イエベ秋とは?大人世代に似合う理由
国内の複数調査で、パーソナルカラーの認知は70%を超えたという結果が出ています[1]。編集部が検索動向と購買のトレンドを追っても、ここ数年でイエベ・ブルベの言葉がすっかり日常語になりました。ただ、認知が広がるほど「似合う色は分かったのに、仕事や行事でどう使うかが難しい」という声も増えています。とくにイエベ秋は、豊かな深みが持ち味である一方、選び方を誤ると重さや老け見えにつながることがあるからです。
色彩理論では、イエベ秋は黄みを含んだ**低〜中彩度×やや低明度(=落ち着いた濃さ)**の領域に強みがあります。テラコッタ、キャメル、オリーブ、マスタード、チョコブラウン、カッパーやブロンズのメタル。こうした「深みカラー」は輪郭をやわらげ、肌の陰影を美しく見せる一方、光と素材の選択で印象が大きく変わります。だからこそ、理論と生活の距離を近づけるコツが必要です。
本稿では、色の基本設計から配色の実践、通勤・オフ・行事のシーン別の落とし込み、さらに重さを抜く質感コントロールまで、35-45歳のリアルに合わせて整理しました。編集部内での比較試着やオンライン会議の画面検証も交え、机上の空論に終わらないガイドとしてお届けします。
「深み=暗い」ではない。彩度と明度の設計図
イエベ秋が心地よく映るのは、肌に乗ったときに赤みと黄みのバランスが整い、コントラストが自然に落ち着くからです。年齢を重ねると顔のコントラストが少しずつ下がり、強い白黒の差や鋭い青みが浮いて見えることがあります[3,4]。深みカラーはその逆で、輪郭線をやわらげ、血色を内側からにじませる方向に働きます。色彩心理の研究でも、ブラウンやディープグリーンは安定・信頼・落ち着きの印象に寄与しやすいとされ、管理職や顧客対応など「信頼を見せたい」場面との相性が良いのも納得です[2].
一方で、同じブラウンでも微差が結果を左右します。黄みが不足して灰色がかると顔色がくすみ、赤みが強すぎると日焼け感が前に出たりします[5]。色名ではなく、布を顔の近くに寄せて肌のトーンが均一に見えるか、クマや毛穴が主張しないかを確認するのが近道です。編集部の検証では、キャメルでも砂色に近いライトキャメルより、キャラメルに寄る温度感がある方が画面映えしやすい傾向が見えました。
深みは暗さだけで作るものではありません。光沢のあるサテンのテラコッタは明るさがあり、ウールのチョコブラウンはマットで落ち着く。素材の反射で同じ色でも印象は逆転します。つまり、**色相(黄み寄り)×彩度(やや控えめ)×明度(やや低め)×質感(光の反射)**の掛け算で、自分仕様の「深み」を調整できます。ここを理解しておくと、店頭の光に惑わされずに選べるようになります。
よくあるつまずきは「黒頼み」
コーデが重く見えるとき、原因は黒の面積過多であることが多いです。黒は便利ですが、イエベ秋の肌にはダークブラウンやチャコールオリーブの方が柔らかい影を作ります。真っ黒の代わりに、ボトムやアウターを濃茶・深緑に置き換えるだけで空気が変わります。編集部でも、黒ニットからエスプレッソブラウンに替えた瞬間、肌に光が回ったように見えるケースが複数ありました。
深みカラーの基本調色と鉄板パレット
イエベ秋のベースに置くと扱いやすいのは、キャメル・テラコッタ・オリーブ・マスタード・エスプレッソブラウンです。ここに、一段明るいアイボリーと、一点だけ澄んだ**ピーコック(深い青緑)**をアクセントとして用意すると、配色の幅が一気に広がります。アイボリーは白の代わりに余白を作り、ピーコックは深みの中に透明感を差し込む役割です。
配色は三者関係で考えると迷いません。例えば、キャメルのジャケットにエスプレッソのパンツを合わせたら、インナーはアイボリーで余白を作る。テラコッタのワンピースなら、靴とバッグをブロンズ寄りのブラウンに寄せ、耳元だけピーコックの石で小さく光を置く。全身が濃くなりすぎる前に、必ずどこかに**「抜け」**を作るのが鍵です。
素材とメタルで“深みの質”を微調整
同じブラウンでも、スエードはやわらかく、レザーは凛と、ツイードは存在感が出ます。仕事の場では布帛やウールサージ、休日はスエットやコットンニットなど、場面と素材の相性を合わせると無理がありません。メタルはイエローゴールド、ブロンズ、カッパーが肌となじみ、ギラつきを避けたい日はマット仕上げに。逆に軽さが足りないときは、薄づきの艶ゴールドをどこか一箇所に足すだけで十分です。
「似合うけれど地味」を回避する小さなコントラスト
深み同士でまとめると、安心感はあるものの平板になることがあります。そのときは、艶・透け・硬さといった質感のコントラストを足します。マットなニットに、ほんのり光るサテンのスカーフ。ウールのセットアップに、エナメルの細ベルト。布の厚みを変えるだけでも立体感が生まれます。編集部の会議室でも、同じ色でも透け感のあるブラウスに替えたとたん、画面での「軽さ」の伝わり方が変わりました。
ワードローブへの落とし込み方:仕事・オフ・行事
通勤の朝は迷う時間がありません。そこで役立つのが、色と形を固定したマイルール・セットです。例えば、アイボリーのインナーにキャメルのジャケット、下はエスプレッソのテーパード。バッグはブロンズ、靴はダークブラウン。この骨子を持っておけば、気温に合わせて素材だけを替えるだけ。夏は麻混ジャケットとレザーサンダル、冬はウールジャケットとスエードパンプス、といった具合に応用できます。
休日は自由度が高いぶん、色遊びの余白を残しましょう。テラコッタのカットソーにオリーブのカーゴ、足元は白の代わりにアイボリーのスニーカーでなじませる。ワンツーだと物足りない日は、ピーコックの小物やゴールドのフープで光を一点。子どもの行事や学校関係では、強い艶や柄よりも、織りで表情が出るツイードやミラノリブが上品です。ネイビーが校風で指定に近い場でも、ほんのり黄みのあるダークティールを選べば、真っ青ほど硬くならず、イエベ秋の肌との調和が保てます。
フォーマルでは、黒のドレス一択にしない自由も持ちたいところ。ディープチョコレート、バーガンディ寄りのブリック、ピーコック寄りの深緑など、光を美しく拾う生地を選べば、写真映えも肌映えも良くなります。アクセサリーはパールならアイボリー寄り、メタルならマットゴールドを基軸に。バッグと靴まで金属光沢を強くすると情報量が増えるので、どちらか一方はスエードやスムースの落ち着きに逃がすと、全体の呼吸が整います。
編集部の比較検証:画面映えはどこで決まる?
オンライン会議用に、同じ構図・同じ照明でトップスを比較しました。黒・キャメル・テラコッタ・ディープグリーンの4種類を試すと、黒は輪郭が強く出てクマが目立ちやすく[3]、キャメルは顔全体に光が回って優しい印象、テラコッタは血色が増して声のトーンまで明るく感じられるというフィードバックが集まりました。ディープグリーンは信頼感が出る一方、背景が暗いと沈むため、アイボリーのインナーを覗かせるとバランスが取りやすいという結論です。画面越しの第一印象を左右するのは、色そのものより**「余白の作り方」**であると実感しました。
メイクとアクセで“重さ”を軽やかにする
服の深みを生かすには、メイクが濃くなる必要はありません。むしろ、土台を均一・薄膜に整え、色は点で効かせるほうが今っぽい。ベースは黄み寄りのニュートラルに合わせ、ハイライトは白すぎないシャンパン系でツヤを一点[5]。アイシャドウはカプチーノ〜ブロンズのグラデーションで影をつくり、アイラインは黒ではなくディープブラウン[3]。マスカラはブラウンに、日によってバーガンディやカーキをほんのり混ぜると、目元だけが浮かずに深みと遊びが共存します。
チークはアプリコットやテラコッタを薄く横に広げると、立体感が自然に出ます。リップはベージュ、ブリック、テラコッタの中から、服のトーンに合わせて一段明るいか暗いかを選ぶだけで十分。迷ったら、まずは唇の自然な色より半トーン深いものを一本決め、そこを起点に明るさを足し引きするのが失敗しません。アクセサリーはマットゴールドを基準に、クリアなストーンやアイボリーのパールで光を散らすと、服の深みが「重さ」に転ばず、呼吸するように軽やかに見えます。
“似合う”を更新するセルフチェック
クローゼットの前で立ち止まったら、三つの視点で見直します。第一に、顔の中心が明るく見えるか。第二に、輪郭の影がきつく落ちていないか。第三に、服の情報量がメイクやアクセの情報量と釣り合っているか。どこかが強すぎると感じたら、アイボリーの余白を足す、マットを減らして艶を一点加える、黒をブラウンに置き換える。こうした微調整を積み重ねるほど、深みカラーはあなたの一部として機能し始めます。
まとめ:深みはあなたの「余白」を引き出す
イエベ秋の深みカラーは、重たさの象徴ではなく、むしろ余白を引き出すための設計図です。色相・彩度・明度・質感の四つを意識して、キャメルやテラコッタ、オリーブといった土台にアイボリーの余白と小さな光を重ねるだけで、印象は静かに、確実に更新されます。今日のワードローブのどこか一箇所で黒をブラウンに置き換える、あるいは耳元にマットゴールドを足す。その小さな選択が、明日の自分の見え方を変えていくはずです。
「似合う」は固定ではなく、今の生活に合わせて整えるもの。あなたの朝の3分を、深みの見直しに投資してみませんか。どの場面から手をつけるか、まずは通勤セットか、行事の一張羅か。次に開くクローゼットで、ひとつだけ更新するアイテムを決めるところから始めてみてください。
参考文献
- J-STAGE 家政学研究 76巻: 骨格診断・パーソナルカラー診断の認知度とファッション情報取得に関する調査. https://www.jstage.jst.go.jp/article/kasei/76/0/76_171/_article/-char/ja
- 日本色彩学会誌 特別号 41 (2017). https://www.jstage.jst.go.jp/browse/jcsaj/spenum/41/0/_contents/-char/ja
- Porcheron A, Mauger E, Russell R. Facial contrast decreases with age and is a cue for age perception. PLOS ONE. 2013. https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0057985
- Frontiers in Psychology (2017): Evidence on age-related decreases in facial contrast and appearance. https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fpsyg.2017.01208/full
- 花王 研究レポート「顔の色と印象:青と肌色の関係、補色による彩度変化の印象効果など」. https://www.kao.com/jp/kaonokao/dna/6_2/