視界のノイズを減らす:まずは「面」を整える
片づけの出発点は、収納量を増やすことではなく、視界に現れる情報量を減らすことです。医学文献ではありませんが、認知心理学の研究では、視界内の競合刺激が増えるほど注意が分散しやすいとされています[3]。テレビ周りに置くものを吟味し、正面の面、天面、側面、そして床面という“面”の数を意識してノイズを間引くと、スッと奥行きが生まれます。
取りかかりはシンプルです。まずテレビ台の上と前面を一度すべて空にして、画面、台の天板、前面、床の四つの面が見える状態をつくります。次に、戻すものの基準を決めます。日々の操作で手に触れるリモコン類、表示が必要な機器のフロントパネル、充電が必要なデバイスを最小限に絞り、残りは扉の内側や背面に回します。天板に物を置くなら、トレー一枚に定位置をまとめ、トレーの外は何も置かないというルールにすると、掃除の動線が途切れません。床面はロボット掃除機やスティック掃除機がまっすぐ通れるだけの下空間を確保し、配線が床に垂れないように壁・台の背面へ逃がします。これだけで、テレビが「映す」ための背景が一段クリアになります。
リモコンと小物は“カメラに映らない”位置へ
テレビ視聴時の視線は画面の近くに集中しがちです。ここに物が入ると注意がそがれやすいため、リモコンは画面の視界から外れる高さに置くのが効果的です。テレビ台の手前角から腕一つ分奥に入る場所に、薄いトレーや浅い引き出しを用意し、そこに集約すると戻しやすくなります。ゲームのコントローラーなどは充電スタンドを使うと迷子になりにくく、コードも短くて済みます。フレームの細いテレビほど余白が情報として効いてくるので、天板の装飾は厳選し、植物を置くならひと鉢に絞ると視覚のリズムが整います。
ホコリは“触れて落とせる”配置が勝ち
静電気を帯びやすいテレビやケーブル周りにはホコリが集まりやすく、見た目の乱れだけでなく、掃除の億劫さを生みます。閉じた収納に詰め込むと見えなくはなりますが、配線の熱がこもりやすく点検もしにくい。日々の手入れを前提に、手の甲でスッと撫でれば落ちる配置を優先すると、掃除は継続できます。天板は乾拭きがしやすい素材にし、ディフューザーや写真立ては高さや奥行きをそろえて並べると一拭きで終わります。テレビ背面は、配線を壁際に寄せ、床から浮かせることで、週一のハンディワイパーが数十秒で完了します。
ケーブルを整える:束ねず、流して、隠す
配線整理のコツは、ぎゅっと束ねることではなく、余長を「流し」ながら視界から外すことです。無理な束ね方はケーブルにストレスをかけ、取り回しのたびに絡みやすくなります。メーカー推奨の取り回しでは、急な折り曲げを避け、緩やかなカーブで配線するのが安全とされています。背面にスペースがあれば、面ファスナーでふんわり留め、ケーブルスリーブで一体化。さらに、テレビ台の天板裏や背板に配線用のレールを貼り、ケーブルの“通り道”を先に決めてしまうと、増設や交換のときも迷いません。
電源周りは見た目以上に大事です。家庭用の電源タップは合計1500Wが上限で、電子レンジやドライヤーのような高ワット機器との併用は避けるのが基本[5]。テレビ、レコーダー、ゲーム機、サウンドバー、ルーターなど常時通電するものは一つのタップに集約し、熱がこもらない位置に固定します。埃よけのフタつきボックスを使う場合も、通気孔とタップの表示が見える向きに置き、定期的に中をチェックできるようにしておきます。壁コンセントからの延長は必要最小限にし、床を横切る場合は段差解消のケーブルダクトでつまずきを防ぎます。
背面の“たまり”を作らない配線ルート
テレビ背面の中央に余ったケーブルを集めると、そこが埃のたまり場になります。理想は、機器の直下から背面の左右いずれかに寄せ、壁際を縦に流して床まで落とすルートです。余長は足元ではなく中間地点で逃がすと見た目の密度が下がり、前方からの視界が軽くなります。ケーブルの色が黒やダークグレーなら、同系色のスリーブやレールを選ぶと光の反射で目立ちにくくなります。白い壁なら半透明のダクトが馴染みやすいでしょう。
増える・減るに強い“ゆとり配線”
新しい周辺機器が増えることを前提に、ポートの近くに指二本分のゆとりを残しておくと、抜き差しのたびに全体を崩さずに済みます。HDMIや電源は、抜いたときに行き先が分かるよう、両端の根元に小さなラベルを貼ります。文字は太く短く、例えば「ARC」「BR」「SW」などの略号で十分です。ラベルが見えない位置に貼っても、いざという時の安心感が違います。掃除や模様替えでテレビを動かすなら、壁からの距離に余裕を持たせ、台のキャスターをロックできる仕様にしておくと日々のメンテナンスが格段に楽になります。
機器配置・熱・音:見えない性能を損なわない
スッキリさせたくて詰め込みすぎると、機器の発熱や通信環境に影響が出ます。取扱説明書が基本ですが、一般に通気孔のある背面や側面には数センチのクリアランスを確保すると安心です。テレビ背後はおよそ5cm以上の隙間があると配線もしやすく、空気も流れます。レコーダーやゲーム機は、熱が上に抜ける前提で上下の空間を空け、横置きなら左右の壁からも離すと安定します。ルーターはガラス戸の中よりも開放空間のほうが電波が通りやすいので、テレビ背面の金属から少し距離をとった棚上が好相性です。
サウンドバーやスピーカーは、画面下に寄せるほど見た目はスッキリしますが、前面に十分な空間がないと音がこもります。前方に手のひら一枚分のスペースを確保し、壁との距離感で低音の量感を微調整します。吸音効果のあるラグやカーテンを合わせると、音のまとまりは上がるのに見た目は落ち着いたまま。視覚と聴覚の両方で“余白”をデザインする感覚が、日々の快適さを底上げします。
“縦ライン”に集約して操作を簡単に
操作の導線を考えると、よく使う機器を縦一列にまとめる配置が扱いやすく、視覚的にもスッキリ見えます。テレビの右側にリモコンの定位置、左側に録画機とゲーム機の棚というように、左右で役割を分担させると、誰が触っても元に戻しやすくなります。家族で共有するゲーム機は前面に、めったに触れないハブやチューナーは一段奥にという“頻度の奥行き”をつけると、ごちゃつきの再発を防げます。
“見せる”と“隠す”のさじ加減
全部を隠すと、使うたびに扉を開ける手間が生まれ、結局出しっぱなしに戻りがちです。見せるべきは操作するもの、隠すべきは視覚ノイズになるもの。たとえばセットトップボックスは赤外線が届く必要があるため、前面が開いている棚や、メッシュの扉が理にかないます。見た目の統一には色を合わせるのが近道で、黒い機器が多いなら黒やダークグレーのボックスに寄せると、色の“面”が整理されてスッキリ見えます。
小さな投資と習慣で“スッキリ”を保つ
最小の投資で大きな差が出るのが、配線スリーブ、配線レール、面ファスナー、薄型のケーブルボックスです。スリーブは千円前後、レールは数千円程度から、面ファスナーは数百円から手に入り、効果は見た目だけでなく掃除の時短にも及びます。テレビの設置方法を見直すなら、壁掛けが理想ですが、賃貸で穴あけが難しい場合は“壁寄せスタンド”という選択肢もあります。1〜2万円台から選べるものが多く、床の凹凸や配線の通り道がシンプルになり、掃除のストレスが減ります。
習慣化のコツは、時間を小さく切ることです。週に一度、15分だけ“テレビ周りタイム”を設け、電源をオフにしてから、天板を乾拭きし、背面の配線を手のひらで軽く払います。床を一往復掃除機で走らせ、リモコンを定位置に戻して終了。たったこれだけでも、ホコリの蓄積と物の移動が抑えられ、スッキリの寿命が伸びます。
“誰でも戻せる”仕組みにすると続く
個人戦からチーム戦にシフトする時期こそ、仕組みの力が効きます。家族や同居人に細かなルールを覚えてもらう必要はありません。戻す場所が“わかりやすい”ことのほうが大切です。トレーや棚の内側に小さなラベルを貼る、充電スタンドにケーブルを差しっぱなしにする、テレビ台の内側に配線マップを一枚貼っておく。これだけで、誰かが使っても元のスッキリに戻りやすくなります。散らかりの一歩手前で自動的にリセットがかかる仕組みは、忙しい日の心の余裕を生みます。
“今日やること”を45分で終わらせる段取り
思い立った日に終わらせるなら、段取りを一本の流れにまとめるのが効果的です。テレビの前に空の箱を置き、天板と前面から物をすべて退避します。乾拭きで埃を落としたら、機器の配置を仮決めし、背面に配線レールを貼ります。電源タップを熱がこもらない位置に固定し、太いケーブルから順に“流す”ように這わせ、余長は途中で逃がします。面ファスナーでふんわり留め、最後にスリーブでひと束に。天板にトレーを一枚置き、リモコンを戻して完成です。慣れれば45分前後で、視界が見違えるように軽くなります。
まとめ:スッキリは“仕上げ”ではなく“設計”
テレビ周りをスッキリさせる鍵は、収納量を増やすことではなく、視界の情報を減らし、配線を流して、触れて落とせる配置に設計し直すことでした。視界のノイズが減ると、画面に集中でき、掃除も楽になり、日常の小さなストレスが目に見えて減っていきます[3]。完璧を目指すより、まずは天板を空にする、電源タップの位置を整える、配線の通り道を一つ決める。そんな小さな設計変更が、暮らしの手触りを確かに変えます。
あなたの家では、どの“面”から整えますか。今夜のドラマの前に5分だけ、天板の物を避難させて布で拭いてみる。それだけでも、画面の色がいつもより鮮やかに感じられるはずです。次の一歩は、背面に配線レールを貼ること。週末の45分で、テレビ周りの“スッキリ”は十分に手に入ります。
参考文献
- NHK放送文化研究所 所内コラム「コロナ禍とメディア利用の変化」(2021年) https://www.nhk.or.jp/bunken/yoron-jikan/column/media-2021-03.html
- 総務省 平成25年版 情報通信白書「情報通信の利用動向」 https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h25/html/nc243270.html
- National Center for Biotechnology Information (NCBI) PMC: https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3605336/
- KAKEN - 科学研究費助成事業データベース「KAKENHI-PROJECT-14J10611」 https://kaken.nii.ac.jp/grant/KAKENHI-PROJECT-14J10611/
- 共同通信PRワイヤー「テレワークで電源タップの出番が増加。危険な使い方に注意喚起」(2021年) https://kyodonewsprwire.jp/release/202112134900