更年期×頭痛の「タイプ」を見分ける
国内調査では、40〜50代女性の約7割が更年期症状を自覚し、そのうち約3〜4割が頭痛を訴えています。[4] 研究データでは、女性の片頭痛は生涯有病率が**約15%**前後と報告され、エストロゲンの揺らぎが大きい閉経前後(プレ〜ペリメノポーズ)に悪化しやすいことが示されています。[1,4] 編集部が各種データを読み解くと、同じ「更年期の頭痛」でも、片頭痛と緊張型(肩こり由来や姿勢関連)では原因も対処もまったく異なるのが現実です。[1]
ストレスや忙しさで片づけがちな頭痛こそ、更年期の体のサイン。まずはタイプを見分け、タイプに合った対処を選ぶことが、痛みの頻度と強さを減らす近道と期待されます。医療用語はできるだけ日常語に置き換えながら、今日からできる方法に落とし込んでいきます。
最初の分かれ道は、鼓動に合わせてズキズキし、吐き気や光・音・においがつらい「片頭痛タイプ」か、頭全体や後頭部がギューっと締め付けられるようで、肩や首のこりとセットになりやすい「緊張型(頸性を含む)タイプ」かです。片頭痛は数時間から3日ほど続き、動くと悪化しやすい一方、緊張型はじわじわ始まり、仕事や家事はなんとか続けられるものの、集中力が落ちていくのが特徴です。更年期では両方が混在することも珍しくありません。[1]
背景にあるのはホルモンの波です。研究では、エストロゲンの急降下が痛みの神経(とくに三叉神経)を過敏にし、片頭痛の閾値を下げるとされています。[1,4] 睡眠の乱れ、血糖の落ち込み、脱水、天気や気圧、長時間の画面作業や猫背などの要因も、タイプごとに引き金になりやすいことが分かっています。[1]
なお、次のようなサインがあるときは自己判断せず受診が安全です。突然これまでにない激痛で始まる、ろれつが回らない・片側の手足がしびれる・視界が急に欠けるなど神経症状を伴う、発熱や項部硬直を伴う、頭を打った後の痛み、50歳を過ぎて初めての強い頭痛などです。更年期の頭痛の多くは良性ですが、まずは危険な見落としを避ける視点を持っておくと安心です。[1]
セルフチェックのコツ:3つの「セット」を観察
痛みと一緒に現れる「セット」を観察するとタイプが見えます。片頭痛タイプなら、吐き気や光過敏、におい・音がつらい感じとセットになりやすく、生理前後などタイミングが繰り返しやすい。緊張型・頸性タイプなら、長時間の同じ姿勢、肩やあごのこわばり、夕方の疲れとセットで悪化しやすい。観察の出発点として、カレンダーに「痛み・睡眠・月経/更年期症状・仕事や天気」の4項目を短くメモしておくと、引き金のパターンが浮かび上がります。
片頭痛タイプ:波に飲まれないための対処
片頭痛は、早めの対応が効果的と期待されます。前兆(肩のこり、あくび、食べたくなる、集中しづらい、チカチカする視覚症状など)に気づいたら、できる範囲で刺激を減らします。静かな暗めの環境に移動し、ぬるめのシャワーや冷却/温罨法を、心地よい側で試してください。脱水と空腹は悪化因子なので、常温の水と消化に負担の少ない軽食を少量取り、カフェインは少量を早いタイミングで。遅すぎるカフェインは睡眠を乱し、翌日の反動痛を招くことがあります。[1]
市販の鎮痛薬は、痛みが強くなる前に定められた用量・用法で使用するとよいとされています。一般的にロキソプロフェンやイブプロフェン、アセトアミノフェンなどが用いられますが、胃腸や腎・肝機能、妊娠の可能性、他の薬との相互作用には注意が必要です。合わないと感じたら中止し、医療機関に相談してください。仕事や育児の最中に難しいときは、5分だけでも目と音の刺激を切ることが、痛みの波を小さくする助けになる場合があります。[1]
トリガー管理:睡眠・血糖・環境を整える
片頭痛は「規則性」が効きます。起床・就寝時間を休日も大きくずらさない、朝食でたんぱく質と複合糖質をとり血糖の急降下を防ぐ、こまめな水分、強い香りやまぶしい光を避ける、といった小さな調整の積み重ねが、発作の頻度を減らすことが期待されます。赤ワインや熟成チーズ、加工肉などで誘発される人もいるため、自分の相性を記録して選択肢を持っておくと安心です。気圧の変化に敏感な人は、天気アプリで前日から準備をし、予定に余白を作るだけでも体の緊張が和らぎます。[1]
研究データでは、マグネシウムやビタミンB2(リボフラビン)などが片頭痛の予防に役立つ可能性が示されていますが、サプリメントは体質や薬との相互作用もあるため、開始前にかかりつけに相談すると安全です。[2] 婦人科での更年期ケア(ホルモン療法など)と頭痛の関係も個人差が大きく、貼り薬など安定した方法が合うケースがある一方、視覚の前兆を伴う片頭痛では慎重な検討が必要とされています。[1,4] いずれも専門医と一緒に「あなたに合うバランス」を探すのが近道と考えられます。
緊張型・頸性タイプ:こわばりの悪循環を断つ
長時間のPC作業やスマホ、歯の食いしばり、肩のすくみ上がり。これらが積み重なると、首〜肩の筋膜が硬くなり、頭全体の締め付け感に移っていきます。痛みが出てから何とかしようとするより、こわばりが強まる前に細切れにほどくのが効果的とされています。20〜30分ごとに座面の奥に座り直し、肩甲骨を後ろへ滑らせ、あごを軽く引いて頭頂が糸で引かれているイメージで姿勢を整えます。視線だけでなく首も優しく左右に動かし、呼吸は息を吐く時間を少し長く。机の高さやモニターの位置を調整し、前かがみになり過ぎない環境を作ることも、そもそも痛みが起きにくい地ならしになります。[1]
温めるか冷やすかは、心地よさで選んで構いません。朝のこわばりには蒸しタオルや入浴、ズキズキが強いときは短時間の冷却が楽になる人が多い印象です。歯ぎしりや食いしばりが疑われる場合は、起床時のこめかみのだるさ、あごの疲れを手がかりに歯科で相談を。目の酷使が強い人は、画面から目を離して遠くを見る、窓際の光をやわらげる、文字サイズを上げるなど、入力環境を見直すと首肩の負担が軽くなります。
「動ける範囲で動く」リセット習慣
忙しい日こそ、完璧を目指さずに「動ける範囲で動く」ことが続きます。朝、歯磨き中にかかとを床につけて背伸び、椅子に座ったまま肩をすくめてストンと落とす、寝る前に耳の後ろから鎖骨に向けて軽くなでおろす。そんな1分の積み重ねで、首〜肩〜頭皮の血流が巡り、痛みの芯がほぐれていくことが期待されます。眠りの質も緊張型頭痛には大切です。寝具の高さが合わず首が反ってしまうと、朝から頭が重く感じやすくなります。横向きで耳と肩が一直線になる高さを探り、週末に枕と寝室の見直しをしてみてください。
薬との付き合い方と受診の目安
市販薬は適切に使えば頼りになる場合がありますが、使い過ぎは「薬剤使用過多による頭痛」を招きます。研究報告では、単純鎮痛薬が月15日以上、トリプタンなど特定薬が月10日以上の使用でリスクが上がるとされています。[3] 目安としては「週2回以内、月8日以内」を意識し、それを超える頻度になってきたら、飲み方の見直しや予防的なアプローチを医療機関で相談するのが安心です。自己流で増やすより、合う薬とタイミングを専門家と決めたほうが、結果的に使用量を減らせることが多いのです。
受診先は、片頭痛が疑われるなら頭痛外来や神経内科、緊張型や頸性なら整形外科やリハビリテーション科も選択肢です。更年期の揺らぎが強い場合は婦人科での相談も役立ちます。血圧、甲状腺、貧血など全身状態のチェックで、頭痛の背景が見えることもあります。アプリや手帳で「頭痛ダイアリー」をつけ、痛みの始まり、強さ、睡眠、食事、月経/ホットフラッシュ、天気、使った薬と効果を簡単に記録して持参すると、診療が一気にスムーズになります。
また、更年期のケア全体を底上げすると、頭痛にも波及効果が出やすいと考えられます。睡眠と光のタイミングを整え、朝はカーテンを開けて体内時計にスイッチを入れ、カフェインは午後遅くを控えめに。タンパク質と鉄を意識した食事はエネルギー切れを防ぎ、軽い有酸素運動やゆるい筋トレはストレスホルモンを整える助けになることがあります。
まとめ:タイプで選ぶ、私の一手
更年期の頭痛は、体が発している変化のサインです。片頭痛なら「早めの一手」と刺激を減らす工夫、緊張型・頸性なら「細切れにほどく」リセット習慣が、痛みの波を小さくする助けになると期待されます。薬は頼りながらも上限を意識し、頻度が増える前に相談する。ダイアリーでパターンを可視化して、生活の微調整を重ねる。こうした現実的な一歩の積み重ねが、次の日の調子を変える可能性があります。
完璧でなくていい。今日このあと、あなたはどの一手から始めますか。 5分、画面から目を離す。常温の水を一杯。枕の高さを見直す。小さな選択が、次の一日を軽くします。もし「これはいつもと違う」と感じたら、その感覚も自分を守る力。無理に我慢せず、医療の手を借りる選択も、立派なセルフケアです。
参考文献
- MSDマニュアル プロフェッショナル版. 片頭痛(偏頭痛)。https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/07-%E7%A5%9E%E7%B5%8C%E7%96%BE%E6%82%A3/%E9%A0%AD%E7%97%9B/%E7%89%87%E9%A0%AD%E7%97%9B
- 日本頭痛学会. 慢性頭痛の診療ガイドライン(該当章 2-3-10: 栄養補充療法など)。https://www.jhsnet.net/GUIDELINE/2/2-3-10.htm
- 日本頭痛学会 一般向け解説. 薬剤の使用過多による頭痛(MOH)。https://www.jhsnet.net/ippan_zutu_kaisetu_05.html
- 日本産科婦人科学会(JSOG). (1)頭痛。https://www.jaog.or.jp/note/%EF%BC%881%EF%BC%89%E9%A0%AD%E7%97%9B/