今すぐできる米国株の税金対策:配当の二重課税回避と売却益の3つの対策

W-8BEN提出で配当の米側源泉を10%に抑え、確定申告で外国税額控除を活用。売却益に対する3つの実践的な節税策と新NISAの使い分けを具体例で紹介。初心者〜中級投資家向けに今すぐ実践できる対策を手早く確認しよう。

今すぐできる米国株の税金対策:配当の二重課税回避と売却益の3つの対策

米国株の税金の基本構造:配当と売却益

配当は日米で二重に?条約と税率の現実

米国株の配当は、W-8BENの提出が有効であれば日米租税条約により米国側で10%源泉徴収されます[2]。提出がない場合は30%が控えられるため、まずはここが対策の起点です[4]。日本では受け取った配当が原則として20.315%(所得税・復興特別所得税・住民税の合計)で課税対象になります[1]。これだけを見ると二重課税に映りますが、確定申告を行うと「外国税額控除」により、米国で差し引かれた10%の範囲で日本の税額から差し引けます[2]。結果として合計負担はおおむね**20.315%**に近づき、二重取りを避けられます[1]。

実務では、特定口座(源泉徴収あり)でも配当から日本の税が天引きされますが、申告により控除を受ければ精算される仕組みです。なお、外国株の配当は国内株のような配当控除の対象外で、配当を総合課税にして控除を狙う戦術は基本有効ではありません。数字だけでなく、入口(米国で10%)と出口(日本で20.315%)の二つの蛇口をイメージしておくと、押さえるべき操作が見えてきます。

売却益はどこで課税?日本だけのフラット20.315%

一方で売却益は米国では原則非課税(不動産関連等を除く)で[3]、日本でのみ**20.315%**の申告分離課税です[1]。つまり米国株の値上がり益は二重課税の心配がなく、対策の焦点は日本側だけに絞られます。特定口座なら損益通算まで自動計算され、確定申告なしでも課税は完結しますが、損失の繰越控除を使う、外国税額控除を活用する等の目的があるなら、申告というワンアクションを戦略的に選ぶ価値が生まれます。

いますぐできる米国株の税金対策

新NISAを基盤に、非課税枠を戦略的に使う

新NISAは米国株の日本での配当・売却益を非課税にする強力な器です[5]。ただし配当にかかる米国**10%の源泉徴収は避けられず[2]、ここは制度の限界として受け止めるしかありません。それでも、課税口座なら最終的に約20.315%**の負担がかかる[1]のに対し、新NISAなら配当も売却益も国内課税ゼロ[5]。高配当を受け取るほど差は広がるため、配当重視株ほど新NISAを優先する合理性があります。逆に、課税口座に残す銘柄は、将来の売却益が大きく見込める成長株に寄せると、外国税額控除の手間が少なく、売却益に米国課税がないという特性と噛み合います[3]。

非課税枠は有限です。緊急資金や数年内に使う予定の資金を誤って非課税枠に固定しないよう、用途ごとにレーン分けをしてから配分すると失敗しにくくなります。

外国税額控除で「二重取り」を防ぐ

課税口座の配当は、確定申告で外国税額控除を使うと、米国で引かれた10%の範囲で日本の税額から差し引けます[2]。例えば配当が10万円、米国で1万円引かれているケースでは、その年の所得構成にもよりますが、日本の税額から最大で1万円程度まで控除が可能になり、最終的な負担は約**20.315%**で着地します[1]。限度額の計算は所定の式に基づき、特定口座の年間取引報告書に記載の「外国源泉徴収税額」を用いるため、書類をそろえれば手順自体は難しくありません。電子申告で完結できる点も、家事・育児・仕事の隙間時間で取り組みやすい理由になります。

なお、住民税の扱いは自治体によって手続きが異なる部分もあり、健康保険料等への影響を気にする場合は、住民税の申告方法を個別に確認するのが無難です。制度は動きがあるため、毎年の案内に目を通す習慣が小さく効いてきます。

損益通算と繰越控除でブレを味方に

米国株の売却損は、同年の売却益や配当(申告分離課税にした上場株式等の配当等)と通算できます[6]。通算しきれなかった損失は確定申告により3年間繰り越しが可能で、翌年以降の売却益や配当と相殺できます[6]。たとえば今年30万円の損失が出たなら、来年以降の利益から差し引ける余地が生まれ、実効税率を時間軸で平準化できます。年末に含み損の一部を実現して通算を狙う、いわゆる「損出し」は、やみくもに行うのではなく、翌年の非課税枠の配分、配当の見込み、生活資金の流れと合わせて設計すると、税だけでなくキャッシュフローの安定にもつながります。

35〜45歳の現実に合う設計と落とし穴

配当か成長か、現金フローと税のバランス

配当重視は目に見える実りが魅力ですが、米国での10%源泉という摩擦が常にかかります[2]。将来の学費や住宅繰上げ返済に向けて、成長株で売却益を狙う比率を一定程度持つと、米国側課税がないメリットを享受できます[3]。とはいえ、配当の安心感も捨てがたいのが本音。そこで、新NISAの枠には配当株を優先し、課税口座には成長株を置く、という役割分担がシンプルで運用もしやすい配置になります[5]。

口座区分と確定申告、手間とリターンの見極め

特定口座(源泉徴収あり)なら、売買や配当の税は自動で完結します。ただし配当の外国税額控除や損失の繰越控除など、踏み込んだ税金対策を行うには確定申告が必要です(外国税額控除[2]、損失の繰越控除[6])。時間コストを最小化したいなら、配当は新NISA中心に受け取り、課税口座での配当は少額に抑えると、控除の必要性自体を減らせます。逆に配当収入を生活費の一部に組み込むなら、外国税額控除は半ば必須のルーティンになります。手間の線引きを自分の生活のリズムに合わせることが、継続の鍵です。

申告の初回はハードルが高く感じられますが、二年目からはテンプレート化できます。控除の下準備、医療費控除やふるさと納税との兼ね合いなど、全体最適の視点で進めると効率が上がります。

為替・手数料・相続の視点も忘れない

税金対策は「税」だけを見ていると最適解を外します。米国株は為替で受け取り額が動くため、外貨の両替コストを抑える工夫が効いてきます。取引先の為替スプレッドや外貨入出金の手数料を見直すだけでも、長期では小さくない差になります。また、W-8BENの有効期限は通常3年程度で、失効すると米国側の源泉が**30%**に戻る点も定期点検が必要です[4]。さらに、資産全体が大きくなってきた段階では、米国株が米国の相続税の課税対象になり得る論点もあります。日米の協定や日本側の税額控除との関係で実際の負担はケースによりますが、規模が大きくなったら専門家に相談するという「出口の設計」も、安心のコストだと考えておくといいでしょう。

ケースで学ぶ:数字で見る最適解

10万円の配当、NISAと課税口座の差

米国株の配当が10万円のケースを考えます。新NISAの場合、日本の税は非課税なので手取りは、米国で1万円が源泉徴収されて9万円です[2,5]。課税口座の場合、米国で1万円引かれ、日本でおおむね2万315円が課税対象になりますが、確定申告で外国税額控除を使えば、日本の税額から概ね1万円分が控除され、最終的な実効負担は約**20.315%**に落ち着きます[1,2]。単純化すれば、新NISAでは配当の実効負担は約10%、課税口座では控除後に約20.315%というイメージです。高配当戦略ほど新NISAの価値が高くなる理由が、数字で実感できます。

年末の「損出し」が効くケース

年末時点で含み損が出ていて、同年に売却益や配当があるとき、損失を一部確定して通算することで、その年の税負担を軽くできます[6]。たとえば売却益が40万円、含み損が30万円なら、損出しで利益が実質10万円となり、課税対象が縮小します。通算しきれなかった損は翌年以降に繰越可能なので[6]、翌年の利益の見込みや新NISAの枠配分を見ながら、最小限の売却で最大の効果を狙うのが合理的です。頻繁な売買はスプレッドや手数料の増大につながるため、年間で一度、点検日のように行うだけでも十分な改善が見込めます。

学費・住宅と並走する中長期設計

近い将来に大口支出が見込まれるなら、税金対策は現金フローとセットで考えます。例えば3年後に学費の山場が来るなら、その時点での売却益に対して**20.315%**の税が発生する前提で、必要額に余裕をもたせます[1]。配当で毎月の収入を補う設計にするなら、新NISAで配当株を中心に据えて、課税口座の配当は控除手続きの負担に見合う範囲に留める[5]。逆に、今はキャリアの再加速期で収入に余力があるなら、課税口座では成長株とつみたてを中心に、売却のタイミングを先送りして税の発生自体を遅らせる、という選択も筋が通ります。どれも「正解」は一つではありませんが、税金対策を生活設計に溶け込ませると、判断に迷いが少なくなります。

参考文献

  1. 国税庁 タックスアンサー No.1331 株式等の譲渡所得等の課税関係と税率 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1331.htm
  2. 財務省 日米租税条約(改正)概要と資料 https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/international/tax_convention/press_release/sy151107_index.htm
  3. IRS Federal income tax withholding and reporting on other kinds of U.S.-source income paid to nonresidents(Capital gains)https://www.irs.gov/individuals/international-taxpayers/federal-income-tax-withholding-and-reporting-on-other-kinds-of-us-source-income-paid-to-nonresidents
  4. IRS Publication 515: Withholding of Tax on Nonresident Aliens and Foreign Entities https://www.irs.gov/publications/p515
  5. 金融庁 NISA制度の概要(現行制度・新NISA関連)https://www.fsa.go.jp/access/r4/234.html
  6. auカブコム証券 損益通算・繰越控除の基礎解説 https://kabu.com/investment/guide/syoukenzeisei/sonshitu.html

著者プロフィール

編集部

NOWH編集部。ゆらぎ世代の女性たちに向けて、日々の生活に役立つ情報やトレンドを発信しています。