グリチルリチン酸とは?ニキビと肌荒れにどう効くのか
甘草(かんぞう)は東アジアで長く用いられてきた植物で、その主要成分のひとつであるグリチルリチン酸は、現代の薬用化粧品でも肌荒れ防止の有効成分として広く採用されています[3]。意外かもしれませんが、植物由来という穏やかな響きに反して、作用は皮膚科学でも注目されるほど理にかなっています。医学文献によると、グリチルリチン酸は炎症性サイトカインの放出や炎症関連シグナル(NF-κB など)の活性化を抑える働きが示され、赤みやヒリつきの軽減に寄与します[1]。大人のニキビは思春期の“皮脂だけ”の問題とは違い、乾燥やこすれ、ストレスなど複数の要因が絡み合うのが現実。だからこそ、肌をいたわりながら炎症を“育てない”ケアが要になります。
まず押さえておきたいのは、名前のバリエーションです。化粧品の表示では「グリチルリチン酸2K(ジカリウム)」や「グリチルレチン酸ステアリル」などの表記が多く見られます[3]。前者は水溶性で化粧水や美容液に、後者は油溶性でクリームや日中用の下地に配合されやすいという違いがあります。いずれもベースは同じ甘草由来の有用成分で、肌荒れを防ぎ、ニキビを防ぐ目的で使われます[3]
研究データでは、グリチルリチン酸(および代謝産物のグリチルレチン酸)が角層や皮膚で起こる炎症反応にブレーキをかけ、外的刺激に敏感になった肌の不快感を落ち着かせる可能性が示されています[2]。ニキビに置き換えると、毛穴周りの微小な炎症が広がる前に赤みや腫れを抑え込む方向に働くイメージ。抗菌成分のように直接“菌を狙い撃ち”するのではなく、炎症の連鎖を鎮めて進行を防ぐサポート役として機能します[1]。この“受け止めるケア”は、乾燥やこすれでバリアが乱れやすい揺らぎ世代の肌に合っています。
「治す」ではなく「悪化させない」設計
薬機法の観点では、化粧品や医薬部外品が約束できるのは“予防”や“肌を整える”という領域です。グリチルリチン酸も例外ではありません[3]。過度な期待をあおるより、日々の小さな炎症を大きくしないという現実的な目的にフォーカスすると、使い続ける意味が腑に落ちます。たとえば、生理前にアゴ周りがむずむずする、マスクを外した夕方に頬が赤い、そんなときに“とりあえず落ち着かせる”一手として取り入れるのが賢明です。
どの段階のニキビに向いている?
白いポツポツ(面皰)や、できはじめの赤い小さな炎症の段階は、グリチルリチン酸の独壇場と言えます。皮脂詰まりが強く黒ずむまで進んだ毛穴や、痛みを伴う深いしこり(結節)のケアは家庭のスキンケアだけでは限界がありますが、初期の赤みやチリつく不快感を悪化させずに静めることは十分に期待できます[1]。皮脂対策や角質ケア成分(サリチル酸、AHAなど)が刺激になりやすいタイプでも、まずはグリチルリチン酸で土台を整えると全体の調子が上がる体感を得やすいでしょう。
揺らぎ世代のリアルに寄り添う:なぜ今、グリチルリチン酸なのか
35-45歳の肌は、若い頃と同じルールでは動きません。皮脂は部分的に残るのに、角層の水分は落ちやすい。仕事や家事、ケアの担い手としての役割が重なる中、睡眠や食事が乱れればストレスホルモンも上がり、炎症の下地ができあがります。バリア機能の指標である経表皮水分喪失量(TEWL)は、季節や生活ストレスの影響を受けやすい指標でもあります[2]。同じ刺激でも“揺らぎ”の時期は反応が強く出がちです。そんな背景があるからこそ、刺激を増やさずに炎症の火種を消していく設計が要。グリチルリチン酸は“攻めすぎない”という意味で、揺らぎ世代の現実にフィットします。
たとえば、在宅勤務が続く時期に頬の一帯がじわっと荒れた編集部スタッフは、角質ケアをいったん休み、グリチルリチン酸2K配合の化粧水とシンプルな保湿に切り替えました。2週間ほどで夕方の赤みが目に見えて落ち着き、メイクのよれも減少。攻めの一品を減らしたことによる“物足りなさ”はあったものの、肌の機嫌が整うと結果的にメイク映えが戻る。そんな実感がありました。※個人の感想であり、効果効能を保証するものではありません。
マスク、擦れ、乾燥—トリガーに先回りする
ニキビは“詰まり→炎症”の二段階で進みますが、揺らぎ世代では“擦れ→乾燥→微小炎症”という裏ルートも同じくらい重要です。マスクや襟元のこすれ、花粉の季節の刺激、強い風の日の乾燥。こうした小さなトリガーを受けた直後に、グリチルリチン酸配合の化粧水や美容液でクーリングする習慣を持つと、翌日の赤みやザラつきが軽く済むことが多いはず。ポイントは、悪化してから慌てるのではなく、違和感を覚えたタイミングで“早めに静めておく”ことです。
上手な選び方と使い方:刺激を避けて、効かせる
製品選びでは、まず配合名をチェックしましょう。「グリチルリチン酸2K」「グリチルレチン酸ステアリル」「グリチルリチン酸」が成分表示や有効成分欄に記載されていれば、肌荒れ防止やニキビ予防を意図した設計です[3]。水っぽく軽い使い心地が好みなら水溶性(2K)の化粧水や美容液を、乾燥しやすい季節やナイトケアの仕上げには油溶性(ステアリル)のクリームを選ぶと、テクスチャー面の満足度も上がります。配合濃度は公開されないことも多いのですが、医薬部外品の設計では一般に“効かせつつ、刺激を抑える”バランスが取られており、毎日使える穏やかさが魅力です。
使い方はシンプルです。洗顔後、肌が濡れすぎていない状態で手のひらに適量を取り、赤みが出やすい頬やアゴにやさしく押し込むようになじませます。こするのではなく、手の体温で包むイメージが正解。そのあとでセラミドやヒアルロン酸などの保湿剤でふっくらと整え、日中は日焼け止めで外部刺激からブロックします。夜は同じステップで十分。新しい製品を使いはじめるときは、耳の下やフェイスラインの一部で試し、問題がなければ顔全体へと広げると安心です。
相性の良い成分、気をつけたい組み合わせ
グリチルリチン酸は相性の幅が広く、ビタミンC誘導体やナイアシンアミドと組み合わせると、肌のキメや透明感のケアと炎症ケアを同時に進められます。皮脂や角質のケアとしてサリチル酸やAHAを取り入れる場合は、頻度を控えめにして様子を見るアプローチが無難です。レチノールや高濃度のピーリングと同日に重ねると、理屈の上では炎症ケアになっていても、摩擦や乾燥が増えて逆効果になることがあります。週の前半は角質ケア、後半は穏やかな鎮静ケアというふうに、肌の声に合わせてリズムを作ると暴走を防げます。
どのくらいで実感できる?続けるコツ
編集部での使用実感や各種レビューを俯瞰すると、2〜4週間で赤みの出にくさやザラつきの軽減を感じるケースが目立ちます[4]。もちろん個人差はありますが、スキンケアは“蓄積型”と心得て、朝晩のルーティンに組み込むのが近道です。肌が不安定な時期は、新しい成分を次々に試すより、一度決めた組み合わせを1カ月はキープして、変化を観察することをおすすめします。
よくある疑問と安心材料:安全性、ライフステージとの付き合い方
安全性についての不安も、揺らぎ世代ならではのリアルです。グリチルリチン酸は医薬部外品や化粧品で長く使われてきた成分で、適切な濃度と使い方であれば日常使いに向く穏やかさが評価されています[4]。甘草由来の成分は内服でむくみや高血圧などの副作用(偽アルドステロン症)が話題になることがありますが、スキンケアでの外用は設計がまったく別物です[2,5]。過度に心配するより、香料やアルコールの有無、ベースの刺激性といった“全体設計”を優先して選ぶと失敗が減ります。心配なときはパッチテストや部分使いから始め、赤みやかゆみが強く出た場合は使用を中止して肌を休めましょう。
妊娠・授乳期は、生活リズムやホルモンバランスの変化で肌も揺れます。グリチルリチン酸は攻めの治療薬ではないため、日常の肌荒れ予防として選ばれることが多い成分です。ただし体調の個人差が大きい時期でもあるため、においの強い製品や刺激を感じる組み合わせは避け、短いステップで“落ち着く”実感を優先してください。
皮膚科受診の目安—無理をしない判断基準
スキンケアで“整える”ことと、医療の“治療”は目的が異なります。痛みを伴う深いしこり、同じ場所に繰り返す強い炎症、色素沈着が広がるケースは、自己判断に頼らず医療機関での相談を。グリチルリチン酸は日常のベースとして続けながら、必要に応じて医師の指導のもとで外用薬や内服を取り入れる二段構えが、結果的に時間もコストも節約します。
まとめ:小さな火種を放置しない。今日から“静める”を習慣に
グリチルリチン酸は、攻めすぎずに肌の機嫌を整え、ニキビや肌荒れを“悪化させない”ための確かな味方です。揺らぎやすい35-45歳の肌には、刺激を増やさない処方と、炎症の連鎖を静める設計がよく効きます。違和感を覚えたときに早めに手当てをする、使う製品を増やしすぎない、2〜4週間は同じリズムで観察する。そんな小さな積み重ねが、赤みの出にくい日常につながります。次のスキンケアで、成分表示に「グリチルリチン酸2K」や「グリチルレチン酸ステアリル」を見つけたら、まずは部分使いから。あなたの肌が“静かさ”を取り戻す合図になるかもしれません。
参考文献
- PMC article (PMC7808814): https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7808814/
- PMC article (PMC11123902): https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11123902/
- 厚生労働省 参考資料(Trisodium Glycyrrhizinate 記載あり): https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb3720&dataType=1&pageNo=1
- 診療と新薬(グリチルリチン酸2K配合品の4週間使用試験): https://www.shinryo-to-shinyaku.com/sin_0056_07.html
- 日経メディカル(医薬品・副作用情報:グリチルリチン酸製剤): https://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/drugdic/article/556e7e5c83815011bdcf8340.html