仕事は「作る」時代。ノーコードの現在地
2025年までに新規業務アプリの約70%がローコード/ノーコードで作られる**[1]——Gartnerの予測は、開発の主役がエンジニアだけでない時代の到来を告げています。さらに、Zapierの調査では知識労働者の88%がオートメーションが自分にとって有益だと回答**しています[2]。編集部で複数の調査を横断的に確認すると[3]、共通して見えてくるのは「専門スキルがなくても、業務を自分で作り替えられる」現実です。日々の業務や暮らしが揺らぎやすい35〜45歳の私たちにとって、ノーコードは転職や大規模システム刷新に頼らず、手元の課題から静かに改善を進められる実用的な選択肢だと言えます。プログラミング未経験でも大丈夫です。画面をつなぎ、条件を選び、試しながら直すという、家事の段取りに近い感覚で始められます。
ノーコードは、コードを書かずにアプリや自動化フローを組み立てる考え方とツールの総称です。ローコードは最低限のコード記述を含みますが、どちらも目的は同じで、業務に必要な仕組みを素早く形にすること。代表的な領域には、申請フォームの作成、一覧データベースの管理、ワークフローの自動化、ダッシュボードによる可視化などがあります。NotionやAirtableで情報を構造化し、ZapierやMake、Power Automateでアプリ同士を連携させ、必要に応じてGlideやBubbleで小さな業務アプリを作る。この組み合わせだけで、社内の“待ち時間”や“探し物”を減らすことは十分に可能です。なお、日本国内ではIDC Japanが2020年8月に実施した調査(回答435社)で、ローコード/ノーコード基盤の導入率は8.5%と報告されています[4]。
ノーコードとローコードの違い、できること・限界
ノーコードはドラッグ&ドロップ中心で学習負荷が小さく、既存の業務を高速に“型”に落とし込むのが得意です。一方で、複雑な計算や重いデータ処理、大規模な同時アクセスなどは向いていない場面もあります。ローコードは多少のスクリプト記述を許容する代わりに、より細かな制御が可能です。どちらが正しいではなく、初期はノーコードで素早く形にし、必要に応じてローコードへ拡張するという考え方が実務では現実的です。まずは繰り返しが多い単純作業や、人手による転記が発生する箇所を対象にすると、成果が見えやすくなります。研究データでは、ローコード/ノーコードの導入目的として開発スピード向上が上位に挙げられ、実務でもプロトタイピングや業務アプリの立ち上げが迅速になると報告されています[5,1]。
ゆらぎ世代にフィットする理由
キャリアの節目にいる私たちにとって、「全部を変える」より「変えられる範囲から動かす」ほうが現実的です。ノーコードはまさにその発想に合います。小さく作り、今日から使い、働き方の余白を数分ずつ取り戻していく。成果は履歴に残るので、評価の見えづらさを補い、個人戦からチーム戦への移行にも役立ちます。誰かの承認を待つ時間が長引くと動けなくなることがありますが、ノーコードなら自分の手でまず試作を作り、使えるものを提示してから会話を始められます。これは合意形成を早め、職場の“もやもや”を具体的な改善提案に変える力になります。
最小コストで試す:1タスク自動化の始め方
最初のテーマ選びは重要です。企画書作りのように大きな題材ではなく、メールの仕分け、日報の収集、経費承認のリマインドなど、週に5回以上発生し、1回あたり5〜10分かかる作業から選ぶのが成功しやすい条件です。対象を決めたら、入力(どこから情報が来るか)、処理(どんな判断が必要か)、出力(どこへ送るか)を紙に描き、関わるアプリを洗い出します。Googleフォームで受け取り、スプレッドシートに貯め、SlackやTeamsで通知し、毎週金曜の午前に集計する。この程度の流れなら、ZapierやMakeの無料枠でも十分試せます。
30分でできる初めての自動化ストーリー
編集部がまず勧めたいのは「フォーム受付→表に蓄積→チャット通知」の小さな体験です。Googleフォームで“依頼受付”というフォームを新規作成し、担当部署や期限、必要なファイルのURLを入力項目として用意します。回答先はスプレッドシートに設定し、試しに自分で1件送ってデータが1行追加されることを確認します。次にZapierを開き、トリガーとして「新しいスプレッドシートの行」を選び、先ほどのシートを指定します。テストデータが取得できたら、アクションにSlackの“メッセージ送信”を選び、通知したいチャンネルとテンプレート文を設定します。文中にシートの列(担当部署、期限、URL)を差し込むと、メッセージが毎回整った形で届くようになります。最後にもう一度フォームから送信し、Slackに通知が飛ぶことを確かめれば一連の自動化は完成です。ここまでを一息で行っても30分ほど。人が「見る→転記→知らせる」を繰り返していた作業が、自動で滞りなく進む感覚を、まずは体で覚えてみてください。
この体験を通じて、例外処理の考え方も自然と身につきます。期限が未入力のときは別チャンネルに送る、特定の部署だけは件名に絵文字を足す、重要度が高い依頼は同時にメールも送る。こうした分岐は、画面上の条件ブロックを追加するだけで実現できます。自動化は万能ではありませんが、ルールが言語化され、誰が対応しても同じ品質になる点が強みです。
セキュリティとガバナンス、ここだけは押さえる
安心して使うための基本も最初に決めておきましょう。まず、業務用のアカウントを必ず使い、二段階認証を有効にします。次に、連携させるアプリへのアクセス権限を最小限に絞り、共有リンクは必要な人だけに限定します。個人情報を扱う場合は収集しない選択肢がないかを検討し、どうしても必要なら保管場所と保有期間を明確にします。退職や異動が起きたときに自動化が止まらないよう、所有者をチーム用の共通アカウントにしておくのも有効です。これらは高度なIT統制ではなく、設定画面でできる初期の安全策です。最初の1本から丁寧に積み重ねていけば、後で大きな手戻りを防げます。
チーム運用と効果測定:小さく作り、早く学ぶ
ノーコードは「作って終わり」ではなく、運用しながら磨いていく営みです。現場が本当に楽になっているか、通知が多すぎて逆効果になっていないか、関係者の声を月に一度だけでも拾い、設定を見直します。名前の付け方、バージョンの履歴、手順書の保存先、依頼の窓口をチームで揃えておくと、担当が変わっても運用が続きます。編集部では、1本の自動化ごとに“運用ノート”を用意する方法を推します。目的、対象データ、連携アプリ、条件分岐、通知先、作成日、更新履歴、担当者、停止方法。この程度の項目を1ページにまとめるだけで、属人化が一気に解消されます。
共有ルールと運用ノートの実際
名前は「業務_目的_日付」の順に揃えると検索しやすくなります。たとえば「経費_未提出リマインド_2025-08-01」という具合です。ZapierやMakeのシナリオ名、スプレッドシートのタブ名、Slackのチャンネル名も同じ規則に寄せると、関係者が構造を直感的に理解できます。運用ノートにはスクリーンショットを数枚貼っておくと、メンテナンス時の迷いが減ります。障害が起きたときは、ノートの「停止方法」を見れば誰でも一時停止でき、復旧後に原因を追う流れが作れます。
KPIと効果の見える化
効果測定は大仰なものにする必要はありません。開始前に「対象作業の回数」と「1回あたりの所要時間」を10件だけ計測し、開始後に同じ数だけ再計測します。たとえば、1件5分の転記が週に40件あったとします。自動化で1件1分に短縮できれば、週160分の削減、月およそ11時間の余白が生まれます。金額換算やエラー率の変化も添えると説得力が増し、次の改善への投資が通りやすくなります。ダッシュボードを作る余力がなければ、月末にメモを1枚残すだけでも十分です。大切なのは、実感を数字として残すこと。目に見える効果はチームの前向きさを支え、改善が習慣として根づいていきます。
ツール選びと学び方:遠回りしないコツ
ツールは「データの置き場所」「連携のしやすさ」「社内の承認」を軸に選びます。すでにGoogle WorkspaceやMicrosoft 365を使っているなら、最初はその周辺で完結させるのが安全です。スプレッドシートやExcel Onlineは扱いやすい“中間地点”で、ここに集めれば多くのツールと連携できます。日本語のヘルプやコミュニティが充実しているか、料金がチームの規模に合うか、個人のトライアルから始められるかも判断のポイントです。ベンダーロックインを避けるには、データのエクスポートが簡単な仕組みを選び、可能な限り標準的なフォーマット(CSV、JSON)に寄せておくと、乗り換えやすさが保たれます。
学び方のルートとつまずき回避
学び始めは、公式のテンプレートをそのまま動かし、名前や条件を自分の業務に合わせて少しずつ修正するのが近道です。動画を長時間見るより、今の課題に直結する小さな成功体験を作るほうが定着します。エラーで止まったときは、慌てずにログを読み、「どの入力が期待と違ったか」を確認します。ほとんどの場合、権限の不足、列名の変更、ファイルの場所違いが原因です。ここを乗り越えると、理解が一段深まります。社内で仲間を見つけるのも有効です。月1回の“自動化お茶会”のような緩い場を作り、うまくいかなかった話を含めて共有すると、学びは驚くほど加速します。
まとめ:今日の30分を、半年の余白に変える
ノーコードの良さは、完璧を目指さずに動き始められることです。フォーム、表、通知。この3点がつながるだけで、手作業の負担とミスが目に見えて減ります。最初の30分で、小さな自動化を1本作ってみる。次の週に、条件を1つ増やしてみる。1か月後に、運用ノートを整える。半年後に振り返ると、毎週の積み重ねが確かな余白になっているはずです。あなたの仕事のやり方は、あなたがいちばん知っています。だからこそ、あなたの手で作り替えられる。最初の一歩は小さくてかまいません。今日の30分が、明日の余裕をつくります。
参考文献
- Lucas Mearian. Low-code development platforms to grow in 2023 and beyond. Computerworld. 2022-12-30. https://www.computerworld.com/article/1616390#:~:text=Low,in%202020
- Zapier. Automation Index, Q1 2021. https://zapier.com/blog/automation-index-q1-2021/#:~:text=Most%20people%20spend%20at%20least,say%20it%20benefits%20them
- Zapier. Report: Marketers lead automation use. https://zapier.com/blog/report-marketers-lead-automation-use/?01799404_page=4&1fee388c_page=2&50845b16_page=9&5fa68c69_page=2&73cdfb14_page=10&87a3cc46_page=2#:~:text=This%20makes%20sense%2C%20because%20according,60
- Impress Watch(ITmedia エンタープライズ). IDC Japan:国内企業におけるローコード/ノーコード基盤の動向(2020年8月調査、回答435社、導入率8.5%)。https://it.impress.co.jp/articles/-/23068#:~:text=IDC%20Japan%E3%81%AF%E3%80%81%E5%9B%BD%E5%86%85%E4%BC%81%E6%A5%AD%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%82%B3%E3%83%BC%E3%83%89%2F%E3%83%8E%E3%83%BC%E3%82%B3%E3%83%BC%E3%83%89%E5%9F%BA%E7%9B%A4%E3%81%AE%E5%8B%95%E5%90%91%E3%81%AB%E9%96%A2%E3%81%99%E3%82%8B%E8%AA%BF%E6%9F%BB%E7%B5%90%E6%9E%9C%E3%82%92%E7%99%BA%E8%A1%A8%E3%81%97%E3%81%9F%E3%80%822020%E5%B9%B48%E6%9C%88%E3%81%AB%E5%AE%9F%E6%96%BD%E3%81%97%E3%81%9F%E8%AA%BF%E6%9F%BB%EF%BC%88%E5%9B%9E%E7%AD%94%E7%A4%BE%E6%95%B0435%E7%A4%BE%EF%BC%89%E3%81%A7%E3%81%AF%E5%B0%8E%E5%85%A5%E7%8E%87%E3%81%8C%208.5
- ZDNet Japan. 企業のローコード導入動向と期待される効果(調査サマリ)。https://japan.zdnet.com/article/35169204/#:~:text=%E5%B0%8E%E5%85%A5%E7%90%86%E7%94%B1%E3%81%A7%E3%81%AF%E3%80%81%E5%B0%8E%E5%85%A5%E6%B8%88%E3%81%BF%E4%BC%81%E6%A5%AD%E3%81%AE45