40代女性が知らないと損する「年金の壁」3分チェック術

35〜45歳の女性向けに、106万・130万の壁や短時間労働者の厚生年金適用拡大など、働き方が年金に与える影響を3分で整理。今の選択が将来の受給額にどうつながるかをわかりやすく解説します。

40代女性が知らないと損する「年金の壁」3分チェック術

働き方と年金の基本を3分で整理

女性の就業率は35〜44歳でおよそ8割に達し、短時間労働者への厚生年金の適用は段階的に拡大しています[1,2]。統計が示すのは、働き方の選択が家計の現金収入だけでなく、将来の年金額と安心感に直結しているという事実です。編集部が公的資料や制度改正の動きを横断的に整理したところ、「いま、どのように働くか」には年金と密接な関係があり、しかもルールは静かに変わり続けていることが見えてきました。

専門用語は一度クリアにしておきましょう。年金は大きく、全国民共通の国民年金(基礎年金)と、主に会社員が上乗せで加入する厚生年金に分かれます。雇用形態や働く時間、会社の規模によって、どちらに加入するかが変わり、納めた保険料と加入期間が将来の受け取り額に反映されます。35〜45歳はキャリア・家族・健康のバランスが揺らぐ時期。だからこそ、働き方と年金の関係を軸に、今日の意思決定をアップデートしていきます。

加入区分と「壁」を理解する

まず、自分がどの区分かを言語化します。会社員として一定の条件を満たせば厚生年金(第2号被保険者)、自営業やフリーランスは国民年金(第1号)、厚生年金加入者に扶養される配偶者は第3号です。制度の要点はシンプルで、厚生年金に入ると将来の年金は増えやすいが、今の手取りは減りやすい、国民年金のみだと今の手取りは保ちやすいが将来の受け取りは小さくなりやすいというトレードオフです。

よく話題になる**106万円と130万円の「壁」**は性質が異なります。106万円は、週の所定労働時間が概ね20時間以上、月額賃金や学生でないこと等の条件と合わせて、一定規模以上の企業では社会保険(厚生年金・健康保険)に加入する目安として使われます[3]。130万円は、被扶養者として健康保険に残れるかの判断の目安です[3]。どちらも「ギリギリで調整すれば得」という話に見えますが、長期の年金額や保障を含めて損益分岐を考えると結論が変わることが少なくありません。

短時間労働者の適用拡大と会社規模

短時間で働く人の厚生年金加入は、段階的に対象が広がってきました[2]。週20時間以上、一定の賃金水準などの条件を満たし、かつ事業所の従業員数が一定以上の場合、パートやアルバイトでも厚生年金の対象になります[3]。会社規模の基準は拡大の方向にあり、2022年10月からは従業員数が常時101人以上の事業所、2024年10月からは51人以上の事業所へと拡大されました[2,4]。これから加入が必要になる人は増える見込みです。言い換えると、**「同じ働き方でも、勤務先が変われば年金の関係が変わる」**ということ。転職や副業の前後で、社会保険の扱いがどう変わるかを必ず確認しましょう。

受給開始年齢の選択肢と在職の影響

原則の受給開始は65歳ですが、繰上げ(早く受け取る)繰下げ(遅らせて増やす)の選択肢があります。近年の改正で繰下げの上限が拡大し、繰上げ受給の減額率は月0.4%に見直されています[6]。遅らせるほど増額率が積み上がる設計になりました[6]。一方、60歳以降に働きながら年金を受け取る場合は在職老齢年金の仕組みが関係します。賃金と年金の合計が一定額を超えると一部が支給停止になるため、「いつ・どれだけ働くか」と「いつから年金を受け取るか」は連動して考えるのが合理的です[5].

ケースで考える:私たちの働き方と年金の関係

パートタイムでの「壁」攻略は、短期と長期で分けて考える

たとえば年収を106万円の手前で調整し、社会保険加入を避けると、手取りはわずかに増えるかもしれません[3]。ただ、厚生年金に加入すると会社が保険料の半分を負担してくれる点は見逃せません。将来の年金額は、国民年金のみに比べて上乗せされやすく、健康保険の保障(傷病手当金や出産手当金など)も厚くなります。育児や介護でフルタイムが難しい時期でも、週20時間前後で厚生年金に入る選択は「いまの時間」と「将来の安心」のバランスが取りやすい現実的な解です[3].

一方で、家庭の事情で就業時間を増やせない、あるいは勤務先の規模要件に当てはまらない場合は、現状の手取りを守りつつ他の方法で将来の不足を補う設計が必要になります。ねんきんネットで将来見込みを可視化し、不足見込み額を積立NISAやiDeCoなどの長期積立で埋めるという発想です。制度は違っても、ゴールは**「老後のキャッシュフローを黒字で終える」**ことにあります。

正社員・時短勤務なら「免除規定」とキャリアの積み上げを味方に

産休・育休中の社会保険料は免除され、将来の年金額には不利にならない扱いが整っています[7]。つまり、子どもを持つ選択と年金の関係はトレードオフになりにくいよう制度設計が進んできました。時短勤務で賃金が下がっても、厚生年金を継続している限り、長い目で見れば加入月数と報酬に応じて年金額は着実に積み上がっていきます。キャリアの波に合わせて**「働き続けること」自体が最大の防御**になることを、まずは押さえておきたいところです。

フリーランス・個人事業主は「3枚重ね」で守りを厚くする

自営や複業中心で働くなら、公的年金は国民年金がベースになります。ここで効果的なのが、付加年金iDeCoの重ねがけです。付加年金は、国民年金に月数百円の上乗せで、将来の受け取りが増える制度。負担に対する増額効果が大きく、短期間で元が取りやすい設計です。さらにiDeCoで長期積立を行えば、税制のメリットと市場のリターンを活用して、不足しがちな上乗せ分を育てられます。時期によって売上が変動しやすいからこそ、**「小さく・長く・自動的に」**という設計が効いてきます。

35〜45歳から逆算する設計図:今日の選択が未来の年金を変える

まず「現状把握」—ねんきんネットで見える化

最初の一歩は、日本年金機構の「ねんきんネット」にユーザー登録し、自分の加入履歴・見込み額・不足期間を確認すること。ねんきん定期便でも見られますが、ねんきんネットなら最新情報やシミュレーションが可能です。編集部の検証では、現状を見える化するだけで、働き方や積立の意思決定がスムーズになる人が多く、モヤモヤは数字で言語化すると消えやすいと感じました。使い方の詳しいガイドは特集:ねんきんネット活用術も参考にしてください。

「壁」を越えるか守るか—損益分岐の考え方

106万・130万のラインは、年末のシフト調整を誘いがちです[3]。ただ、手取りの増減は「1年の静止画」、年金や保障の差は**「数十年の動画」**で効いてきます。厚生年金加入で会社が保険料を折半してくれること、健康保険の手当が手厚くなること、将来の年金額が上乗せされることを合わせて考えると、壁をあえて越える合理性が見えてきます。逆に、当面は扶養内を維持する戦略もあります。その場合は、免除や納付猶予の手続きを正しく行い、後から追納する余地をキープしておくと、将来の受け取りが細りすぎるリスクを抑えられます。

「未納」を作らない—種別変更と追納のルール

第3号から第1号・第2号への切り替え、転職や離職に伴う区分変更の届け出が遅れると、未納期間が発生し、受給資格や将来額に影響します。未納は放置せず、役所や年金事務所で相談を。免除・猶予を申請しておけば受給資格期間に算入され、原則として後から追納が可能です。ライフイベントの前後は、**「保険証と年金手帳(基礎年金番号)の棚卸し」**を習慣化しましょう。

受給時期と在職の最適化—60代の働き方も設計に入れる

繰上げは早く受け取れる一方で減額が長く続き、繰下げは受け取りを遅らせるほど増額が積み上がります[6]。健康・就労意欲・貯蓄の3点を軸に、家計のキャッシュフロー表で比較するのが着地点を見つける近道です。さらに、60歳以降も働く前提なら、在職老齢年金の支給停止の基準に触れるかどうかを、報酬と受給開始の組み合わせで試算しておくと安心です[5]。ここは将来の話に見えて、実は今日のスキル投資や人脈づくりと関係しています。60代で「働く選択肢」を持てるかどうかは、いまの準備が決めるからです。

今日からできる5つの実践:小さく始めて、続ける

1. 数字を手元に集める

給与明細、年間の見込み収入、勤務先の社会保険の適用条件、配偶者の加入状況。これらを一枚のメモにまとめるだけで、106万・130万の判断や厚生年金の加入可否がクリアになります[3]。ねんきんネットの情報と並べて、いまの「静止画」を完成させましょう。

2. シフトと保険の設計を同期させる

週20時間前後で働く人は、勤務先の規模や自分の賃金水準を踏まえて、厚生年金に入るかどうかを先に決めるのが合理的です[3]。加入する方針なら、年末に慌てて時間調整をするより、年初からシフトを安定させるほうが実務も家事も回りやすくなります。扶養内維持を選ぶなら、免除・猶予の手続きを確実にして、追納の余地を残します。

3. 自営は「付加年金+iDeCo」で自動化

波のある収入に対しては、小さく自動で積み上がる仕組みを先に作るのがコツです。付加年金でベースを厚くし、余力がある月だけiDeCoの拠出を増やす。家計の黒字化と老後資金の育成を同時に進められます。

4. ライフイベント前後は「種別変更チェック」

転職、結婚・離婚、独立、育休明け。イベントごとに第1号・第2号・第3号の区分が変わる可能性があります。届け出が遅れると未納が発生しがちなので、保険証の切り替えと同時に年金の手続きも確認。迷ったら早めに年金事務所に相談しましょう。

この一連の動きに慣れておくと、将来の在職老齢年金や受給開始時期の選択もスムーズ。60代の働き方を設計する準備が、今日の一枚のチェックリストから始まります。

5. 情報の拠り所を固定する

SNSの断片情報は便利ですが、最後は公的情報で裏どりする習慣を。厚生労働省、日本年金機構、自治体のサイトをブックマークし、年1回は改正点をチェックします。

まとめ:年金は「遠い話」ではなく、今日の働き方の一部

年金と働き方の関係は、思っている以上に日常的です。シフトを1時間増やす、勤務先を変える、区分の届け出を1週間早める。その小さな選択の積み重ねが、10年・20年後の受け取り額と安心につながります。いまの手取りと未来の受け取りは、二者択一ではありません。制度のルールを把握し、数字で意思決定すれば、両立の道は必ず見つかります。

モヤモヤしたら、ねんきんネットで数字を見て、家族と15分話す。それだけで舵は少し良い方向に切れます。次にとる行動をひとつだけ選ぶなら、自分の加入区分と勤務先の適用条件を今日中に確認してみてください。小さな一歩が、未来の自分へのいちばんのプレゼントになります。

参考文献

著者プロフィール

編集部

NOWH編集部。ゆらぎ世代の女性たちに向けて、日々の生活に役立つ情報やトレンドを発信しています。