オンライン会議疲れの正体を見極める
まず、疲れの正体を分けて捉えることが対策の起点になります。Stanfordはオンライン会議での疲労要因として、視線の密度、自己映像の曝露、身体の拘束、そして認知的に過剰な非言語処理を挙げました[2]。対面では自然に起こる視線の抜けや姿勢の微調整が、画面越しでは制限されます。しかも自分の顔が常に視界にある状態は、鏡を見続けるのに近い自己監視を生み、無意識の緊張を高めることがあります(出典:Technology, Mind, and Behavior)[3]。
脳が疲れる:非言語の過負荷
画面の格子状に並ぶ顔、わずかな遅延、表情の解像度の低さ。これらは「相手の感情を読む」という人間の高度な機能に余計な前処理を強います[2]。少しの間(ま)や沈黙も「回線の不調かもしれない」と解釈が増え、発言のタイミングを測るだけで消耗します。Agendaが曖昧なまま人数が多い会議は、参加者全員の「次に何をするか」という認知コストを膨張させるため、疲労を増やす可能性があります。特に35〜45歳は、会議の運営と意思決定、育成や家庭のタスクが同時並行になりがちです。脳の切り替え回数が増えることが、オンライン会議疲れの背景にあると考えられます。
体が疲れる:姿勢・眼精疲労
身体面では姿勢と視環境が要です。ノートPCを低い位置で使うと頭部が前に出やすくなり、頸椎への負担が急増します。研究では頭部を約60度前傾すると、首にかかる荷重はおよそ27kgに達するとされます(参照:Hansraj, 2014)[5]。眼については、画面注視で瞬目(まばたき)が減り、乾燥やピント調節の疲れが生じます。American Optometric Associationは20-20-20ルール(20分ごとに20フィート先を20秒見る)を提案しています(出典:AOA)[6]。
今日からできるオンライン会議疲れ対策
疲れの正体が見えたら、順番に手当てしていきます。編集部で効果が高いと感じられたのは、会議の「長さ」と「間」にメスを入れることでした。まず予定は60分を既定にせず50分/25分で設計し、終了5分前には「決めること」を確認します。カレンダーには最初から5〜10分の余白を自動で挿入し、連続を物理的に断ち切ります。Microsoftの脳波研究でも、短い休憩がストレス指標を下げることが示されています[4]。なお、厚生労働省のVDTガイドラインでも、情報機器の連続作業は原則1時間以内とし、10〜15分程度の休憩や小休止を推奨しています[7]。メールやチャットの返信もこの余白に寄せると、会議中に通知へ気持ちを持っていかれずに済みます。
「設定」と「道具」を整える
カメラのセルフビューは基本的に非表示にします[2,3]。必要なら入室時だけフレーミングを確認し、あとは隠す。これだけで自己監視の緊張が和らぎ、表情が自然になることがあります。モニターは目線の高さに置き、ノートPCはスタンドで底上げし、外付けキーボード・マウスを使うと首と肩の負担が減ります。椅子は座面の奥行きを活かして骨盤を立て、座面と膝に拳一つの余裕を作ると安定します。照明は正面から柔らかく当て、画面の輝度は周囲の明るさと揃えます。音環境はノイズキャンセルのヘッドセットがあると集中が保ちやすく、相手の声量に合わせて自分の発声も無駄に大きくならず、喉の疲れが軽く感じられることがあります。
目の対策は「こまめにピントを外す」が基本です。20-20-20ルールに加えて、会議の導入や振り返りなど顔が写っていれば十分な場面では資料共有+自分の画面を見ない時間をつくると、視点が近距離に固定されにくくなります[6]。こまめな水分補給もドライアイ予防に役立ちます[6]。
進め方を変えて集中を守る
入室したらまず目的・成功条件・決めることを言語化します。例えば「今日は30分で来期キャンペーンの候補を3つに絞り、担当を仮決定する」と明快に置く。役割も先に分けます。進行・メモ・タイムキーパーを別にすると感情と時間の両輪が回り、参加者全員の認知負荷が下がります。説明は資料1枚につき要点を三つまでに制限し、ディスカッションのブロックごとに「ここでのゴール」を確認します。相手の反応を読みづらいオンラインでは、問いを短く一個ずつ投げ、指名と挙手を併用すると発言の待ちが減り、沈黙の不安が小さくなります。
意思決定の質を落とさず疲れを減らすには、同期と非同期を仕分けることが近道です。説明や報告は事前に録画やメモで共有し、会議は「検討」「決定」にだけ使います。会議中のメモは共同編集で要点を可視化し、終了時に「決まったこと/保留/次のアクション」を一文で読み上げます。これがあるだけで会議後の往復が減り、次の会議の負担も着実に軽くなることがあります。
チームで合意する“会議のルール”
個人の工夫には限界があります。オンライン会議疲れ対策をチームの合意に格上げすると、ようやく持続可能になります。編集部では試験的に「午後は会議を50分まで」「開始5分はカメラ任意」「毎時00分開始ではなく10分ずらす」を導入しました。結果、終業前のどっとした疲労感が和らぎ、各自の集中ブロックも確保しやすくなりました。数週間で会議数自体が微減し、メールやチャットの質も落ち着いた印象です。休憩を制度として確保する発想は、厚労省のVDTガイドラインにも沿うものです[7]
アジェンダ、所要時間、宿題を明確に
招待は「目的・ゴール・所要時間・準備物」の四点セットで送ります。参加者はこれで出席可否を判断でき、当日の迷いが減ります。アジェンダはブロックごとに時間を割り振り、重要な議題から先に。終わりが見える構造は、それだけで集中を助けます。終盤5分は決定事項の読み上げと、次の会議が本当に必要かの確認に使います。必要なら「非同期で収束できるタスク」に変換し、期限とフォーマットを指定して解散します。
「カメラは任意」「5分余白」を標準に
常時カメラオンが目的化すると、表情の過剰演出が起き、疲れが増えます。参加者が選べる前提をつくると、体調やシーンに応じて最適解をとれます。議論が詰まってきたら、いったん音声のみで1〜2分「考える沈黙」を合意してもよいでしょう。会議間の5〜10分は「歩く」「伸ばす」「目を閉じる」のために確保し、メール返信で埋めない覚悟をチームで共有します。NBERのデータが示すように会議は増えやすいもの[1]。だからこそ、足すより減らす工夫が成果と健康の両立につながる可能性があります。
最後に、働き方のリズムは人生のリズムともつながっています。とくにゆらぎ世代は睡眠や体温、集中の波がこれまでと違って感じられるタイミングがあります。オンライン会議疲れ対策は、そうした変化も前提に、自分で選べる余白を取り戻す取り組みでもあります。週に一度でも「会議のない午前」を作る、毎朝15分の「準備の静けさ」を死守する。小さな約束が、会議の質も日常の余裕も変えていきます。
まとめ:整える力は、あなたの味方
オンライン会議疲れは、意思の弱さではなく設計の問題です。研究が示すように、会議を短く区切り、余白を作り、自己映像を隠すことで負荷が軽減されることがあります[2-4]。道具と設定を整え、進め方を言語化し、チームでルールを合意する。三つの層を重ねるほど、疲れが減る可能性が高まります。まずは今週、カレンダーに「5〜10分の余白」を自動挿入し、会議を50分/25分に縮めてみてください[4,7]。次にセルフビューを非表示にし、終了5分前に決定事項を読み上げる習慣をつけてみてください。関連して、睡眠の質づくりや目のケア、境界線の引き方についても参考になります。詳しくは「40代の睡眠リセット術」「デジタル眼精疲労を軽くする日常」「在宅でも境界線を守る働き方」も合わせてどうぞ。
参考文献
- DeFilippis, E., Impink, S. M., Singell, M., Polzer, J. T., & Sadun, R. (2020). Collaborating During Coronavirus: The Impact of COVID-19 on the Nature of Work. NBER Working Paper No. 27612. https://www.nber.org/papers/w27612
- Bailenson, J. N. (2021). Nonverbal Overload: A Theoretical Argument for the Causes of Zoom Fatigue. Technology, Mind, and Behavior, 2(1). https://tmb.apaopen.org/pub/nonverbal-overload/release/2
- Fauville, G., Luo, M., Queiroz, A. C. M., Bailenson, J. N., & Hancock, J. (2021). Nonverbal Mechanisms Predict Zoom Fatigue and Exhaustion: A Data-Driven Study Identifying Potential Explanations for Why Women Experience Higher Levels. Technology, Mind, and Behavior, 2(1). https://tmb.apaopen.org/pub/uo2ljx0k/release/1
- Microsoft WorkLab. (2021). Research: How Breaks Between Meetings Can Help. https://www.microsoft.com/en-us/worklab/work-trend-index/brain-research
- Hansraj, K. K. (2014). Assessment of Stresses in the Cervical Spine Caused by Posture and Position of the Head. Surgical Technology International, 25, 277–279. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25393825/
- American Optometric Association. Computer Vision Syndrome (Digital Eye Strain). https://www.aoa.org/healthy-eyes/eye-and-vision-conditions/computer-vision-syndrome
- 厚生労働省. 情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン (2019). https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_05166.html