カスタマージャーニー入門:顧客視点で動くチームを作る3つの条件

購買の多くが営業接触前に進む今、顧客の時間軸を可視化するカスタマージャーニーが必須。統計と現場知で示す3つの条件で、チームで動ける体制をつくる手順、データ収集やワークショップの進め方を実務視点で紹介。忙しいミドルにも回せる現場寄りのテンプレとチェックリスト付き。

カスタマージャーニー入門:顧客視点で動くチームを作る3つの条件

海外の研究データでは、購買行動の約半分以上が営業担当と接触する前に進むと報告されています(しばしば57%前後と示されます、主にB2Bの文脈)。[1,2,3] さらに、検討中の生活者は平均して複数のデジタル接点を行き来し、口コミ、検索、比較サイト、SNS、公式サイト、メール、店舗体験を横断しながら意思決定を固めます。[4,6] 編集部が各種データを読み解くと、社内で語られる「理想の顧客像」と、実際のオンライン・オフライン行動の間にはしばしばズレが生じ、部署間で判断が割れるボトルネックが生まれがちでした。

ここで効いてくるのがカスタマージャーニーです。専門用語に聞こえますが、要は顧客の時間軸に沿って、目的、接点、感情、障壁、期待の流れを一枚にまとめた地図のこと。[7] 社内の言語を「私たちの都合」から「顧客の一連の体験」へと揃える可視化ツール と捉えると、使いどころがクリアになります。個人戦からチーム戦へと移行する今のキャリアフェーズにおいて、判断の根拠を共有できる地図は、説得ではなく納得を生み、動くチームをつくります。

カスタマージャーニーの本質と、機能する条件

カスタマージャーニーは、顧客の視点で時系列を追い、認知から検討、購入、利用、継続や推奨までの一連の流れを見える化します。医学的な技術のような専門装置は要りませんが、研究データで繰り返し示されるのは、意思決定が線形ではないという事実です。[4,5] いきなり買うのではなく、行ったり来たりしながら迷い、気づき、誰かの体験談で背中を押され、最後に一押しの接点で決める。この非線形の動きを前提に、接点の強さと順序ではなく、顧客の目的と感情の変化に対して、どの接点がどの役割を果たすかを言語化することが重要です。

効くジャーニーには3つの条件があります。 第一に目的が明確であること。新規の初回購入を増やしたいのか、解約率を下げたいのかで描くラインは変わります。第二に、データと現場の声を両輪にすること。サイトの行動ログや検索クエリと、CS・営業・店舗のメモが噛み合うと、机上の空論が具体的な改善仮説に変わります。[6] 第三に、更新され続けること。四半期に一度の見直しだけでも、施策と学びが循環し始めます。

ありがちな落とし穴を避ける

失敗の多くは、接点の羅列で終わることにあります。広告、サイト、SNS、メールと並べても、その間で顧客が何に不安を感じ、何で納得し、次に何を確かめるのかが欠けていれば、施策は点のままです。また、理想化したペルソナに引っ張られすぎるのも危険です。実際のレビューや問い合わせログを見ると、想定外の検索語やつまずきが頻出します。「感情の変化」と「意思決定のマイクロモーメント」を行動データと照合する、この一手間が地図に生命を吹き込みます。[2]

作成の前準備:目的、スコープ、材料集め

最初に決めるのは、どのシナリオのジャーニーを描くかです。たとえば「初回の無料トライアル申込まで」「既存顧客の継続更新まで」のように、到達点を一つに絞ると議論が研ぎ澄まされます。スコープが決まったら、材料を集めます。ウェブ解析で入口と離脱の山谷を確認し、検索クエリやサイト内検索で言葉のズレを拾い、問い合わせやチャットの履歴から不安の言い回しを抽出します。CSや営業のノート、店舗観察、レビューサイトの声も、温度のある材料です。数字とことばの両方が揃うほど、解像度は上がります。

ペルソナは一人に固定する必要はありませんが、意思決定の主役を仮に置くと筋が通ります。ここでは、平日も出張と会議が多い40代の女性マネジャーを想定します。可処分時間は限られ、情報はスマホが中心、意思決定は自分で下せるが、社内合意や家族の予定配慮が必要な場面も多い。こうした文脈が具体化されるほど、接点の意味づけが現実味を帯びます。

データと現場の声を束ねる小さなコツ

机の上で完璧を目指すより、二週間で暫定版をつくると回りが速い。編集部の観察では、最初から100点を狙うよりも、一次情報にあたって叩き台を出し、反証と補強を繰り返したチームの方が、施策の着手が早く成果が出やすい傾向がありました。数時間のインタビューを2〜3本でも良いので実施し、分析の数字と並べて読むと、離脱の背後にある不安や期待が立ち上がります。数字が示す「どれくらい」と、声が映す「なぜ」をペアで扱う。これが、作成フェーズで最も効果的な近道です。[4]

作成手順:90分ワークで暫定版を描く

ワークの目的は、顧客の時間軸に沿って、フェーズごとに目的と行動、接点とコンテンツ、感情と障壁、そして確認したい指標を並べることです。認知、検討、比較、購入、利用、継続・推奨といった段階を横軸に置き、縦軸に「目的/行動」「接点/コンテンツ」「感情/障壁」「指標」を置くと、一枚のキャンバスで議論が進みます。[8] 付箋とホワイトボードでも、MiroやFigJam、スプレッドシートでも構いません。まずは黙々と各自で書き出し、重なりをまとめ、重要度の高いボトルネックに色をつける。この流れだけで、暫定版は形になります。

たとえば、サブスク型のオンラインフィットネスを想像してみます。認知では、読者の彼女は肩と腰の重さが気になり、夜に「在宅 肩こり 解消 短時間」と検索します。検討では、短いレッスンがあること、朝晩どちらでも継続しやすいこと、料金と解約のしやすさが気になります。比較では、レビューや短尺動画のデモで自分に合うかを確かめ、購入手前では、初回登録のフォームの項目数や決済の安心感が最後の壁になります。購入後は、初週のオンボーディングで「明日も続けられそう」と感じることが継続の分岐点になり、二週目で通知の頻度とコンテンツの提案精度が離脱か定着かを左右します。こうした物語をフェーズごとに言葉で置くと、どの接点で何を変えれば良いかが一目で分かります。

指標は各フェーズで性格が変わります。認知ではクリックや視聴完了、検討ではランディング後のスクロールとセクション滞在、比較ではレビュー閲覧やFAQ到達、購入ではフォーム通過率、利用では初週のコンテンツ消化、継続ではNPSや解約理由の分布が効きます。重要なのは、数字を「フェーズの問い」に紐づけることです。たとえば「比較で迷いが深い」という仮説に対しては、レビューや比較表の閲覧率だけでなく、そこでの滞在後に戻る行動や離脱との関係を確認します。数字が仮説の検証装置として働くと、次の一手に迷いません。

小さなチームで合意をつくる設計

人数は6〜8人が扱いやすく、マーケ、CS、プロダクト、営業など異なる接点の当事者が混ざると、地図は立体的になります。前半は役割別の視点で出し切り、後半で顧客の時間軸に沿って並べ替えると、立場の違いが衝突ではなく補完に変わります。最後に「今期、必ず改善するボトルネック」を一つだけ選ぶと、動き出しが軽くなります。完璧な合意ではなく、実験可能な最小単位の合意を目指すのがコツです。

活用と運用:ボトルネックに集中し、学びを循環させる

ジャーニーは作って終わりではありません。ボトルネックに一つずつ手を打ち、結果を地図に戻して更新するという循環が価値になります。たとえば「初回登録フォームでの離脱」が最大の壁なら、項目数を減らす、入力途中の保存を可能にする、プライバシーの説明を一行足す、スマホのキーボード種類を最適化するなど、顧客の負担と不安を同時に下げる打ち手を試します。ABテストの結果は数字だけでなく、問い合わせ文面の変化や、レビューのキーワードの推移と合わせて読み、学びをフェーズの言葉に翻訳して地図へ反映します。

共有の仕組みも効きます。一枚絵のジャーニーマップに加えて、変更履歴と背景のメモを残す「ジャーニーノート」を用意すると、新メンバーや他部署にも意図が伝わります。四半期に一度の見直し会を設け、前回の仮説と結果、次の重点を15分で確認するだけでも、チームはブレずに進みます。ツールは高価なものでなくて構いません。GA4やSearch Console、簡易なNPSやCSATのアンケート、ユーザーテストの短時間セッションを定期的に回せば、十分に運用は回ります。

そして、巻き込みの壁を越えるには、数字とともに具体のストーリーが効きます。営業が受けた一通の相談、CSが拾った一言、店舗で見たためらいの仕草。これらをジャーニーの感情ラインに貼ると、施策の優先順位に納得が生まれます。もし「時間がない」「今は別の案件が優先」と反論があっても、1週間で検証できる最小の仮説に分解して提示すると合意が取りやすくなります。スモールウィンを積み重ね、地図の更新とともにチームの自信も育てていきましょう。

関連するテーマを深めたい方は、時間の使い方を整えるヒントを紹介した仕事の時間管理の記事、燃え尽きに気づき整えるセルフケア特集、会議の意思決定を前に進めるファシリテーションのコツも参考になります。ジャーニーの実践は、こうした基礎体力とも相互作用します。

まとめ:今日から回せる小さな一歩を

完璧なジャーニーは要りません。必要なのは、顧客の時間軸に自分たちの視点を合わせ直す小さな一歩です。90分のワークで暫定版を描き、今期のボトルネックを一つ選び、二週間で検証して学びを戻す。この循環が始まれば、チームは自然と顧客起点で語り、施策は点から線へ、線から面へと広がっていきます。 「私たちの都合」から「顧客の物語」へと視点を移すだけで、迷いは減り、決める速さが変わります。

次の会議までに、関係者を6人だけ集めて、ひとつのシナリオに絞ったジャーニーの叩き台をつくってみませんか。あなたのチームの言葉が揃ったとき、成果と安心感は同時にやってきます。地図は、今日から描けます。

参考文献

  1. CEB Marketing Leadership Council & Google. The Digital Evolution in B2B Marketing (2012). https://studylib.net/doc/8929445/the-digital-evolution-in-b2b-marketing
  2. 6sense. B2B Buyer Journey: Buyers Are in the Driver’s Seat (Accessed 2024–2025). https://6sense.com/blog/b2b-buyer-journey/
  3. SalesZine. 購買プロセスにおける営業との接触タイミングについて—海外調査(57%)との比較 (Japanese article). https://saleszine.jp/news/detail/3640
  4. Journal of Theoretical and Applied Electronic Commerce Research. Article 5, Vol.18, Issue 1: Research on e-commerce and non-linear omnichannel customer journeys (2023/2024). https://www.mdpi.com/0718-1876/18/1/5
  5. Technological Forecasting and Social Change. Customer journey research beyond firm boundaries (Article ID: S0040162521005503, 2022). https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0040162521005503
  6. クロス・マーケティング. 顧客の情報入手経路が多様化する時代のマーケティング(2024/04/30 コラム). https://www.cross-m.co.jp/column/marketing/mkc20240430/
  7. Molts Inc. カスタマージャーニーとは何か—定義と基本の作り方. https://moltsinc.co.jp/media/knowledge/9893/
  8. Molts Inc. デジタルデバイス普及とユーザー行動の予測不能性に関する解説. https://moltsinc.co.jp/media/knowledge/9893/

著者プロフィール

編集部

NOWH編集部。ゆらぎ世代の女性たちに向けて、日々の生活に役立つ情報やトレンドを発信しています。