まず把握するのは「総額」。車は毎月の固定費になる
都市部の月極駐車場は月2〜4万円、コンパクトカーの年間維持費は条件次第で60〜100万円前後に達する——。複数の団体の試算や市場データが示す現実は、車が「モノ」ではなく「毎月発生する固定費」であることです[4]。燃料高[3]、車両価格の上昇、保険料の見直し[6]などを背景に、車購入は家計に与える影響がかつてなく大きくなりました。編集部が公開情報と一般的な前提を踏まえてモデル試算を行ったところ、購入方法や住環境、走行距離で年コストが大きく振れることがわかりました。なお、東京都の月極駐車場の平均は2024年9月時点で約1.79万円、郊外エリアでは1.25万円前後の地域もあります[1,2]。
きれいごとだけでは押し切れないのが現実です。子どもの送迎、親の通院、休日の移動の自由。必要性はある。でもローン、駐車場、保険、車検、タイヤ…支払いは容赦なくやってきます。だからこそ**「いま買うべきか」「何をどう買うか」を、見栄や憧れではなく数字と生活時間で判断する**視点が欠かせません。本稿は、35–45歳のゆらぎ世代に向けて、感情と数字のバランスが取れる車購入の賢い選択を、5年の総額思考で整理します。
編集部モデル試算:都心と郊外でここまで違う
仮に新車のコンパクトカーを300万円で購入し、年1万km走るケースを想定します。5年後の下取りを車両価格の約40%(120万円)と仮置きすると、減価は180万円。年換算で36万円です。燃料は実燃費15km/L、ガソリン170円/L前後[3]とすると、年約667Lで約11.3万円。自動車税・車検・点検・任意保険・消耗品を合わせて年15万円前後と見ます。
ここに駐車場代が乗ります。都心で月3万円なら年36万円[1]、郊外で月1万円なら年12万円[2]。つまり都心では36万(減価)+11.3万(燃料)+15万(維持)+36万(駐車)≒約98万円/年、郊外なら約74万円/年が目安になります。通勤に使う、週末しか乗らないなど実態で上下しますが、所有は毎月の固定費化するという感覚が大切です。
中古車だと構図は少し変わります。例えば5年落ち150万円で購入し、さらに5年乗って売却60万円を見込むと、減価は90万円(年18万円)。中古は整備や消耗品の出費が増えることがあるため年間維持費を**+5万円程度上振れで見積もっておくと現実的です。郊外であれば合計年50万円台**に収まるケースも少なくありません。
「使い方の現実」を先に描く
数字と同じだけ大切なのが、使い方の具体化です。保育園や学童の送り迎えで毎日短距離を走るのか、週末のまとめ買いと実家のケアで月数回の中距離なのか。カーシェア拠点が家から徒歩3分にあるのか、雨の日に子どもと荷物を抱えても現実的か。転居や転勤、子どもの進学で生活圏が変わる3年後の姿も含めて描くと、選択の幅が自然に絞られていきます。
買う・借りる・シェアする。乗り方別に「5年総額」で考える
新車・中古・リース・カーシェアは、どれが正解というより「あなたの走行距離×住環境×資金計画」で最適が変わります。各選択肢の軸は、初期費用の重さと、固定費の硬さ、契約の柔軟性のバランスです。
新車・中古・残価設定・リースのリアル
新車の魅力は安全装備や保証、計画的なメンテナンス。小さな子どもがいる家庭ほど恩恵を感じやすい一方、価格上昇の波は無視できません。残価設定ローンは月々の支払いを抑えやすい半面、走行距離やキズの基準、返却条件に縛りがあり、最終回で「乗り換え・返却・一括払」の判断が必要です。目先の月額の軽さだけでなく、最終回支払いまで含めた5年総額で比べるのが賢明です。
中古は初期費用が軽く、同じ総額でワンサイズ上の車や上位グレードを選べる余地があります。信頼できる整備記録、修復歴の有無、保証の手厚さで安心感は大きく変わります。5年乗り切る前提なら、減価が緩やかな分だけ総額が読みやすいのが利点です。
カーリースは税金やメンテ費込みの定額化がわかりやすく、家計の予見性を高めます。ボーナス月の増額や走行距離上限、返却時の原状回復費といった契約条項の理解が肝心です。買い切る気持ちが薄い、3年後に住環境が変わる可能性が高いなら検討余地はあります。
カーシェア/レンタカーという「第三の車購入」
所有か非所有かの二択ではなく、使う量が少ないなら「必要なときだけ借りる」は立派な車購入の選択肢です。例えばカーシェアを月2回、各3時間・走行20km使うと仮定すると、1回あたりの時間料金と距離料金を合わせても数千円に収まり、年合計は10万円前後のオーダーにとどまることが多いです[5]。都心の月極3万円と比較すると、固定費の軽さは明らかです[1]。平日も使う、雨の日の保育園送迎が多いなど日常ユースが濃いほど所有が有利になり、逆に週末レジャー中心なら非所有が合理化します。
EVシェアやミニバンを必要な日だけ借りるなど、用途に応じて車種を切り替えられるのも非所有の強みです。自宅に充電器がない、戸建てに移るか未定、といった過渡期には試し乗りとしても有効です。
支払いと保険を味方に。家計の「痛み」を最小化する実践
同じ車でも支払い方で総額は変わります。ディーラーローンは審査がスムーズな反面、金利が高めに設定されることがあります。銀行系のマイカーローンは年1〜3%台の低金利商品もあり、事前審査に時間をかけられるなら検討する価値があります。残価設定型は月額が軽く見えますが、総支払額は現金一括より増えるのが一般的。手元資金の安心と支払総額の増加、どちらを優先するかを家計全体で判断しましょう。なお、損害保険料率算出機構は自動車保険の参考純率の改定を公表しており、保険料は見直しの局面が続いています[6].
頭金を適度に入れると、毎月の返済だけでなく任意保険の車両保険設定額や金利負担にも影響が出ます。ボーナス併用払いは心理的に楽ですが、業績や働き方が変わる可能性があるなら一定のバッファを残すのが現実的です。50-30-20の予算ルールのようなフレームで、車関連を「固定費」に入れて試算しておくと、無理のないラインが見えます。
任意保険は「見直す・比べる・削らない」のバランス
保険料は年齢、運転者範囲、等級、車種で変動します。家族限定や運転者の年齢条件の最適化、対人・対物は無制限、車両保険は免責や補償範囲で調整、といった設計で家計と安心の落としどころを探ります。複数社の見積もりを取り、代理店型とダイレクト型の差を理解して決めると、納得度が上がります。見直しで数万円の削減に成功する一方、対人・対物の水準を落としてしまうと万一の「人生の損失」が大きくなります。削るより、**事故の頻度を下げる投資(安全装備・ドラレコ・タイヤ)**のほうがリターンが大きいと考えるのが編集部の立場です。
維持費は小さな積み重ねで変わります。不要なアイドリングを避ける、空気圧管理で燃費を保つ、安さだけでなく信頼できるスタンドや整備工場を決める。スタッドレスタイヤはオフシーズンを狙う、駐車場は徒歩を足して少し遠い場所を検討するなど、行動で効く選択は枚挙にいとまがありません。固定費サイドでは、固定費の見直しを同時に進めると、車関連の上振れを家計全体で吸収しやすくなります。
迷いが残るときは、この3点に立ち戻る
選択肢が多いほど悩みは深くなります。そんなときほど、目的・時間・予算という3点に立ち戻ると判断は進みます。目的とは「安全に子どもを運ぶ」「親の通院を支える」「仕事の移動を効率化する」といった具体的な役割です。時間は、平日の使用頻度、休日の遠出の回数、3年後のライフイベント。予算は、ローン・保険・駐車場を含めた月額と、車検やタイヤの年単位の支出。ここまでを一枚の紙に書き出し、5年総額で「いまの選択が未来の自由をどれだけ残すか」を比べます。
編集部の推奨はシンプルです。平日も日常的に使い、家族の安全・時間短縮の価値が高いなら、最新の安全装備が整った新車や状態の良い中古を無理のない金額で。使用が週末中心で、都心の駐車場が高額なら、カーシェアや短期リースで様子を見る。転居や転勤の可能性が高いなら、契約の柔軟性を優先する。この順番で絞り込むと、最善に近い解が自然に浮かびます。途中で家計にズレが出たら、サブスクの見直しや携帯料金のプラン変更など、他の固定費を組み替えて、車を守るのも現実的な戦い方です。
まとめ:数字で自分を守り、暮らしに自由を残す
車購入は、今日の喜びと明日の自由のトレードオフです。欲しい・似合う・ときめく——大切な感情を否定せずに、それでも最後は数字で自分を守る。編集部の試算が示したのは、住環境と走行距離で総額は大きく変わるという当たり前の事実と、5年総額で見れば「買わない」「借りる」も立派な選択になるという希望です。
いまのあなたの暮らしを一枚に描いて、月いくらまでなら心穏やかに払えるか、どの装備なら安心が増えるかを書き出してみませんか。次の週末、近所のディーラーで見積もりをとり、同条件で中古やリース、カーシェアの年額も並べて比較する。そこまでやれば、決断はもう恐くありません。あなたの時間と家計を守る一台(または「持たない」という選択)に、きっと出会えます。