
光老化の本質と、守るべきもの
顔の見た目の変化の約80%は紫外線などによる光老化が占めると報告されています[1]。しかもUVAは曇天や窓ガラス越しでも届き、季節を問わず一日を通してほぼ一定という研究データもあります[1]。編集部が医学文献と各種データを読み解くと、結局のところ「どの日焼け止めを選ぶか」よりも、「何を基準にどう使い続けられるか」が光老化対策の分かれ目だと考えられます。難しい専門語は脇に置き、SPFとPAの意味、肌と生活に合う配合、そして塗り方の三点を軸に、毎日のエイジングケアに活かせる選び方を整理します。

光老化の本質と、守るべきもの
光老化に大きく関与するのはUVAです。UVBは主に赤みや日焼け(サンバーン)を起こしますが、UVAは肌の奥の真皮層に届き、コラーゲンやエラスチンを作る仕組みに影響します[3]。研究データでは、UVAの照射でコラーゲンを分解する酵素(MMP-1)が増えることが示され、結果としてハリの低下やシワ、質感のざらつきにつながるとされています[2]。つまり、見た目年齢に響く変化は、毎日の「うっかり浴びたUVA」の積み重ねで進みやすいと考えられます。
もうひとつ忘れがちなのが、UVAの生活圏への入り込みやすさです。一般的な窓ガラスはUVBの多くを遮りますが、UVAは相当量が透過します[1]。曇りの日でもUVAは地表にしっかり届きますし、朝から夕方まで強度が大きく変わらないのも特徴です[1]。通勤中の横顔、デスクで窓に向いた頬、買い物の行き帰りの首元。光老化の予防は、炎天下に長時間いる日だけではなく、日常の短い積み重ねを減らす視点が要になります。
編集部の観察でも、日焼け止めを「特別な日だけ」塗る人より、習慣的に塗る人のほうが、シミの新生やくすみの進行が緩やかな傾向があると感じることが多いです。化粧水や美容液の違いよりも、日焼け止めという土台の“継続”が光老化の進行度に影響しやすい。ここにエイジングケアの実践的な方向性があります。
SPFとPAを“役割”で理解する
SPFは主にUVBへの防御の強さを、PAはUVAへの持ちこたえる力を示した目印です[4]。研究データでは、SPF30でUVBの約97%、SPF50で約98%をカットすると説明されます[1]。差はわずかに見えますが、直射の強い季節や屋外時間が長い日には、わずかな差が積算されます。一方でPAは「PA++++」が現行の最上位で、これはUVAに対する指標(PPD)が16以上という目安です[4]。日常のエイジングケアを考えるなら、PAはなるべく高く、SPFは生活シーンに合わせて選ぶ、と覚えておくと迷いにくくなります[3]。
“数値だけ”に頼らない視点
数字は重要ですが、守り切るには「塗れるテクスチャ」と「落ちにくさ」も同じくらい大切です。たとえばPA++++の配合でも、薄くのばし過ぎれば理論値は出ませんし、汗で流れやすい質感では午後に防御が崩れます[3]。編集部が複数の配合を比較して実感したのは、心地よさは塗布量を左右し、塗布量は防御効果を左右するという単純な事実でした。だからこそ、自分の肌と生活に合う配合を選ぶことが、結果として数値を活かしやすくなる近道になります。

どれを選ぶ?成分・配合・表示の読み方
日焼け止めは大きく、紫外線を熱などに変換して受け止める「紫外線吸収剤」と、光を散らして跳ね返す「紫外線散乱剤(ノンケミカル)」に分けられます。吸収剤は透明感のある仕上がりやなめらかな伸びが得意で、散乱剤は白さやきしみを感じることがある一方、敏感肌で受け入れやすい人もいます。最近は微粒子技術やシリコーンゲルの進化で、どちらも使用感は大きく改善しています。大切なのは、肌の反応と仕上がりのバランスが自分にとって“毎日続けられる”かどうかです。
UVAカバーの鍵になる成分と表示
UVAは長波長ほど真皮に届きやすいため、配合にUVAを広くカバーできるフィルターが含まれているかが肝心です[1]。日本の店頭では成分名を細かく追いにくいこともあるので、まずはPA++++表示を目印にするのが現実的です[4]。さらに色付き(日中用下地やトーンアップ)を選ぶと、酸化鉄などによって可視光による色素沈着への対策がプラスされるケースがあります[1]。研究データでは、色素沈着が起こりやすい肌では色付き製品がメラニン生成の刺激を抑える可能性が示されています[1]。シミや肝斑が気になる人の日中のエイジングケアとして、色付き製品は有力な選択肢となり得ます。
耐水性・密着性はシーンで選ぶ
汗や水に触れる機会がある日は、ウォータープルーフや耐摩擦性に優れた配合が心強い相棒です。表示はブランドによって表現が異なりますが、これらの表記には業界の耐水性測定法に関する自主基準が整備されています[5]。プールや海、夏のスポーツの日は「落ちにくさ」を優先し、通勤とオフィス中心の日は「心地よさ」を優先する、と目的を分けると選択がスムーズです。いずれの場合も、洗浄はクレンジングや丁寧な泡洗顔で肌負担を最小限にし、夜の保湿を十分に行うと翌朝のコンディションが安定しやすくなります。

肌質・生活シーン別のベストバイ思考
乾燥しやすい肌には、保湿成分をたっぷり抱えたジェルクリームタイプが日中の小ジワを目立たせにくくします。皮脂が出やすい肌なら、軽やかなフルイドやジェルでベタつきを避けるとメイク崩れが減ります。敏感肌は散乱剤ベースのいわゆるノンケミカルや、アルコール感の少ない配合に寄せると、ヒリつきのリスクを下げやすくなります。どの肌質でも共通するのは、「塗りやすい・塗り直せる」かが最重要ということです。
生活のシーンで考えるのも実用的です。屋外で過ごす時間が短く、家と職場の往復が主なら、SPF30〜50・PA++++の軽やかなミルクや下地一体型で十分役立つことが多いです[3]。逆に夏のレジャーや日差しの強い旅行では、SPF50+・PA++++の耐水タイプを選び、こまめな塗り直しを運用に組み込むと、焼けにくい一日を作りやすくなります[5,3]。編集部の実感としても、数値を最大にするより、シーンに合わせて“使い分ける”ほうが日々の負担が減り、継続しやすくなる傾向があります。
下地・ファンデと組み合わせる発想
日焼け止め単体をしっかり塗ったうえで、色付き下地やクッションファンデを薄く重ねると、光を散らす層が増えて見え方が整い、実用上の遮蔽が期待できます。夕方のくすみが気になる人は、朝に色付きの日焼け止めを使い、午後の塗り直しでパウダータイプのUVを軽く重ねると、化粧直しと対策が同時に叶います。粉体だけでは十分な膜厚が作りにくいので、朝の液状タイプを“土台”にし、日中はメイクとセットで微調整する。この二段構えは現実的で、続けやすい方法です[3].

効果を引き出す塗り方と続け方
どんなに優秀な配合でも、塗る量が足りないと十分な防御は出ません。国際的な試験条件は2mg/cm²(ISO 24444)で、顔全体ならおおむね“2本指分”が目安とされています[3]。実際には一度に置くとムラになりやすいので、編集部は「半量ずつ二回に分けて塗る」方法を勧めます。両頬・額・鼻・あごに点置きしてから、面で優しくのばし、最後にフェイスラインと小鼻のキワを指先でなぞる。首、耳の上、こめかみ、目の下のカーブ、眉間など、うっかり忘れる場所ほど色ムラやシミが出やすいので、鏡で角度を変えて仕上げると精度が上がります。
塗り直しは、屋外での活動が続く日は2〜3時間おき、汗や摩擦の後はその都度が理想です。メイクをしている場合は、ティッシュで汗を押さえてからUVミストでなじませ、スポンジで液状のUVを薄く足すと崩れにくく整います。難しければ、色付きのUVパウダーやクッションタイプで「重ね直す」アプローチでも構いません。完全な再塗布が最適でも、ゼロより少しでも積み足すほうが、光老化の積算を減らしやすくなります[3].
朝のスキンケアと抗酸化の併用
紫外線は活性酸素を生み、日焼け止めでカットしきれない分のダメージが起こります。ビタミンCやE、フラーレンなどの抗酸化成分を朝のスキンケアに取り入れると、日中の酸化ストレスに対するバックアップになります。これは日焼け止めの代替ではなく、層を増やす発想です。エイジングケアの実感は、単体の「最強」を探すより、複数の「ほどよい」対策を重ねるほうが届きやすいことが多いです。
よくある思い込みを更新する
「室内なら要らない」は、窓際や移動が多い日には当てはまりません[1]。「SPF50なら一日安心」も、汗と摩擦には勝てません[3]。「白浮きがイヤだから極薄にする」は、結局守りきれない近道です。解決策はシンプルで、仕上がりに納得できる配合を選び、適量を塗り、現実的に塗り直すこと。美しさは習慣の積立てで育ちます。光老化もまた、日々の選択の結果です。

今日からの選び方、明日の肌
まずは毎朝のルーティンに「PA++++の使い心地の良い一本」を固定するところから始めてみてください。通勤が中心の日は軽やかなSPF30〜50を、屋外が長い日はSPF50+・耐水タイプに切り替える。顔には2本指、忘れがちな首や耳もひと撫でし、昼過ぎに“少しでも”足す。こうした設計を一ヶ月、三ヶ月、半年と積み上げると、写真や鏡で変化を感じることがあるでしょう。
エイジングケアは気合いではなく、仕組みで守るもの。数値・配合・習慣の三位一体で、光老化を抑える実践を続けましょう。あなたの一日の選択が、未来の輪郭と質感を静かに形作っていきます。次に選ぶ一本は、どんな朝に似合うでしょうか。
参考文献
- La Roche-Posay Dermclass. 紫外線(UVA/UVB)の基礎知識・ロングUVAと光老化について. https://www.laroche-posay.jp/dermclass/article-036.html
- 鈴木ら. 真皮マトリックス蛋白分解酵素であるコラゲナーゼI(MMP-1)のUVA誘導に関する研究(Skin Research 9(5):442). J-STAGE. https://www.jstage.jst.go.jp/article/skinresearch/9/5/9_5_442/_article/-char/ja/
- 東京都健康安全研究センター. 日焼け止め(サンスクリーン)について(SPF/PAの意味・試験条件2 mg/cm²・SPF50+表示・使用上の注意). https://www.tmiph.metro.tokyo.lg.jp/kj_shoku/cosme/suntan/
- JIDE 健康情報. UVとSPF・PAの基礎知識(PA分類とPPDの関係). https://jide.jp/health-info/6471
- 日本化粧品工業連合会(JCIA). 紫外線防止効果に対する耐水性測定法基準の制定について(自主基準)(2021年10月15日). https://www.jcia.org/user/business/guideline/uvprotection