転職面接で差がつく!カフェ1杯でわかる原価計算の基本3つ

転職・キャリアに直結する原価計算の3つの基本を、カフェの一杯を例にわかりやすく解説。価格根拠やコスト改善、面接や実務で使えるチェックポイントを短時間で把握できます。

転職面接で差がつく!カフェ1杯でわかる原価計算の基本3つ

原価計算とは何か——言葉を生活に引き寄せる

原価計算は、製品やサービスを提供するためにかかったお金を、わかる形に集めて配る作業です。目的は大きく三つ、すなわち価格の根拠づくり、コスト改善の発見、そして業績評価です[5]。似た言葉が多いので整理しておきます。会計上の「費用」は期間に対応する支出全体を指し、そのうち売上に直接結びつく部分が「売上原価」です。原価計算は、費用の中から対象(商品・案件・サービス)に関係するものを取り出し、どれにどれだけかかったかを明らかにします。

身近な例で考えてみましょう。カフェで一杯のラテを提供する場合、エスプレッソ豆やミルクはすぐにイメージが湧きます。これに加えて、抽出にかかるバリスタの時間、マシンの減価償却や電気代、紙カップや洗剤、そしてラテを売るためのスペースや管理の手間も、実は少しずつ関わっています。**「どこまでをその一杯に含めるか」**は、原価計算の最初の判断ポイントです。

原価の要素と分け方——直接費・間接費、固定費・変動費

製造の現場では、材料費、労務費、製造間接費という三つの要素が定番です。小売やサービスでは、仕入原価や外注費、人件費が中心になります。重要なのは、対象にひもづけられるかどうかです。ラテのミルク代は一杯ごとに測れるので直接費、一方で店舗家賃のように複数メニューにまたがるものは間接費として扱い、合理的な基準で配賦します。また、販売数に応じて増減する支出は変動費、販売数に関係なく一定額で発生する支出は固定費です。この二軸で整理しておくと、後の価格決定や損益分岐点の計算が格段にやりやすくなります[2]。

配賦には誘惑が潜みます。細かく配るほど正確に見える一方で、根拠が揺らぐと意思決定を誤らせます。編集部が企業の管理資料を見ていても、家賃や本社管理費まで全てを製品別に厳密に配ろうとして疲弊しているケースは少なくありません。原価計算の要諦は、精緻すぎず、意思決定に十分な粒度を見つけることにあります。中小企業では配賦設計が大雑把になりやすいといった課題も指摘されており、目的に応じた配賦の設計が重要です[6]。

一杯のラテで試すミニ計算

仮にラテ1杯の材料費が140円、バリスタの作業3分を時給1,500円換算で75円、紙カップや消耗品が15円とします。ここまでで直接費230円。さらに店舗の家賃や設備費、共通の水道光熱費など、月間の間接費を月間販売杯数で割り、1杯あたり70円と見積もったとしましょう。合計で実際原価は300円。販売価格を480円に設定すると、限界利益は180円。ここから販促費やレジの月額、決済手数料などを加味して、価格が妥当かを検討します。数字はサンプルですが、考え方の骨格はどの業種でも同じです。

方法を選ぶ——個別・総合・標準・ABC

原価計算にはいくつかの流儀がありますが、すべてを覚える必要はありません。自分たちの仕事の流れに合うものを一つ選び、迷いなく回せる仕組みを作る方が成果につながります[5]。

オーダーメイドやプロジェクト単位のビジネスでは個別原価計算が親和的です。デザイン制作、システム開発、受注生産など、案件ごとに直接費と工数を記録していく方法です。案件の見積りと着地の差がそのまま改善のヒントになります[5]。

大量に同じものを作る業態では総合原価計算が働きます。ベーカリーや飲料、工場ラインなど、一定期間に作った数量で総額の原価をならし、単位あたりの原価を求めます。仕掛品が残る場合は、完成度を考慮した換算数量を使って、期間の努力と成果を対応させます[5]。

計画と実績の差を見える化したいなら標準原価計算が便利です。先に材料の標準価格と使用量、作業の標準時間を決め、月末に実績との差を価格差異能率差異として分解します[5]。たとえば原材料の仕入価格が上がったのか、使い方が予定より多かったのかが切り分けられるため、打ち手が具体化します。

共通費の配り方に納得感を持ちたいならABC(活動基準原価計算)というアプローチもあります。出荷回数や問い合わせ件数など、実際の活動量に応じて間接費を配る考え方です[3]。すべてをABCにする必要はなく、物流費だけ、カスタマーサポートだけ、といった部分導入でも十分に効果があります[4]。

価格と損益分岐点——“売れているのに疲れる”を止める

価格は感覚だけで決めない方が安全です。変動費率が高い商品を安売りすると、売上は伸びても利益が残りません。計算式はシンプルで、損益分岐点売上高=固定費÷(1−変動費率)[2]。たとえば固定費2,500万円、変動費率70%なら、分岐点は約8,333万円です。販売価格を10円上げる、あるいは材料の仕入れを2%改善する、どちらが効くのかを数字で比べると、議論が落ち着きます。心理的な抵抗がある値上げも、原価と価値の関係をチームで共有できれば、お客様に誠実な説明へと変わります。

差異分析で“原因へ”——怒らない仕組みを作る

標準と実績の差を詰めるとき、数字は責める道具ではなく、原因に近づく地図として使います。材料費の差なら、価格の変動か、歩留まりか、ロットの取り方か。労務の差なら、段取り替えに時間がかかったのか、教育が必要なのか、設備の稼働率の問題なのか。数字が教えてくれるのは“誰が悪いか”ではなく“どこに摩擦があるか”です。月例の会議では、金額よりもアクションの確認に時間を使う方が、現場は前を向きます[5].

今日からできる原価“見える化”——現場に寄り添う3ステップ

まず、集計単位を決めるところから始めます。商品別、案件別、店舗別、チャネル別など、意思決定に直結する切り口を一つだけ選びます。全部は追いません。一番悩んでいる問いに合わせるのがコツです。たとえば「どの商品を残すべきか」であれば商品別、「どの案件が疲れる割に合わないか」であれば案件別というように、選びきることが早道です。

次に、データの入り口を整える準備をします。クラウド会計やスプレッドシートで、勘定科目に加えてタグや部門、案件名を入力できる形にしておきます。現場の負担は最小化したいので、入力ルールは短く、人が見ても迷わない日本語にします。材料の購入、外注の発注、スタッフの工数記録など、発生時点で紐づけるだけで、月末に慌てる時間が減ります。

最後に、月次の簡易レポートを一枚だけ作ります。売上、変動費、限界利益、固定費、営業利益という順に横並びで数字を置き、前月比と前年同月比を軽く添えます。グラフは一つで十分。余白には、今月の一言メモを残します。「ミルクの仕入先変更で原価2%改善」「繁忙期で残業増、能率低下」など、未来の自分への手紙のように具体的に。1時間で粗く作って、回しながら整える。そのスピード感が、続く仕組みを作ります。

よくある落とし穴——“やりすぎ”と“やらなすぎ”の間

配賦のやりすぎは、誰にも説明できない数字を生みます。家賃や本社経費をすべて商品に配るより、まずは粗い配分で動かし、意思決定に効くかを確かめます。在庫評価の放置も危険です。棚卸差異が積み上がると、原価率の改善が錯覚になります。労務時間の記録は、最初から完璧を目指さず、代表的な工程だけ計り、“傾向”をつかむところから始めると抵抗が減ります。販管費と製造原価の境界は、税務や会計基準の観点だけでなく、マネジメントの意図とも整合させます。目的は決算の正確さだけでなく、現場が動ける数字にすることだからです[6].

原価計算を“武器”に——ゆらぐ世代のキャリア戦略

個人戦からチーム戦へ、役割が変わる35〜45歳の時期に、原価の言葉を持つことは強力です。クリエイティブでもバックオフィスでも、価値とコストの対話ができる人は、部署の垣根を越えて重宝されます。数字が得意でなくても、言葉の選び方一つで景色は変わります。「コスト削減」ではなく「余白づくり」と言い換える。「高いからやめる」ではなく「価値に見合う価格へ整える」と語る。感情の揺らぎに触れながら、事実に基づいて提案する態度は、キャリアの信頼残高を静かに増やします。

編集部が見てきた現場でも、原価の見える化をきっかけに、情報共有が進み、担当者の孤立がほどける瞬間が何度もありました。数字は冷たいどころか、痛みを分け合うための共通言語になります。あなたのチームにも、その言葉を一本通してみませんか。関連する考え方は、KPI設定の基本を扱った記事でも触れています。時間管理や見積りの精度に関心があるなら、「はじめてのKPI設計」や「忙しいチームの時間管理」を、資金繰りの視点なら「キャッシュフローの基礎」もあわせてどうぞ。

まとめ——1%の改善が、景色を変える

原価計算の基本は、難しい理論ではありません。対象を決め、費用を集め、合理的に配る。そして数字で価格と改善を語ること。営業利益率が5%前後という現実のなかで、原価の1%の改善が利益の20%を動かすことだってあります。完璧を目指さず、まずは一つの切り口で見える化を始め、来月にひとつ具体的なアクションを実行する。あなたの現場では、どの一歩がいちばん効きそうでしょうか。今日の発注前に変動費と固定費をメモする、今週の会議で損益分岐点を共有する、来月から標準原価の仮設定を試す。小さな実験が、チームの空気を確実に変えていきます。数字を味方に、余白のある働き方を取り戻していきましょう。

参考文献

  1. 財務省「法人企業統計(四半期)」
  2. マネーフォワード ビズ「損益分岐点の求め方(固定費・変動費・限界利益)」
  3. freee「ABC(活動基準原価計算)とは」
  4. ITトレンド「ABC(活動基準原価計算)とは」
  5. Reinforz「原価計算の基本」
  6. 中央会計グループ「中小企業の原価計算と配賦の課題」

著者プロフィール

編集部

NOWH編集部。ゆらぎ世代の女性たちに向けて、日々の生活に役立つ情報やトレンドを発信しています。