ゆらぎ世代の働く女性が知らない「産業医・カウンセラー相談」5つの活用法

仕事と家庭、更年期の揺らぎに悩む35〜45歳女性へ。産業医・カウンセラー相談で働き方を整える5つの理由と、守秘義務やストレスチェック活用など今できる準備法をわかりやすく解説します。

ゆらぎ世代の働く女性が知らない「産業医・カウンセラー相談」5つの活用法

いま相談する理由——制度とエビデンスが背中を押す

厚生労働省の調査では、仕事や職業生活で強いストレスを感じる労働者は毎年およそ半数を超えています。 [1]

2015年から義務化されたストレスチェックは、従業員50人以上の事業場で実施率が9割前後まで浸透しています。 [2] 一方で、研究や民間調査では社内外の相談窓口の利用は一桁台にとどまる傾向が指摘されています。 [3] 編集部が各種データを読み解くと、制度はあるのに、使い方がわからない、評価が気になる、何を話せばいいかわからない――そんな“見えないハードル”が立ちはだかっていることが見えてきます。

家庭と仕事の両立、チームの中での役割変化、親の介護や更年期のゆらぎ。前を向くだけでは進めない日が続くとき、産業医やカウンセラーへの相談は、気持ちの整理だけでなく、働き方の具体的な調整につながる現実的な選択肢になります。ここでは、エビデンスと制度に基づき、迷いを行動に変えるための実用情報をまとめます。

産業医は労働安全衛生法に基づいて選任され、労働者の健康管理や就業上の措置に関する意見を事業者に示す役割を担います。カウンセラー(社内相談員や外部EAPなど)は、心理的サポートやストレス対処の伴走役が中心です。研究データでは、職場における認知行動的アプローチや上司・同僚の支援を高める介入が、ストレス低減やプレゼンティーイズム(出勤しているが生産性が落ちる状態)の改善に小〜中程度の効果を示すと報告されています。 [6] 大げさな自己改革を掲げなくても、早めの相談と小さな調整の積み重ねで、日常のしんどさは確実に緩みます。

もうひとつの理由は、相談が就業上の配慮に直結しやすいことです。体調や生活状況に合わせて、時間外労働の制限、始業時刻の調整、在宅勤務の割合見直し、業務内容や配置の見直し、休業の検討など、働き方を具体的に変える選択肢は複数あります。話すことで「いま必要な一歩」が可視化され、制度に沿って実行できる。これが職場の相談の強みです。

数字が示す“相談しない”コスト

統計やレビューでは、生産性の損失は欠勤よりもプレゼンティーイズムに大きく左右されることが示唆されています。 [4] なんとなく不調を抱えたまま働く状態が続くほど、集中力や判断力はじわじわ削られ、家庭時間にも影響が波及します。相談を先送りにするほど、調整に必要な時間も広がりがちです。反対に、早期の相談は復調までの期間を短くする傾向があることが報告されています。 [1] 完璧な言語化ができていなくても、メモと現在地の共有から始める価値は十分にあります。

守秘義務と情報共有——どこまで伝わるのか

産業医は医師としての守秘義務を負い、本人の同意なしに個人の健康情報を広く共有することはできません。一方で、就業上の安全や健康確保のために必要な最小限の情報は、事業者に意見として伝えられます。例えば「一定期間の時間外労働制限が望ましい」「深夜業務は当面避ける」といったレベルの情報です。面談の冒頭で何を誰にどの範囲で共有するかを確認し、合意してから話すと安心です。カウンセラーや外部EAPも原則として秘密は守られますが、生命・身体の危機や法令上の例外はあります。 [3] 不安があれば、最初に確認してから本題に入るのが良いでしょう。

産業医とカウンセラー、どう使い分ける?

混同されやすい二つの窓口ですが、目的とゴールを意識すると選びやすくなります。就業上の配慮や配置・勤務の調整が必要なときは産業医が起点になります。医療的な視点から状態を評価し、必要に応じて意見書を通じて会社に推奨を示します。治療が必要と判断すれば医療機関の受診を勧めることもあります。これに対して、気持ちの整理や対人関係のもつれ、ストレス対処の練習はカウンセラーが得意です。思考のクセを見直したり、上司への伝え方やタスクの切り分け方を一緒に試行錯誤していく過程は、日々のしんどさを下げる実感につながりやすいはずです。

両者は排他的ではありません。産業医面談で就業上の配慮を決めつつ、カウンセリングでセルフケアを整える、といった併用はむしろ現実的です。制度を“ひとつだけ”で完結させようとせず、役割の違いを重ねると回復が安定します。

ストレスチェックからの面接指導というルート

ストレスチェックで高ストレスと判定された労働者は、希望すれば医師による面接指導を受けられます。事業者には実施義務があり、申し出たことを理由に不利益な取り扱いをすることは禁止されています。 [2] 結果の詳細は本人の同意なしに事業者へ提供されません。 [2] チェックの紙を机の隅に置いたままにせず、気になるなら面接指導に進む。これも自然な一歩です。

女性の健康課題との重なりを見逃さない

35〜45歳は、ライフイベントやホルモン変動が心身に影響しやすい時期です。睡眠や気分の波、集中力の落ち込みが続くとき、産業医やカウンセラーへの相談に加えて、婦人科やかかりつけ医での相談が役立つ場合もあります。“メンタルだけ”で説明しきれない不調を、複数の窓口で立体的に捉えることで、納得感のある対処に近づけます。 [5]

相談前の準備と、当日の進め方

構えすぎる必要はありませんが、短いメモがあるだけで面談の密度はぐっと上がります。まず、いつ頃からどんな変化が起きているのかを時系列で書き出します。眠りの浅さ、食欲や体重の変化、肩こりや頭痛、集中の続く時間、ミスの増加など、思い当たる事実をできるだけ客観的に。次に、心身の波を強めるきっかけや場面を挙げます。特定の業務、時間帯、人間関係、物理的な環境、家庭の事情。最後に、助けになっていることと、反対に負担になっていることを並べます。短時間の散歩で頭が軽くなる、静かな環境だと集中しやすい、朝の会議が連続すると息切れする、家事の分担が傾いている、といった具合に、生活面も含めて書き留めます。

あわせて、仕事上の優先順位と、いま現実的にできそうな調整案を考えておくと、産業医やカウンセラーとの対話が具体化します。例えば、締切の分散、在宅勤務の割合の一時的な見直し、早出や残業の制限、会議数のコントロール、集中作業の時間をカレンダーに確保する、チームでの役割の見直しなどです。**「お願い」ではなく「合意形成のたたき台」**として提示すると、職場での実装に近づきます。

面談で伝える言葉の例

言葉が出てこないときは、事実と希望を一文でつなぐと伝わりやすくなります。「三週間ほど睡眠が浅く、午前中の集中が30分ほどで切れます。二週間のあいだ、在宅勤務を週二日にできると回復しやすそうです」「午後の会議が連続すると頭痛が出ます。会議時間を45分以内にして、間に10分の休憩を入れられると助かります」「上司への報告の頻度が不安材料です。週一回の定例にまとめられると気持ちが落ち着きます」。産業医には経過と医学的な相談、カウンセラーには感情の揺れや対処の試行錯誤を中心に置く、と役割を意識した言い回しにすると、限られた時間で必要な情報が揃います。

医療機関にかかっている場合は、服薬や診断の有無、次回受診予定なども簡潔に共有します。産業医面談では、本人の同意のもとで主治医意見書のやり取りが行われることがあります。共有範囲に納得できるまで確認し、**「職場に伝えて良い情報/控えたい情報」**を面談時に明確にしておくと安心です。

オンラインや外部の窓口も視野に

社内のカウンセリングが利用しづらいと感じるときは、健康保険組合のメンタルヘルス支援、自治体の相談、厚生労働省が案内する働く人向けの相談窓口、地域の産業保健総合支援センターなど、外部の選択肢も活用できます。 [1] 匿名で始められるチャットやオンライン面談を入口にして、「話すことに慣れる」段階を作るのも良いアプローチです。 [3]

制度を味方に。よくある不安への向き合い方

評価や昇進に響くのでは、という不安はよく耳にします。繰り返しになりますが、面接指導の申し出を理由に不利益に扱うことは禁じられています。 [2] 産業医が事業者に伝えるのは、健康確保のために必要な就業上の配慮に限られます。面談の場では、共有範囲を最初に合意し、意見書に記載される内容の粒度を確認しましょう。上司には「必要な配慮」と「期間」を中心に、健康情報の詳細を避けた伝え方が可能です。

もう一つの不安は、「相談したけれど何も変わらなかったら」という気持ちです。制度は魔法ではありませんが、合意形成のプロセスを経ることで、少なくとも現状と課題を職場の正式な議題にできます。小さな調整を二〜三週間試し、効果を確認してから次の一手に進む、と段階を区切ると前進が見えます。進展が止まっていると感じたら、別の窓口や外部の資源にも並行してアクセスし、複線化することが有効です。

中小企業で産業医の顔が見えにくい場合、社内ポータルや総務に連絡して、面談の申し込み方法と相談の守秘範囲を確認します。それでも難しいときは、地域の産業保健総合支援センターに問い合わせると、事業場の規模に応じたサポートの案内が受けられます。 [1] **「社内にないなら外につなぐ」**という発想を持てると、選択肢は一気に広がります。

そして、私たちの年齢層ならではの多重負担も、恥ずかしがらずに材料にしてください。家族の看病や通院同行、学校行事の集中、ホルモン変動による体調の波。これらは「個人的事情」ではなく、労働と健康を両立させるための重要情報です。産業医やカウンセラーは、あなたの生活全体を見立てに取り入れようとします。生活の実態を正確に伝えることが、最短ルートの調整につながります。

まとめ——一人で抱え込まないための「最初の5分」

相談は、あなたの弱さの証明ではなく、働き方を整える技術です。制度はすでにあります。守秘義務もあります。合意形成の道具も用意されています。今週のどこかで、気になる変化を三つだけメモに書いてみる。社内ポータルで「産業医」「カウンセラー」「相談」のキーワードを検索して、申し込み方法を確認する。空いている15分に、オンライン予約のカレンダーをのぞいてみる。そんな小さな行動が、明日のしんどさを少し軽くします。

完璧な言葉より、最初の5分。 揺らぎの真ん中で立ち止まっても大丈夫。制度と専門家を味方に、あなたのペースで一歩を重ねていきましょう。

参考文献

  1. 厚生労働省 こころの健康(労働者調査): 現在の仕事や職業生活に関することで強い不安、悩み、ストレスとなっていると感じる事柄がある労働者は55%。 リンク
  2. 厚生労働省 プレスリリース: ストレスチェック制度の実施状況等について(制度の概要・実施義務や不利益取扱いの禁止等を含む)。 リンク
  3. 厚生労働省 こころの健康 専門家Q&A: EAP(従業員支援プログラム)の利用実態と守秘・費用対効果に関する見解。 リンク
  4. PubMed: Global burden and characteristics of mental health–related presenteeism(システマティックレビュー/メタアナリシスの要約)。 リンク
  5. 厚生労働省 母性健康管理サイト(bosei-navi): 更年期と仕事の両立に関する情報。 リンク
  6. Richardson KM, Rothstein HR. Effects of occupational stress management intervention programs: a meta-analysis. Journal of Occupational Health Psychology. 2008;13(1):69-93. doi:10.1037/1076-8998.13.1.69

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