寝る前は何時間空ける?目安と根拠
「何時間空ければいいの?」という問いに対して、睡眠医療や消化生理の知見は比較的明確です。胃の滞留時間は食事の内容で変わりますが、炭水化物中心ならおおよそ2〜3時間、たんぱく質や脂質が多いと3〜6時間に延びます[3]。つまり、同じ19時の夕食でも、揚げ物やこってりメニューほど就床時に「胃が働き続ける」状態になりやすいのです。睡眠衛生の推奨は就寝2〜3時間前に食事を終えること。これは、消化を概ね落ち着かせてから布団に入るための現実的なラインと理解すると腑に落ちます[2]。
研究データでは、就寝直前の重い食事が睡眠効率の低下や夜間の覚醒増加と関連する報告があり、逆流性食道炎の臨床ガイドラインでも横になる2〜3時間前の飲食を控えることが推奨されています(ACG GERDガイドライン 2022)[2,3]。一方で、全ての摂取を厳格に止める必要はありません。消化の負担が小さく、量も控えめなら眠りを妨げにくいことが示されており、入眠を助ける可能性を示したデータもあります。たとえば高GIの軽めの炭水化物を就寝4時間前に摂ると入眠が早まったという報告があります(Afaghi et al., 2007)[5]。
編集部の40代メンバーにヒアリングすると、21時以降に夕食がずれ込む日は少なくありません。そんな日は「完全に空腹で寝る」か「しっかり食べて後悔する」かの二択になりがち。現実的な落としどころは、就寝2時間を切るなら“軽く・温かく・脂質控えめ”の小さな一皿にすること。これなら睡眠の質と翌朝の胃の重さの両方をケアできます。
夜に避けたい食べ方、勧めたい食べ方
夜の食事のタイミングを整えるうえで、内容の工夫も同じくらい重要です。避けたいのは、大量の脂質、揚げ物、濃い味付け、香辛料たっぷりの料理、そして砂糖が多いデザートを就寝直前にまとめて摂ること。脂質は消化に時間がかかり、横になると逆流や胸やけを誘発しやすく、濃い味やスパイスは体温や心拍を上げて入眠を遠ざけます[3]。さらに、血糖が急上昇すると、その反動の変動が夜間覚醒の一因になることもあります。
反対に、どうしても遅くなる日は、量を控えめにして消化しやすい温かい一品を選びます。目安は就寝1〜2時間前なら150〜250kcal程度。具だくさんの味噌汁やミネストローネに豆腐や白身魚を少し加える、おかゆを軽く一膳にして卵を落とす、温かい豆乳にシナモンをひとふりなど、胃に優しい「温かさ」と「たんぱく質少々+やわらかい炭水化物」の組み合わせが落ち着きます。乳製品や大豆製品に含まれるトリプトファンやカルシウムは神経の興奮を抑える働きが知られており、温かい飲み物は末梢からゆるやかに体温を下げる前準備を助けます。
食べる姿勢も侮れません。背筋を伸ばして座り、よく噛み、食後はすぐ横にならずに最低30分は上体を起こして過ごすと逆流の予防になります[3]。ベルトやウエストゴムの締め付けは緩めておくと胃への圧迫が減り、睡眠時の胸やけを避けやすくなります。もし辛いものや揚げ物の日が続いたら、翌日は意識してあっさりメニューに切り替える「振り幅の調整」を。完璧主義ではなく、波をならす感覚が続けやすいコツです。
遅い夕食でも整う“分割”の発想とタイムライン
仕事や家事の都合で夕食が21〜22時になる日。そんなとき食事のタイミングを「一回で済ませる」固定観念から離れて、分割する発想が役に立ちます。例えば17〜18時の合間に、手のひらサイズの軽食で空腹をやわらげておき、帰宅後は「温かく・軽い」仕上げで終える流れです。編集部の実践例では、夕方におにぎり半分とゆで卵やヨーグルト、ナッツ少量でエネルギーを先に確保。帰宅後は具だくさんのスープと柔らかい主食を少し。こうすると総量は変えずに、寝る直前の胃の負担だけを減らせます[6]。
時間配分の目安を描くと、22時就寝の日なら、19時までに主な食事の6〜7割を終えておき、21時は200kcal前後の仕上げにするイメージです。23時就寝なら、20時台に7割、22時に仕上げ。これでも厳しい日は、夕食を翌朝に「持ち越す」選択もありです。朝のたんぱく質と食物繊維を厚めにして、夜はスープだけで切り上げても問題ありません。翌朝の血糖安定や日中の集中力を考えても、夜より朝にカロリーを寄せるほうが有利と示す研究は少なくありません(時間制限食の研究:Sutton et al., 2018)[6]。
キッチンに立つ時間が取れない日は、「買うなら何を選ぶか」を決めておくと迷いません。コンビニなら、湯気の立つスープ、冷奴やサラダチキン、小さめのおにぎりや豆乳などの組み合わせが、速度・栄養・消化のバランスを取りやすい選択です。家に帰ってから温めるだけの冷凍野菜ミックスやだしパックを常備するのも、夜の判断コストを減らしてくれます。
関連する生活全体の整え方は、NOWHの睡眠衛生ガイド「眠りの質を上げる夜の過ごし方」も参考にしてみてください。タイムライン全体の整え方と、食事の工夫は相乗効果があります。
夜食・お酒・カフェイン・水分の“タイミング基礎知識”
ここからは、よくある「これってOK?」にタイミングの視点で答えていきます。まず夜食。どうしても空腹で眠れない時は、就寝1時間前までに、小さな炭水化物と少量のたんぱく質を。温かい牛乳や豆乳、おかゆ少量、ヨーグルト+バナナなどが落ち着きます。量の基準は「満腹感ではなく、空腹感が静まる最小限」。甘い菓子パンやアイスを習慣化するより、温かくてやさしい一杯を癖にしたいところです。
次にお酒。寝つきが良くなると感じても、アルコールは深い睡眠を浅くし、夜間覚醒を増やすことが研究で示されています(Roehrs & Roth, 2001)[7]。飲むなら量は控えめにし、就寝3時間前までに切り上げるのが無難です。晩酌が習慣化しているなら、ノンアル飲料や炭酸水、温かいお茶(カフェインレス)に「置き換える曜日」を作ると、翌朝のだるさが変わってきます。
カフェインは就寝の少なくとも6時間前には終えるのが安全域です(Drake et al., 2013)[4]。夕方以降はデカフェやハーブティーを常備しておくと、「つい」で飲まずに済みます。緑茶やほうじ茶にもカフェインは含まれるため、夜は麦茶やルイボスに切り替えるとよいでしょう。
水分は日中にしっかり、夜は緩やかに。就寝直前の多量な水分は夜間のトイレで睡眠を分断しやすく、むくみ対策にも逆効果です。**寝る1〜2時間前からは“のどを潤す程度”**に切り替え、塩分の高い食事の日は夕方以降の水分を少し早めに。もし夜間頻尿が続くなら、カフェインやアルコールの見直しと合わせて、かかりつけで相談を。
最後に、食後すぐ横になると胸やけが出やすいという方は、ベッドの頭側を少し高くする、枕を重ねて上体を起こし気味に眠る工夫も役立ちます。医療ガイドラインでも推奨される生活調整で、薬に頼る前に試せる現実的な一歩です[3]。
より詳しい飲み物の見直しは「カフェインの切り上げ時刻ガイド」、時間栄養学の全体像は「時間制限食のはじめ方」も役立ちます。ピンポイントの工夫を重ねると、眠りの質は静かに底上げされます。
ケーススタディ:編集部Aさんの“22時就寝デー”
在宅と出社が混ざる働き方のAさんは、週に2回は夕食が21時半。以前は帰宅後にしっかり食べて寝つきが悪く、起き抜けに胃が重いのが悩みでした。そこで「分割+仕上げ軽食」に変更。17時にオフィスで小さなおにぎりとヨーグルト、帰宅後は温かいスープと柔らかい主食を少しにしたところ、布団に入ってからのもたれが減り、翌朝の空腹が自然にやってきたと言います。お酒は水曜だけに、コーヒーは午後はデカフェに。タイミングを整えるだけで、無理なく眠りと食欲の波が整った好例です。※個人の体験であり、すべての方に同様の結果を保証するものではありません。
参考文献
- 公益社団法人 日本栄養士会. 令和元年「国民健康・栄養調査」にみる睡眠時間の現状(解説記事). https://www.p-dietitian.or.jp/information/2024/05/3-6.php (2024年アクセス)
- American Academy of Sleep Medicine (SleepEducation.org). Healthy Sleep Habits. https://sleepeducation.org/healthy-sleep/healthy-sleep-habits/
- Katz PO, Dunbar KB, Schnoll-Sussman FH, et al. ACG Clinical Guideline: Guidelines for the Diagnosis and Management of Gastroesophageal Reflux Disease. Am J Gastroenterol. 2022. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8754510/
- Drake CL, Roehrs T, Shambroom JR, Roth T. Caffeine effects on sleep taken 0, 3, or 6 hours before going to bed. J Clin Sleep Med. 2013. https://europepmc.org/article/PMC/PMC3805807
- Afaghi A, O’Connor H, Chow CM. High-glycemic-index carbohydrate meals shorten sleep onset. Am J Clin Nutr. 2007;85(2):426-430. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17284739/
- Sutton EF, Beyl R, Early KS, et al. Early Time-Restricted Feeding Improves Insulin Sensitivity, Blood Pressure, and Oxidative Stress Even without Weight Loss in Men with Prediabetes. Cell Metab. 2018;27(6):1212-1221.e3. https://www.cell.com/cell-metabolism/fulltext/S1550-4131(18)30253-5
- Alcohol Research & Health(米国政府系リソース). Alcohol and Sleep(アルコールと睡眠に関する総説). https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2778757/