色と素材で整える:ピーチ、赤、シアーと微光沢
Pantoneが発表した2024年の色は「Peach Fuzz 13-1023」[1,2]。さらにWGSN/Coloroも「Apricot Crush」を選定し、業界の二大機関が同系の温かなピーチトーンで重なる一年になりました[3]。偶然ではありません。4年に一度のパリ五輪でスポーツマインドが高まる一方、生活は可処分時間も気力も削られがち。前に進みたいのに頑張り一辺倒では続かない。そんなムードに、やさしく血色を添え、機能と美しさの折り合いをつける色と服が求められた—2024年のトレンドは、その文脈で読み解くとスッと腑に落ちます。編集部が国内外のコレクション、量販・ECの売れ筋動向、ストリートの着こなしを横断して見た結論はシンプルです。「やわらかな色」「賢い素材」「腰まわりに重心」「きちんと見えの再解釈」。この4枚のカードで、日常のスタイリングは驚くほど軽くなります。なお、働き手のウェルビーイングや柔軟な働き方への関心が高まるなか、装いにおける「快適×端正」の両立志向は世界的な消費者動向とも地続きです[6,7]。
色と素材で整える:ピーチ、赤、シアーと微光沢
2024年のカラーは温度と血色です。Peach FuzzやApricot Crushに象徴されるピーチ系は、白・グレー・ネイビーと合わせても浮かず、オンライン会議でも顔映えに直結します[1,2,3]。実際、編集部でピーチ寄りの薄手ニットを試すと、画面越しのくすみが和らぎ、チークに頼らなくても程よい明るさが出ました。年齢とともに強いコントラストが疲れて見える日には、肌の延長としてなじむ暖色が味方です。色彩・被服研究でも、衣服の色が印象形成や選好に影響することが示唆されています[4]。
色のもう一つの軸は赤とシルバー。赤は小面積の差し色としてバッグやリップ、シューズで効かせるのが現実的です。シルバーは五輪イヤーのスポーツコードと相性がよく、スポーティになりすぎないように微光沢のサテンやリブニットで受け止めると、プレイフルさと上品さが同居します。2024年はギラつくラメではなく、「光がとどまる」控えめな艶が主役。昼の光でも夜の照明でもフラットに見えないのが利点です。
素材はシアーとメッシュが継続し、肌を直に出さずに“抜け”を作る設計が進みました。インナーの工夫が前提になるため、透け感はトップスのレイヤードで取り入れるのが安心です。シアーなボレロやジレを無地Tに重ねるだけでも空気が変わります。対してボトムは体を受け止めるハリのあるツイルやテック素材が心地よい。ストレッチ混×撥水や接触冷感など機能付きのセットアップは真夏の移動にも強く、洗濯耐性が日常使いの決め手になりました。ハイブリッドな働き方の広がりとともに、通勤と在宅を横断できる「快適でスマート」な服が選ばれているという報道もあります[7]。加えて、アウトドア発の多機能素材の都市服への波及は、今後も継続トレンドと見込まれます[8].
シルエットの主役交代:腰まわり重心と足元の現実解
細いか太いかの二択から、2024年は腰まわりに量感を置きつつ裾はすっきりさせる方向へ。カーブドデニムやテーパード、コクーンスカートがまさにそれです。ヒップや太ももに余裕があり、足首や甲で抜けるため、働く日のスピードにも対応します。編集部の検証では、ハイウエストのテーパードに短丈ニット、あるいはジレを重ねると、横から見た時の腰位置が上がり、スニーカーでもきちんと見えが担保されました。重心を上げるのは筋トレではなく設計という発想が、今年のシルエットに息づいています。実際、ワークウエア分野の研究でも、衣服設計の工夫が着用時の快適性を高めうることが示されています[5].
スカートは膝が見えない長さが支持を集め、ほんのりバルーンの裾や斜めの切り替えで動きを出すものが実用的です。階段や自転車、保護者会の椅子に座るときも邪魔になりにくく、日常の段取りを邪魔しません。ショートパンツの拡大は確かにありましたが、35-45歳の日常に落とすなら、ロングジャケットの裾から数センチだけレイヤードが覗く設計で肌の分量を調整するのが現実解。見せるのではなく、透かす・覗かせるが2024年のキーワードです。
足元は二極化からの収斂が進み、メリージェーンとキトンヒール、そして薄いバレエフラットが復権。甲で留まるストラップは歩行時の安定感があり、低いヒールでも“ちゃんとして見える”視覚効果が高い。スニーカーはぽってりした厚底から、甲が薄く見えるローテク寄りに着地。ワイドボトムが腰重心になったため、足元で引き算するほうが今っぽく整います。
「きちんと見え」の再解釈:セットアップとQuiet Luxury 2.0
2024年はジャケット回帰が明確でした。ただし肩で威嚇する形ではなく、襟やゴージを細くして、袖の筒をわずかに細めたリラックス・テーラード。生地はウール調のトロピカルやドライタッチの合繊、家庭洗濯可のものが現実的です。上下を揃えたセットアップは朝の判断を減らし、会議と保育園の送迎を横断する日にも強い味方。同素材・同色の面積を増やすほど、値段以上に見えるのが今年の傾向でした。ハイブリッド出社の広がりで「快適かつ端正」な装いが求められるトレンドも報告されており、現実解としての説得力があります[7].
Quiet Luxuryは2.0へ。ロゴを消すだけでは物足りず、質感のグラデーションで静かな強さを作る方向へ進みました。例えば、マットなジャケットに微光沢のタンク、そしてレザーの細ベルト。アクセサリーはブローチの復活が象徴的で、リボンやフラワーモチーフも甘さを抑えた素材や配置で目にします。ほんのひとつのパーツで視線を止めると、SNSの高速スクロールに耐える“静止力”が生まれます。
バッグは大と小の両極から、A4が入るソフトトートと、手の中で収まるミニの二刀流が定番化。ミニは赤やシルバーで遊び、トートは黒・グレー・トープなどニュートラルで整えると、週の予定の揺らぎにも対応できます。ストールは大判の薄手が便利で、冷房と日差し対策を一本化。こうした**「道具としての美しさ」**が、2024年の“きちんと見え”を裏打ちしています。
生活の時間割に合わせて:シーン別の実装
在宅ベースの日は、カメラ越しに映る上半身の完成度を優先します。ピーチ系トップスか、白に近い明るいニットTにジレを沿わせ、耳もとに小さな艶を置く。ボトムはウエストが楽なテーパードやドロスト仕様でも、足首が見える長さにすると家事の切り替えがスムーズです。外出が差し込まれる日は、同色のセットアップにスニーカーを合わせ、バッグで赤やシルバーを一点だけ差します。フラットやキトンヒールに履き替えるだけで、終業後の食事にも移行できます。ハイブリッドな出社回帰で、快適性ときちんと感を両立させた日常着が支持を集める傾向は各国のライフスタイル報道からも読み取れます[7].
出社メインの日は、襟のあるシャツやボウタイの代わりに、ノーカラーのシャツジャケットを。ジャケットの堅さを残しつつ肩が凝りにくい。ボトムはカーブドデニムの濃色や、センタープレス入りのツイルを合わせて“デニムの顔をしたトラウザー”として運用すると、ドレスコードの幅を踏み外しません。雨予報の日は撥水のセットアップ、晴れた日の夕方はシアーの羽織りで照り返しを柔らげる、と天候の管理をスタイリングに織り込むと失敗が減ります。
週末は、バレエフラットにソックスを覗かせ、ロゴのないキャップやブローチで目線を上に誘導してバランスをとります。長時間の徒歩や公園のベンチに座る予定があるなら、裾に空気を入れるスカートか、膝に当たらない短丈のアウターを選ぶと快適です。セレモニーや学校行事には、ネイビーやチャコールの微光沢セットアップに、ピーチ系の小物やリップで血色を足すだけで十分華やか。**「全部を変えない。1か所だけ変える」**という小さな更新が、服の寿命も気持ちの機嫌も伸ばしてくれます。
買い足しの勘所:1色・1素材・1シルエットの更新
流行を全部追う必要はありません。むしろ、今あるワードローブの空白を一つずつ埋めるほうが、コストもクローゼットの余白も守れます。まず色ではピーチ系か赤の小物を一点。冬に向けてはグレーとの相性がよいので、黒の多い方ほど効果を感じるはずです。素材の更新は微光沢。サテンやシャイニーな糸を含むニットは、ジャケットの下でも主張しすぎず、光で“疲れ”を飛ばす役割を果たします。シルエットは腰まわりに余白を持つテーパードかコクーンを一本。手持ちのトップスの丈が合わない場合は、短丈のカーディガンやジレを添えて、比率を整えるだけで今の空気に変わります。
編集部のクローゼットを見直したとき、結局よく着るのは“段取りを邪魔しない服”でした。子どもの送り、デスクワーク、取引先の打ち合わせ、夕方の買い出し。予定の合間を縫って自分の機嫌を保つには、服が味方であること。2024年のトレンドは、がんばりすぎない仕立ての良さと生活速度に合う機能を両立させるための道具箱でした。
2024年の先に続くムード:静かな更新を積み重ねる
年末から2025年序盤にかけては、鮮やかな赤やシルバーの勢いは少し落ち着き、グレーやトープ、インクブルーの静かな中間色がベースに戻ってきます。そこにピーチやバターイエローの体温のある色が少量差し込まれる見込みです。ブーツは細身のロングよりも、ふくらはぎの中間で止まるミディ丈が実用的。ボトムのボリュームと靴の筒の太さの“隙間”を意識して、足首周りの空気をコントロールすると、持っている服がもう一度活きます。サステナビリティは“特別な選択”から当たり前へ。レンタルやリセールの併用、ホームケア前提の素材選びは、経済的にも時間的にも現実的な解です。テック系の多機能素材やアウトドア由来の快適性を日常服に取り込む流れは、25年に向けても継続が示唆されています[8]. 流行は「足す」より「磨く」フェーズへ。小さな更新を積むほど、あなた自身のスタイルは強く、静かに輪郭を持ちます。
まとめ:今年の一歩は、やさしい一手から
トレンドは“時代のお天気”のようなもの。晴れの日もあれば、曇りもある。2024年の空は、やわらかなピーチと控えめな艶、腰まわりに重心を置く安心感、そして静かなきちんと感で穏やかに晴れていました。全部取り替える必要はありません。1色・1素材・1シルエット、どれかひとつだけ更新してみる。鏡の前で肩の力が抜けたなら、それが正解の合図です。次に足すとしたら何にしますか。クローゼットを開いて、今日の自分に一番優しい一手を選ぶ。その小さな選択が、明日の自分の余裕を作ります。
参考文献
- Printing United Alliance. Pantone announces 2024 Color of the Year — is it printable? https://www.printing.org/content/2023/12/12/pantone-announces-2024-color-of-the-year-is-it-printable#:~:text=Pantone%20has%20released%20its%202024,%E2%80%9D
- NPR. Pantone names Peach Fuzz 13-1023 as the 2024 Color of the Year. https://www.npr.org/2023/12/07/1217877988/pantone-2024-color-peach-fuzz#:~:text=Pantone
- WGSN. Introducing our Colour of the Year 2024: Apricot Crush. https://www.wgsn.com/en/blogs/introducing-our-colour-year-2024-apricot-crush#:~:text=First%20forecast%20as%20a%20key,attributes%20will%20be%20relevant%20for
- PMC (NIH). [Article on colour and clothing preference/colour psychology]. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8597069/#:~:text=colour%20,determine%20colour%20preferences%20for%20clothes
- ResearchGate. The Impact of Work Clothing Design on Workers’ Comfort. https://www.researchgate.net/publication/283962665_The_Impact_of_Work_Clothing_Design_on_Workers%27_Comfort#:~:text=trousers%20showed%20significant%20decreases%20in,trousers%20rather%20than%20traditional%20designs
- Deloitte. 2022 Gen Z and Millennial Survey (Japan press release). https://www2.deloitte.com/jp/en/pages/about-deloitte/articles/news-releases/nr20220609.html#:~:text=In%20both%20Japan%20and%20global%2C,than%20those%20working%20hours%20did
- News24. Hybrid office return is changing workwear trends as fashion lovers prioritise comfort. https://www.news24.com/life/hybrid-office-return-is-changing-workwear-trends-as-fashion-lovers-prioritise-comfort-20211008#:~:text=Welcome%20to%20hybrid%20fashion%3A%20smart,comfortable
- Functional Textiles Shanghai. 2025/03 Trend Report (theme colour and multifunctional materials). https://www.functionaltextilesshanghai.com/features/press-release/1571-202503trendreport-en#:~:text=The%20theme%20color%20shows%20the,multifunctional%20materials%20and%20outdoor%20apparel