40代が知らない「定年後も働く人の割合」と今から始める3つの準備ステップ

定年後も働く現実をデータで示し、40代からの準備が10年後の選択肢を左右する理由を解説。収入・健康・地域のつながりを踏まえた具体的ステップと今すぐ使えるチェックリストつき。

40代が知らない「定年後も働く人の割合」と今から始める3つの準備ステップ

定年は通過点。データで見る「働き続ける」現実

総務省「労働力調査」(2023年)では、60〜64歳の就業率はおおむね高水準で、女性も60%台に達しています。[1] さらに内閣府「高齢社会白書」では、65歳以降も「可能な限り働きたい」と答える人が多数派です。[1] 医学文献の領域ではありませんが、人口統計と経済データが示すのは、定年が「働く」からの卒業ではなく、働き方をシフトする節目に変わってきたという事実。編集部が各種データを横断して読むと、寿命の延び(女性の平均寿命は約87年)[5]と年金受給の開始年齢、企業の高年齢者雇用制度の広がりが、私たちのキャリアの“時間軸”を根本から引き延ばしている現状が浮かび上がります。[3,4]

一方で、現実はきれいごとだけではありません。収入の形は変わり、体力やケアの負担も増えます。キャリアの看板より、役立つスキルや地域とのつながりが効いてくる。だからこそ**「40代のいま」から準備を始めることが、10年後の選択肢の多さに直結**します。本稿では、データに裏打ちされた現実認識を土台に、定年後キャリアの設計図、働き方の選択肢、そしてお金・健康・ケアといった生活の前提条件まで、実務的に整理します。

研究データではありませんが、統計が語るのは明快です。総務省の最新データによれば、日本の高年齢層の就業は構造的に増えています。[2] 60〜64歳では男女ともに就業が一般化し、65〜69歳でも約半数が働く地域や職種は珍しくありません。[1] 背景には、年金だけに頼らない生活設計の必要性と、人手不足が続く労働市場の需給が重なっていることがあります。[2] つまり、需要と供給の両面から「働き続ける」ことが合理的になっているのです。

企業側の制度も変わりました。定年はなお多くの企業で60歳ですが、継続雇用制度で65歳までの就業機会を用意するケースは一般化し、[3] 70歳までの就業確保に向けた取り組みも広がっています。[4] 役割や処遇は変わるとしても、経験を活かす“場”は拡張している。この流れは短期では反転しません。したがって**「定年=キャリアの終わり」ではなく、「定年=働き方のリデザイン」**と捉え直すことが、最初の大事なマインドセットです。

寿命の延伸も無視できません。仮に65歳でフルタイムを終えても、人生はその後20年以上つづく可能性が高い。[5] ここで問われるのは、収入の持続可能性と、時間の使い方のデザイン能力です。編集部の視点では、三つのバランスが鍵になります。ひとつは収入と支出、次に健康(体力・メンタル・睡眠)、最後に関係資本(家族・友人・地域・オンライン)の均衡です。この三つが崩れると、続けたい働き方も続きません。

40代からの設計図:5つのステップで組み立てる

ステップ1:自分の棚卸しは「成果×再現性」で見る

職務経歴を時系列に並べるだけでは足りません。定年後キャリアでは、肩書きよりも「価値提供の再現性」が勝負になります。例えばマーケティング職なら、広告費をかけずに見込み客を増やした再現可能な方法、品質を落とさずに納期を短縮した手順、属人化をほどいてチームに移植できた仕組みなど、第三者が理解できる形で言語化しておくことが重要です。社内の評価ではなく、社外の誰かがお金を払ってでも使いたくなる具体性まで落とし込めているかを基準にします。

ステップ2:収入設計と時間設計を同じキャンバスで描く

キャリア計画は収入の表だけでは完成しません。いつ、どれくらい働くと、年間可処分所得はいくらで、どの程度の余白が生まれるのか。平日や早朝・夜間、週末の稼働可能な時間帯をカレンダーに置き、税・社会保険のライン(たとえば年収の壁)[9]も意識しながら配置していきます。ここで重要なのは**「収入の最大化」ではなく「持続可能性の最適化」**です。半年ごとに見直す前提で、まずは現実的な初期設定をつくりましょう。

ステップ3:学び直しは「短期で使う」「長期で効く」を両立

再就職や業務委託で効くのは、短期で価値化しやすい技能(たとえばデータ可視化、ノーコード自動化、業界固有の法規理解)と、長期でじわじわ効いてくる土台(ファシリテーション、ストーリーテリング、健康習慣など)の組み合わせです。資格を取るか迷う場合は、資格そのものの権威よりも、現場での適用機会がどれくらいあるかで判断します。学んだ内容をすぐ社内の小プロジェクトで使ってみる、SNSでアウトプットして反応を見るなど、学習と実践を近接させるほど定着が早まります。

ステップ4:小さく試して、早めに改善する

いきなり起業や転職で大きく賭けるのではなく、まずは社外メンター1人と定期的に対話する、知人の依頼でミニ案件を受ける、週に1回コミュニティに参加してニーズを観察するなど、生活に負担をかけない範囲の実験から始めます。小さな試行は失敗コストが低く、フィードバックが早いのが利点です。そこで得た反応をもとに、提供価値の焦点を1つ絞って深めていくと、次の受注や採用につながる“芯”が見えてきます。

ステップ5:ネットワークは「弱いつながり」を増やす

定年後キャリアでは、強い親密関係だけでなく、顔見知り程度の緩い関係が機会を連れてくることが研究でも知られています。[6] 社内と同業界に閉じず、異業種の勉強会、地域の場、オンラインコミュニティを混ぜて接点を広げましょう。名刺の数ではなく、相手にとってのあなたの一言の信頼度を上げるイメージです。日々の小さな貢献が、数年後の大きなオファーに化けることは珍しくありません。

働き方の選択肢とリアル:向き・不向きを見極める

継続雇用・再雇用:安心感と引き換えの裁量低下

同じ会社で働き続ける選択は、環境の変化が少なく、年金受給までのブリッジとして機能します。ただし、職務や賃金は見直されることが多く、裁量が狭まる現実もあります。向いているのは、組織の仕組みを熟知し、現場の暗黙知を形式知化して引き継げる人。向かないのは、ゼロからの創造やスピードある意思決定にやりがいを感じる人かもしれません。事前に「貢献できる領域」を言語化して交渉材料にすると、納得感のある役割設計に近づきます。

転職・再就職:専門性の転用が鍵

業界や規模を変えて再スタートする選択は、役割のリフレッシュ効果が大きい反面、マッチングの難易度は上がります。ここで効くのは、専門性の核を抽出し、別業界でも価値に変換できる言葉に直すことです。たとえば「対外調整に強い」ではなく、「複数の利害関係者の合意形成を3週間で着地させたプロセス設計」と具体化する。年齢バイアスを超えるのは、抽象的なポテンシャルではなく、転用可能な実績です。

フリーランス・業務委託:自律と不確実性のバランス

裁量や時間の自由度は高いものの、収入の変動と営業の手間は避けられません。契約、納期、範囲を明文化し、小さく始めて信用残高を積むのが定石です。会計・確定申告、保険の見直しなど管理業務も発生しますが、クラウド会計や契約のテンプレート化で労力は圧縮できます。向いているのは、自己決定がエネルギーになる人、提供価値を磨き続けることを楽しめる人です。

起業・スモールビジネス:問題発見力が勝負

華やかに見えても、現実は地道な検証の連続です。成功確率を上げるのは、情熱よりも問題の質。自分や身近な人が本当に困っていることに向き合い、支払い意思のある顧客が十分にいるかを確かめます。店舗や在庫が必要なモデルは固定費が重く、デジタルやコミュニティを使った軽量なモデルは身軽です。小さな売上でも、3〜6カ月で黒字化の目処が立つスキームを目標に設定しましょう。

パラレルワーク・複業:リスク分散と学習の場

本業を持ちながら、週数時間の副収入や社会活動を重ねる選択は、実験と学習の場として優秀です。異なる文脈に身を置くことで、視点が増え、定年後の主戦場の候補が見えてきます。重要なのは、燃え尽きない設計。稼働時間の上限を決め、四半期ごとに継続の可否を判断するリズムを持つと、長く続きます。

お金・健康・ケア。見落としがちな前提条件を整える

家計の“余白”をつくる:固定費と税・社会保険の理解

キャリアの選択はお金の流れとセットで考えます。固定費(住まい、通信、保険)を見直し、可処分所得の余白を増やすと、挑戦の選択肢が広がります。税や社会保険の制度は境目の数字が効くため、年収の壁や年金受給のタイミング[9]を理解し、年内の働き方を調整していく。ここでの最適化は短期の節約ではなく、長期の可動域を確保するための投資です。

健康は最大の生産性:睡眠と筋力への“地味投資”

研究データでは、十分な睡眠と継続的な運動が、加齢に伴うパフォーマンス低下を緩やかにすることが示されています。[7,8] 定年後キャリアでは移動や対面活動が増えることも多く、体力の基礎が効いてきます。睡眠の固定化(寝る時刻を揃える)、週2〜3回の筋トレや有酸素運動[7]、スクリーンタイムの整理といった地味な投資が、10年単位の持久力を生みます。体が整うと、判断も整い、機会に手を伸ばせるようになります。

ケアと住まい:時間資源の現実直視

親やパートナーのケア、子どものライフイベントは、時間の見取り図を大きく変えます。見通しが立たない不確実性こそ、早めの情報収集と役割分担で“仕組み化”を。地域包括支援センター[10]や事業所の見学、きょうだい間のコミュニケーション、通院動線と仕事動線の重なりの確認など、事前の下見が後の意思決定を軽くします。住まいについても、通勤・顧客訪問・オンラインの比率に合わせて、Wi-Fiや作業環境を整えておくと、急な機会にも乗りやすくなります。

ミニケースで考える:40代後半からの5年・10年計画

たとえば42歳、広告会社の企画職。社内では中間管理職としてチームを率い、家庭では小学生の子どもが1人。55歳で社内ポストは縮小していく見込みです。この人が目指すのは、地域の中小企業向けの「小さなデジタル活用伴走」。まず社内プロジェクトでノーコードの自動化を提案して成果を可視化し、その手順を記事やスライドにして外向けに発信。知人経由のスポット相談を月1件受け、料金表と契約書の型を整えます。2年目はオンライン講座や商工会議所のセミナーに登壇して、顧客の共通課題を特定。3年目からは、定期の伴走契約を2〜3件に絞り、週2日の稼働で基礎売上を作る。55歳時点で社内の稼働を減らしても、毎月の生活費の7割を外部収入で賄える形に到達する、という流れです。

もう一人は45歳、医療機関の広報。60歳での継続雇用はあるものの、裁量の縮小と賃金ダウンが予想されます。そこで、患者向けの情報発信と地域連携の経験を、ヘルスコミュニケーションの文脈に翻訳。医療ライティングの基礎と薬機法の表現ガイドを学び、病院ニュースを一般向け記事に変換する試みを始めます。1年目は監修者と組む制作の下請けから入り、2年目に地域の健康イベントの企画運営を請け負い、3年目以降は自治体や保険者の広報案件に広げていきます。60歳時点で再雇用と外部案件のポートフォリオを持ち、65歳以降は外部案件を主軸にするイメージです。

どちらのケースにも共通するのは、学び直しと小さな実験、そして発信を通じた信用づくりを、40代のうちから回し始めていること。キャリアの変化はある日突然ではなく、今日の小さな積み重ねの延長線にあります。

まとめ:今日の一歩が、10年後の自由を増やす

定年後のキャリアは、準備の量がそのまま選択肢の数になります。統計が示す通り、私たちはこれまでより長く働く社会に入っています。だからといって、がむしゃらに働き続ける必要はありません。棚卸しで価値の再現性を言語化し、収入と時間の設計を同じキャンバスに描き、学び直しと小さな実験で仮説を検証し、弱いつながりを増やしておく。どれも、今日から静かに始められることばかりです。

完璧なプランより、続く仕組み。あなたがいま手にしている時間の15分を、棚卸しのメモに使ってみませんか。5年後、10年後に「やっておいてよかった」と思える最初の一歩になります。もし迷ったら、近い将来の自分に問いかけてみてください。どんな一日を過ごしていたい? その答えが、次のアクションを教えてくれます。

参考文献

  1. 内閣府 高齢社会白書(令和5年版)第1章2節1(高齢者の就業と意識)
  2. 厚生労働省 令和6年版 労働経済の分析(労働白書)第2章第2節
  3. 厚生労働省(スタートアップ労働条件Q&A)「定年の年齢は60歳を下回ることができません(高年法8)」
  4. 厚生労働省 改正高年齢者雇用安定法「70歳までの就業機会確保の措置(努力義務)」
  5. 国土交通省 住宅局 さつきジャーナル「令和5年簡易生命表(2023年)平均寿命」
  6. Stanford University News「The strength of weak ties」(2023-07-24)
  7. World Health Organization. WHO Guidelines on physical activity and sedentary behaviour (2020).
  8. 厚生労働省 e-ヘルスネット「睡眠と健康」
  9. 厚生労働省「年収の壁・支援強化パッケージ」概要
  10. 厚生労働省「地域包括支援センターについて」

著者プロフィール

編集部

NOWH編集部。ゆらぎ世代の女性たちに向けて、日々の生活に役立つ情報やトレンドを発信しています。