古着を「上手」に選ぶ三つの視点
世界では毎年1000億点以上の衣服が生産されているとされます[1]。一方、英国WRAPの報告では、衣類を9カ月長く着るだけで環境負荷が約20〜30%減ると示されています[2,6]。新品一択の時代から、手持ちを活かし、古着を賢く選ぶ時代へ。編集部が各種データを読み解いた結論はシンプルです。古着は環境にも家計にもやさしい選択になり得る[4]。また、ファッション産業は世界の温室効果ガス排出の最大8%を占めるとの推計もあります[3]。ただし、選び方を間違えると“安かったけど着ない服”が増えるだけ。ゆらぎ世代の私たちが迷いなく手に取れるよう、見た目・つくり・生活相性という実用の視点で、古着の上手な選び方を具体化します。
古着を「上手」に選ぶ三つの視点
古着との出会いは一期一会。勢いで買って後悔しないためには、似合うかどうかだけでなく、時代感のバランス、素材とつくり、生活に合うかを同時に見るのが近道です。これは編集部内での購入記録を振り返っても例外がありませんでした。見た目でときめき、つくりで寿命を読み、ケアの手間や着回しの現実に照らして最後のひと押しをする。3つの視点が揃うと、着用回数は自然に伸びます。衣類の寿命を延ばすことは温室効果ガスの削減にもつながると推計されています[5]。
見た目と時代感のバランスを読む
古着の魅力は“いま”にはないニュアンス。とはいえ、全身をその時代に寄せるとコスプレ感が出やすく、日常から浮いてしまいます。シルエットの今解釈が鍵です。たとえば80年代のテーラードなら肩の厚いパッドを外して落ち感を出せば、現代のデニムやTシャツと無理なく馴染む。90年代のデニムなら股上の深さとヒップのゆとりを吟味し、裾は身体の動きがきれいに見える位置に合わせる。店の照明は立体感を強調しがちなので、鏡の前で横を向き、後ろ姿も確認する習慣をつけると失敗が減ります。編集部の試着メモでは、“横と後ろ”で違和感がゼロのものだけ購入というルールが最も有効でした。
素材とつくりで“寿命”を想像する
見た目に加えて、素材表示と縫製の痕跡を観察すると、のちの満足度が大きく変わります。ウールなら毛羽立ちやテカリの分布、コットンなら生地の腰と表面の起毛、シルクなら光沢のムラや脇下の変色を。化繊混紡は軽く引っ張って戻りの良さを見れば、ゴムや伸縮糸のへたり具合が分かります。縫い代が十分に残っていれば微調整の直しもしやすい。負荷がかかる“要所”——脇、股、袖口、ボタンホール、ファスナー根元——に補修歴があるかも確認します。丁寧に直されている個体は、前のオーナーの愛情が残る分だけ、次の人にも長く寄り添ってくれる確率が上がります。
生活に合うか。ケアと着回しの現実
いくら素敵でも、手入れが自分の生活のリズムに合わなければ出番は減ります。自宅ケアで完結するか、クリーニング前提かを最初に決めておくと迷いません。たとえばシルクのブラウスは、水洗い可能かを品質表示で確認し、不可なら特別な日の一軍として回す。逆にデニムやコットンシャツは日常の繰り返しに強く、“コスト・パー・ウェア(1回あたりの費用)”で考えると投資価値が高い。クローゼットの5アイテムと合わせられるかを試着時に想像し、通勤・送迎・在宅ワークなど自分の1週間の流れに置いてみる。そうして残った一着は、結局いちばん着る“相棒”になります。関連して、ワードローブの棚卸しは定期的に行うと判断が早くなります。クローゼットの見直し方は、ワードローブの見直し術の記事でも詳しく解説しています。
お店とオンライン、それぞれの攻略法
古着は“どこで買うか”で体験が変わります。街のリサイクル店、バイヤー目利きのヴィンテージショップ、フリマアプリや海外マーケットプレイス。場が違えば、見るべきポイントも変わると心得ておくと上手に選べます。
実店舗:質感と立体感で選ぶ
店で選ぶ最強のメリットは、触って、着て、歩けること。まずは鏡の前で腕を上げ下げし、椅子に座ってみてシワの入り方を見る。ニットは日光の入る場所に移動して、毛羽の乱れや色の沈みをチェックする。デニムは裾を折っても腰の後ろが浮かないか、ブラウスはインもアウトも試す。どこか一箇所でも“気になる”が残るなら帰宅後に思い出すのはそこだけです。価格交渉ができる店なら、ダメージやサイズ直し前提のコストを根拠に、静かに相談するのがコツ。ショップスタッフの知識は宝なので、産地や年代のヒントを遠慮なく聞いてみましょう。生地や縫製の基本を知りたい方は、素材の選び方とケアの基礎をまとめたサステナブルな買い物ガイドも参考になります。
オンライン:情報を集めて精度を上げる
画面越しの古着選びは、採寸と写真の読み取りがすべてです。トップスなら肩幅・身幅・着丈、ボトムスならウエスト・股上・股下の数値を手持ちの“ベストサイズ”と比較し、差分で着心地を想像します。写真は自然光のカットがあるか、裏地や縫い代の写真があるか、タグの拡大があるかで信頼度が変わる。気になる点は具体的に尋ねると回答が得やすく、たとえば「脇下の変色」「襟の黄ばみ」「ポケット袋の破れ」など、箇所と状態を名指しに。返品規約と送料のルールは必ず読み、初めての出店者からは高額品をいきなり買わないのが安全です。検索は“年代+アイテム+色+素材”の組み合わせで精度が上がり、ブックマークや保存検索を使えば良品に出会いやすくなります。デニムの縮みや色落ちの基礎は、デニムケアの記事も役立ちます。
編集部のケーススタディをひとつ。38歳の同僚が選んだのは90年代のLevi’s 501。ジャストより一つ上のサイズを選び、裾はハーフタタキで2cm短く。結果、スニーカーにもパンプスにも合う丈感になり、週2で稼働する一本に。反対に失敗例は、古いシルクブラウスの脇にわずかな変色があったもの。帰宅後に照明を変えると意外と目立ち、結局出番が減りました。教訓は明快で、“気になる”は小さくても放置しないことです。
ニオイ・ダメージ・衛生面の見極め
古着にまつわる不安のトップは清潔感。感じ方には個人差がありますが、取れるニオイと残るニオイを仕分けできると判断がぶれません。樟脳や保管臭は、風通しの良い日陰で数日吊るすだけで抜けることが多く、重曹を入れた袋で一晩おく方法も有効です。タバコ臭は時間がかかるものの、スチームと陰干しの反復で薄くなります。一方、カビ臭と変色がセットになっている場合は繊維内部まで侵食している可能性があり、無理な家庭ケアは生地を傷めがち。判断に迷うものはクリーニング店に相談し、見積もりと仕上がり予測を聞いてから購入を決めるのも十分“上手な選び方”です。
ダメージについては、味と致命傷の境界線を自分で定義しておくと迷いません。色落ちや軽い擦れは個性として活きますが、縫い代のない破れ、ファスナー根元の裂け、ニットの脇の編み糸切れは要注意。ボタンの欠損や裾のほつれは手直しで復活しやすく、逆にエラストマーが劣化したストレッチ素材は戻りません。衛生面では、肌に直接触れるインナーやニット帽、タイツなどは新品を選び、古着はトップス・ボトムス・アウター中心にそろえると安心感が高いという声が多く寄せられています。洗濯表示の新旧でケア方法が異なる点にも留意を。日本の新しい洗濯記号に不慣れな場合は、洗濯の基礎ガイドを確認しておくと安心です。
価格相場と真贋のヒント、買ってから長く着る
古着の価格は、希少性×コンディション×需要の季節性で決まります。似た条件の相場を3件ほど把握できると、買い時の直感が鋭くなります。ブランドものはタグや刻印の書体、縫い目のピッチ、金具の質感、裏地の柄合わせに“らしさ”が出ます。年代ごとのタグ変遷は公開情報が多いので、購入前に一度確認しておくと安心です。なお、リメイクやリプロダクトが混ざるのは今の古着市場の常。“好きならOK、投資なら慎重に”という線引きが心を軽くします。
買ってからのケアは、最初の1回が肝心。到着後はまず裏返してブラッシングし、必要に応じて単独でやさしく洗う。型崩れが心配なら平干しにする、アイロンは低温から当て布で試す。ここを丁寧に通過させると、以後の扱いが格段にラクになります。収納は通気重視で、ニットは畳む、テーラードは肩先の厚いハンガーに掛ける。虫対策は匂いの強すぎない防虫剤を少量、直射日光の当たらない場所で。“入れたら1つ手放す”のルールを決めると、クローゼットの循環もよくなります。
編集部の小さな成功談を最後に。あるライターは、秋にトレンチを古着で買いました。生地はコットンギャバ、裏地の擦れは軽微。袖丈が1.5cm長かったのですが、迷わず直しを前提に購入。結果、総額は新品の半額で、体に合う一着に。上手に選ぶとは、完璧を探すことではなく、足りない数ミリを自分の生活に合わせて補うこと。そう思えたら、古着はもっと自由になります。
まとめ:古着は“選ぶ時間”で応えてくれる
私たちのクローゼットは、過去と今とこれからの重なりでできています。古着を上手に選ぶことは、その重なりに自分の基準を置き直す行為。見た目でときめき、つくりで寿命を読み、生活に合うかで決める——この順番を覚えるだけで、失敗はぐっと減ります。次の休日は、近所の古着屋で“横と後ろ”までチェックしてみませんか。オンライン派なら、まずは手持ちのベストサイズを採寸して保存しておくのがおすすめです。買い物の練度は、年齢とともに確実に上がります。今日の一着が、未来の定番になりますように。関連する読み物は、ワードローブの見直し術やサステナブルな買い物のコツもぜひご覧ください。
参考文献
- Ellen MacArthur Foundation. The trends and trailblazers creating a circular economy for fashion. https://www.ellenmacarthurfoundation.org/articles/the-trends-and-trailblazers-creating-a-circular-economy-for-fashion
- WRAP. Design for Extending the Life of Clothing (2016). https://www.wrap.ngo/resources/report/design-extending-clothing-life
- 国連広報センター(UNIC). ファッションと環境に関する特集ページ(2025年3月). https://www.unic.or.jp/news_press/features_backgrounders/51983/
- UNEP. The environmental costs of fast fashion (2022). https://www.unep.org/news-and-stories/story/environmental-costs-fast-fashion
- 国連広報センター(UNIC). 衣類の寿命を2倍にすると温室効果ガス排出量を44%削減できるとの推計について(同上ページ内記載). https://www.unic.or.jp/news_press/features_backgrounders/51983/
- The Irish Times. Use your clothes for nine months more and reduce their environmental footprint by up to 30% (2025年8月18日). https://www.irishtimes.com/life-style/people/2025/08/18/use-your-clothes-for-nine-months-more-and-reduce-their-environmental-footprint-by-up-to-30/