、理想論ではなく、今日の自分で実行できる強度の線引きです。強度を言語化しておくと、短時間の運動でも「これは中強度だからOK」と評価でき、達成感が積み上がります。逆に眠りが浅かった日や生理前のだるさがある日は、あらかじめ強度設定を1段階落として継続を優先すれば、休止からの立て直しが格段にラクになります。

WHOは週あたり中強度150〜300分、または高強度75〜150分相当を推奨し、加えて週2回以上の筋力トレーニングを勧めています[3]。中強度を20〜30分の細切れで積み上げるだけでも目標に届くため、強度の目安を決めておく価値は大きいのです。

誰でも使える「3つの基準」――RPE、トークテスト、心拍数

運動強度は、大きく分けて主観、呼吸の感覚、心拍という3つのレンズで捉えられます。どれか1つだけでも十分使えますが、併用すると精度が上がり、体調が揺らぐ日でも安全弁が働きます。

RPE(自覚的運動強度)――数字で“きつさ”を言葉にする

ボルグのRPEスケールは、運動中のきつさを0〜10、あるいは6〜20で自己評価する方法です。研究では、RPEは心拍数や酸素摂取量と中程度の相関を示し、機器がなくても強度管理に役立つとされています[5]。実務では0〜10のほうが直感的です。軽い散歩が2〜3、早歩きで息が上がる感じが4〜6、会話が途切れがちになる走りが7〜8というイメージです。中強度はRPEでおおむね3〜6、高強度は7以上を目安にすると、感覚のブレを抑えられます[5]。

トークテスト――会話が続くかどうかで見極める

会話テストは呼吸の乱れ具合を指標にする簡便法です。データでは、普通に会話できる範囲は中強度に、短いフレーズしか話せない状態は高強度に相当しやすいとされています[4]。たとえば早歩きで3分続けて話題をつなげられるなら中強度、ジョグで返事が「うん、はい」程度に縮むなら高強度、と覚えておくと現場で迷いません。RPEと矛盾したら、体調が落ちているサインかもしれません。そんな日は中強度の下限に合わせて時間だけ確保し、無理をしない戦略が続けるコツです。

心拍数(%HRmax/心拍予備率)――目的に合わせて“ゾーン”を決める

数値でしっかり管理したい人には心拍が有効です。最大心拍数(HRmax)は一般に「220−年齢」で近似できます[6]。42歳ならおよそ178拍/分です。安静時心拍(朝、座位または横になって1分測定)をたとえば65拍/分とすると、心拍予備率(HRR)はHRmax−安静時心拍で113拍/分。中強度はHRRの40〜59%を安静時心拍に足した範囲、高強度は60〜85%が目安です[6]。つまり42歳・安静時65のケースでは、中強度の下限は65+113×0.40でおよそ110拍/分、上限は65+113×0.59でおよそ132拍/分になります。高強度なら65+113×0.60で133拍/分あたりからスタートし、上は65+113×0.85でおよそ161拍/分までが目安です。腕時計型の光学式でも概ね目安になりますが、汗や装着の緩みで誤差が出ることがあります。自転車やランのインターバルのように速い変動を追いたい場合は胸ベルト式が追従性に優れます。数分おきに手首の脈を30秒数えて2倍するアナログ計測も、機器が不安定なときのバックアップになります。

生活の中に落とし込む――具体的な設定と現実的な組み立て

基準が分かったら、日常の動きに合わせて強度と時間を設計します。まずは中強度を軸に、週150分をどう積み上げるかを描きます。たとえば平日に20分の早歩きを3〜4回、週末に30〜40分のサイクリングやジョグを1回。これで合計150分前後に到達します。雨の日や予定が詰まった日は、室内でRPE4〜5のステップ運動やダンス動画に置き換えても構いません。会話ができるか、心拍が中強度のゾーンに入っているかを確認しながら、同じ質を保てばOKです。

ランやバイクでパフォーマンス向上を狙うなら、高強度を短時間混ぜます。体が温まったあとに、RPE7〜8の努力感で1〜3分動き、同じ時間をゆっくり回復する流れを2〜6セットほど。週1回のスパイスとして入れるだけで、息が上がる領域への耐性がつき、基礎の中強度も楽になります。忙しい日は全セットをこなさず、最初の2〜3本だけでも十分です。高強度を取り入れる日は前夜の睡眠時間や脚の張りを観察し、違和感があれば潔く中強度に切り替えます。継続の視点で見ると、この柔軟性こそが最短距離です。

筋力トレーニングは週2回以上が推奨されますが、ここでも強度の考え方が役立ちます[3]。自重スクワット、ヒップヒンジ、プッシュアップの壁バージョンなど、フォームを崩さず10〜15回で効いてくる負荷が基準です。心拍のゾーンにこだわる必要はありませんが、種目間の移動をテキパキ行えばRPE3〜5ほどの有酸素的な刺激も得られます。時間がなければ“ながら”で分割しても効果は積み上がります。朝にスクワット、夕方にプッシュ、就寝前に体幹という具合に散らしても、週トータルのボリュームで身体は応えてくれます。

もし初動の一歩が重いなら、ウォームアップの工夫が効きます。最初の5〜10分をRPE2〜3のゆっくりした動きで始め、体温が上がったらRPE4〜5に上げていく。関節の可動域が広がり、トークテストも安定して中強度に収まりやすくなります。終わりの3〜5分は再びRPE2〜3に落とし、呼吸を整えながらフィニッシュ。次の日のだるさを残しにくくなり、また動こうという気持ちが途切れません。

より詳しく種目別の始め方を知りたい場合は、ウォーキングのフォームやシューズ選びを解説した「ウォーキングの始め方」、有酸素と無酸素の違いを整理した「有酸素運動と無酸素運動の基礎」、回復の質を高める「40代の睡眠リカバリー術」も参考になります。

揺らぐコンディションに合わせる――周期、睡眠、ストレス、環境

ゆらぎ世代の体はいつも同じではありません。生理周期の黄体期は体温が高く、むくみや倦怠感が出やすくなるため、同じ運動でも息が上がりやすく感じます[7]。そんなときはRPEの目標を1段階下げ、トークテストで会話が保てる運動を選びましょう。更年期のホットフラッシュや不眠が重なる時期も同様で、朝いちの安静時心拍が普段より高い日(たとえば+5拍/分以上が続く日)は負荷を軽めにする判断材料になります。睡眠不足の翌日は中強度の時間を短くして回復に振り、しっかり眠れた日に少し長めに動く。その小さな再配分が、長期の継続率を大きく押し上げます。

気温や湿度も強度体感を揺らします。暑い日は同じ心拍でもRPEが高く出やすいので、ペースより呼吸の感覚を優先し、水分と電解質を早めに補給します。寒い日はウォームアップの時間を長めにとり、体が温まってからゾーンに入れると怪我の予防になります。屋外が難しい日は室内の階段の上り下りや、その場足踏みでも十分に中強度へ届きます。音楽のBPMを120〜130に設定し、それに合わせて動くとリズムで強度が安定しやすく、気持ちのスイッチも入りやすくなります。

ウェアラブルを使う場合は、数日はいつもの運動をしながら自分のRPEとトークテストの感覚をメモし、心拍の数値と照らし合わせる“キャリブレーション期間”を設けると精度が上がります。光学式はバンドを指1本分内側に寄せ、装着をややきつめにし、汗を拭いながら使うと読みやすくなります。もし降圧薬やβ遮断薬など心拍に影響する薬を服用している場合は、心拍ゾーンではなくRPEとトークテストを中心に管理するほうが安全です[8]。体調や既往症に不安があるときは、かかりつけ医や運動指導士に相談しながら段階的に進めましょう。

仕上げに、毎週のふり返りをほんの数行で残しておくと、自己評価がブレません。「合計中強度〇分」「RPEの平均」「睡眠の質」の3点を書き留め、翌週の強度を微調整します。たとえば合計が120分だった週は、平日のどこかに10分の上乗せを配置。逆に仕事が立て込みそうなら、20分×2回に縮める代わりにRPEを1段上げて密度を保つ。そうやって暮らしの波に合わせて強度を動かしていくと、運動は“やるべきこと”から“自分のリズムを取り戻す時間”へと変わっていきます。回復系のケアを学びたい人は、就寝前ストレッチを紹介した「夜のストレッチで整える」もどうぞ。

まとめ――強度は“つまみ”。今日の自分で合わせればいい

強度設定は、がむしゃらに頑張るためのルールではなく、続けるための味方です。RPEで自分の感覚を言語化し、トークテストで呼吸を確認し、必要に応じて心拍ゾーンで数値を整える。基準は同じでも、最適解は日によって変わります。睡眠、周期、ストレス、天候。その日の自分に合わせて“つまみ”を回すように強度を調整すれば、週150分の中強度は現実的な目標になります。まずは次の1回、RPE3〜5の気持ちいい範囲から始めてみませんか。歩く、こぐ、踊る。あなたの好きな動きで、今週の最初の10分を積み上げてみてください。続けるほどに、体と気分が「ちょうどいい」を覚えていきます。

参考文献

[1] World Health Organization. Nearly 1.8 billion adults at risk of disease from not doing enough physical activity (News release, 26 June 2024). https://www.who.int/mongolia/news/detail-global/26-06-2024-nearly-1.8-billion-adults-at-risk-of-disease-from-not-doing-enough-physical-activity
[2] The Lancet Global Health. Worldwide trends in insufficient physical activity among adults between 2000 and 2022: a pooled analysis of 507 surveys (PMC11254784). https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11254784/
[3] World Health Organization (EMRO). Recommended levels of physical activity for health (Adults 18–64 years). https://www.emro.who.int/health-education/physical-activity/recommended-levels-of-physical-activity-for-health.html
[4] 厚生労働省. 身体活動・運動(健康日本21関連). https://www.mhlw.go.jp/www1/topics/kenko21_11/b2.html
[5] 公益財団法人 長寿科学振興財団(健康長寿ネット). 心拍数と運動強度/ボルグスケールとATポイントなどの目安. https://www.tyojyu.or.jp/NET/kenkou-tyoju/undou-kiso/shinpaku.html
[6] 公益財団法人 長寿科学振興財団(健康長寿ネット). 心拍数から運動強度を求める方法(カルボーネンの式). https://www.tyojyu.or.jp/NET/kenkou-tyoju/undou-kiso/shinpaku.html
[7] MSDマニュアル家庭版. 月経周期の仕組み(黄体期の体温上昇を含む). https://www.msdmanuals.com/ja/home/women-s-health-issues/biology-of-the-female-reproductive-system/menstrual-cycle
[8] NHS. Beta blockers. https://www.nhs.uk/conditions/beta-blockers/

著者プロフィール

編集部

NOWH編集部。ゆらぎ世代の女性たちに向けて、日々の生活に役立つ情報やトレンドを発信しています。