がん保険は必要?35〜45歳女性が知るべき公的制度と見えない費用

2人に1人が罹患。高額療養費で治療費は抑えられても、先進医療の数百万円や差額ベッド代、通院費、育児外注、収入減など“見えない費用”が家計を圧迫。35〜45歳女性向けに、公的制度の範囲と保険の選び方を数字でわかりやすく解説。

がん保険は必要?35〜45歳女性が知るべき公的制度と見えない費用

いま考える理由:数字が示す現実と“見えない出費”

2人に1人ががんに罹患します[1]。医療の進歩で5年相対生存率は全体で6割超[1]に伸びています[2]が、治療と並行して家計と働き方の調整が必要になる現実は変わりません。編集部が公的データを読み解くと、治療費そのものは高額療養費制度で月の自己負担が多くの世帯で約8〜9万円に収まる一方[3]、先進医療の技術料[4]や差額ベッド代、通院交通費、育児・家事の外注、そして収入の減少といった“制度の外側”のコストが、見落とされがちな負担になっていました。さらに、先進医療のうち粒子線治療では数百万円規模の支出になるケースもあります[4]。

35〜45歳は、キャリアの中核にいながら、子育てや親のケア、住宅ローンなど固定費も重なる時期。保険料は未来へのチケットでもあり、いまの生活費を圧迫するコストでもあります。だからこそ「がん保険は入るべきか」を白黒で決めるのではなく、数字で仮説を立て現実に合わせて調整するスタンスが必要です。本稿では、公的制度で賄える範囲と実際に生じやすい出費の差、がん保険が機能しやすいケースとそうでないケース、そして選ぶ際の軸を、具体例とともに整理します。

医学文献や公的統計では、がんの生涯罹患リスクは男女計で約半数と示されます[1]。女性に限ると、乳がん・子宮頸がん・大腸がんなどが主要部位で、乳がんは女性で最も罹患が多く、40〜60代に山が来ます[1]。5年相対生存率は乳がんで9割前後と改善が進み[5]、治療と就労・子育てを両立する期間が長期化する傾向にあります。長く向き合うからこそ、医療費だけでなく生活費や働き方の設計が重要になります。

まず医療費の“天井”を確認します。高額療養費制度により、70歳未満で標準的な年収帯の自己負担は、1カ月あたりおおむね約8〜9万円を上限に、超過分は払い戻されます[3]。これは心強い仕組みですが、適用対象は保険診療部分に限られます[3]。差額ベッド代や個室料、食事代の一部、院内外の交通費、治療に伴うウィッグや肌着などのケア用品、育児や家事の外部化費用は自己負担です。さらに、先進医療の技術料は全額自己負担で[4]、代表的な粒子線治療では数百万円規模の支出になるケースもあります[4]。

次に収入面です。会社員・公務員は健康保険から傷病手当金を活用でき、休業開始から最長1年6カ月[7]、標準報酬日額の3分の2相当が支給されます[6]。実感値としては手取りの6〜7割に近い水準ですが、残業代や賞与は見込めず、勤務先の上乗せがなければ固定費の圧力は増します。自営業・フリーランスは制度が異なり、休業リスクはよりダイレクトに家計に跳ね返ります。この“収入の谷”に、前段の“制度の外側の支出”が重なると、数字上は黒字でも、現金の出入りが厳しく感じられるのが実情です。

編集部のシミュレーション:35歳、子2人、共働きの場合

仮に手取り年収600万円(本人)・同450万円(パートナー)、住宅ローン月12万円、教育費と習い事で月5万円、その他固定費で月13万円の世帯を考えます。本人がフルタイムを休職し、傷病手当金で手取り6割相当を受け取ると、本人の月収は約30万円からおよそ18万円に低下します。パートナーの収入は季節変動で月30〜40万円とし、平均35万円と仮置きすると、世帯手取りは月53万円程度です。ここからローンと固定費30万円、教育費5万円、日々の変動費10万円を支出すると、残りは8万円。入院や通院の月に高額療養費の自己負担上限約8〜9万円が発生すれば[3]、簡単にキャッシュフローはゼロ近辺に張り付きます。ここに差額ベッド代や家事外注、通院交通費が乗れば赤字に転じます。貯蓄でカバーできるならよいのですが、数カ月続くと心理的な負担は大きくなります。

このように、がん保険は“医療費の不足”というより、“収入の谷と生活コストの出っ張り”をなだらかにする緩衝材としての意味合いが強いと捉えると、検討の論点がクリアになります。

公的制度でどこまで賄えるか:高額療養費と傷病手当金のリアル

高額療養費制度は、あらかじめ支払った自己負担分に対して後日払い戻しがある仕組みです[3]。ひと月の窓口支払いは一時的に高くなり、戻りは翌月以降になることもあります。入院が長期化・連月化すると、上限を超えた分は戻るものの、キャッシュの先出しは避けられません。加入している健保に「限度額適用認定証」を事前申請しておけば、窓口での支払いを自己負担上限までに抑えることができます[3]。出費のピークをならすには、こうした事前準備が効きます。

適用外の支出は無視できません。差額ベッド代は地域や病院、病室タイプで幅があり、個室で1日数千円から2万円超まで散らばります。通院交通費は片道千円でも通院が月8回なら往復で1万6千円、数カ月で数万円単位になります。抗がん剤の副作用対策でスキンケアやウィッグを整えると、まとまった初期費用が発生します。自宅療養の日は光熱費や食費が上がることも珍しくありません。これらは「医療費控除」で一部取り戻せる可能性がありますが、タイムラグは避けられません。

収入側では、会社員・公務員の傷病手当金が大黒柱です。支給要件や算定基準は制度で定められており、支給額は標準報酬の約3分の2[6]。休業前に有給休暇や会社独自の病気休暇が使えるか、賞与の取り扱いはどうか、時短勤務に切り替えた場合の給与や評価はどうなるか、といった就業規則の確認も重要です。自営業・フリーランスは、民間の就業不能保険や貯蓄の厚みが直接の防波堤になります。

“保険はいらない”と言い切れない理由

高額療養費と傷病手当金の組み合わせで、標準的な入院・手術の医療費はある程度見通せます。それでも現実には、治療と生活の両立に伴う雑費、働けない・働きにくい期間の長さ、家族のサポート態勢によって、必要な現金のカタチが変わります。がん保険は、診断時にまとまった一時金を受け取るタイプ、通院や特定治療ごとに給付があるタイプ、先進医療の技術料をカバーする特約など、現金化のタイミングを設計できる点が強みです[4]。つまり、制度でカバーしにくいタイミングと費目をピンポイントで埋めるためのツールとして、価値が生まれます。

必要かどうかの見極めと、選び方の軸

結論から言えば、がん保険は「誰にでも必須」ではありません。十分な生活防衛費があり、勤務先の休業補償が手厚く、家族構成的にも家計の柔軟性が高いなら、公的制度と貯蓄の組み合わせで乗り切れる場面は多いでしょう。一方で、固定費が高く、子育てや介護で家事外注が必須になりやすい世帯、フリーランスや歩合制で収入の上下が大きい働き方、住宅ローンの繰上返済に回して手元流動性が薄い家計は、診断一時金で初期費用と収入減のショックを吸収できるメリットが生きやすくなります。

編集部が推奨するチェックの手順はシンプルです。まず、3カ月間に想定される固定費と変動費の合計を把握します。次に、同じ3カ月間に見込める収入(給与・傷病手当金・パートナーの収入)を引き算し、さらに高額療養費の自己負担上限と、想定される通院・生活関連の自己負担を上乗せします。ここで生じるマイナスが、あなたの家計が埋めたい“谷”の大きさです。この谷を貯蓄で埋めても生活防衛費が目減りしないか、心理的に安心できるか。そこで不安が残るなら、がん保険の一時金や通院給付で谷をなだらかにする設計が検討に値します。

選び方の軸は三つに集約できます。第一に現金化のタイミングです。診断直後に費用がかさむなら一時金重視、長期の通院が見込まれるなら通院給付や抗がん剤・放射線治療の給付を厚めにするなど、家計のキャッシュフローと合わせて考えます。第二に先進医療の備えです。先進医療の利用は部位や治療方針で限定されますが、技術料の自己負担は高額になりがちです[4]。特約で技術料相当をカバーできる設計にすると、意思決定の自由度が上がります。第三に保険料と持続可能性です。毎月の保険料が家計を圧迫すれば本末転倒です。定期型で必要な時期に集中して備えるか、終身型で長期の安心を買うか。貯蓄とのバランスを見ながら、5年に一度は見直す前提で組むと、ライフイベントに合わせやすくなります。

働き方や家族構成ごとに視点も変わります。共働きで子どもが小さい場合は、病児保育やシッター費、配食サービスに現金が流れやすく、診断一時金の機動力が役立ちます。単身やDINKSで貯蓄が厚いなら、先進医療と通院給付を薄く持つミニマム設計がフィットするかもしれません。フリーランスは、就業不能保険や貯蓄で収入の谷を埋めつつ、がん特化の一時金で“初動資金”を確保する組み合わせが現実的です。

編集部のケーススタディ:保障よりも“余白”を買う

40歳・時短正社員・子ども2人のAさんは、過去に医療保険のみ加入。職場の制度を確認すると、病気休暇は有給の枠が少なく、傷病手当金に移行すると世帯収入は月10万円近く下がる見込みでした。Aさんは、先進医療特約付きのがん保険で診断一時金100万円、通院給付1日5千円に加入。実際に乳がんと診断され、手術と治療で6カ月の時短勤務と通院が続きましたが、一時金で差額ベッド代や家事外注の初期費用をカバーし、通院給付で交通費と雑費を補填。貯蓄を大きく取り崩さずに済んだことで、治療の選択や子どもの行事への参加に心の余白が生まれたと振り返ります。これはあくまで一例ですが、がん保険の価値は“余白”の創出にあると編集部は考えます。

参考文献

[1] 国立がん研究センター がん情報サービス「がん統計:要約」https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html

[2] 国立がん研究センター プレスリリース「がんの生存率向上に関する報告(2016年7月22日)」https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2016/0722/index.html

[3] 厚生労働省「高額療養費制度」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/kougaku.html

[4] 厚生労働省「先進医療の概要」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/advanced.html

[5] 国立がん研究センター がん情報サービス「院内がん登録生存率合同集計(最新版):女性乳がんの5年相対生存率」https://ganjoho.jp/public/qa_links/report/hosp_c/hosp_c_reg_surv/latest.html

[6] 協会けんぽ「傷病手当金:支給額はいくらになりますか?」https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g6/cat620/r307

[7] 協会けんぽ「傷病手当金:いつまで受けられますか?」https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g6/cat620/r307

著者プロフィール

編集部

NOWH編集部。ゆらぎ世代の女性たちに向けて、日々の生活に役立つ情報やトレンドを発信しています。