
甘酒と腸内環境:何が効くのかを科学的にほどく
女性の便秘の訴えは男性のおよそ2倍とされ、さらに食物繊維の平均摂取量は目標18g/日に対して約14g前後にとどまるという公的調査があります[1,2,3]。医学文献や研究データでは、発酵食品を日常的に取り入れることが腸内細菌の多様性や短鎖脂肪酸の産生を支え、排便リズムの整いに寄与しうると報告されています[4,5,6]。編集部が各種公的データと学術レビューを読み解くと、毎日続けやすい一杯が腸活のハードルを下げる鍵になりそうでした。砂糖を減らした食事や運動に加え、コンビニでも買える発酵飲料「甘酒」をどう活かすか。大げさな約束はしないというNOWHの姿勢で、仕組みと実践を具体的に整理します。
甘酒には大きく米麹由来と酒粕由来があり、腸活の文脈では一般に米麹甘酒が中心に語られます。米麹は麹菌(Aspergillus oryzae)が米のデンプンを分解し、ブドウ糖やアミノ酸、ビタミンB群、そしてオリゴ糖様成分を生みます[7]。研究データでは、こうした成分が**善玉菌のエサ(プレバイオティクス)**としてはたらき、ビフィズス菌や乳酸菌の増殖を助け、腸内で酪酸などの短鎖脂肪酸が作られやすい地ならしになることが示されています[5,6,8,9]。短鎖脂肪酸は腸のエネルギー源であり、腸の動きを後押しし、腸の粘膜バリアを支えることが知られています[5,10]。難しい言葉を外せば、甘酒は「腸内の良い住人が育ちやすい環境づくり」を手伝う飲み物とイメージすると近いでしょう。
一方で、砂糖を添加した製品や酒粕タイプの甘酒では性質が異なります。酒粕は食物繊維様のレジスタントプロテインやペプチドが含まれる一方、微量でもアルコールを含むものがあり、腸活目的で日中に飲みたい人、運転前の人、妊娠・授乳中や子どもには不向きです[11,12]。腸内環境に寄り添うなら、まずは砂糖不使用・アルコール0%の米麹甘酒をスタート地点に据えるのが無理のない選択です。
「飲む点滴」ではなく、毎日の小さな助っ人と捉える
甘酒は「飲む点滴」と呼ばれることがありますが、これは成分が点滴と似ているという比喩であり、医療行為の代わりになるという意味ではありません。血糖を上げやすいブドウ糖を含むため、腸活の効果を急がず、量とタイミングを設計する視点が大切です。プレバイオティクスは一度の大量摂取よりも、少量を継続した方が腸内細菌の反応は安定しやすいことが報告されています[6,13]。つまり「毎日、同じ時間帯に、無理のない量で」が続く鍵になります。

種類と選び方:米麹派か酒粕派か、ラベルの読み方
腸活を目的に甘酒を選ぶとき、編集部が重視したのは成分表示です。原材料が「米(国産)、米麹(国産)」のようにシンプルで、砂糖や果糖ぶどう糖液糖が足されていないものは、プレバイオティクスとしての性格が素直に働きます[6]。酒粕タイプは風味がよくタンパク質も含みますが、微量のアルコールや甘味料が加わることがあり、シーンを選びます。迷ったら、まずは米麹100%・砂糖不使用から。そこに好みに応じて豆乳や水で薄めれば、糖質の総量をコントロールしながら風味を楽しめます。
栄養面では、商品差はあるものの、一般的な米麹甘酒は100mlあたり約80〜100kcal、糖質はおよそ15〜20g程度[14]。腸活は「足す」だけでなく「引く」もセットです。甘酒を取り入れる日は、他の甘い飲み物やスイーツを控えめにする、主食の量を少しだけ調整する、といった全体設計が血糖の乱高下を避け、続けやすさに直結します。
妊娠中・授乳中、子ども、運転前はここに注意
酒粕タイプは少量でもアルコールを含みうるため、妊娠中・授乳中や子ども、運転前は避けます[11,12]。米麹タイプでも、既往症や治療中の方、糖質制限が必要な方は主治医に相談してください。腸活は健康増進の取り組みであり、治療ではありません。違和感や腹部膨満が続くときは無理をせず、量を減らすか中断する判断も大切です。

いつ、どれくらい飲む?腸活で続ける実践設計
編集部が文献と実生活の両面から組み立てた基本線はシンプルです。1日100〜150mlを目安に、2〜4週間は同じ時間帯で続ける。これだけで、排便のリズムやお腹の張り方の変化を体感しやすくなります。朝に取り入れるなら、オートミールや全粒粉パン、野菜スープの食物繊維と合わせると理にかないます[15]。プレバイオティクス(エサ)と食物繊維(材料)が同じテーブルに乗ることで、腸内細菌の仕事が進みやすくなるからです[6]。夜に飲むなら、温めてゆっくり。就寝直前は避け、夕食から少し時間を置くと血糖の乱れを抑えやすいでしょう。
甘酒単体より、**「組み合わせ」**が腸活の手応えを引き上げます。無糖ヨーグルトに小さじ2〜3の甘酒をソースのように加える、刻んだキウイやベリーを添えて食物繊維とポリフェノールを足す、豆乳で1:1に割りシナモンを一振りして満足感を高める。こうした工夫は味の飽きを防ぎ、糖質の総量を抑えながら続ける助けになります。料理使いも有効で、味噌や酢と合わせれば発酵×発酵の万能ドレッシングに。砂糖の代わりに少量の甘酒で照り焼きのコクを出すと、砂糖よりやわらかな甘みで食卓に馴染みます。
最初の2週間は「量より規則性」
腸は保守的です。新しい習慣が来ても、すぐには反応しません。だからこそ最初の2週間は、増量よりも規則性を優先します。毎朝7時に100ml、というふうに体に合図を送り続けると、腸内細菌と腸の動きが新しいリズムを憶えます。変化が出たら量を増やすのではなく、食物繊維と水分、適度な運動を横に並べるのが賢明です。腸活の相棒は一人ではありません。

「それでも続かない」を超えるためのコツと小さな検証
完璧主義は腸活の敵です。編集部スタッフ(38歳、在宅ワーク多め)は、朝のコーヒーをやめずに、カップの半分だけ甘酒に置き換える方法を3週間試しました。撮影のない日だけ、というマイルールも添えて。2週目からは「朝の空腹感が落ち着く」「昼前のどか食いが減る」という主観的な変化があり、3週目には排便のタイミングが安定した実感がありました。※個人の感想であり、効果効能を保証するものではありません。 うまくいったポイントは、前日に冷蔵庫で飲む分だけを瓶に分けておくことと、気分が乗らない日は無理をせず温かいお茶に切り替えた柔軟さでした。
失敗しやすいのは「甘酒を増やして他はそのまま」にしてしまうケースです。腸活のための甘酒は、置き換えで考えるとうまくいきます。午後の甘いラテをやめて小さな甘酒にする、夜のデザートをフルーツ+甘酒ヨーグルトに変える、といった発想です。体重や血糖が気になる人は、食後血糖が上がりやすい主食をほんの一口だけ減らしてバランスを取るのも一案。食事全体の心地よさを壊さずに、腸にやさしい選択に寄せていけます。
よくある誤解に答える:砂糖水?カロリーは?
「甘酒は砂糖水でしょ?」という誤解を耳にします。米麹甘酒の甘さは麹の酵素が米のデンプンを分解して生まれるブドウ糖由来で、意図的に砂糖を足していない製品も多数あります[7]。とはいえカロリーも糖質もゼロではありません。だからこそ量と置き換え、そして食物繊維との同席が腸活では効いてきます[6,15]。誇張に頼らず、生活に馴染む小さな工夫で、腸内環境は静かに動き出します。

まとめ:一杯の発酵で、腸活を「続けられる仕組み」に
腸活の正体は、派手なことではありません。毎日同じ時間に、やめずに続けることです。米麹甘酒は、善玉菌のエサになりうる成分を含み、料理にも飲み物にも応用しやすい。だからこそ「頑張りすぎずに続ける仕組み」をつくる相棒になれます。まずは2週間、1日100〜150mlを目安に、砂糖不使用・アルコール0%の米麹甘酒を選び、朝か夜のどちらかに固定してみませんか。体がどう反応するかをメモしながら、食物繊維・水分・適度な運動と並走させる。腸が合図を返してきたら、その小さなサインを見逃さず、あなたのリズムに合わせて微調整を。きれいごとではなく、現実に寄り添う腸活は、今日の一杯から始まります。
参考文献
- eCitizen.jp. 便秘の有訴者数(性・年齢階級別)データベース(参照ページ)https://ecitizen.jp/Statdb/StatsData/0002041032#:~:text=%E6%9C%89%E8%A8%B4%E8%80%85%E6%95%B0%286%E6%AD%B3%E4%BB%A5%E4%B8%8A%29%20%20,390
- NHK首都圏ナビ. 食物繊維の摂取目標量に関する解説(厚生労働省の基準紹介)https://www.nhk.or.jp/shutoken/newsup/20240307b.html#:~:text=%E3%81%93%E3%81%AE%E3%81%9F%E3%82%81%E5%8E%9A%E7%94%9F%E5%8A%B4%E5%83%8D%E7%9C%81%E3%81%AF%E3%80%81%E6%91%82%E5%8F%96%E3%82%92%E7%9B%AE%E6%8C%87%E3%81%99%E3%80%8C%E7%9B%AE%E6%A8%99%E9%87%8F%E3%80%8D%E3%81%A8%E3%81%97%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%99
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