マスク生活で起きる肌トラブルの正体
国内外の調査では、マスク着用者の約4〜6割が肌トラブルを経験したと報告されています(2020〜2022年の複数研究)。[1,2,3] 医学文献によると、マスク内の温度と湿度の上昇、布と肌の摩擦、そして皮膚常在菌のバランスの変化が、乾燥とベタつきが同時に起きる“混乱状態”を招きやすいとされています。[4,5] 編集部が各種データを分析した結果、職種や着用時間に関わらず、赤み、ニキビ様のぶつぶつ、かゆみ、口まわりのざらつきが増える傾向が確認できます。[2,3] きれいごとでは片付かないのは、私たちが一日中働き、移動し、家事や育児をこなしながら「外せない」前提で過ごしているから。だからこそ、仕組みを知り、無理なく続く現実的なケアに落とし込むことが、遠回りに見えていちばんの近道です。
研究データでは、長時間のマスク着用で肌表面の水分量が低下しやすい一方、皮脂分泌は相対的に増加し、蒸れによって角層がふやけて摩擦に弱くなることが示されています。[4,5] つまり、乾燥と過剰皮脂という一見矛盾する現象が同時進行し、毛穴詰まりや赤み、ヒリつきの土台が整ってしまうのです。さらに、布と肌がこすれると角層のレンガのような構造(バリア機能)が乱れ、小さな刺激でもしみる、かゆいといった反応が出やすくなります.[4]
もう一つの要因は、口元の呼気でマスク内が湿ったままになること。温かく湿った環境は、ニキビの原因菌を含む皮膚常在菌のバランスを変化させ、ぶつぶつや白ニキビを後押しします。[3,5] 香料や防腐剤、ゴムや金属ワイヤーなど、マスクの素材に対する接触刺激やアレルギーが重なるケースもあります.[2] 敏感肌でなくても、連日の着用で「軽い刺激」の積み重ねが炎症を招くことがあり、マスク生活の難しさの一因となります。
今日からできる基本ケア:洗う・守る・選ぶ
洗う:やさしく落として、落としすぎない
朝は皮脂と汗、夜はメイクや日焼け止めと一日の汚れを落とすことが目的です。マスク生活では、落とす行為自体が刺激になりがちなので、ぬるま湯で予洗いし、肌あたりのやわらかい洗浄料を泡でクッションのように滑らせ、こすらず洗い流すのが基本。二度洗いが不要のクレンジングを選べば摩擦が減り、ふき取りの回数も抑えられます。タオルは押さえるだけにして、水分を残さないよう口元や鼻の横をしっかり乾かすと、その後の蒸れを軽減できます。
守る:バリアを補い、ベタつかずに保つ
保湿は軽さと持続のバランスが鍵です。水分を抱え込むタイプの化粧水や美容液で肌をうるおし、仕上げにべたつきにくい乳液やジェルクリームを薄く重ねると、マスク内でも崩れにくく快適です。ニキビが気になるときは「ノンコメドジェニック」など毛穴詰まりを起こしにくい表示のものを、ヒリつきやすい日はアルコールや香料が少ない処方を選ぶと安心。日中は紫外線が炎症後の色素沈着を濃くしやすいため、軽いテクスチャーのUVを塗ることは色素沈着の悪化を抑える可能性があります。ファンデーションは厚塗りよりも、色ムラを整える下地と必要な部分だけのコンシーラーに切り替えると、摩擦と毛穴詰まりを同時に減らせます。仕上げに微粒子のフェイスパウダーを薄くのせると、肌とマスクの間で“すべり”が良くなり、こすれ対策にもなります。なお、マスク着用前の保湿は、摩擦ダメージの軽減にも役立つことが報告されています。[5]
選ぶ:素材・サイズ・交換タイミング
素材は、肌に触れる内側がやわらかく、繊維の毛羽立ちが少ないものが安心です。一般的な不織布でも内側がなめらかなタイプは摩擦が少なく、肌当たりが穏やかです。[6] サイズは頬と顎に無理のない密着が保てることが重要で、大きすぎても小さすぎても動くたびに擦れが強くなります。鼻ワイヤーはしっかりフィットさせ、隙間風と蒸れの両方をコントロール。長時間着用する日は、湿気やファンデーションで内側が濡れたと感じたら取り替えるつもりで、予備を持ち歩くと安心です。衛生面だけでなく、交換のたびに摩擦が一時的に軽減されるので、赤みやヒリつきの予防に寄与することがあります.[2]
仕事と家事の合間に効く“運用術”
外出前〜勤務中:崩れないように仕込んで、蒸れをためない
出かける30分前までにスキンケアを済ませ、肌表面がさらっと落ち着いてからマスクを装着すると、内側がムズムズしにくくなります。移動中や会議の前にさっと取り替えられるよう、清潔な個包装の予備をポーチに入れておくと、急な蒸れやメイク崩れにも落ち着いて対処できます。水分補給も意外なポイントです。体の水分が不足すると皮脂分泌が相対的に増えやすく、マスク内の不快感が増します。安全が確保できる場所では、短時間でもマスクを外して肌を乾かし、内側の湿気を逃す“呼吸の時間”を作ると、夕方のかゆみや赤みが和らぐことがあります。耳が痛いと感じる日は、紐のテンションを調整するアクセサリーや、耳の負担を軽減するヘアアレンジを活用するのも、摩擦を減らす現実的な工夫です。
帰宅後〜就寝前:早めにオフして、静かに整える
帰宅したら、まずマスクを外して手を洗い、顔に触れる前に清潔を確保します。メイクをしている日は一度で落ちるクレンジングでやさしくオフし、ぬるま湯の洗顔で終えるシンプルな流れが肌ストレスを最小化します。赤みや火照りが気になるときは、清潔なコットンに冷たい水を含ませて数分あてるだけのクールダウンで十分。長時間の冷やしすぎは逆効果なので、ほっとする程度で止めるのがコツです。保湿は、角層の隙間を埋めるイメージで少量ずつ重ね、触れる回数を減らします。就寝前は枕カバーを清潔に保ち、寝室の湿度を整えると、夜間の汗や皮脂で朝にざらつく現象が起きにくくなります。頑張りすぎないこともケアの一部。調子の悪い日は、新しいアイテムの“お試し”をいったんお休みし、慣れた基本に立ち戻ると、肌は静かに立て直すことがあります。
それでもつらい時に。見極めサインと発想の転換
繰り返す赤いぶつぶつがかゆみ優位で輪郭や耳の付け根に沿って出るときは、マスク素材や金具、洗剤などによる接触刺激が関わっている可能性があります。[1,2] ヒリヒリとしみる感じがつよいなら、バリア機能が乱れて刺激性の炎症が主体であることが考えられます.[4] 口まわりに小さなぶつぶつが集まり、クリームを塗るほど悪化する印象なら、いわゆる口囲のトラブルのサインです.[3] 頬のほてりや赤みが長引き、熱い飲み物や気温差で悪化するなら、酒さの傾向を示すこともあります.[1] 痛みを伴う深いしこりや黄色い膿をもつ病変、広範囲のただれ、2週間以上続く強いかゆみなどは、自己判断で粘らず皮膚科に相談する目安になります。マスクが原因に見えて、ホルモンバランスやストレス、寝不足といった土台の影響が重なっていることも多いため、睡眠と食事、ストレスケアを見直すことが、遠回りのようでいて効果が期待されます。
編集部の提案はシンプルです。完璧を目指すより、トラブルの「因数」を一つずつ小さくする発想に切り替えること。こすらない、蒸れをためない、清潔を保つという三本柱に、あなたの生活リズムで無理なく足せる工夫を一つだけ加える。“続けられる最小限”は、けっして妥協ではなく、肌にとっての最短ルートです。
まとめ:明日変えられる一つから始める
マスク生活の肌トラブルは、湿気・摩擦・菌バランスというメカニズムが絡み合って起きています。[3,4,5] だから対策も、洗う・守る・選ぶの基本を、生活に合わせてほどよく運用することが鍵です。出発前にスキンケアを早めに済ませる、予備のマスクを1枚足す、夕方に一度だけ取り替える、帰宅後は早めにオフする。どれか一つでも、明日の肌は軽く感じることが期待できます。仕事も家事も“止められない”日々の中で、あなたはどの一つから始めますか。完璧より、続けられる最小限を。その積み重ねで、数週間後に変化が見られることがあります。
参考文献
- PubMed Central (PMC). Dermatological adverse effects associated with face masks during COVID-19 (PMC9191724). https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9191724/
- PubMed Central (PMC). Adverse skin reactions to personal protective equipment among mask users (PMC8447351). https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8447351/
- PubMed Central (PMC). Face mask–related acne (maskne) and associated factors in healthcare workers: Systematic review/meta-analysis (PMC9566727). https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9566727/
- 日本香粧品学会誌(J-Stage). マスク着用環境下の皮膚状態と摩擦・皮脂組成に関する検討. DOI:10.5107/sccj.57.25(https://www.jstage.jst.go.jp/article/sccj/57/1/57_25/_article/-char/ja/)
- PubMed Central (PMC). Skin changes in masked areas and the mitigating effect of pre-application of moisturizer (PMC11480050). https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11480050/
- 川崎医科大学附属病院 皮膚科. マスクによる皮膚トラブルへの対応(院内情報ページ). https://h.kawasaki-m.ac.jp/data/6644/mi_dtl/