更年期に骨密度が下がる理由を、わかりやすく
骨は固いようでいて、毎日つくり替えが進む「生きた臓器」です。骨を新しく作る働き(骨形成)と、古い骨を壊す働き(骨吸収)の綱引きで成り立ち、エストロゲンはこのバランスを整える重要な役目を担います[4]。研究データでは、エストロゲンが急減する更年期には骨吸収が優位になり、腰椎や大腿骨近位部で年率1〜2%の骨密度低下が生じやすいと示されています[2]。特に閉経前後の約数年間に下がり幅が大きくなるのが特徴です[1]
この変化は、痛みとしては現れにくい一方で、将来的な骨折リスクと関連します。例えば、海外の疫学研究では、女性は生涯のどこかで骨粗しょう症関連骨折を経験する確率が高いことが示されており、閉経後早期の骨量の落ち込みがその後の曲がり角をつくると考えられています。日本の生活環境に置き換えても、座位時間の長さ、日照時間の季節差、カルシウムやビタミンDの摂取不足など、複数の生活要因が重なれば、下り坂は急になりがちです[6,2]
「見えない進行」を見える化するヒント
骨密度はDXA(デキサ)という低線量のX線で測れます[7]。40代後半で一度ベースラインを取り、リスク因子(家族歴、やせ、長期のステロイド内服、無月経歴など)があれば早めに相談する選択は将来の安心につながります[6]。検査が難しい場合でも、身長の微減に気づく、姿勢や背中の丸まりを写真で記録する、転倒しそうになる頻度や片脚立ちの時間を記録するなど、日常の指標で変化を見える化することは可能です。編集部でも、半年ごとに「片脚立ち左右各60秒」「椅子からの立ち上がり回数」をメモするだけで、体のシグナルに気づきやすくなったという声がありました。
今日からできる食事と栄養戦略
骨の素材と代謝を支える柱は、カルシウム、ビタミンD、ビタミンK、そしてたんぱく質です。日本人の食事摂取基準では、成人女性のカルシウム推奨量はおおむね1日650mg前後、ビタミンDは1日8.5μg程度が目安とされています(年齢により推奨量は変動)[8]。乳製品が苦手なら、小魚や大豆製品、青菜を組み合わせて「分散摂取」するのが現実的です。例えば、朝は豆乳やヨーグルトがわりの大豆ヨーグルトを少量、昼は木綿豆腐と小松菜の味噌汁、夜は骨まで食べられるししゃもやいわし缶。この積み重ねで不足幅は縮まる可能性があります。
ビタミンDは、さけ・さば・卵黄・きのこ類に多く、日光合成も大切です[2]。季節や肌色にもよりますが、日中に腕や脚へ短時間の直射(日焼け止めの塗り直しまでの数分)を取り入れるだけでも合成が促されます[2]。冬や日照が少ない地域では不足しがちなので、血中濃度が低いと医療機関で指摘された場合に限って、サプリメントという選択肢もあります[2]。やみくもに飲むより、必要量と期間を把握して「足りないから補う」という姿勢が安全です。
ビタミンKは骨たんぱくの活性化に欠かせません。日本の食卓なら、納豆に含まれるK2(メナキノン)が心強い味方です。週に数回、納豆や葉物を意識して取り入れると、カルシウムが「骨に届く」下地を整える助けになる可能性があります。ここで忘れたくないのが、たんぱく質。年齢とともに合成効率が下がるため、体重1kgあたり1.0〜1.2g/日を目安に、3食で均等に摂ると骨と筋肉の両方に好循環が生まれやすくなります[8]。朝に卵と納豆、昼に鶏むねや大豆、夜に魚と豆腐というふうに、動物性と植物性をミックスすると続けやすくなります。
塩分やカフェイン、アルコールとの距離感も整理しておきましょう。塩分が高い食事は尿中へのカルシウム排泄を増やすとされ、濃い味が続くとじわじわと響きます[2]。コーヒーは1〜2杯程度なら大きな問題は生じにくいとされますが、砂糖やフレーバーの足し算でエネルギー過多にならない工夫が必要です[2]。アルコールは量が増えるほど骨折リスクと関連が示されており、週の休肝日を決める、飲む量を可視化するなど、現実的な線引きを持てると安心です[6]
運動と生活習慣で「骨に刺激」を届ける
骨は荷重と筋力の刺激で強くなります。研究データでは、体重を支える運動(ウエイトベアリング)とレジスタンストレーニングの組み合わせが、骨密度の維持・低下抑制に有効と報告されています[9]。とはいえ、いきなり激しいジャンプは更年期症状や骨盤底の不調を抱える人には現実的ではありません。最初は「骨に伝わる刺激をデザインする」意識から。通勤や買い物はできる範囲で速歩を混ぜ、階段は手すりを活用しながら上がる。自宅では、椅子からのスクワット、ヒップヒンジ(お尻を引いて前傾)、カーフレイズ(かかとの上下)をゆっくり丁寧に行い、週2〜3回、1回20〜40分の全身トレーニングを習慣にするのが現実的です。フォームを守ることが安全と効果の最短距離で、回数より質を優先しましょう。
転倒を防ぐ力を同時に育てる
骨密度と同じくらい大切なのが「転ばない力」です。バランス訓練や脚力の維持は、将来の骨折リスクを下げる助けになります。片脚立ちは壁際で安全を確保しながら左右交互に行い、最初は30秒から。慣れてきたら歯磨きの時間を活用し、日常の所作に溶け込ませます。段差でのつまずきやふらつきを感じたら、足趾をしっかり使う意識を持ち、足裏の感覚を呼び戻すように立つ。こうした微調整の積み重ねが、骨にとっては最良の保険です。編集部では、在宅勤務の合間に3分だけ「壁スクワット+つま先立ち」を続けたところ、腰まわりの安定感が上がり、階段を上るときの膝の不安が軽くなったという実感がありました(※個人の感想であり、効果効能を保証するものではありません)。
睡眠、ストレス、体温のケアも見逃せません。睡眠不足はホルモンバランスや回復力に影響し、運動の効果を目減りさせます。眠りが浅い夜が続いたら、布団に入る30分前から照明を落とし、スクリーンから距離をとる。お風呂は就寝1〜2時間前にぬるめに入り、深部体温を一度上げてから下げるリズムを作ると入眠がスムーズになります。ストレスは交感神経を優位にし、食欲や睡眠にも波及しやすいため、朝の短い散歩やゆったり呼吸で「切り替えスイッチ」を持っておくと全体が整います。睡眠の整え方は、関連特集「更年期の眠りを整える実践ガイド」も参考になります。
検査とサプリ、医療の使い方を味方に
セルフケアだけで不安を抱え込まないことも大切です。DXAで骨密度を測ると、同年代との差(Zスコア)や若年成人平均との比較(Tスコア)が数値でわかります[7]。一般にTスコアが−1.0より低いと骨量減少、−2.5以下で骨粗しょう症の基準に当てはまるとされますが[7]、判断は年齢や既往歴、体格、転倒歴など総合的に行われます。基礎疾患や薬の影響、甲状腺・副甲状腺機能、ビタミンD欠乏などが背景にあれば、医療的な対処が必要です[6]。心配なサインがある場合や、短期間で身長が明らかに低くなった(20歳代の頃より3cm以上の低下は要注意)[5]、背中の痛みが続くなどの変化があれば、早めに受診して相談しましょう。
サプリメントは、食事で届かない不足を「橋渡し」する道具です。カルシウムは食事と合わせて合計600〜800mg/日を目指すと、日本人女性の平均的な不足を埋めやすくなります[2]。ビタミンDは血中濃度の不足が確認された場合に限って、用量を守って補うと安全です[2]。ビタミンKは納豆など食事で摂れていれば、むやみに重ねないほうがバランスがとりやすいでしょう。複数のサプリを重ねるほど相互作用や総量の把握が難しくなるため、目的と期間を決め、定期的に見直す姿勢が鍵です。
なお、歩数や筋トレの記録、食事の写真ログなどの「見える化ツール」は、続ける力を支えます。編集部のおすすめは、カレンダーに運動を予定として入れ、終わったら色ペンでチェックするアナログ方式。アプリ連携が負担になる時期は、シンプルが最強です。運動の組み立ては「はじめての筋トレ、失敗しない始め方」、栄養の整え方は「女性のためのたんぱく質入門」も参考に。
「いまの自分」に合わせて、少しずつ
更年期は、体調の波がある時期です。昨日できたことが今日は重たく感じる日もある。そんな揺らぎを前提に、「できる日には少し前へ、難しい日は立ち止まる」設計にしておくと、長く続きます。例えば、元気な日はスクワットや速歩を少し増やし、しんどい日はストレッチと深呼吸に切り替える。骨は短距離走ではなくマラソンで強くなります。変化を急がず、でも手を止めない。これは結果につながる有効な方法の一つです。
まとめ:骨を育てる暮らしは、今日の一歩から
更年期の骨密度低下は、閉経前後の数年間で**6〜10%**という目に見えない変化として起こります[1,2]。けれど、食事で素材を満たし、運動で刺激を届け、睡眠とストレスを整えるという地味な三拍子は、将来の骨の健康に良い影響を与えることが期待されます。まずは今週、椅子スクワットを10回から始める、買い物は速歩を3分だけ混ぜる、納豆と青菜を2回食卓に乗せる。この小さな合図が、骨を守る行動につながるきっかけになることがあります。
揺らぎの季節に、完璧である必要はありません。あなたの生活リズムや好みに合わせて、できる形で積み上げていきましょう。次に知りたいテーマがあれば、睡眠やメンタルケアの特集も用意しています。関連ページ「更年期の眠りを整える実践ガイド」や「ストレスに効く呼吸法」も、今日の一歩をやさしく後押ししてくれるはずです。
参考文献
- 日本内分泌学会 患者さん向け情報「女性の骨量は思春期から増加しはじめ…閉経前後の50歳頃から、さらに急激な骨量の減少をきたします。」https://www.j-endo.jp/modules/patient/index.php?content_id=51
- 厚生労働省 eJIM「カルシウム(サプリメント等)」閉経後の年間骨量減少、日光合成、塩分・カフェインとカルシウム排泄など https://www.ejim.mhlw.go.jp/pro/overseas/c03/01.html
- 東京女子医科大学関連ページ「日本人における閉経前後年数別での年間骨量減少率(DXA)」https://mail.twmu-obgy.com/medical/health.html
- 日本内分泌学会 患者さん向け情報「エストロゲンと骨代謝:閉経にともなうエストロゲン欠乏で骨吸収が亢進」https://www.j-endo.jp/modules/patient/index.php?content_id=51
- 日本内分泌学会 患者さん向け情報「骨粗鬆症は骨折しない限り自覚症状に乏しい/20歳代の頃より3cm以上の身長低下は受診の目安」https://www.j-endo.jp/modules/patient/index.php?content_id=51
- 厚生労働省 KENNETH「骨と栄養・生活:リスク因子(早期閉経、ステロイド、運動不足、日照不足、飲酒など)」https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/food/e-02-007.html
- 骨密度測定とTスコアの基礎知識(DXAの指標)https://headinghometodinner.org/ja/bone-mass-measurement/
- 東京都健康長寿医療センター「食事・栄養(日本人の食事摂取基準の要点:カルシウム、ビタミンD、たんぱく質)」https://www.tyojyu.or.jp/kankoubutsu/gyoseki/shokuji-eiyo-kokucare/h31-4-2-3.html
- 厚生労働省 KENNETH「骨量は成長期に増加し20歳頃に最大、加齢・閉経で減少/運動の重要性」https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/food/e-02-007.html