月経前症候群(PMS)とは

松浦:今回は、30代40代を悩ませる“大人のPMS”というテーマでお話を聞かせてください。
私の場合、遡ると昔からなのですが、心の症状としてイライラしてしまったり、時には落ち込みが激しいことがあるんです。身体的な症状だと、お腹が痛くなり、頭痛があることも……。
私だけではなく、周りの友人たちも悩んでいる人が多いんです。どうしてこのような症状が出てしまうんでしょうか。
宗氏:PMSとは、排卵後の黄体期に生じる様々な精神的あるいは身体症状で、月経前3~10日間に現れ、月経が来れば治まるのが特徴です。
しかし、実は明確なメカニズムが解明されていないんです。
排卵後に分泌される黄体ホルモンそのものが主な原因ではなく、簡単にいうと黄体ホルモンがGABA(アミノ酸の一種)や、幸せホルモンと呼ばれるセロトニンの働きを邪魔することが関与していると考えられています。
また、自律神経の不調や、生活習慣の乱れ、ストレスも影響することでPMSが起こると言われています。
松浦:ホルモンが関係しているんですね。人によって症状が全然変わってくると思うのですが、PMSと診断する基準はありますか。
宗氏:はい、発症時期、身体症状、精神症状から診断し、何か特別な検査があるわけではありません。
精神的な症状が強いPMDDとは

松浦:では、私はまさしくPMSと診断されると思います。PMSとPMDDという症状があると思うのですが、それぞれの違いは何になるのでしょうか。
宗氏:「Premenstrual Dysphoric Disorder」 は「PMDD」と略され、日本では「月経前不快気分障害」と言われています。PMSより精神症状が強く重く出てくる場合、PMDDといわれます。
心の症状であるイライラや、気分の落ち込みがメインの症状になるんです。
気分の落ち込みがひどくなると、「もう消えてしまいたい」と思ってしまう方もいます。さらに、集中力が落ちてきて仕事に差し支える方もいますね。
松浦:まさしく、全て当てはまります。私はてっきり、PMSの症状がひどい方がPMDDに該当するのかと思っていました。
宗氏:そのように思われる方もいるかもしれませんが、精神症状が主体で強い場合をPMDDといい、仕事や学校、他者との関係に悪影響を及ぼすことがあります。
PMSを防ぐための生活習慣や食べ物

松浦:PMSを悪化させる生活習慣についても教えてください。
宗氏:不規則な生活や、過度なアルコール、喫煙もよくありません。栄養バランスの良い食事、定期的な適度の運動、良質な睡眠が大事ですね。
松浦:アルコールもよくないんですね。
宗氏:アルコールを摂取しすぎて、良質な睡眠が取れていない方もいるからなんです。その他には、朝食を抜くことも影響してくるといわれています。
松浦:なるほど。生活習慣の見直しが必要なのかなと思います。私の場合、PMSが重くPMDDでもあるのかなと……。悲しくなったり、イライラしたり、全く集中できない日があるんです。
宗氏:いつもできている仕事が、できなくなったりしますか。
松浦:ありますね。とても悩んでいます。
先生のお話しを聞いて、まずは、生活の中に運動する習慣を取り入れようと思いました。
また、PMSの症状を和らげる効果がある食べ物はありますか。
宗氏:まずは、ビタミンB群を取り入れることをおすすめします。また、むくみを解消することが期待されているビタミンEやカルシウムなども良いと思います。その他、大豆イソフラボン由来のエクオールもおすすめです。
エクオールは更年期に効果があるといわれていますが、エストロゲン調節作用があり、PMSにもにも効果があるといわれています。
時代背景から考えるPMS
松浦:こうしたPMSの相談で、先生の病院に受診に来る方はどれくらいの年齢層の方ですか。
宗氏:やはりすべての年代の方がいらっしゃいます。月経が始まった思春期の頃からPMSを訴える女性も増えてきています。そして、20代、30代、40代の方が来院されます。
時には40代後半の方が更年期障害だと思っていたけど、問診してみるとPMSだったなんてこともあります。また、PMSと更年期障害が被ってしまう方もいらっしゃるんです。
松浦:幅広い世代の方が悩んでいるんですね。私の場合は、10代の頃から比べると症状が変わってきたんです。10代の頃はPMSの症状が強く、お腹の痛みが辛くて動けないとか、出血量が多いことも……。
それが、年齢を重ねていくうちに、PMDDに近い症状が出てくるようになりました。私は出産を経験しているんですが、出産とPMSの関係性はありますか。
宗氏:ひと昔前と比べると現代は晩婚化、晩産化、少子化が進んでおり、女性の出産回数は減っています。
以前は10代、20代から子供を産む方が多く、妊娠・授乳期間は月経が来ませんので、PMSに悩む期間も回数も少なかったんです。
現在は、女性の出産人数が1人や2人程度になってきて、月経と向き合う期間が長くなってきています。また、仕事で社会的責任を負う方などは、仕事と子育ての両立で寝不足や不規則な生活にもなりがちだと思います。
現代女性が置かれている立場なども、PMSに関係してくるのではないかと考えます。
PMSの治療~増えてきている選択肢~
松浦:このような症状を、クリニックで治療するとしたらどのような方法がありますか。
宗氏:対症療法としては、漢方薬がおすすめです。また、痛みがあれば鎮痛剤を飲むべきでしょう。PMDDではSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)を主に用います。
また、排卵が起きることでPMSの症状が出るため、排卵を抑える治療もあるんです。それが低用量ピル、低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬です。
以前の低用量のピルは、偽妊娠療法といわれていました。妊娠してる間は、エストロゲンと黄体ホルモン両方分泌されます。この状態を保つことで、妊娠してると身体に勘違いさせて排卵を止めるという仕組みであることから、そういう呼び名がついたんです。
松浦:排卵を止めているんですね。気分の落ち込みに関しては、抗うつ剤も選択肢のひとつとのことでしたが、それは心療内科の受診が必要でしょうか。
宗氏:心療内科とか精神科でよく使うお薬ですが、SSRIの1剤のみであれば婦人科でも処方するところは多いと思います。月経前のみの服用か、ずっと飲み続けるかは人それぞれですが、効果がなく、精神症状が強い場合は精神科または心療内科に紹介します。
また、低用量ピルは排卵が起きなくなることで妊娠も避けられるし、PMSも起きなくなるということなんです。
松浦:私も低用量ピルに挑戦したことがあるのですが、副作用で吐き気の症状が辛くやめてしまいました。抵抗があるんですが、最近また始めてみようかなと検討しています。やはり、色々試していくことが重要なんでしょうか。
宗氏:低用量ピルも黄体ホルモンの種類によって、さまざまなんです。PMSに効果があるとされる「ドロスピレノン」という黄体ホルモンを使用しているものがお勧めです。
低用量ピルは、排卵を抑えても休薬期間があり、毎月月経は起きるんです。そのため、低用量ピルを飲んでいてもPMSの症状が出るという方がいらっしゃいます。そのような方は、連続投与で月経を起こさないという方法があります。
また、もし副作用で吐き気の症状が出る場合、黄体ホルモン単独の薬にすれば大丈夫です。
この場合、1日2回の内服ですが、エストロゲンは入っていないため吐き気が出ないし、ピルの副作用で心配される血栓症の心配もなく、40歳過ぎても服用継続が可能です。
また、天然型エストロゲン(エステトロール)とドロスピレノン配合のピルが新しく発売されました。こちらも吐き気が少ないことが期待されます。このように選択肢は増えてきているんです。
松浦:選択肢が広がるのは嬉しいです。実は、私は排卵の時にも体調不良を起こすことがあったんです。そのため体調が優れない期間がとても長いんです。
宗氏:排卵痛や、偏頭痛などもあるということですね。そうすると1ヶ月のうち、半分の期間具合が悪いことになりますね。松浦さんの場合、お子さんがいらっしゃり、もう妊娠の予定がない場合は、排卵を抑えた方が楽だと思います。
黄体ホルモンを服用すれば、月経は来ません。または、低用量ピルであれば、定期的に月経を起こす方法と、連続内服で起こさない方法を選ぶことができます。
逆に服用をやめれば、また月経が来るようにすることも可能です。
それでもお薬に抵抗のある方は、ドラッグストアで購入可能なサプリメントや、クリニックで購入できるPMS用のサプリもあります。
松浦:お薬は抵抗があるけどサプリメントなら、という方におすすめできますね。
低用量ピルの予算感

松浦:低用量ピルは、どれくらいの費用が必要ですか。
宗氏:月経痛もあるなら保険適用があるため先発品でも1か月およそ2,000円前後です。
後発品なら1,000円以下のものもあります。自費のピルは当院では2,200円から処方しています。これはクリニック毎に金額は違いますが高額なものでも3,000円前後ですね。
婦人科クリニックでの検診の重要性

松浦:お話を聞いていてPMSは、女性の永遠の課題だなと感じました。私と同じようにPMSに苦しむ友人がいるんですが、実際にクリニックを受診している方は少ないかなという印象があるんです。低用量ピルを飲んでいるのに、あまり効果を実感できていない友人もいます。
また、月経で痛みを感じたら「ロキソニン」を飲む対症療法しかしてないような人もいるんです。「毎月のことだから仕方ない」とか、クリニックに受診することに抵抗ある方にメッセージをお願いします。
宗氏:はい。30代、40代の女性というのは、お仕事や家族・友人関係・趣味などプライベートも充実している世代だと思うんです。それなのに、月経に関連したPMSや、PMDDでそれらに支障が起きている場合、損をしていると思います。ぜひ婦人科で相談をしてください。
現在、色々な選択肢があるので、副作用を心配している方も安心して相談できると思います。PMSだと自覚している方って、話を聞くと月経痛がある方も多いです。黄体ホルモンや、低用量ピルを使えば、PMSも月経痛にも効果があります。
もしもPMSがメインの悩みだとしたら、内診は義務ではありません。もし、内診に抵抗があり婦人科に足が遠のくようでしたら、初診は相談だけでもいいと思います。
その後、お薬を使うか使わないか相談していくあいだに、「じゃあ、がん検診もしてみようかしら」とか、「内診も受けようかしら」と、少しずつ幅が広がればいいなと考えます。
松浦:そうですよね。子宮頸がんの検査なども、ついつい後回しにしがちですが大事なことだと思います。まずは気構えずに相談のために、受診するだけでも大丈夫ということですよね。
宗氏:そうですね。だからこそ、かかりつけ医を持つといいと思います。がん検診がきっかけでかかりつけ医として利用するようになってくださった方もいます。そうすることで、気楽に相談ができるようになります。
また、内診がきっかけで子宮内膜症・子宮筋腫・卵巣嚢腫等みつかることはあるので1〜2年に1度はがん検診も兼ねて超音波検査をお勧めしています。
松浦:今回の記事を見て、読者のみなさんの婦人科に行く敷居を下げられたら嬉しいです。
ありがとうございました。